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運命を変える者

三人は一通り喋り終えると息を吐いた。


「やはり、パメラは潜んでいたのね。アルドに力を与えたのも彼女だわきっと・・・」


ロゼはあの後まだファイと会っていない。しかし恐らく無事だ。エレナがパメラの力をそこまで削いだのであればファイの方が圧倒的に強い。


「すまない兄さん。側にいたのにエレナを助けられなかった」


エレナはエルグレドの腹違いの妹である。しかしこれにロゼは真顔で首を振った。


「ベルグレド。例えその場に居たのが私やエルグレドでも恐らくパメラに勝てるかどうかは分からなかった。それだけの力の差があったのよ。謝る必要なんてないわ」


そう言われてベルグレドは些か不思議に思う。確かにベルグレドは彼女に全く歯が立たなかった。しかし・・・・。


「エレナは、そんな彼女を無力化した・・・・・」


「そうね、すっかり騙されたわ。あの時すでに心を決めていたのね」


ロゼが屋敷で目を覚ました時、彼女はこの国の真実と自分の正体を教えてくれた。そしてロゼに嘘を言った。


「パメラと私を引き離す為、逆に一度私を宮廷から遠ざける事を言ったわ。私が間違ってパメラに殺されない様に」


ロゼは眉を寄せ悔しそうな顔をした。彼女がこんな顔をするのをベルグレドは初めて見た。


「一体どうやって・・・彼女のどこにそんな力が」


エルグレドも驚いている。しかしロゼは驚かなかった。


「今聞いた話を纏めた私の憶測だけど、まず確実なのは彼女には予言と予知の力がある。そして黒魔術も扱える」


それだけでも凄い事だ。普通、魔人でもそんなに多く能力を有しない。しかしロゼは更に指を立てた。


「そして恐らく祝福も使える」


「「な!!」」


これには二人とも絶句した。しかし確かにそうでなければエレナがあそこで言った言葉の説明がつかない。


「彼女は身体に世界の記憶を読み取って祝福に替えると貴方に言ったのよね?その通りの意味よ。それはエレナにしか出来ない事だもの。でもそれだけの量の記憶と祝福をこの地に送るとなると大変な事だわ。恐らくここ数年殆どまともに祝福はこの地に与えられていなかったのでは?」


恐らくそうだ。ザクエラは誓約なき祝福は使うとその力が無くなっていくと言った。


「数年分だとかなりの量だわ。エレナは恐らくずっとそれを溜め込んでいた。そしてその全てを一瞬で補充した。それに身体が耐えられなかったのかも知れない。もしくは自ら捨てたか・・・・・」


ベルグレドは片手で目を覆った。

粉々になった彼女を彼はこの目で見てしまったのだ。


「それだけの事をしでかすんだから魔力の量もかなり多い筈。このまま順調に行けば百年ぐらいは持つかもね?」


その単位にベルグレドは目を剥いた。百年?そんなにも長くこの国は保つのか。

ベルグレドは胸が痛くなった。

しかしロゼは、その後更にとんでもない事を言った。


「でも私。そんなに気が長くないの。いくら私が不死だとしてもそんなに気長に彼女を待つつもりはないのよ」


ロゼの言葉にベルグレドは信じられないものを見る目で顔を向けた。


「待つ?何言ってる?彼女は・・・・」


「死んでないわよ?死んだら魔力なんて使えないわ。器を替えたのよ。魔人って本当便利よね。普通使えない様な術をいくつも持ってるんだもの。羨ましいわ」


(エレナが死んでいない?)


ベルグレドはガタガタ震え出した。そして手で口元を押さえた。


「魔人に関する文献もいくつか読んだ事がある。その中に似たような事例があったわ。数百年も昔の話だけど」


「器を替えるなんて・・・可能なのか?」


エルグレドが信じがたい事の様に聞いてきた。その言葉にロゼは笑った。


「何言ってるのよ。私達がその最たる者じゃない。見た目は同じ様に見えても、この身体は元の身体じゃない。私も貴方も一度死んでいるのだから」


ロゼの説明に二人は固まった。方法は違えど確かにロゼとエルグレドはもう普通の"人"ではない。


「大地の神と契約したならその器に入った筈。それなら悪いけどその契約は変更してもらう」


ロゼは笑って悪い顔をした。ベルグレドは未だ信じられないままロゼを凝視していた。


「何よ?元の姿のエレナじゃなきゃ嫌なの?あんなに嫌ってたじゃない」


「そんな訳あるか!それに嫌ってなんかない!!」


思わず叫んだベルグレドにエルグレドは目を見開いた。ベルグレドは兄にずっとエレナが嫌いだと嘘をついていた。


「冗談よ。分かってる。分かってるわよ」


ロゼはそっとベルグレドの肩に手を置いた。

ベルグレドは自分の目元を片手で隠しながら震える声で呟いた。


「ロゼ」


「ん?」


「ありがとう。来てくれて」


二人は追われている。ここに来ることも大変だった筈だ。きっとガルドエルムに行くのは困難を極めるだろう。それにロゼの身体はきっとまだ本調子ではないと思う。数日前まで、まともに歩けなかったと聞いている。しかしその言葉にロゼは笑った。


「ベルグレド。私は私の為にここに来た。だからお礼なんていらないわ。それに彼女と約束してるの」


そのエメラルドグリーンの瞳はハッキリとした意志が込められていた。


「エレナがもし放り出されたら私が迎えに行くと」


ベルグレドの頬を一筋涙が溢れ落ちた。




****



「ギルドにこの地の歴史についての情報提供の依頼を出そうと考えています」


ベルグレドは会議の場でその事を打ち明けた。

一部の者は頭を傾げている。この国にラーズレイの知識はあまりない。


「冒険者の街ラーズレイです。あの地なら、ありとあらゆる情報が集まります。専門の学者もいると聞きます。出す依頼に関しては毎回内容を確認し、許可を得て出す様にします」


確かに国内だけでは情報の偏りが出る可能性がある。

これには特に反対する声は出なかった。


「後、祝福に関してですが・・・アガスと言う結晶をご存知でしょうか?」


「確か、パラドレア国で採れる貴重な結晶ですね?しかしそれはドワーフ国としか取引されていない物の筈。加工も難しく装飾品にも使えない代物ですよ?」


財務官が不思議そうな顔をしている。ベルグレドは息を吐いた。これだけ無知であれば確かにロゼが呆れるのも頷けた。


「その結晶はパラドレア国からドワーフ国へ売られドワーフ国で加工されてからラーズレイに行くのですが、主に能力の種類などを選別するのに使用されます。今、正に私達が問題としている魔力の選定です」


皆目が点になっている。つまりそれがあれば祝福を持つ者を数段見つけやすくなる。一気にその場が騒ついた。


「では、それが手に入れば問題が一つ解決するのですか?」


ベルグレドは首を振る。


「その結晶を正しく使える者がこの国には居ません。細かな能力の選定には扱う者の技術を有します。それにその結晶も大量に必要な様です。我々はドワーフ国とは親交がありませんし・・・・」


「確かに・・・今までお互い不可侵で通して来ましたから、今から親交を・・・・と言っても難しいでしょうな?」


デュバルエ家の当主は難しい顔をした。彼の弟のゼイルは未だ生死がハッキリしないまま行方知れずである。

しかしそんな態度は表に出さずどっしりと構えている。


「そこで、ここはひとつご相談なのですが、今から紹介する方の事を他言しないとお約束出来るのなら、その手立てを与えて下さるという方がおられます。それを受け入れるかどうかの意見をお聞きしたい」


ザクエラの顔がやや緊張している。

皆そんなザクエラの言葉に疑問を投げた。


「それは、犯罪者か何かなのですか?」


執務士官が顔を顰める。その言葉にザクエラの顔が更に緊張した。ベルグレドは苦笑いする。


「しかしそうだとしても、それによりこの国の問題が一つ解決するのなら力を借りるべきでは?」


レミュー家の当主が遠慮気味に発言する。しかしそれに軍士官が反発した。


「とんでもない悪人だったらどうするのです?ザクエラ様一体どんな人物なのですか?」


「それが・・・・私もつい先程は初めてお会いしたのですが・・・・」


「そんな見ず知らずの人物を信用しろと?どうかしている!」



これにはアンドリュー家の当主も呆れ返った。しかしザクエラはハッキリしない態度だ。ベルグレドは息を吐いて上を向いた。


(これは。駄目だな)


その瞬間。けたたましい音を立てて部屋の扉が勢いよく開かれた。皆、驚き固まっている。

しかし護衛達は誰一人動かなかった。


「決断するのが遅い!遅すぎる!!」


フードを被った人物はスタスタと部屋に入って来ると呆然とする皆の前に立ち止まりフードを取って振り向いた。

皆、その見たことある姿に絶句した。


「お、お前は!?」


アンドリュー家の当主が指をプルプルさせて彼女を指さした。皆の目線はその後について来たフードを被ったままの男の方に集中した。


「ザクエラ様の説明も下手すぎる!要件は簡潔に!これ基本!」


「す、すみません、ロゼ」


大の大人が少女に真面目に謝る光景はとても異様である。


「まさか、貴方は・・・エルグレド様?」


エルグレドは観念し顔を出した。その顔は、諦めの境地である。


「すまない。まさか、本当に実行するとは俺も思わなかったんだ」


エルグレドの言葉にベルグレドは吹き出した。


「言いたいことは簡単よ?私の言う通りに動くなら、この国に必要なだけのアガスを提供して指導者も紹介してあげる。その代わり私達の事は他言無用!ほっといて頂戴。どうする?出来るの?出来ないの?」


そのあまりの傍若無人な態度に呆れて目が点になる者と、思わず笑いだす者とでキッパリと別れたのである。


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