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衝撃の事実

バルドは謁見の間で青年を抱きしめた。

ずっと会いたかったバルドの大切なその人は今バルドの目の前でその生涯を終えた。

事の発端はこの手の中の青年の予言から始まった。

バルドはそれまでイントレンスで愛する女性とまだ産まれぬ我が子を待ち遠しく思いながらひっそりとしかし幸せに暮らしていた。それが崩される日が来るなど彼は想像もしていなかった。


あの日。

この世界の終わりと我が子の死の予言さえなければ。


「何故お前がここにいるのだ」


バルドは招いていない人物に気付き顔を上げた。

その人物はずっと前に自ら殺した女と瓜二つなのにその髪と目の色は自分と同じ色をしていた。

彼女はバルドが抱えているその男を見るとしばし目を閉じ黙ってからゆっくりと喋り出した。


「バルド様。お別れを伝えに参りました」


エレナは膝をつきバルドに向かい頭を下げた。

バルドは固まったまま彼女を見ていた。


「貴方を長年縛り付けた鎖はもうありません。この地の神はこの国を見限ったようです。どうぞ、貴方も貴方の愛する方の下へお向かい下さい。そして出来れば貴方のその御心が救われる事を祈っております」


それはまるでイントレンスの巫女を思わせるようなセリフだった。バルドは青年を離さないままエレナに問うた。


「何を知っている。お前は・・・」


「貴方にはもう時間がありません。パメラ・リューはすでにこの国におります。今、ここから出れば間に合うかもしれません」


エレナはバルドの問いには答えずバルドを急かした。

バルドはその女性の名前に息を飲んだ。


「私はずっと貴方に謝りたかった。あの日、私は彼女が来る事を知っていた。それを貴方に伝えられなかった事を」


エレナの言葉にバルドは眼を見開いた。エレナは微笑んで顔を上げた。


「我等人間族が貴方達にした報いを受ける時が来ました。しかし、それはどうか何も知らぬ民には向けられませぬよう。全ては私がその報いを受けます」


その言葉にバルドは思わず立ち上がった。

そしてエレナに向かい一歩進み出た。


「何を言っている?お前は何も出来ぬ。王の資格も無い筈だ」


「そうです。私には王の資格など必要ありません。そもそも祝福と王とは本来別でも構わなかった」


エレナはこの地が国になる前。王でないものが祝福をこの地に残していた事を知っていた。ただ時を重ねていく内に人間族は分裂を起こし祝福の能力を持つ人間がこの国から減ったのだ。その為この国の先祖はガルドエルムの地の神に王を作る事を懇願した。


「後は私にお任せ下さい。貴方は急ぎここを出て下さい」


バルドはそんなエレナにゆっくりと近付いて来る。

エレナは膝をついたまま、いまだ笑っていた。


「許さん。お前はこの城の隅でじっとしているのだ。ベルグレドの下へ行くまで大人しくしているがいい」


エレナはそのバルドの言葉に視界が霞んでいくのがわかった。しかし、彼女は笑みを崩さなかった。


「バルド様。ベルグレド様は神の御子です」


みるみるバルドの顔が歪んでいく。泣かないと決めていたのにエレナは瞳から溢れる涙を止めることができなかった。



「私は貴方の望み通りもうすぐ消え去ります。それでどうかもう、わたし達の事はお忘れ下さい」


それは本当に別れの挨拶だった。

バルドは思わずエレナの腕を掴んだ。


「許さん!!どこにも行くな!」


エレナはそのバルドの腕にそっと自分の手を重ねた。


「貴方は何の為に大切なものを失ってまであそこから出てきたのです?」


エレナの掌がフワリと光った。その光がバルドを優しく包み込んで行く。


「私の父はあの日死にました。貴方は私の父ではない」


バルドは驚愕した。その、エレナの魔力の量に。


「貴方には私を殺す事は出来ません。止める事も。ゲルガドル様は私が連れて行きます」


エレナがそう言った途端にバルドはがくりと身体を傾けて跪いた。エレナは手を離すとゲルガドルに向かって歩き出した。


「待て。行くな!!」


エレナはもう息のない彼の額に手を置いた。

そしてバルドを、一度振り返った。


「バルド様、貴方の罪は一つだけ」


バルドは跪きながら最後のエレナの言葉を聞いていた。


「この国を憂い、愛してもいない女と婚姻した事。だから今度は間違えないでください」


エレナ達の身体がゆっくり発光して行く。

バルドはエレナに手を伸ばした。


「私は、お前を・・・・」


「いいえ。私は貴方の忌むべき存在。貴方は私の母の仇」


(お父様)


エレナは最後まで笑い続けた。

ずっとエレナはバルドに笑いかけたかった。


「忘れられないというのならどうか私を憎んで下さい。それだけは許して差し上げますわ」


(愛しております)


二人の姿はそのまま宮廷から消え去った。





****





ベルグレドはその日突然の訪問客に絡まれていた。

ちょっと前にロゼに紹介されたルシフェルが突然やって来たのだ。

彼はベルグレドの仕事を妨害し呑気にお茶を飲んだ後、辺りを見回し満足げに頷いた。


「だいぶいい感じに仕上がってきたな」


「何のことだ?」


ルシフェルは笑っていきなりベルグレドの目元に手をおいた。ベルグレドが慌てて離れようとして無理矢理止められる。


「力が有るのに見えないのは見ようとしていないからだ」


多分妖精の事だ。まだベルグレドにはそれらが見えていない。


「お前はもう少し外に興味を持った方がいい」


外に興味を?そう思った瞬間目元が熱くなりルシフェルの手が離れて行く。ベルグレドは何事かとそっと目を開いた。


「!?」


目を開くと至近距離に小さい掌サイズの小人がいた。

ベルグレドはその視線をゆっくり辺りにうつしていく。

そこはまさに妖精まみれだった。


[あー!べるがこっちにきがついたぁー!]


[すごいすごい!どうやったの?るしぃ!]


[みてみてべるぐれどーわたしおおきくなったー!]


ベルグレドが彼等に気がついた途端妖精達は興奮して一気に喋り出した。あまりの煩さに思わずベルグレドは眉を顰めた。


「な、何だこれ・・・」


「言っただろうが。お前の意思とは関係無いって」


その妖精の数はベルグレドの予想を上回る数だった。

ベルグレドはロゼと兄が呆れた顔で話していたのを思い出しちょっと恥ずかしくなった。


(確かに、これに今まで気が付かなかったなんて大分鈍いのかもしれないな)


「さぁロゼのお使いついでに俺の仕事もちょっと手伝ってもらうぞ?お互いの職務を全うしようじゃないか!」


「何がお互いだ!得するのはあんただけだろうが!」


ベルグレドの本来の仕事は領地の管理であって決して妖精と戯れる事ではない。そんな二人を止める様にブラドがルシフェルに頼まれたものを持ってきた。


「ルシフェル様今日はこれが目的だったのでは?」


ブラドがルシフェルに渡したのはロゼがベルグレドの能力を調べる時に使っていた道具だ。たしかアガスと言っていた。どうもこれはルシフェルの物らしい。

ベルグレドはふとあの時の事を思い出し口に出した。


「ちょっと気になったことがあるんだけど」


「安くしといてやる」


そんなルシフェルは無視して話を続ける。どうせ後で仕事に付き合わされるのだ。


「聖魔法を持っていると水晶が光るんだよな?」


「まぁ人によって輝き方は様々だが・・・そうだ。でもお前は聖属性じゃないよな?」


「いや、俺じゃないんだけど・・・その光の中に・・・別の何かが混ざることってあるか?」


「別の何か?別の光じゃなくて?」


ルシフェルの言葉にベルグレドはやや不安になった。

兄があの結晶に触れた時、確かに水晶は光った。そしてその中に翼の様な光の渦がベルグレドには見えたのだが。


「いや、全く別の・・・例えば黒とか」


その光の中に全く同じ形の黒い渦が見えた。見間違いでは無いはずだ。

それを聞いたルシフェルは「ああ!」と、なんて事もない様な反応を見せた。


「あるぞ。まぁ滅多にお目にかかれないがな」


ベルグレドはそれに少し安堵した。

どうやらそんな深刻な話でもない様だ。


「魔力の属性は本来相反すると使えないが同時に使える者がいるのさ」


「それは凄いな・・・」


しかしエルグレドは魔術を使えないと言っていたし問題ないだろう。これは隠しておこうとベルグレドは思った。そんなベルグレドに構わずルシフェルは話を続けている。


「それにしてもどこでそんな物、知ったんだ?ここにはかなり貴重な文献があると聞いてはいたが」


「いや、何だったかな・・・そんな凄い事なのか?」


「まずお目にかかる事がないからだよ」


どういう事だろう。ベルグレドはこのあと告げられたルシフェルの言葉に全ての答えを見出した。


「光に黒い色が混ざっていたならそれは黒魔術だ。そいつは間違いなく人間じゃなく魔人だ」


「・・・・へぇ」


ベルグレドは混乱する思考の中で何とか言葉を吐き出した。その態度にルシフェルはまだ何か言っていたが、ベルグレドにはもうそれが聞こえなかった。



(兄さんが人間じゃない。だとすると、この国の王も・・・・)


自分の思考のすみで城の傍に追いやられ過ごしていた婚約者を思い出す。


(では、エレナは?彼女はどちらだ?)


彼女は正真正銘バルドの子供の筈だ。

ちゃんと彼女にもバルドの面影がある。では彼女も人間ではない。

ベルグレドの心はどうしようもなく騒ついた。


(一体何故そんな事に?)


ベルグレドがその事実に気づいた時それは既に止まらぬ速さで動き出していた。彼は後に思う。自分がこの時どれほど無力だったのかを。


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