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エレナの真実

ベルグレドはルシフェルが帰った後、急いで城に向かう準備を始めた。事実を確認しなければいけない。そしてもしそれが事実であればバルドには王位を退いてもらわねばならない。他種族が王になるなど本来許されないのだ。


(兄さんに知られるのはマズイ。バードル家もきっと絡んでいる、誰なら信用できる?)


ベルグレドは軍士官と執務士官の二人が思い浮かんだ。二人ともこの国の為に働く信用できる人物だとベルグレドは感じていた。ベルグレドはこの後の行動を考えながら部屋を出た。すると目の前に今まさに会いたいと思っていた人物が立っていた。しかもボロボロな姿である。


「・・・・・ベルグ、レドさ、ま」


ベルグレドの目の前でエレナはゆっくり倒れていく。

慌てて彼女を支えると腕の中の彼女は意識を失っている。


「・・・どうなってるんだ。一体」


見たところ怪我はない様だがドレスは汚れて所々破れている。もしかしたら誰かに追われていたのかも知れないがエレナがこちらに向かっているという報せは届いていない。彼女はどうやって一人でここまで来たのか。


ベルグレドは予定を変更して彼女を抱き上げ部屋まで連れて行った。


[エレナぼろぼろだねー。かわいそう]


妖精がエレナの上をクルクル回っている。

ベルグレドは妖精を手招きすると部屋を出た。

侍女に後を任せ自分の仕事部屋まで行くと手に小さい花束を作り出しその妖精に差し出した。


「エレナを知っているのか?」


[しってるよ?ちいさいころからベルといたもの。たまにおはなし、してくれて、とても楽しいの]


エレナには妖精達が見えていた様だ。ベルグレドは舌打ちした。


「エレナは人間じゃないよな?」


その問いには妖精は首を傾げた。


[にんげんだよ?でもまじんだよ?]


つまり魔人と人間の間に生まれたのだ。ベルグレドは妖精の頭を撫でるとその花束を全部あげた。妖精は嬉しそうにその花束を持って行く。

契約していない妖精や精霊から下手に情報を聞き出してはならないと言われている。

いつの間にか契約が発生し取り返しがつかなくなる場合があるらしい。


ベルグレドは考えてからロゼに連絡する事にした。

彼女なら外部の人間であるし何より頭がいい。それに兄の事も何か知っているかもしれないと思ったからだ。

ベルグレドはペンをとりロゼ宛に手紙を書き始めた。




(ゲルガドル様)


エレナは夢の中で泣いた。

エレナを見つけ彼女の支えになってくれた、ただ一人の味方。そして血の繋がっている家族。もう彼はエレナの夢の中に現れはしない。バルドの正気を少しでも保つ為にその命を落としたから。

エレナは彼の身体をイントレンスの近くの森へ埋めた。

少しでも彼の魂が故郷の近くまで行ける様に。


(お爺様・・・)


もうじき全てが終わる。

まだ、ベルグレドを守ってくれる運命の子は現れない。

もしかしたらエレナがいなくなった後に現れるのかもしれない。彼女はそう自分を納得させ目を開いた。



「・・・・・今、何日目ですか?私が眠ってから」


目を開けてすぐ喋り出したエレナに侍女は驚いてベットまで近寄って来た。


「意識を失ってから丸一日ほど眠ってらっしゃいました。ここが何処だかお分かりになられますか?」


「・・・・・ベルグレド様の」


侍女は後ろに控えていた使用人に目配せすると彼女はさっと出て行った。恐らくベルグレドに報せに行ったのだろう。


「起きられますか?お飲物をお持ち致しますね」


彼女が席を外すとエレナはゆっくりと身体を起こした。

今から起こる事を考えそして目を閉じる。


(全てを救う事はバルド様にも私にも出来ない。私は私ができる事をただやるだけ)


戻って来た侍女がエレナに飲み物を渡してくれる。

エレナはその飲み物を見て呆然とした。


「・・・・これは」


「ホットミルクですが?お嫌いでしたか?」


ミルクの中にエレナの好きなパプルというピンクの花が浮いている。甘い香りがする花で、昔ベルグレドにこれが無いと嫌だと駄々をこねた事がある。


「エレナさま?」


まだ。ベルグレドの両親が死ぬ前の事だ。

エレナがまだ、純粋にベルグレドを慕っていた頃の思い出。

エレナはその花を見つめながら、自分の頬を落ちる涙に気付かない振りをした。




****




ベルグレドはエレナが目覚めしばらく経ってから彼女の下へ足を運んだ。

ノックをすると着替えいつもの様に椅子に座るエレナがいた。


「ご連絡もせずに突然あのような姿でこの屋敷に訪れてしまい申し訳ありませんでした」


エレナは立ち上がると頭を下げた。ベルグレドは首をふりエレナを座らせた。室内は異様な空気に包まれた。


「それで、何があったんだ?」


ベルグレドの言葉にエレナは溜息をついた。


「そうですね。全てお話致します。この国で今起こっている事を」


ベルグレドはその様子のエレナに眉を寄せた。

ずっと隠していた彼女の秘密が今なら話せる理由が分からない。


「事の起こりは、イントレンスの巫女がこの世界の終わりとバルド様の実の息子エルグレド様の死を予言された事で起こりました」


いきなり始まったとんでもない内容にベルグレドは口を開けた。兄に死の予言があったなど想像もしていなかった。


「イントレンスとは魔人の故郷であり神の声が最も届く場所です。魔人はその予言を外にいる巫女に伝え、外にいる巫女があなた方にその予言を伝えていました。しかしその時、外にいる魔人が一人もいませんでした。そんな時バルド様の名があがったのです。しかしイントレンスは魔人を外界から守る為に決して外に出ない誓約によって作られた場所。そこから出てしまうと彼等は何かしら身体の一部分を失ってしまいます」


身体の一部を失う?ベルグレドはゾッとした。何故そこまでして外に出るのだ。


「バルド様は息子の予言を変える為、外に出る事に決めました。そして当時エルグレド様を身ごもっていた女性もその後を追う様にイントレンスから出ました。しかしバルド様は前王の愚かな行いによって王にさせられました。バルド様が何を失ったか分かりますか?」


分からない。そもそも何故いきなり王にされたのだ。


「最も愛する妻と子の記憶です」


ベルグレドは絶句した。

彼は自分の子を守る為に危険承知で安全な故郷を出た。それなのに一番大事な物を出た瞬間失ったのだ。


「記憶が無くなった時点でそれはそこまで重要な出来事ではありませんでした。何故ならその後を彼の妻が追っていました。そしてイントレンスは事態を把握し、その報せをガルドエルムの王へバルドに持たせていました。彼が記憶をなくす事は予め予言で示されていたのです」


ベルグレドはとても嫌な予感がしてエレナを見つめた。エレナはそれに頷いた。


「しかし、前王は自分の娘を城から追いやる事を憐れみ、見つかっていた平民の次の王候補を殺してしまったのです。その為バルド様は騙され、私の母と結婚しました。この国を救う為に」


なんて事だ。

それは決して許される事ではない。しかも王がいたのに自ら殺すなど。


「それにより事態は全て最悪な方向へ動き出しました。この地の神は怒りバードル家の目に祝福はうつせなくなり、前王はその罰を受け呪われ、私の母はバルド様に事実を打ち明けられぬまま、私を身ごもってしまいました。そして残されたバルド様の本当の妻は裏切られたと勘違いしてあろう事か、バルド様に恐ろしい呪いをかけました」


「呪い?」


「ずっと疑問に思っていたはずです。何故バルド様はエルグレド様を公式に自分の息子だと公表しないのに側に置き明らかにそれがわかる様にしているのか」


そうだ、ずっと思っていた。皆そうだ。

確かに妻は一人しか認められない。しかし、エルグレドはバルドが王になる前の子である。それ故に息子として側におく事は出来たはずだ。しかしエルグレドはファイズ家に引き取られた。


「そうした方がエルグレド様が苦しむからです」


「・・・・・・は?」


「そしてバルド様自身も、その為にわざとそうされたのです」


兄を苦しめる為?意味が分からない。


「愛する者を苦しめ殺す。そして自分も苦しむ間、正常にものを考えられる。彼の妻がバルド様にかけた呪いです」


信じられない。こんな理不尽な事が起こっていいはずがない。


「・・・何故、そこまで」


いくら勘違いしたとしても度を超えている。

一度でも自分が愛した男である。


「魔人は普段どの種族より温和で優しい者達です。魔人は人生で一度選んだ伴侶ただ一人を一途に愛し続けます。決して裏切りません。裏切れないのです。その為その相手が誰かに奪われそうになったり傷つけられたりした時、彼等は豹変しとても冷徹になります」


ベルグレドは兄の事を思い出した。ロゼを傷つけられその男を殺した兄の事を。


「バルド様はその時、記憶を思い出されました。それからずっと苦しみながら、それでも王の椅子に座り続けました」


この国を守る。そして自分の息子を守る為に。


「それが終わりを迎えます。バルド様はもうすぐ亡くなります。そして、この地は段々と壊れて行くでしょう」


「終わると言われて黙って見てろと?」


エレナは首を振ると微笑んでベルグレドを見た。


「貴方はこの終わり行く世界を食い止める事が出来る、最後の希望の一人です」


神の御子。とエレナが呟くとベルグレドは驚いた顔をした。一体彼女は何処まで知っているのだ。


「これは世界の終わりが始まる兆しなのです。それを食い止め少しでも長く人類を存続させる。それが私の役目です」


「・・・俺が一緒では駄目なのか?」


「はい」


エレナはそれにはハッキリと答えた。

ベルグレドは目を伏せてそれから顔を上げた。


「バルド様が俺の両親を殺したからか?」


「・・いいえ」


エレナは微笑んだ。

やっと言える。この日を自分はずっと待っていた。


「私が貴方の両親を殺したのです」

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