EP02 異世界の初仕事。その2
頭に生えた山羊とか羊の角を連想させる螺旋を描く双角——とそんな身体的特徴は見受けられるが、それ以外はほぼ人間そのモノなのが、女魔族及ぼ男魔族である。
さて、男魔族共はどんな感じで階級等を決めているのかは知らないが、女魔族の場合、胸の大きさによって階級が決まるそうだ。
んで、どうやらHとかJカップの爆乳女魔族——メディエリスの双子の妹として転生したっぽい元四十一歳のオッサンであった俺こと木村翔太郎の階級は君主である。
とそれはともかく。
「そういえば、メディエリスには妹がいるって聞いた事があるぞ。んで、確か寝たきりで目覚めないという話だ。そんなワケで通称、眠り姫……だったかな? ついでに名前はメディエリカだった筈だ」
「通称、眠り姫ねぇ……む、むう、なんだか複雑な気分になる通称だなァ」
ね、眠り姫……お、俺は女魔族メディエリスではなく、そんなメディエリスの通称で呼ばれる双子の妹に転生したのか!?
「さぁて、グズグズしていると他の何でも屋に手柄を取られちまうぞ! さっさとアインゼルン神殿遺跡へ向向かうぞ!」
「あ、ああ……って、なんだ、お前は!」
「兄さん!」
「え、エリザベートの兄……だと!?」
なんだかんだと、クズクズしてはいられない状況だったりするんだよな。
エリザベートの兄——名前はエディスンだっけ?
とにかく、そんなエディスンが雇った別の何でも屋が、俺達より先にアインゼルン神殿遺跡を根城にしている盗賊団を討伐してしまう可能性があるワケだしな。
おっと、それはともかく、如何にもキザな金髪碧眼の色男が、俺達の目の前に立ちはだかる……う、強烈な香水の香りを漂わせているぞ、コイツ!
「う、臭いッ!」
「ハハハ、愚妹、久々の兄妹の再会に水を差す言葉を言う! さぁて、お前らもアインゼルン神殿遺跡へ向かうんだろう? だが、もう遅いッ……何せ、僕が雇った何でも屋が、すでに解決済みの筈だからね――ッ!」
「な、なんですってーッ!」
「騒いだところでもう遅い! 盗賊団はすでに討伐されている頃だからなァァァ~~~!」
「ぐ、ぐぬぬぬ、悔しいッ! 悔しいわァ!」
ふむ、どうやら先を越されたようだ。
エディスンの野郎が雇った何でも屋が、すでにアインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊団を討伐されてしまっているっぽいぞ。
あちゃー……これじゃ銀貨二十枚という討伐報酬はパーだな。
「だが、そうとは限らないぜ」
「なんだと! この赤髪女、出鱈目を言うんじゃないィ!」
「ほう、それはじゃアレは何かな……かな?」
「わ、わあーっ! お前……ど、どどど、どうしたんだよ! 傷だらけじゃないかァ!」
「ひゃはっわはひゃあああ、親分、助けてくれェェェ~~!」
んん、これはまだ俺達がアインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊団を討伐できるチャンスだったりする?
全身血まみれ状態の小柄な女のコ――エディスンが雇った何でも屋の一人と思われる女魔族が、悲鳴をあげながら舞い戻って来たっぽいし。
うん、状況から考えて返り討ちに遭ったっぽいな。
「ん、お前はリーロ団のボブじゃないか?」
「あ、サマエル先輩! ど、どうでもいいけど、この先には行かない方がいいですよ……ぼ、僕のようになってしまうかもしれませんよ……アウッ!」
ん、リーロ団? 全身血まみれ状態の女のコ――ボブだっけ? コイツが所属する何でも屋の名称か?
それはどうでもいいけど、サマエルの事を先輩と呼んでいる当たりから察すると、二人は知り合いのようだ。
「なるほどなぁ、返り討ちに遭って当然かも……」
「え、どういう事!?」
「あのボブってヤツが所属するリーロ団は、戦闘向きの何でも屋じゃないんだ。」
「ええ、戦闘向き、不向きもあるのかぁ! なんでもやっちゃいますが売りの何でも屋じゃないワケ?」
「そりゃ十人十色だ。いくら何でも屋っつっても主に請け負う仕事によって戦闘向きか、それとも不向きかが左右されたりするしな」
「は、はあ、そういう事ね」
「ちなみに、アイツらの場合、村の宣伝役に一役買っているんだ。リーロ団は一部の連中に大人気だしな――メンバーの大半が十代前半の少女の姿をしているからな……ほら、わかるだろう?」
「い、一部の連中に大人気? あ、ああ、納得した。なるほどねぇ……」
ボブという少女が属すリーロ団は、兄貴を筆頭とした何でも屋ことサキュロ団とは同じ穴のムジナであっても戦闘に関しては不向きなモノ達の集まりようだが、一部の連中には大人気ねぇ……。
んで、その理由がメンバーの大半が十代前半の少女の姿をしている――あ、ああ、ロリコンが多いのか、この世界も!?
ああ、でも、残念な事に、あのボブも間違いなく元は〝男〟なんだろうなぁ……。
「返り討ちの遭った…だと…!? ふざけるなぁ、小娘がァァァ~~~!」
「も、申し訳ないです! あ、ついでにですけど、こんな姿ですが私はエディスンの旦那より年上です」
「な、何ィィーッ! 嘘だァーッ!」
「本当ですってば! あ、そんな事より怪我しちゃいました。傷薬があれば……」
「そ、そういや、血まみれだったな……って、お前、タフだな!」
ボブの見た目は十代前半の華奢な少女である――が、そんな見た目に反してエディスンよりも年上とは意外だなァ!
ああ、エディスンは二十五歳らしい。
む、ボブは所謂、見た目は若いが実際は妙齢……ロリBBAというヤツなのかも!
むう、でも、前述した通り、アイツは元男なんだよなぁ――とそれはともかく、アインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊共を討伐しようと思ったが返り討ちにされてしまったらしいボブの身体は傷だらけだ。
え、何気に重傷じゃね? ――って、誰もが思う血まみれの状態であるにも関わらずボブは元気だ……タフだな、おい!
「ボブは弱い……女魔族の間じゃ誰もが知っている事だが、ここは慎重に」
「うん、ボブは弱いけど、返り討ちに遭ったらしいしな」
「まったく、弱いボブなだけに返り討ちに遭って当然だろうけど、確かに慎重に行動開始だ!」
「あ、あのぉ……私を馬鹿にしていませんかぁ?」
「ま、とにかく、アインゼルン神殿遺跡の近くまで往ってみよう!」
「「「おおーッ!」」
「…………」
アハハハ、元気だな、お前ら……。
俺はそんなポジティブな気分になれやしねぇ……だ、だが、アインゼルン神殿遺跡には興味があるしな。
なんだかんだと、俺的には古代遺跡なんて場所へ往くなんて初体験だしね。
「あ、思い出しました。アインゼルン神殿遺跡に巣食っている盗賊共の一人が、こんな事を言っていましたよ――『勇者の剣はどこだ!?』ってね」
「勇者の剣? なんだか物凄く興味があるわね!」
「エリザベート! 白々しいぞ! お前はアレの事を前々から知っていたクセにィィーッ!」
「な、なんの事かな……かな? と、とにかく、アインゼルン神殿遺跡へ向かいますよ!」
ボブは本当にタフだなァ、俺が同じ立場だった場合、間違いなく病院のベッドの上で苦悶の叫び声を張りあげている筈だ。
それはともかく、確かにエリザベートの態度は白々しい――〝勇者の剣〟とやらについて絶対、何か知っているぞ!
「あ、待てよ! チッ……あの調子だと、何か隠し事をしているな、アイツ……」
「どうでもいいけど、勇者の剣ってなんだ?」
「フン、何も知らないでエリザベートの依頼を受けたのか、お前ら? まあいい、親切な僕が説明してやるよ」
親切に説明してやるって? さっきは散々、エディスンが説明してくれるようだ――件の勇者の剣について。