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砕かれし想い

ベルグレドが城に向かい馬を走らせていると突然空が真っ暗になった。

ベルグレドは不審に思い空を見上げ東の境界線に目を向けた。よく見るとそちらに物凄い勢いで雲が集まっている。

ベルグレドは馬を走らせたままそちらを見続けた。

するとその雲に巨大な魔法陣が描かれて行く。

ベルグレドはそれを確認すると思わず馬を止めた。


「・・・・何だ・・あれ・・・」


それは途轍も無く巨大な竜だった。

あんなもの絵本の物語でしか聞いたことも見たこともない。しかしそれよりもベルグレドはそちらから感じる魔力の波動に覚えがあった。


「まさか・・・ロゼ?」


なぜかベルグレドには、それがロゼだと確信できた。

ベルグレドは衝動的にそちらに馬を走らせた。

しばらく走らせると向こう側からフラつきながら歩いて来るロゼの姿を発見した。


「ロゼ!」


ベルグレドが近寄ると、すでに意識がないロゼがぐったりとしていた。

ベルグレドはロゼを馬に乗せると自分も馬の背に跨りそのまま来た道を引き返して行った。


屋敷に戻るとブラドとエレナが飛び出して来た。


「ロゼさま!」


「ロゼを頼む。俺はこのまま城に向かう」


ベルグレドはエレナの頭を撫でると、そのままその場を離れて行った。


[エレナ・・・]


「彼の近くに。私もすぐに追いつきます」


エレナはそう言って屋敷の中に消えて行った。


ベルグレドが全速疾走でガルドエルム首都に着いた時、すでに日が暮れようとしていた。ベルグレドは貴族街に入り異変に気がついた。


「大変だ!!リュカ様の屋敷に火が放たれた!」


(っな!?)


ベルグレドは急いで現場に行くと、そこはすでに近づけぬ程火が上がっていた。


「おい!どういうことだ!?この屋敷の主は?」


「わ、分かりません。しかし先程、怪しい人物が捕らえられたと・・・」


ベルグレドは急いで城に向かった。

その途中誰も立ち入らない場所に人の気配を感じたベルグレドは足を止めた。


(?・・・・何だ?)


その道は大きな祭典などに使われる場所で普段は立ち入り禁止のはずだ。

ベルグレドは嫌な予感がした。


「う、うわあああああああああ!!」


奥から男の悲鳴が聞こえて来る。ベルグレドはそちらに向かい走り出した。

その途端周りの妖精達が慌て出した。


[だめだめ!そっちにいかないで!!]


[あぶないよ?ちかよらないで!]


何かいる!

ベルグレドは声のする方へ出た瞬間自分の剣を抜いた。


「・・・あら?」


そこにはがたいのいい兵士の頭を掴み引きずっている、美しい女がいた。

その周りには翼の生えた魔物が数匹飛んでいる。


「新しいお仲間かしら?貴方は私を楽しませてくれる?」


自分の足元には怪我をし、倒れている兵士が転がっている。ベルグレドは咄嗟に剣を構えた。

それと同時に衝撃波がベルグレドを襲い、防ぎきれずにベルグレドの身体は吹っ飛んだ。


「がはっ!!」


ゴキリと嫌な音がする。おそらく肋骨あたりが折れた。

ベルグレドは素早く立ち上がり詠唱した。


「あら?あなたどこかで見た事があるわね?」


ベルグレドの足元から氷の刃が放たれた。

しかしそれは女の手前で一瞬にして溶けた。その炎は、黒かった。


「ーーーーーっな!」


ベルグレドは理解した。この女こそ。


「あなた、エルグレドに纏わりついていた子ね?鬱陶しい。消えなさい」


女が手を振り上げると黒い刃がベルグレド目掛けて飛んで来た。ベルグレドは避けきれず、左腕と右足に刃が突き刺さった。そして最後の一本が頭目掛けて飛んで来た。


(ーーーっくそ!)


その刃が当たる瞬間、眩い光がベルグレドの前を通り過ぎ黒い刃を弾き飛ばした。


女とベルグレドは同時にそちらを見た。


「お久しぶりです。パメラ・リュー。お元気そうで何よりですわ」


「エ、エレナ?」


そこには領地に居るはずのエレナがいた。

その姿はいつものドレスではなく鎧を纏った騎士の姿だった。


「お前、お前は・・・・」


「あら?お忘れですか?貴方があの時、殺し損ねた憎い女の娘ですわ。覚えてらっしゃらないなんて、ガッカリです。私はあれ以来一度も貴方を忘れた事はありませんでしたよ?」


ベルグレドの身体に妖精達が集まってくる。

僅かに傷が回復している。ベルグレドは痛む身体を無理矢理起こした。


「その顔を忘れるものか、私からバルドを奪ったあの女。その女と同じ顔でバルドと同じ色を持つ、忌々しい子供め」


パメラの身体が黒い炎で覆われる。

エレナはスラリと剣を抜くと剣を構えた。

ベルグレドはギョッとした。エレナが剣を扱えるなど聞いてない。


「ベルグレドさま。近くに精霊がいます。その者を呼んで下さい」


パメラが放った炎をエレナは剣を振り消し飛ばした。

彼女の周りを眩しい光が散っていく。ベルグレドは辺りを見回したが精霊の姿など見当たらない。


(見えない。何故だ?俺が望んでないからか?)


ベルグレドの目の前を魔物が横切った。

魔物はエレナを鷲掴みにすると、そのまま空へ向かって飛び去ろうとする。ベルグレドは慌ててその魔物の足を掴んだ。パメラが今にも黒い刃を放とうとしている。倒れていた兵士は慌てて城へ走り出した。ベルグレドは魔物の胴体に剣を突き刺した。


[約束の時が来た。我の下へと来るが良い」


身体が傾いた瞬間。その場にいた者達の身体は地面の中に吸い込まれていった。




****





眩い光に眼を開くと、そこには巨大な水晶や氷柱に覆われた洞窟のような場所だった。

エレナとパメラは向かい合ったまま、お互いを睨んでいる。


「ご案内ありがとう。私が来たい場所に連れてきてくれるなんて随分と親切なのね?」


「ここは・・・・」


「勘違いしないで下さい。招いたつもりはありません。すぐご退場いただきますわ」


エレナはそう言うと剣を振り上げた。

その剣から黒い炎が噴き出した。


それを見たパメラの顔色が一気に変わった。


「小娘・・・お前まさか、魔人の力を・・・」


「何を驚いているのですか?私は魔人の血を引いています。その力を使えてもおかしくは無いでしょう?」


ベルグレドは次に来る衝撃に備えて詠唱を始めた。

今度は確実に防ぎきれるようにしっかり構築する。


「ふ、ふふふふはははははははは!!!」


パメラの身体から凄まじい黒い渦が噴き出した。

ベルグレドは氷の壁を作り出し、その壁からパメラに向かって氷の刃を放った。しかしやはり全ての攻撃は弾かれ彼女の黒い刃に壁が壊れ始める。

その隙をついてパメラがベルグレドに飛び込んで来た。

ベルグレドは剣でパメラの剣をはじき、背後へ退がる。

彼にはわかった。自分の今の実力ではパメラに勝てない。だがエレナを一人で戦わせる訳にはいかない。

ベルグレドは心の中で必死に居るという精霊に呼びかけた。


(頼む!姿を見せてくれ!)


エレナの放った攻撃をパメラはギリギリ交わし、放った黒い風はエレナの皮膚に傷を付ける。このままでは二人ともやられてしまう。ベルグレドは耳に手をかけた。


「いけません!!」


エレナは叫んだ。ベルグレドはびくりと身体を揺らす。

その隙をパメラは見逃さなかった。


「死ね!!」


彼女の爪が刃となってベルグレドの胸を捕らえたと思われた。しかしその刃はエレナの身体を突き抜けた。


「っーーーーー!」


「エ・・・」


パメラは笑った。

しかし、エレナも笑った。


「やっと捕まえた」


「!?」


その瞬間。エレナ背中から白い羽が何本も生えてきた。

そしてつき刺さっているパメラの爪の先端はあっという間に色をなくし、それがパメラの身体に広がっていく。


「エレナ!?」


「小娘ぇぇぇぇえ!!!」


パメラの身体の半身は灰色に変わり、今にも崩れ落ちそうになっている。ベルグレドは訳もわからず呆然とそれを見つめた。


「パメラ。貴方を解放するのは私ではありません。行きなさい、もう間に合いませんが・・・」


エレナのその言葉にパメラは凍りついた。

エレナは憂いを込めた目で彼女を見た。


「バルド様は貴方の呪いによって貴方の息子に殺されます。全ては貴方が選んだ末の結果です」


「・・バ、バルド・・・・」


エレナが彼女に手をかざすとパメラの身体が光出した。


「彼はずっとずっと貴方を待っていました。パメラ」


パメラの身体が消えていく。エレナはパメラに微笑んだ。


「ごめんなさい。パメラ」


その言葉にパメラは僅かに眼を開いた。

そして完全にその姿は消え去った。


ベルグレドはその姿を見送って膝をついた。


「ゲホゲホっ」


身体の所々が痛い。ベルグレドは顔を上げエレナの手を掴もうとして、固まった。


「エ、エレナ?」


彼女は未だ背の翼を広げたまま身体を宙に浮かせていた。

ベルグレドは何故か背中がぞくりと粟だった。


「降りて、こい」


「ベルグレド様。私はやっと、たどり着きました。あの日この国の人々から奪った物を返す、その為に生きてきました」


エレナの背から生えた何本もの羽は、ゆっくりとエレナの身体を包み込んでいく。ベルグレドは慌ててその羽根を掴んだがビクともしなかった。


「祝福とはこの地に暮らす人々の幸福の記録。この記録こそがこの世界を救う鍵。私はこの身体に、この世界の記憶を読み取り祝福に替えて、その力が尽きるまでその幸福をこの地に刻み続けます」


「何を言っている?お前はどうなる!?」


ベルグレドが叫んだ瞬間。エレナの頬がひび割れた。

それを見てベルグレドは指先から自分の体温がなくなっていくのが分かった。


「私の人としての生はここで終わります」


ピシリとベルグレドの身体が氷に覆われていく。

ベルグレドはやっと、エレナがしようとしていた事が分かった。しかし遅すぎた。


「ベル様。貴方には運命の相手が別にいます」


エレナの瞳から一筋の涙が滑り落ちた。

ベルグレドは制御出来ない力に飲み込まれそうになりながら、それでも諦めきれずエレナに手を伸ばした。


「そんな者いない!!俺が愛しているのはー」


「貴方に祝福を」


「エレナ!!」


ベルグレドが叫んだと同時に、その目の前でエレナの身体はひび割れ粉々に砕け散った。


ベルグレドはあまりの衝撃に狂ったように絶叫した。


「エレナァアアアアアアアアアアア!!!!」


残された翼はこのままその翼を閉じ、下に根を張り深く深く地面にめり込んでいった。


ベルグレドは身体から溢れ出る魔力を止める事が出来ないまま辺りは氷を張り続けた。

彼の身体は投げ出され、段々と感覚が無くなっていく。


(死んだ。エレナが・・・・エレナが)


ベルグレドは自分がこんなにもショックを受けている事に驚いた。彼女を失うことが、我を失ってしまいそうな程辛いなどとは思わなかった。

彼女は常にベルグレドの近くにいた。

側にいない時も心の中にいた。

いつでも会えると思っていた。

永遠にそれが続くと。


「・・・・あっ」


彼女を失うことが、死んでしまいたいほど辛いなんて考えたことも無かったのだ。

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