EP01 転生したらサキュバスでした。その2
「う、うわあ、太陽が二つある!」
「え、何をそんなに驚いているんスか? 別に珍しい事じゃないッスよ、アレは――」
「は、はあ、そうなのか……」
「そうッス。普通の事ッス」
さてさて、信じがたい出来事だが、どうやら俺は〝異世界〟に転生したようだ。
それを物語るかのように、雲ひとつない青々と晴れ渡る空で燦々と輝く太陽が二つある事だし……。
ま、とにかく、螺旋を描く二本の角が頭部に見受けられる瓶底のように分厚い眼鏡をかけた小柄な金髪の女ことヤーティスと一緒に、彼女が住まう村へ往ってみよう。
そこで何もかもがわかるだろう。
異世界なのか? それとも現実世界なのか、という事が――。
「うへぇ、薄気味の悪い森だなぁ……」
「え、そうッスか? ちなみに、そこに生えている木からは、うま味な樹液が採れるッス」
「うま味な樹液ねぇ……メイプルシロップみたいなものかな?」
「それより、サキュロスの村が見えてきたッスよ」
「あ、ああ、そうみたいだな」
お、薄気味の悪い森の奥に人里が見えてきた――あれがサキュロスという名前の村かな?
ん、体操着のような格好の上から軽装の鎧のようなモノと日本刀のような武器を携えた武装した二人組が、出入り口のところにいるぞ……ああ、門番ってヤツだな。
で、よ~く見りゃ門番は、ヤスと同じく頭に山羊みたいな角が生えた女だ、二人組の女だ。
「お、ヤッサン、チーッス! ん、誰ですか、ソイツ!」
「うわ、胸が無駄にデカいなぁ……って、もしかして君主のおひとりでしょうか?」
「胸が無駄にデカい? それに君主? 何を言っているんだ、お前は……」
「ああ、この人は頭をぶつけて記憶がぶっ飛んでいるみたいなんスよ。でも、あの大きさから君主のお一人だとは思うッスけど」
「そ、そうなの? まあいいや、同胞なら大歓迎だ」
「ああ、どうでもいいけど、兄貴が探してたよ。早く行った方がいいぜ、ヤッサン」
「どうせ昼飯はまだか――とでも騒いでいるんだろうなぁ……ああ、私は家はこっちッス。ついて来るッス!」
俺は再び二人組の門番に視線を向ける。
年齢は、十四、五歳くらいの女のコだな。
ひとりはツインテールのチビ、もうひとりはポニーテールのチビ――ついでに同じ顔だ……双子?
ふむ、話し方から考えるとヤスの妹分って感じだな。
さて、コイツらがワケのわからん事を言い出す。
胸が無駄にデカいとか、君主だと……。
ま、とにかく、ヤスの家はサキュロスの村の出入り口のすぐ側にあるようだ。
ついでに、そこには兄貴と呼ばれる人物がいるようだ。
「兄貴ねぇ、この村にもちゃんと男はいるもたいだな」
「え、男? まあ、確かに兄貴は男ッスけどねぇ――見た目は可愛いッスよ」
「は、はあ、見た目が可愛いねぇ……」
「それはともかく、この村は頭に角が生えた〝女〟ばかりを見かけるんだが……」
「まあ、ここはサキュバスの村ッスから、そこら辺は仕方がないッスよ」
「ふーん、そうなのかぁ……」
ふむ、ヤスが兄貴って呼んでいる人物は、もしかしするとサキュロスの村で唯一の男かもな。
そうなると男女の比率は、九対一って事になるのか――。
とまあ、そんなこんなでサキュロスの村の中――とはいえ、出入り口の周辺ではあるが、どこを見ても女ばかりだ。
しかも美しい若い女ばかりだ――ウホッ! イイ女!
し、しかし、変だ……違和感を感じるぞ!?
「だが、変だな。見かける女達は、ほとんどが男の格好をしているぞ!?」
「うは、その物言いから考えると、完全にド忘れしているっぽいッスね。このサキュロスの村にいる女達――サキュバスは、み~んな〝元は男性〟ッス。ああ、私も例外なくッスけどね」
「な、なん…だと…!? お前は元は男…だと…!」
い、違和感の正体がわかって、俺が大いに驚く。
サキュロスの村に住む女達――サキュバス達は、元は男性…だと…!?
そんなワケで目の前にいる眼鏡女ことヤスも元は男性のようだ――ちょ、信じられないんですけど!
「ああ、そういえば、名前を聞いていなかったッスね」
「お、おお、俺は木村翔太郎だ」
「あははは、ヘンテコリンな名前ッスね。あ、私が家が見えてきたッスよ」
「ん、あの古臭い家が?」
「古臭くて悪かったッスね。でも、けっこうイイ~場所なんスよぉ☆」
ヘンテコリンな名前で悪かったな!
ん、それはともかく、ヤスの家が見えてきたぞ――あはは、まるで何年も放置された状態の空き屋だな。
「お、兄貴がいるッス」
「兄貴? むう、緑色の上着とゴーグルについた帽子をかぶった兎がいるんだが……」
「アレが兄貴ッスよ。お~い、兄貴ィ!」
「ヤス、遅ぇぞ!」
「うは、兎が喋った!?」
さて、ヤスが言っていたサキュロスの村、唯一の男性かもしれない存在である〝兄貴〟だが、それはそんなヤスのおんぼろな家の前にいる緑色の上着とゴーグルについた帽子をかぶった兎…だと…!?
つーか、喋ったぞ、兎が……喋ったァァァ~~~ッ!