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それぞれが進む道

ベルグレド編は一旦終了になります。

解けた謎と新たな謎でもやっとしたらすみません。

この次は最後の主人公ファイの話になります。

そこは美しい山々が見渡せる高い岩山の頂きだった。

その女性の傍にオルファウスが座っている。


「時は来た。私は役目を果たしに行かないと」


その女性は金色の長い髪を後ろで三つ編みにして纏めていた。その瞳は美しいブルーである。

オルファウスは悲しそうに首を垂れている。

彼女はそんなオルファウスの頭を撫でて可笑しそうに微笑んだ。


「私がお前の下に帰らなかったとしても、私とお前は繋がっている。いつか、必ずお前と会える日が来る。だからお前は私の愛したあの国とあの人達を見守っていて」


オルファウスは彼女が大好きだった。

彼女が役目を終えオルファウスの下に戻らなくても彼は待ち続けた。彼女がこの地に帰ってくるのを。


ベルグレドはその二人を側で見ていた。

ふと彼女がベルグレドの方に顔を向けた、そして眼が合ってしまう。


(あ・・・・・)


彼女は微笑んでベルグレドに喋りかけてきた。


「貴方は私ではない。私と同じ事をする必要はない」


彼女はきっとベルグレドと同じ魂の持ち主だ。

そして彼女もベルグレドと同じ神の御子だったのだ。

きっと彼女はその使命を果たし帰って来なかった。


「未来を変えなさい。貴方達にはそれが出来る」


彼女の手がベルグレドの胸の辺りに触れた時それはベルグレドの目に飛び込んできた。


(あれは、金のブレスレット?)


「貴方は私とは違う選択をした。皆でこの世界を救いなさい。それこそ真実この世界を救う手立てになる」


彼女の背後に同じような金色の髪を持つ人物が見えた。その肩に妖精を乗せている。


「オルファウスを任せました」


ベルグレドが目を開けるとそこはいつもの寝室だった。

隣にはエリィとオルファウスが眠っている。


エリィの予言の影響が何らかの原因で働いたのかも知れない。ベルグレドは少し身体を起こしエリィとオルファウスを見た。そしてファイから渡されたブレスレットに手を伸ばす。


(任すと言われてもどうすればいいか)


ベルグレドの頭はここ数ヶ月の間に起こった次々の出来事によってすでにその許容量を超えていた。


わしゃわしゃと頭をかき乱し唸り声をあげるとオルファウスが目を開けた。ベルグレドにピタリと寄り添う。


「オルファウス。俺は昔、女だったのか?」


[いつの貴方でしょうか?貴方は何度も生まれ変わっています]


そんなにも長い間オルファウスはベルグレドの側にいた。ベルグレドはオルファウスをそっと撫でてやる。

その狼は何も言わず目を閉じた。




ベルグレドは次の日も城下町へと降りていった。

あの路地裏の近くに彼女はいた。


「何だお前。暇なのか?」


彼女の隣には昨日居なかった男が立っている。

ベルグレドは息を吐くと彼女に腕輪を突き返した。


「親の形見なんだろ。受け取れない」


全て分かってる様子のベルグレドにファイは舌打ちした。


「持ってろよ。邪魔なんだよそれ。荷物になるしな」


嘘だ。彼女は生まれてからずっとこれを肌身離さず持っていた。ベルグレドはあの夢の後、自分達の家系でファイに当てはまる人物を探し見つけた。十四年ほど前に火事で家族全員亡くなった事になっているが、その腕輪は家紋が刻まれている。ファイズ家の遠い親戚である。


「お前と寄り添っていた妖精はどうした?昔からずっと一緒に居たんじゃないのか?」


その時、僅かに側の男の空気が殺気を放った。

ファイとベルグレドがその男に目を向けるとその殺気は消えていた。何だろう。気のせいではないはずだが。


「サナ、ちょっと向こう行ってろよ。コイツと大事な話がある」


「逃げ出す算段じゃ無いだろうな?」


サナという男のもの言いにベルグレドはこの二人の関係性が少し気になったが口には出さなかった。また、面倒くさい事に巻き込まれそうな気がする。


「阿保か。逃げ出そうと思えばとっくに逃げてんだよ。サッサと行けよ!」


ファイのこの態度にもサナは怒る事なく、そのままその場を離れて行く。流石のベルグレドも思わず聞いてしまった。


「あいつ凄いな。何でお前と居られるんだ?」


「ああ?喧嘩なら買うぜ?」


本当に喧嘩っ早い奴である。

ベルグレドはとりあえずその腕輪を押し付けた。


「こんな物無くてもどうせすぐ会う事になる。お前もこの腕輪の意味が分かったから俺に渡したんじゃないのか?」


多分、遠い昔にファイズ家からファイの家に褒賞か何かで渡されたのかも知れない。ファイもその身を狙われ、逃げ出す時この腕輪を持たされていたのだ。しかしファイはそれを受け取らなかった。


「私にはもう必要ないからいらねぇよ」


ベルグレドは頑なファイに顔を顰めた。こいつ、面倒くさい。


「オルファウス!」


ベルグレドは精霊を呼ぶとファイを指さして聞いた。


「これが誰か知ってるか?」


[はい。遠い昔に会っています。彼女は昔、貴方の双子の兄妹でした]


何となく予想はしていたがはっきりと言われるとベルグレドも驚きを隠せなかった。

ファイはオルファウスからずっと目を逸らしている。ベルグレドは昨日から彼女がオルファウスを避けている事に気がついていた。


「何故オルファウスを避ける?何かあるんだろう?」


ファイは薄く笑った。そしてオルファウスをやっと見た。


「別に、オルファウスに何かあるわけじゃねぇよ。これは私の問題で、お前らには何も関係ない。ただ私はずっとお前の事を知っていた」


オルファウスはスルリと前に進み出た。そしてファイの手を舐めた。


[悲しまなくて良いのですよ。私達は貴方達と違い自由です。何を選択したとしても全ては自分の心のままに行います。あの子は昔から気性が荒い子でしたから、きっと最期も飛び出して行ったのでしょう?]


あの子とは恐らく夢に出て来た妖精だ。しかしファイは妖精を邪険に扱っていると聞いている。ベルグレドはもう何も聞かなかった。


[ファイ。最期まであの子と居てくれてありがとう]


ファイは膝をつくとオルファウスに触れ、それでも悪態をついた。


「本当に胸糞悪りぃ。だから妖精や精霊なんて嫌いなんだ」


ファイはそう言ってオルファウスを抱きしめた。




****





「ベルは、なんで何も聞かなかったの?」


エリィはルシフェルと少し離れた場所にいた。結局腕輪も返せず、それ以上彼女自身の事も聞かなかった。


「多分聞いてもあいつは答えない。ロゼの事もあるからな。それに、今は分からなくてもいずれ分かる時が来る。あいつとも長い付き合いになりそうだしな」


ふーんと、エリィは気のない返事を返してくる。

珍しい。昨日突然ベルグレドの寝室にやってきた事も含め何だか変である。


「何だエリィ。ファイと俺が仲良くするのが嫌なのか?」


途端エリィの口元が膨れていく。拗ねているのだろうが、可愛いだけである。


「何だ。魂の繋がりが強いからか?正直前世がどうとか言われても何とも思わないぞ?」


「別に嫌じゃないもん!」


こちらも素直じゃない。だがベルグレドは笑ってエリィを抱っこした。


「そうか。それは残念だな」


ベルグレドはこの国でやるべき事が山積みである。

しかし、もしかしたらそれがベルグレドのやるべき事なのかも知れないと彼は感じていた。彼の見たあの夢がその考えを後押しした。

彼女は皆で世界を救えと教えてくれた。


「少しくらい妬いてくれても構わないぞ」


ベルグレドの言葉にエリィは首を傾げている。まだちょっと難しかったみたいだ。


「まぁいいか。俺はこう見えてかなり気は長い方だ」


エリィはそんなベルグレドに満面の笑顔で笑った。

もう少しでガルドルムに春が来る。

二人と一匹はやるべき事をする為に宮廷に向かい歩いて行く。ロゼやファイ達とは別の方向へ。


彼はまだ沢山の事を知らなかった。

しかし彼等の行いは着実にこの世界の終焉に抗う準備を始めていた。

遠い昔から始まった、この世界を救う最後の戦いがすでに始まっている事に彼等はまだ気づいていない。



「エリィ早く大人になるの!そしたらベルとダンスが踊れるね?」


「そうだな。楽しみにしてる」


ベルグレドはエリィの頬にキスすると歩き出した。

そんな二人を今日も一匹の狼と妖精達が見守っている。





ー完ー

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