EP02 異世界の初仕事。その4
ルルルイエ樹海の湖の南側に住む魔族——女魔族ことサキュバスは、数多の魔族の中では夢魔として区別されているようだ。
夢魔? 夢の中に現れて生気を吸い取っていく……アレの事か?
対象の理想とする異性の姿――例えばナイスバディな美女や美男子の姿で現れるけど、実はメチャクチャな醜女や醜男らしい……本当かは知らんけど。
そんなワケだから、俺やマリウスのような巨乳のサキュバスは、タダ君主と呼ぶよりも〝夢魔君主〟と呼んだ方が正しい気がしてきたぜ。
さて、アインゼルン神殿遺跡の超巨大柱に突き刺さった勇者の剣を抜けるのは、当然、勇者のみである。
まあ、当然だろうなァ。
俺は魔族だ、サキュバスだし、多分、俺には勇者の剣を引き抜く資格なんてないだろう……多分。
「よし、爆弾キノコの密生地帯を切り抜けたぞ!」
「あ、ああ、そうみたいだ……うわッ!」
「メディエリカさんの翼が爆発したッス!」
「うう、どうやら分離できたっぽいぜ……し、しかし、俺的には翼ではなくブラジャーやパンティーに変化したかったぜ……」
「兄貴は変態ッス!」
「俺は変態じゃねェーッ!」
「おい、どうでもいいけど、目の前を見てみろよ」
「わお、超巨大な柱が、すぐ側に……って事は!?」
「ああ、俺達はすでにアインゼルン神殿遺跡の中に足を踏み入れているって事だ」
俺の身体に取り込まれて翼に変化していた兄貴が分離する。
ったく、このセクハラ兎め! しばらく、そのままの状態でいれっての!
それはともかく、俺達はアインゼルン神殿遺跡の件の勇者の剣が突き刺さっているらしい超巨大柱の間近にまでやって来ていたようだ。
「ふえええ、間近まで来ると圧倒される大きさッスね、兄貴」
「うむ、確かになァ……って、件の勇者の剣はどこにあるんだァ?」
「多分、この超巨大柱の根元に刺さっていた気がします」
「うん、ここだな――っと、発見者は僕だぞ、エリザベート! そんなワケだ、回収は僕が行いゾ☆」
「ちょ、兄さん、いつの間にィ!」
「どうでもいいけど、なんでパンツ一丁なんだァ? ああ、爆弾キノコのせいでパンツ以外、吹っ飛んじまったのか……」
「それはともかく、迂闊にソレに触ってはいけません!」
「ん、お前はユルウスだっけ? どういう事だよ、おい!」
件の勇者の剣は、目の前にそびえ立つ今いるアインゼルン神殿遺跡に残された数少ない遺物であり、かつての栄華を象徴する物体でもある超巨大柱の根元に突き刺さっているって!?
で、それを真っ先に発見したのが、パンツ一丁という格好のエディスンである。
さて、そんなエディスンが、超巨大柱の根元に突き刺さった件の勇者の剣と思われる棒状の物体を引き抜こうとするのだが、それをあの宗教勧誘のお姉さんことユルウスは引き止める。
むう、俺やマリウスと同じ夢魔君主である故、空を飛ぶ事が可能な彼女が、爆弾キノコの密生地からエディスンをここに連れて来たっぽいなァ——ん、迂闊に触れちゃいけないって!?
「説明しましょう。アレに迂闊に触れちゃいけない理由が、このサキュリタ教の聖典ミタークミーの中に書き記されているのです」
「聖典ミタークミー? 手帳じゃん、それー」
「手帳なんかじゃありませんってばー! それはともかく、勇者の剣に迂闊に触れると身体が溶けてしまうそうです!」
「か、身体が溶ける…だと…!?」
「あ、はい、聖典ミタークミーには、勇者の資格がないモノ、オマケに魔性のモノが触れた場合、身体が溶けてしまうって書いてあります!」
「ほ、ほえええ、そりゃ確かに迂闊に触れる事が出来ない代物だな、おい……」
「ヒ、ヒエエエー! 僕は危うく溶けてしまうところだったのかー……いや、待て待て! もしかすると、この僕には勇者の資格がある可能性もアリなのでは?」
「いや、それは絶対にない!」
「うわ、即答しやがったな、エリザベート!」
「おい、口喧嘩は後回しだ! どうやら囲まれているぞ、俺達!」
「うえー……マジで?」
「ああ、マジだ……マジ! きっとウワサの盗賊団だろう!」
「ふえええー! 変な連中が飛び出してきたッス!」
勇者の資格がないモノや魔性のモノが触れると、身体が溶けてしまうって!?
ユルウスが所持しているサキュリタ教の聖典ミタークミーの中に、そんな記述があるようだ……お、おいおい、勇者の資格はともかく、魔性のモノって俺達みたいな存在じゃないか!
――とそれは後回しだ。
どうやら俺達は奇妙な連中に包囲されていたようだ……コ、コイツらがアインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊団なのか!?
「中心に大きな一つ目があり、それを囲むように六つの小さな目が描かれた仮面をかぶった集団!?」
「ヴォイヴォだ! でも、コイツらが僕達ミルド人の文化に感化された連中じゃない……純ヴォイヴォだ!」
「ミルド人?」
「私達のような他所の大陸からアルシュバーン大陸にやって来たモノの事よ! むう、純ヴォイヴォだと話が通じないわね……多分!」
物陰に潜んでいた中心に大きな目、それを囲むように六つの目が描かれた仮面の集団が一斉に飛び出し、俺達を包囲する――先住民ヴォイヴォで構成された盗賊団のようだが、エリザベート曰く、同じ先住民ヴォイヴォであっても話が通じない純ヴォイヴォという連中のようだぞ!