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彼女はまだ嘘をつく

「エレナ様。またベルグレド様からお手紙が届いておりますが」


エレナはいつもの様に部屋に閉じこもっていた。

これで何通目だろうか。ベルグレドからの会いたいという申し出を断るのは。


「何故彼とお会いにならないのですか?何か問題でも?」


流石にここまで無視しているエレナに侍女もおかしいと気が付いた。気付くのが遅いと思う。


「彼との婚約は成立しないからいいのです。最初からお互いその気が無いのですから」


エレナは素っ気ない様子で手紙を机に置いた。

侍女は驚いた様子で頭を下げて部屋を出て行く。明日にはこの噂が広まっているだろう。


「本当に下らない」


ベルグレドはきっと何かに気が付いてエレナを問いただすつもりだろう。しかしまだ言えない。まだその時ではないからだ。


[エレナお久ぶりですね]


その時頭の中で馴染みのある声がした。エレナは思わず微笑んだ。


[近くにいらっしゃるのですか?]


[はい。ガルドエルムに入りました。バルドに会う前に貴方に会いたいのです]


エレナは首を傾げた。エレナがゲルガドルに会うのはいつも謁見後である。


[ 少し出て来れますか?]


エレナは隠してある軽装に着替えリュカから貰った転送装置を身につけると奥の部屋へ入っていく。すると次の瞬間城下町の奥の建物から外に出た。


「お久ぶりです。ゲルガドル様」


「こうやって会うのは本当に久しぶりですね。また大きくなりましたか?」


ゲルガドルはエレナの頭を優しく撫でた。

エレナは嬉しそうに素直に笑った。


「私をこんな風に子供扱いするのは貴方だけです」


「おやおや?実際私からすれば貴方はまだまだ小さい子供ですがね?」


ゲルガドルも今は正体がバレないよう普通の格好をしている。並んでいると恋人同士にも見える。


「バルドにはもう力は残っておりませんね?」


「はい。この国の王を降ろされました。本人はまだ知りませんが。この国の官僚の一部は聞いた筈です。この地の神が下した答えを」


エレナは並んで歩きながら笑った。きっとあの御告げの意味を今頃必死になって解読しているだろう。現役から退いた古参供が。

あの日の真実を知る者はあの場にいた者とエレナやバードル家の一部の者しか知らない。

罪を犯した者達は自分達の罪を隠す事に必至になっている。


「バルドはもう正気を保つことが難しい。会いますか?」


「何の為に?」


そう。会ってどうするのだ。エレナにはどうする事も出来ない。彼が正気だろうとそうじゃなかろうと彼の目にエレナは映っていない。


「貴方は私が何を言っても決めてしまっているのでしょう?」


ゲルガドルは微笑んだままエレナがこれからやろうとしていることが分かっているようだった。エレナは困った顔で微笑んだ。


「最後の別れを言うぐらいは許されます。彼はどんなに否定しようとも貴方の実の父親なのですから」


そんな二人の目の前にエレナの聞き覚えのある声がかけられた。


「エレナ?」


エレナは一瞬これは夢であってほしいと思ったが間違いなく現実だった。そこには美しい金髪の幼馴染が立っていた。


「・・・お前、そんな所で何をしてる?そいつ誰だ?」


「こんにちは。君はエリィの友達?僕は彼女の友人のドリィです。貴方は?」


「・・・俺はベル。彼女の婚約者だ」


ベルグレドは咄嗟に話を合わせた。ゲルガドルは微笑んで手を出した。ベルグレドも手を出す。


「僕の家は貿易商を営んでいるんだ。今日は時間が無いけど、もし機会があったら君ともゆっくり話をしたいな?」


「そうなのか?ではまたゆっくり話を聞かせてくれ」


ゲルガドルは微笑んで手を離すとエレナにも笑って二人から離れて行く。エレナはそんなゲルガドルを呆然と見送った。


(ゲ、ゲ、ゲ、ゲルガドル様なんて事を!丸投げですか!!)


残されたエレナは引きつった笑顔のままベルグレドを見た。その顔を見てベルグレドは吹き出した。


「お前でもそんな顔するんだな」


楽しそうに笑うベルグレドにエレナは思わず赤くなってしまう。


(まさか!ゲルガドル様これが分かっててわざと呼び出した?)


「あ、あの。この事は黙ってて下さい。こっそり抜け出て来たので・・・」


「ふーん?お前。俺の誘いは無視して、こんなとこで遊んでた訳だ?」


流石のエレナもこれには言い返せない。

ベルグレドはエレナの手を取ると歩き出した。


「あの、ベルグレド様?」


「今はベルだ。散々俺を無視した罰だ。ちょっと付き合え」


ベルグレドはそう言ってまるで昔の様に手を繋いで歩いて行く。


(懐かしい・・・)


昔はよくこうやって宮廷を二人で歩いた。

ベルグレドはいつも嫌そうにする癖に面倒見が良い。結局エレナの我儘を聞いてしまうのだ。


ベルグレドは街の時計台を指差した。


「あれに登るぞ」


エレナはそれを見上げた。とても高そうだ。


「とても見晴らしが良いらしい。兄さんに教えて貰ったんだ」


エレナは呆れた顔をした。仮にも女性を誘う所が兄のお気に入りの場所とは。ベルグレドらしい。


二人は上まで来るとその見晴らしの良さに思わず声を出した。


「凄いわ・・・」


「こんなに広いんだな。この国は」


この高さからだと街の外も一望出来る。二人はしばし黙って景色を眺めた。


「お前。何する気だ?」


唐突にベルグレドから尋ねられエレナは声を詰まらせた。

ベルグレドは前を向いたままエレナを見ない。


「俺はそんなに信用出来ないのか?」


ベルグレドのその言葉にエレナは思わず手を握り締めた。

顔には笑顔を貼り付けたまま。


「まだ、言えないのです」


エレナは誤魔化す事を諦めた。

彼は元々とても聡い。魔力阻害の為今までは外の事に注意を向けられる余裕が無かっただけで、きっと本来の彼はとても冷静で物事を見極める力がある。だが、まだ気付いていない。


「後少しでそれも分かります。それまで待って貰えませんか?」


「それは何処へ向かうものだ?」


エレナはベルグレドの隣に腰掛けた。ベルグレドの青い瞳をじっと見つめる。


「お前の瞳。兄さんと同じなんだ」


ベルグレドもエレナを見つめながらまた兄の話を持ち出した。本当にこの男は兄の事しか頭にないらしい。


「多分。考えてることも同じなんじゃないか?」


「・・・・・ベルグレド様」


どうして?と、エレナは思う。

何故ベルグレドの側にいるのが自分なのか、エレナはずっと不思議だった。何故なら彼にはエレナではなく他に運命の相手が居るはずなのだ。予言でそう示されている。

しかし何年経っても未だベルグレドを支える運命の相手が現れない。彼女はこの事を知った時、正直ガッカリしたのを覚えている。自分がその相手なら良かったのにと。


「この国が幸せに向かう場所に行くのです。心配しないで下さい」


エレナは笑った。

まだ彼に真実は話せない。きっと話せば邪魔されてしまう。彼は、運命を変えられるから。


「パラドレアと戦争になりそうなのです」


エレナの言葉にベルグレドの表情は凍りついた。エレナは笑みを消し真実と嘘を上手く使いわけた。


「まだ未発表ですが、恐らく。その間だけ私を貴方の屋敷に匿って頂けますか?」


「構わないが、何故?」


「陛下は重い病にかかっています。もう、身体がもたないでしょう。その間、私は恐らく命を狙われます。次の王がまだ選定されていませんから」


嘘だ。この国にもう真の王などいない。


「これは秘匿情報ですので、決して漏らさないで下さい。貴方のお心にのみ留めおくよう」


「兄さんにもか?」


「はい。確定されてない情報を流せば、皆混乱します。近いうち確実な情報が入って来るはず。それまでは悪戯に皆を振り回したくはありません」


ベルグレドはその話を聞きながらエレナが嘘を付いてる、と直感的に見抜いていた。しかしその事には触れなかった。ただ、彼女の横顔から彼女の本心を探っていた。


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