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王の誕生

「ロゼ〜!エルディ〜!」


あれから三人は、その子供、エリィを連れ戻ってきた。

そして事の経緯を聞き複雑な心境になった。

ロゼはアガスの使用方法を伝授した使者に、近い内に話を聞かねばと心の中でひっそりと思った。

エルグレドが、かけてきたエリィを抱き上げるとエリィは嬉しそうにエルグレドの首に巻きついた。


「わーい!抱っこ〜」


エリィは私服のドレスを可愛く着こなし素直にエルグレドに甘えている。彼は明らかに、デレデレである。意外だ。


「すっかり元気になったな。顔色が良い」


エリィは連れて来て数日、しばらくまともに動けずほとんど眠っていたが、今ではすっかり元気になり屋敷を走り回っている。侍女達は可愛らしいエリィを着飾り可愛がる事に夢中である。エルグレドはそんなエリィの頭を撫でながらチラリとロゼを見た。ロゼは笑って意地悪を言う。


「何よ。子供が欲しくなっちゃった?」


「・・・暫くはエリィがいるから構わない。その内な」


さらりと躱され返された台詞に周りから黄色い悲鳴が上がった。ロゼは辛うじてその場で、耐えた。


(そ、そ、そ、その内?欲しいの?)


「おい。子供の前でなんて会話してるんだ。やめろ」


ベルグレドはあきれた様子で二人に注意した。

怒られた二人は肩をすくめる。

ベルグレドがエリィを渡す様、手を出すとエルグレドは珍しく抵抗した。


「そんなに慌てて取り返さずとも好きなだけ一緒にいれるだろう?もう少し愛でさせろ」


「そうやってエリィを甘やかすな。ロクな大人にならない」


そんな事言っているがエリィが他の男に甘えるのが気に入らない事を二人は知っている。それ以上は抵抗せずにベルグレドにエリィを返してあげる。エリィは訳が分からないのかキョトンとしている。


「エリィ。また、暫く会えないけど元気にしてるのよ?ベルグレドから離れないようにね?」


ロゼがエリィの頭を撫でるとエリィは笑って頷いた。


「ロゼ、リュカに会いに行って。彼はロゼ達に必要な人だよ」


三人は驚いた。エリィにリュカの事など教えていない。これはどちらだろう。


「それで、伝えて欲しいの。"私の言った通りだったでしょう?"って。それで伝わるみたいだから」


二人は何も聞かずエリィに頷いた。


その日二人はガルドルムを旅立った。自分達の成すべき事をする為に。


「エリィはリュカを知っているのか?」


「知ってるよ!エレナのお友達でしょ?記憶があるもの」


彼女はエレナではない。彼女の人格はこの子にはない。しかし、元がエレナなのは確かだ。


「今日も皆んなで集まるんでしょ?私も行っていい?」


ベルグレドは頷いた。ザクエラ達にはエリィの事は隠さず話している。その上で彼女は正式にベルグレドの妻としてすでに下城している。側から見たらベルグレドは幼女を娶った変態貴族である。しかし、ベルグレドはこれには涼しい顔で言い放った。


「十年経てば、そんなもの関係なくなる。ほっておけ」


彼の意外すぎる神経の図太さに官僚達は感嘆した。

事情を知っている者はベルグレドの行動に反発しなかった。元々エレナに対して皆無関心だった、というのも理由の一つだ。


[エリィ〜あそばないの?]


「帰ってきたら遊びましょ!それまで良い子にしていてね?」


エリィは妖精達とも仲が良い。

彼等に上手く対応出来ないベルグレドはとても助かっている。ふと、オルファウスの事を思い出した。


「オルファウスは何故、俺と契約したんだ?彼はこの国の精霊だろ?」


本来なら精霊と契約するには何か対価が必要な筈だがオルファウスにベルグレドは何も要求されていない。

エリィは不思議そうな顔をしている。


「オルファウスはずっとずっと昔からベルグレドといるよ?ベルグレドが産まれる前からずっと」


それはベルグレドが彼になる前から、という事だろう。

まさか、とベルグレドはあり得ない事を考えた。


「オルファウスはベルの事大好きなの。だからベルも大好きになってあげて」


また一つ謎が生まれたがベルグレドの心の中は穏やかだった。抱っこしているエリィを高い位置で抱える。

エリィはバランスを崩しそうになり彼の肩に手を置いた。

ベルグレドはそんなエリィのおでこに自分のおでこをそっと当てた。


「ああ。さぁ遅れてしまう。行こう」


ベルグレドは彼女を抱っこし直すと、屋敷に引き返して行った。その二人を影から見ている者にエリィだけは気がついていた。



****




「神の御子?」


「はい。この地には何らかの使命を与えられた者が存在するらしいです。その一人がどうも俺らしい」


それは次の王をどうするか、という話し合いの時。

ベルグレドの名が挙がった時に告げられた。


「何ですかそれは、何か儀式を行うという事ですか?」


アンドリュー家の当主は半分ベルグレドのいう事を信じていなかった。王を回避する為の言い訳だと思っている。


「俺の母がその御告げで聞いたのは必要なものを集め神に捧げろと、いう事だけ。それが物なのか俺自身なのかは分かりません。ただこれは恐らく人間族に与えられた使命だと考えています」


ベルグレドはロゼからこの話を聞いた時、自分がどう行動すべきかずっと考えていた。このまま自分達だけで動くのかそれとも誰かに伝え協力を求めるか。その時は前者だと判断した。しかし今は違う。


「この世界に終焉、終わりが迫っているようです。恐らく我々の国で起こっているような変化が他の国にも起こっている筈。それを回避する為に俺は動こうと思っています。ですから王には他の者を選んで下さい」


世界の終わり、その言葉に皆息を飲んだ。

自分達が少し前、まさに迎えようとしていた事態である。


「な、何故今その話を?もっと早い段階でして下されば良かったのに」


「俺も最近知ったのです。恐らくですが、俺達のこの使命も時が経つにつれ風化し忘れ去られてしまったのではないかと・・・つまりまだ人間族が一つだった頃はその使命を理解し果たしていたのでは?と考えています」


「我々が争い分裂した時、その歴史や記録も別の国に持ち去られたと?」


この国に残された文献や歴史に神の御子の記述はなかった。ベルグレドの両親が残した書物以外は。


「可能性はあります。ただ確実ではありません。俺達はあまりにも知らない事が多すぎる。この国の事でさえ正しく理解出来ていなかったのです。それを調べようと思います。度々この国から離れる事になるでしょう。ですから、王は別の方法でお選び下さい」


この国の民は殆どが祝福の保持者である。その中から王を探すのは難しい。


「やはり。バードル家が王位を引き継いで頂くのが一番妥当ではないでしょうか?」


トラントの進言にレミュー家も他の官僚達も頷いた。

アンドリュー家は微妙そうだ。


「・・・しかし、我々の一族から問題を起こしている者も多い。これから先それがまた起こらぬとも限らない」


アストラや行方不明になったザクエラの父だった者の事を言っているのだ。しかしベルグレドは笑って言った。


「そうですね。しかしそれは誰が王になっても同じです。私達は所詮小さき愚かな生き物です。だが貴方はそれを理解した上で王になられた。それはこの国の何も知らぬ民を守る為なのではないのですか?」


ザクエラは王など望んでいなかった。しかし、事実を知った彼は、その責務を果たそうと立ち上がった。彼が決して頼れる王だとは皆思っていない。だが、彼がこの国を愛している事に皆気が付いていた。気が小さい、か弱き王。


「貴方が私達の為立ち上がった瞬間に、この国は新たな王を迎えました。その御心のままどうかお力をお貸しください」


皆、ザクエラの答えを待っていた。ザクエラは震える指をそっと押さえた。


「貴方達が望む限り、バードル家はその力を尽くしこの国を守るとお約束します。どうかお力をお貸し頂けますか?」


皆が頷いたのを確認すると、今まで傍でオルファウスと座っていたエリィがひょこりとザクエラの膝に乗っかった。

皆、ギョッとしてエリィを凝視した。


「エリィ?どうしたのですか?」


しかしザクエラは驚きながらも怒りはしなかった。

彼の家はエリィくらいの子供が沢山いる。


「贈り物があるって。私がかわりに渡してあげる!」


そう言ってザクエラの額にエリィが触れる。

パチンと触ったそこから熱が身体中に広がった。


[お前をこの国の王と認めよう。その証を持ち正しく国を治めるべし]


その声はこの場にいる全員の耳に届いた。

そしてザクエラの額には王の儀式で王に現れる印が刻まれていた。皆呆然とエリィを見つめた。

エリィは膝から降りるとザクエラの前で膝を折った。


「歓迎いたします。我等が王」


そのエリィに続くように皆が膝を折って恭しく頭を下げていく。もう誰もザクエラが王である事に異議を唱える者はいなかった。


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