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EP02 異世界の初仕事。その11

「なん…だと…!? アタシの身体が小さく……フ、フエエーッ! 火も吐けないわァァァ~~~ッ!」


 と俺の足許で猫くらいの大きさの小さな翼と角の生えた蜥蜴――訂正、ドラゴンが喚いている。


 うーむ、信じられないけど、コイツ……元々は巨大な赤い巨竜なんだぜ。


 オマケの人間や動物を即死させるほどの有毒な火山ガスと同じ成分を竜吐息(ドラゴンブレス)を吐く事が出来る邪竜(?)だったなんて信じられねぇーッ!


「ア、アタシがこんなチンケな姿になってしまったのは、きっと勇者ソルファードの呪いのせいよ!」


「しかし、あんな禍々しい巨大な邪竜が、こんな小さなドラゴンになっちまうとはねぇ……」


「あたしは邪悪じゃねーッ! むしろ正義の味方って呼んで欲しいわ☆」


「おい、有毒な火山ガスと同等の竜吐息を吐いておいて、それを言うかァ?」


「う、それは……」


「さて、今度は俺が挑戦してみるよ。あの謎の爺さんが持って帰れって言ってたしな」


「ハハハ、お前には無理だって☆」


「そうそう、アンタには無理ィィーッ!」


「うええ、そう言われると自信を無くすわ……でも、イラッとしたわ!」


「ああ、マジで引き抜く気ッスかァ? 無理だと思うんスけどねェ……」


 何が正義味方だよ、いい加減な事を言うな、この邪竜!


 とにかく、リリムの言い分は矛盾している気が――。


 さて、あの謎の爺さんが持って帰れって言ってたワケだし、勇者の剣の前の持ち主——勇者ソルファードは、今の俺と同じ魔族だったらしいし、そんな俺が柄を握ったところで盗賊Bのように両手が弾け飛ぶ事はないだろう。


 だが、リリムのように力を奪われる可能性があるんだよなァ——何重にもかけられているかもしれない勇者ソルファードの呪いによって。


 むう、しかし、お前には無理だ――と勇者の剣を引き抜くという行動を起こす前に言われちゃ、そりゃイラッとするだろう?


 だから俺は怒りに身を任すように超巨大柱の根元に突き刺さった勇者の剣の柄を両手に握るのだった。


 し、しかし、どう見ても赤錆だらけの鉄の棒だぞ。こんな錆びついて酷いモノが、本当に勇者の剣なんて代物なのかって本気で疑ってしまうぜ。


「こりゃ両手が剥がれ落ちた赤錆だらけになっちまいそうだ……お、おおお、抜けたぞ……え、えええッ……引っこ抜いちまったァ!」


「「「な、なんだってーッ!」」」


「ちょっと待て! コイツを抜いちまったってこたァ……」


「勇者だ。お前は勇者だ」


「わ、わああ、爺さん、いつの間にィィーッ!」


 おいおい、勇者の剣を超巨大柱の根元から引っこ抜いちまったぞ、おい……。


 そ、そうだなァ、地中から大根を引っこ抜くかの如く呆気なく……え、俺が勇者…だと…!?


 あの謎の爺さんが再び姿を現し、プルプルと小刻みに揺れる左手に人差し指を俺に向けながら、そう言うのだった。


「わ、この爺さん、いつの間に! う、ちょっと汗臭い……」


「兄貴の言う通りッス! お爺さん、しばらくお風呂に入ってないでしょう?」


「フォッフォッフォ、よくわかったのう☆」


「マジかよ……」


「ああ、マジだ。マジマジ――っと失礼な兎と眼鏡娘じゃのう。とりあえず、わしは神様なんじゃが、臭いとか小汚いとか不敬な物言いにもほどがあるとは思わんのか?」


「か、神様だって!? ちょ、その前に小汚いとは……グアーッ!」


「モギャアアアーッ! ししし、痺れりゅううう~~~!」


 え、謎の爺さんは神様!?


 ――って事は、俺が今いる今やかつての面影がほとんど残されていない瓦礫の山のような状態となったアインゼルン神殿遺跡にかつて祀られていた神様なのか!?


 さて、そんな自称、神様こと謎の爺さんに対し、臭いとか風呂に入っていないなどと不敬な物言いを口にした兄貴とヤスの頭上に眩い雷光が降り注ぐ――所謂、天罰ってヤツだろうか?


「兄貴、ヤス、死ぬなァァァ~~~ッ!」


「まだ死んでねェ!」


「あうあうァ~~~! まだ生きているッスゥ!」


「お、おお、それは良かった!」


「手加減というヤツぢゃ。うーむ、しかし、わしの力も随分と弱くなってしまった。ちとショックじゃ……」


 お、なんだかんだと、兄貴とヤスは死んではいないぞ――手加減ねェ、なるほど、それで雷光が、その身に落ちたというのに感電死を免れたってところか。


「さて、ソイツを引き抜けるモノが現れて、わしとしては大満足ぢゃ! これで安心して眠れるぞ」


「眠る?」


「うむ、わしは長い事――アインゼルン神殿遺跡が魅力を無くし廃れてしまった時から深い眠りについたぢゃ……が、それが大体、百年ほど前、冒険者とかいう騒がしいモノ共が、勇者ソルファードの遺産であるアレが発見してしまった事で目を覚ましてしまってのう。で、それ以降、眠れん日々が続いている。不に落ちないにも程がある……」


「は、はあ、そうなんだ……って、百年も眠っていないのか!?」


「オマケに勇者の剣を守護を掲げる盗賊共――純ヴォイヴォとかいう連中が、ここへやって来る冒険者共と対立するようになってのう。余計に、ここが騒がしくなってしまっている状況なのぢゃよ。故に、ソイツを持ち帰ってくれるモノを待ち望んでいたぢゃ」


「で、それが俺ってワケか……」


「そうなるのう。さ、どうでもいいが、さっさとソイツを――勇者の剣を持って、ここから立ち去れィ!」


「ちょ、爺さん、神様……お、怒るな! すぐに立ち去るから雷を落とさないでくれェ!」


 謎の爺さん――神様は、色々と迷惑しているんだなァ。


 おっと、それはともかく、神様が俺の目の前に雷光を……ちょ、さっさとアインゼルン神殿遺跡から立ち去らないと兄貴やヤスが喰らった天罰以上の天罰を喰らいそうだ!


 こ、ここは一つ……素直に従っておくべきか!


「おい、ソイツを寄越せッ!」


「それは俺達もモノだ!」


「強奪だ、ゴルァッ!」


「うは、忘れたッス! アインゼルン神殿遺跡に巣食ている盗賊団を討伐しようと集まって来ていた同胞がいっぱいいた事を!」


「ア、アルェ~? 僕はこんなに何でも屋に声をかけたかな?」


「兄さん、ざっと百人はいるわ! トンでもない事をしてくれたわね! と、とにかく、サキュロ団のみんな……ソイツを持って逃げるわよ!」


「お、おお、わかったぜ、エリザベートさんよォ!」


 むう、ヤスの言う通りだ……す、すっかり忘れていた!


 アインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊共を討伐しにやって来た連中――中にはライバル関係にあるモノ達もいるだろうけど、とにかく何でも屋がたっくさんいた事を――。


「メディエリカ! メディエリスの妹……ちょっとした所縁がある俺になら、ソイツを渡してくれるよなァーッ!」


「ん、お前はアイギスだっけ?」


「間違いねぇ! その無駄にデカう胸を見りゃわかる!」


「兄貴ィ、どこを見てるんスかァ!」


「と、とにかく、エリザベートの言う通りだ。勇者の剣を奪われる前に逃げるぞ、お前らーッ!」


「「「あ、ああーッ!」」」


 神様にはさっさと立ち去れって言われるし、オマケに同胞(まぞく)には勇者の剣を奪われそうになるという散々な目に遭うのは懲り懲りだな。

 

 さ、さあ、逃げるか! 上手く逃げらりゃいいけどッ!

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