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ダービィディラル

初夏。

ベルグレドはガルドエルムの宮廷に来ていた。

エレナに会う予定だったが、どうも今日は都合が付かないらしいのでとりあえずもう一つの用事を済ませる為エルグレドの執務室に足を進めていた。

そこに向かう途中、一人の女性とすれ違った。ベルグレドは違和感を感じそちらへ目を向ける。

女性はベルグレドに気がつくと傍に避け頭を下げた。

やはり位の低い貴族らしいがベルグレドは彼女に見覚えがあった。


「アルド・ラズ様ですか?」


頭を下げていた女性はピクリと身体を揺らした。彼女はその姿勢のまま「はい」と返事を返した。


「もしや、また呼び出されたのですか?」


彼女は確かアンドリューの末端の者だ。呼び出されない限りはこんな所に来ないはずである。確かアンドリュー家長女アンティに度を超えた嫌がらせを受けており、それを見兼ねた兄がアンドリュー家に言及した事がある。エルグレドの耳に話が入って来る程だったのだから余程である。


「はい。ですがご心配には及びません。あれから大分落ち着いております。お気遣い感謝致します」


「そうですか。いきなり声を掛けて失礼しました。では」


話ではアルドはとても大人しく聡明な女性だと聞いている。ベルグレドは納得してその場を立ち去ろうとした。

しかし意外にも彼女はベルグレドに話かけてきた。


「エルグレド様は婚約者様とは上手くいっておられるのですか?」


「兄ですか?何故?」


彼女でも噂は聞いているのだろう相手が貴族ではないと知って心配しているのか?そう思い振り返ったベルグレドは顔を上げ笑っている彼女の顔を見て何故か気色悪さを感じた。


「すみません。ただ少し気になっただけなのです。問題ないのなら構いませんわ」


彼女はまた深く頭を下げた。ベルグレドはそれには答えずそのまま向かっていた道を進んで行く。

そんなベルグレドをアルドは暗い瞳で見つめていた。




ベルグレドは執務室の前まで来ると中から聞こえてきた声に思わずノックをせずに思い切りドアを開いた。


「兄さん。頼まれたものもってきたけど?」


中では今にもロゼに覆いかぶさりそうな兄とそれを手で止めているロゼがいた。

ベルグレドは思わず冷めた目でエルグレドを見てしまう。

エルグレドはロゼから離れ少しソファーに項垂れてから身体を起こした。


「わざわざ済まなかったな。休憩は終わりだ」


「じゃあ私も今日は行くわ。ベルグレド。貴方にも用事があるのだけどいいかしら?その付けてる装飾品の調整のことよ」


兄に聞かれたくない話しだと悟りベルグレドは頷き、兄を見た。エルグレドはチラリと目線をベルグレドに寄越し頷いた。


「また、後でねエルグレド」


「ああ」


ロゼの言葉に安堵した様な声を出す兄にベルグレドは変な感覚になった。

それが何故なのかベルグレドはこの時はっきり分からなかった。


ロゼと宮廷を出るとロゼは城下町の奥にある古本屋にベルグレドを連れて行った。そこにはロゼの仲間のルシフェルと名乗る男が待っていた。

この男が神官らしいのだがとても神官とは思えない立ち振る舞いの男だった。


「でぇ?話ってなんだよ。貴族なんだろ?仕事の依頼か?」


ロゼはとりあえずベルグレドに椅子を進める。ベルグレドもここに連れて来られた理由が分からないのでとりあえず黙って聞くことにした。


「神の御子よ」


「・・・・・は?」


ルシフェルは目が点になっている。


「見つけたのよ。私達の滅んだ村で私とファイは"神の御子"と呼ばれていた。ベルグレドも私達と同じ神の御子らしい。ベルグレド。貴方が産まれる前、貴方の母親はその御告げを聞いたらしいわ」


いきなり話を振られてもベルグレドには全く分からない。自分の母親に御告げとは何の事だろう。


「貴方と私には常人では持ち得ない力が備わっている。これは何らかの役目を与えられて生まれたものらしいわ。今一番有力なのは私達は"5つの宝玉"そのものらしいということよ」


「5つの宝玉?何だそれ」


「創世神ファレンの兄ガルドルムをこの地に封印したとされる宝玉の事らしいわ。ただ確かではない。記述が殆ど残されてないから、真実かは分からないのよ」


「ベルグレドの母親はその声を確かに聞いたんだな?」


「恐らくね。本人がもういないから信じるしかないけど間違い無いと思うわ。ベルグレドも心当たりがあるんじゃないの?」


ある。幼い頃から母はいつも怯えていた。ベルグレドが何処かに連れて行かれる事を。


「貴方の両親、貴方には何も言わず色々調べてたみたいよ。残されていた資料や文献はとても参考になった。でも貴方の親はあれらを生かしきれていなかったみたいだけど」


両親の部屋にある本はベルグレドも見た事があったがほとんど読めない。専門の知識が無ければ解読は難しい。


「この世界には私やベルグレドと同じ人間が後、三人いる筈よ。その内一人は私の身内なの。ファイという子よ」


「もしかして、ロゼはずっと自分の事を調べてるのか?」


「そう。貴方と違って私達はゼロからのスタートだったから大変だったわよ?せめて手掛かりの1つでも残しておいてくれたら助かったのに」


ベルグレドの母親に御告げがあったのならロゼやファイの親も同じ様に御告げを聞いた可能性が高い。しかしそれを伝える前に二人の親は亡くなった。


「"やがて来る終焉に備えるべく定めに則り欠けたすべてを手に入れ神に捧げよ"貴方の母親が聞いた御告げよ。聞き覚えは?」


「ない。全て初耳だ。具体的に俺たちは何を求められてるんだ?」


「さぁ?今の所一番可能性が高いのは生贄かしら?」


とんでもない事をさらっと言ったロゼにベルグレドは驚かなかった。母親のイザベラもそう思っていたからあんなにも必死にベルグレドを守ろうとしたのだ。


部屋の中は静寂に包まれた。


「ルシフェルはこの話どう思う?」


ロゼは向かい側の神官に意見を求める。先程までふざけていた彼は真面目な顔で考え込んでいる。


「封印の宝玉は、てっきり宝石かなんかだと思っていたんだが・・・まさか生きている人間だとは・・・」


何か知ってる様なルシフェルにロゼは首を傾げた。


「その宝玉について何か知っているの?」


「創世神話の第一章。神の怒りを抑える為捧げられた貢物・・・と俺は伝え聞いたんだがな?だがそれも偽物の可能性があるが」


「第一章ということは他の章もあるってこと?」


「かもな。だが諦めろ」


やり取りを聞いていたベルグレドはふと疑問を口にした。


「俺が得体の知れない物だというのは分かった。それで、ロゼは俺を一緒に連れて行きたいのか?」


もしこの話を信じるならばいずれ五人は会うことになる。

ベルグレドはそれをロゼが実行したいのかが気になった。

それにはロゼも複雑な表情で笑いを見せた。


「興味はあるけど別にわざわざ危険に飛び込みたいわけじゃないわ。ただお互い何も知らない状態で引き合ってしまったらとても危険でしょ?だから共通の認識を持っていて欲しいのよ」


確かにその通りだ。ベルグレドもロゼが現れなかったら今でも一人苦しんでいた。同じ様に彼等も何処かで苦しんでいるかも知れないのだ。


「あと、ベルグレドはあの屋敷で守られていたから知らないかも知れないけど。私達は常に何者かに狙われている」


ベルグレドは驚いた。確かに言われてみればファイズ家には侵入者や盗賊などが多かったが貴族だった為だと思い込んでいた。もしかしたら殆どベルグレドが狙われていたのかも知れない。


「殺されるならまだマシよ。もし連れ去られてこの力を悪用されたら・・・・分かるわよね?」


ロゼは真剣だ。もしかしたらそんな危機に何度も直面して来たのかも知れない。ベルグレドは頷いた。


「強くなりなさいベルグレド。貴方はまだ間に合う。そして良い仲間を見つけることよ。もし、貴方の身に何かあってここから離れなければならなくなった時の為に、その入り口だけは確保しておいてあげるわ」


ロゼの送った目線の先にルシフェルがいた。奴がその入り口らしい。


「おいおい!俺は安かないぞ?タダでは働かない」


ロゼを見ると彼女はニヤリと笑った。嫌な予感がする。


「そんなこと言っていいのかしら?私があんたにメリットが無い情報だけ持ってくると思う?」


「お?」


「私も信じがたかったけどね。彼"ダービィディラル"よ」


「な!?まじか!」


ルシフェルが前のめりでベルグレドに迫って来たのでベルグレドは思わず下がってロゼを睨んだ。どういう事だ。


「ダービィディラルとは精霊や妖精に無条件に愛される者のことよ。貴方は今までその力を抑えられていたのはあの部屋に居たからだと思っていたらしいけど半分は違うわ」


あの部屋には魔法陣がいくつか書かれていた。しかし殆どが効果無いものだったらしい。ロゼは呆れた顔でチラリと窓の外を見た。そして目線をベルグレドに戻すと驚きの事実を告げた。


「よっぽど貴方を気に入ったのね。その妖精達自ら精霊王に力を貸してもらったらしいわよ?」


精霊の存在は知っているベルグレドであるが気になるのは王という部分である。またもや嫌な予感がする。


「この坊ちゃんといい、ファイといい・・・・何故妖精や精霊は自分達に無頓着な奴ばかりを好むんだ?」


その意見にはベルグレドにも同じ気持ちである。しかもベルグレドには姿さえ見えていないのだ。


「まぁファイに関しては・・・もうしょうがないとして、ベルグレドはしっかり彼等に対価を払わないとね」


そう言われてベルグレドは複雑な気持ちになった。ロゼが言うのだから間違いでは無いのだろうがベルグレドは助けられていたことを知らない。いきなりそんな事を言われても困る。


「妖精の魔力は無限じゃないのよ。魔力がなくなれば消滅してしまう。貴方を救う為に何匹妖精が消えたと思う?」


その言葉にベルグレドはハッとした。

恐らくこの何年もの間。彼等はずっとベルグレドを守ってきた。そしてその命をベルグレドの為に削っていたのだ。彼の知らない間に。


「彼等が勝手にやったこと。ダービィディラルはそういう存在なの。でも、どうするかは自分で考えなさい」


ベルグレドはその日から妖精や精霊に対する認識を改めることになった。


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