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8 初めての出会い

 

 時は、プロシーが洞窟を破壊した後、辺りを捜索している時に戻る。


 プロシーはあの後、本来洞窟の出口から出るはずだった場所に移動した。


 その場所は木々が生い茂り緑で溢れていた。高い岩山二つに挟まれた、谷の様な場所で、時折冷たい風が吹いている。岩山と岩山の間の陸地の幅は約百メートル程で、中間には幅二十メートル程の川が流れており陸地を分断していた。二つの岩山は五十メートル程の高さで幅は三キロ程だ。


(綺麗なのだ。見た事のない色ばかりなのだ! 未知の物が一杯なのだ!)


 移動した先の景色を眺めたプロシーは、尻尾を左右にブンブン振り非常にご機嫌である。


 プロシーは”気纏”になり、『気竜眼』の範囲を一キロに広げ、未知の物に触れ始めた。周辺にある草花、遠くに見える鉄鉱石など様々な物を発見して『探求者』で探求、解析していった。


 探求心で一杯になったプロシーには周囲への配慮などない。岩山の中に違う色を発見すれば、そこを破壊して中に入り、地面の下に違う色があれば、掘り返した。プロシーが捜索を始めてから、十分しない内に谷はすごい事になった。辺りのほとんどが掘り返され、まるで、巨大なモグラが大群で現れて、帰った後の様な状態だった。この光景を見た皆は絶対に言うだろう。「なんじゃこりゃーーー!」と。


 そんな自然破壊など全く気にしないプロシーは、違う場所へ飛んで行く。谷の周囲は完全に捜索が終わったからだ。故に今のプロシーは、沢山調べた事を『探求者』で探求しているところなのである。


 プロシーが谷を越えると、周囲は緑豊かな草原地帯だった。しばらく、その周辺を探したが、特に何もなかった。次にプロシーは東の方にある森の方へ移動して行った。


 森に移動したプロシーは、銀の瞳を輝かせる。何故なら、『気竜眼』の範囲に知らない未知の生物がいたからだ。プロシーはその生物の元へ一直線に向かって飛んで行った。


 プロシーはその生物の近くに移動すると、ゆっくりと降下を始めた。その生物とは人だ。人は中腰になり、何かの採取をしている様である。プロシーは上空から問いかける。知識高い者だと期待して。


「そこの方、少し話をしたいのだが良いだろうか?」

「⁉︎ だ、誰⁉︎ どこにいるの⁉︎」


 その人はプロシーの声に反応すると、立ち上がりキョロキョロと辺りを見回した。プロシーは知識高い者だと確信して再度言う。


「我輩は上にいるのだ」

「⁉︎ か、可愛いぃ〜〜〜!」


 プロシーを見た人物はとても良い笑顔で興奮していた。その人物とは、身長百六十センチ程で黒髪ショートヘアの可愛らしい少女だった。少女は、はしゃぎながら叫ぶ。


「ねぇ、あなた! そんな上空にいないで、下に降りて来てよ! 私と話がしたいんでしょ!」

「分かったのだ!」


 プロシーは少女の言う通り降下して行った。プロシーが近くまで降下すると、少女は狙い澄ました様にジャンプして、プロシーを捕まえようとした。だが、プロシーはあっさり少女を躱した。躱された少女は「やるわね! でも、私も負けないわよ!」と言いながら、プロシーを捕まえようと再度突撃した。「えい!」「この!」「やー!」と叫びながら暫くの間、突撃を繰り返す少女。少女は十分程必死に突撃したのだが、結局プロシーを捕まえる事は出来なかった。


 必死に動いていた少女は、地面に座りゼーゼーハァーハァーと疲れたように、息を吐いていた。暫くして息の整った少女は、愛らしい笑顔でプロシーに優しく尋ねる。


「ねぇ〜、何故私を避けるの? 私はあなたに酷い事はしないわよ。ただ触りたいだけなのに」

「……我輩、世話になった者に注意されたのだ。女には気を付けろと。おぬしは女だと思うが違うのか?」


 プロシーは首を傾げながら少女に尋ねた。少女の一連の行動を見たプロシーは「あの行動は、天の祈願者が言っていた女かもしれないのだ」と警戒していたのだ。少女は答える。


「確かに私は女よ。でも、なぜ、女だとあなたに触れてはダメなの? ちょっとくらい良いでしょ?」

「そう言われてもな……」


 プロシーは考える。情報の為に触れさせるか、天の祈願者の注意を優先するか。そんな悩むプロシーに少女は、良い事を思いついたと、一瞬ニヤっと笑った。そして満面の笑顔でプロシーに尋ね、要求する。


「そういえばあなた、私に聞きたい事があるのよね? 話を聞きたいなら、大人しく私に捕まりなさい! そして私にモフモフされるのよ!」

「むっ⁉︎ ……はぁ〜、仕方ないのだ。だが、捕まる以上ちゃんと話を聞かせてほしいのだ」

「やった〜! うん、ちゃんと話から安心してよ! さっ、私の元に来て!」


 プロシーは諦めて”気纏”を解除して、少女に身を差し出す事にした。少女は腕を広げて「ここに来てね!」と言いながら待つ。徐々にプロシーが近づき、少女の捕獲範囲内に来ると、ガバッと勢い良くプロシーを真正面から抱きしめた。少女は地面に座ると、プロシーを全身で堪能するのだった。プロシーを堪能している少女の表情はとっても幸せそうである。


「ああ〜〜良いわね〜。このモフモフ最高〜! 柔らかない毛並みがフワフワしていて、それでいて良い匂いもして、抱き心地も良い! 素晴らしいわ! 私、ず〜〜とこうしていたいわ〜」


 プロシーは天の祈願者が注意していた事を理解した。これがそうかと。確かに命の危険は無いが、全身を隈無く触られるという経験は今まで無い為、なんとも言えない感覚だった。プロシーは抜け出そうと、動きながら少女に言う。


「そろそろ、撫で回すのを止めて、話を聞かせてほしいのだ」

「え⁉︎ ……分かったわ。名残惜しいけど、あなたが嫌ならしょうがないわね。……ねぇ、もう、撫で回さないから、あなたの体毛に手で触っていて良い?」

「それなら良いのだ」

「やった! それで私に何が聞きたいの?」


 プロシーのフワフワの体毛に触れている少女は、ニコニコと、ご機嫌な様子で尋ねた。


「話の前に、先ずは名のっておくとするのだ。我輩の名はプロシーなのだ。おぬしの名は?」

「私はユイよ! プロシー、よろしくね!」

「ユイ、よろしくなのだ! それで、ユイ、この世界はどういうところなのだ」

「この世界? この世界は【ガイアスラ】って言うのよ。それで……」


  それからプロシーはユイに話を聞いた。


・この世界は五体の竜王により守護されていること。

・竜王五体はそれぞれ国を持ち、選んだ種族に加護を与えて守護していること。

・加護を与えられた者は身体能力、魔力が上がること。

・加護は一般的に各属性の加護と、選ばれた一人に与えられる竜王の加護があること。

・竜王の加護は能力が凄まじく上昇すること。

・この世界は魔法が生活、戦闘の中心であること。

・この世界には魔物と呼ばれる、何処からか現れる危険な生物がいること。

・獣人族など加護を与えられなかった者は、加護無しと言われ蔑まれることがあること。

・加護無しは国に住めない為、自身の力で生き抜くしかないこと。

・ユイの住む町は加護無い者達が協力して暮らしていること。

・この世界には、国が六つ存在すること。

・【サンボルトーグ】雷竜王の守護する国。大陸の南西にあり、人間が住む。

・【アーオムル】地竜王の守護する国。大陸の北西にあり、森人が住む。

・【シースパルド】氷竜王の守護する国。大陸から離れた島で北の位置にあり、海人が住む。

・【フラインド】炎竜王の守護する国。大陸の北東にあり、恐人が住む。

・【フロンバルド】風竜王の守護する国。大陸の南東にあり、空人が住む。

・【カントリー】五国の中心国。大陸の中央にあり、様々な種族が住む。

・国や町には守護結界が貼ってあること。

・この世界にはログアーツという、個人を判別する腕輪があること。

・ユイは所持していないが、ログアーツには様々な便利な機能が備わっていること。

・国や町には、ログアーツで身分を証明出来ないと入れないこと。

・この世界にはルビというお金があること。

・ルビは硬貨で、一ルビ(赤)、十ルビ(青)、百ルビ(黄)、千ルビ(緑)、万ルビ(黒)、十万ルビ(銀)、百万ルビ(金)があること。

・この世界の時間は二十四時間であること。

・この世界の一年間は三百六十日で、四季に分けられていること。

・ユイは両親がすでに無くなっており、町でお姉さんの様な存在と暮らしていること。


 ちなみに、ユイは、身長百六十センチ程で黒髪ショートヘアである。大きな青い瞳に小さな鼻と薄ピンク色の小さな口、非常に整った可愛らしい顔で、頭の左右に猫耳が付いており、お尻には細長い猫の尻尾が生えている。肌は白色、体型は細いが胸の双丘は服の上からでも程良く出ている事が分かる。


 ユイの服装は、白い半袖と黒い短パンのような格好だ。足には革で作った靴のような物を履いている。


 ユイの外見は耳と尻尾を除けば、人間の見た目である。普通の男がユイを見れば、見惚れる事間違い無しの美貌を誇る美少女だ。だが、プロシーにはそのような認識はない。こういうものとしか思っていない為、何とも思わないのだった。


 町と森以外の場所に行った事がないユイが、色々な事を知っているのは、雷竜王の加護を持つヴィクトールが町に度々訪れるからだそうだ。ヴィクトールは生活に役立つ、様々な生活用品や魔法具を持って来てくれるらしく、町も結界で守られているらしい。


 魔法具とは、魔力を込めると発動する物らしい。ユイは、魔法具を持っていて使えるらしいが、詳しい事は知らないとの事だった。町には魔法に詳しい人がいるとの話だ。


 時に、特に戦う力がないユイが一人で出歩けるのも、簡易結界の魔法具があるかららしい。簡易結界の魔法具は掌サイズの黒い石の様な物で、魔力を込めるとユイの周りを囲む様に、円球状の見えない壁が出来た。プロシーには『気竜眼』がある為、視認出来る。ただ、そんなに強い結界ではない為、弱い魔物向けの道具らしい。


 それからも、プロシーは様々な事を聞いた。なぜ服を着てるのか、町はどういう所か、他にどんな道具を使っているかなど、ユイを質問攻めした。ユイは微笑みながら、分かる範囲で答えていた。プロシーはユイの持ち物を見せて貰った。


 ちなみに、ユイが持っているのは、魔法袋と言う魔法具らしく、見た目は小さい黒色の袋だが沢山の物が入るそうだ。プロシーは中にあった物を見て問う。


「ユイ、その赤い丸い物は何なのだ?」

「これはね、トマトと言う野菜よ。トマトはね、とっても美味しいのよ」

「我輩何も食べた事がないから、美味しいと言う感覚が分からないのだ」

「えっ⁉︎ プロシー何も食べた事ないの⁉︎」

「食べた事も、眠くなった事もないのだ」


 プロシーの返答聞いたユイは驚きながら思った。そういえば、プロシーは何者なんだろうかと。小さくてモフモフしている喋る存在など見た事がないと。疑問に思ったユイはプロシーに何者か尋ねた。尋ねられたプロシーは元気に返答する。


「我輩はエメラルドドラゴン『気翠玉竜』なのだ!」

「え⁉︎ 竜なの⁉︎」

「ユイ、どうしたのだ?」

「あ〜ごめんね、プロシー。ちょっと驚いただけだから、気にしないで。ヴィクトールさんに聞いた竜は、とっても大きくて畏怖する存在って聞いていたから。でも、私はプロシーの見た目の方が可愛くて好きよ!」


 ユイは笑顔で言った。プロシーはその話を聞いて「この世界の竜と、我輩は同じ姿ではないのだな」と思い、少し落ち込み、フワフワの耳が若干だが垂れ下がった。それを見たユイが「ごめん、プロシー、私何か悪い事言った?」と狼狽しながら尋ねてきたが、プロシーは「ユイの所為じゃないから気にしなくて良いのだ」と答えて、気を取り直した。


 その後、プロシーはユイから、トマトを是非食べて欲しいと言われ、トマトを渡された。プロシーは小さな両手でトマトを掴み口に近づけ一口食べる。すると、初めて食事をしたのが原因か、それともトマトが原因か分からないが、プロシーは凄まじい衝撃を受けた。それはダメージではなく、何とも言えない感動のようなものだった。プロシーは銀色の瞳を輝かせ、嬉しそうに柔軟な尻尾をブンブン横に振りながら感想を力強く叫ぶ。


「なっ、なっ、何と凄いのだ! トマト……素晴らしい! 素晴らしすぎるのだ‼︎ 噛んだ瞬間にやってくる甘みと程よい酸味、素晴らしいバランスで我輩の内部に衝撃を走らせてくるのだ! こんなにも素晴らしい物がこの世に存在するとは! 我輩は、この世界にトマトに出会う為にやって来たのだな‼︎」


 ユイはトマト一つで、プロシーがそこまで喜んでくれるとは思わず驚いていた。その反応を見たユイはそんなに好きならと、持っているトマトを全てプロシーに渡した。プロシーはおよそ十個のトマトをあっという間に完食した。食べ終わったプロシーは元気に言う。


「ユイ、ありがとうなのだ! 我輩、トマトが凄く気に入ったのだ! ユイ、お礼に我輩が作ったトマトをあげるのだ! 普通のトマトより美味しいはずなのだ!」


 プロシーの発言が終わると、プロシーの小さな手に、トマトの実が現れた。だが、ただのトマトではない。そのトマトはプロシーの体毛と同じエメラルドの色をしており、若干だが輝いていたのだ。そのトマトを見たユイは思わず「綺麗」と言い、少しの間見とれていた。


 ちなみに、このトマトは、魔力と気を合わせて作った物だ。プロシーはユイから貰ったトマトを『探求者』で探求、解析して、『開拓者』により魔力でトマトの具現化が可能になったのだが、その時のプロシーの集中力は凄かった。トマトがあまりに美味しかった為、プロシーは常に食べたい、もっと美味しくしたいと考え、空間最強だった虎と戦った時より、集中して探求したのだ。結果として、魔力と気を合わせる方法が一番美味しくなると結論が出たのである。


 プロシーは自身の分のトマトも作り出して、ユイを急かす。


「ユイ、早く一緒に食べようなのだ!」

「あ、ええ、分かったわ」


 プロシーに急かされユイもトマトを食べる事にした。ユイはプロシーからエメラルドのトマトを受け取り、二人同時にエメラルド色のトマトを一噛み食べた。すると


「「うっまーーーーーーーーーーーーーい!」」


 という二人の絶叫が森中に響き渡った。


 二人はプロシーが作ったエメラルド色のトマトを無我夢中で食べていた。そして食べ終わった二人は。


「な、なんて美味いのだ! 最初食べたトマトもかなり美味かったが、これはそれの数倍いや、百倍は美味いのだ!」

「た、確かにそれぐらいの美味しさがあるわね! 甘さが段違いに上がっているのに、酸っぱさとのバランスが凄く良くてジューシーさが半端なくて、体の疲れが吹き飛んでいったわ! このトマト凄いわ! これは、もはや、ただのトマトではないわね!」


 二人は、トマトのあまりの美味しさに、これはトマトであって、トマトとは次元が違うものだとはしゃぎながら、興奮するのだった。興奮したプロシーは銀色の目を凄まじく輝かせ、フワフワの尻尾を嬉しそうにブンブン左右に振っていた。


 そして、プロシーはトマトの命名をする。


「そうなのだ! 我輩と同じ色だし、エメラルドトマトと名づけるのだ!」

「エメラルドトマトか。凄いものを作ったわねプロシー! というかどうやって作ったの?」

「これは、我輩の魔力と気を合わせて作っているだけなのだ。どうやら、気を使う事で、トマトの美味しさは上がるみたいなのだ。だとするとまだまだ、美味しさは上がるのだ!」

「そうなんだ。それでプロシー、気って何?」


 プロシーの説明を聞いたユイは驚きつつ、首を傾げてプロシーに尋ねた。プロシーは「ユイにも気があるのに、気を知らないのだな」と思い説明する。


「気は全ての生物や物が持っているモノなのだ。我輩は気を視認出来る目を持っているのだが、現にユイにも存在しているのだ」

「そうなの? 私には見えないから分からないけど。気は使えると何か良い事があるの?」

「そうだな、簡単に言えば活性化が出来るのだ。自身を活性化させれば、反応速度、身体能力、治癒力が向上するのだ。他にも物などをより硬くしたりなんかも出来るのだ」

「それって凄いわね! プロシー、私も気を使えるの?」

「ふむ。ユイ、ちょっと待っていてほしいのだ。我輩、探求してみるのだ」


 プロシーは銀の瞳を閉じて、ユイに気を教える方法を『探求者』で探求した。ユイはそんなプロシーを黙って見ていた。少しすると、プロシーはユイの肩に飛んで移動した。そして、ユイの身体を自身の気で活性化させた。プロシーは、ユイにも気があるのだから、活性させてやれば、使える様になるかもしれないと考えたのだ。


 ユイの全身をプロシーの気で活性化させたのだが、プロシーとは違いユイはどこも光らなかった。『気竜眼』にはユイの身体がエメラルドに輝いて見えている。ユイは突然、力が溢れ出した事に目を大きく開いて驚き尋ねる。


「⁉︎ ね、ねえプロシー! 身体から凄く力が溢れてくるんだけど⁉︎ 何をしたの⁉︎」

「今ユイは、”気纏”をしている状態なのだ! この状態でしばらく動いてほしいのだ!」

「……これが気なんだ。気って凄いのね。分かったわ!」


 ユイはプロシーに言われた通り辺りを走ったり、ジャンプしたりして、しばらく動いていた。ユイは自身の動きが、数十倍速くなっている事に始めは「す、凄い! 私、風になったみたい!」と、驚きながらも、徐々に慣れていったようだった。五分程動いたユイは感想を言う。


「ふう〜。いつもより速く動けるって変な感じだけど、楽しいのね」

「そうだな。”気纏”をすると、身体能力、反応速度、治癒力が上昇するのだ。実際、速さだけではなく、力と防御力も上がっているのだ」

「……確かに、今なら重い物でも簡単に持てそうね。やっぱり、聞くよりも体で体感する方が気の凄さが分かるわね」

「だいぶ慣れたようだし、今度は自分の中の気を感じて”気纏”をしてほしいのだ」

「分かったわ」


 ユイは集中して己の中の気を感じる。プロシーの気を纏った事で、ユイは自分の中にも気が存在すると、自覚出来るようになっていた。ユイは少しづつ、気を体全体に纏っていく。暫くすると、”気纏”が出来た。


 だが、やはりユイの”気纏”はプロシーとは違い、どこも輝いたりはしなかった。どうやら、プロシーの体毛が特別の様だ。プロシーの『気竜眼』には、ユイの全身が綺麗な青色の輝きを放っているように見えている。


「やったなユイ! ”気纏”が出来ているのだ!」

「……ありがとう、プロシー。気に集中すると疲れるのね。それにプロシーに活性化された時の方が力が溢れてきたわ。これが、プロシーの言っていた練度の差なのね」


 ユイは気が使えるようになった事に喜びながらも、プロシーとの力の差をハッキリと自覚した。プロシーの気の活性と、自身の気の活性を比べて、その圧倒的な違いに驚愕していた。そんなユイにプロシーは伝える。


「我輩は気を使えるようになってそれなりに経つから、活性作用もかなり上がっているのだ。ユイもこれから、何度も気を纏っていけば活性作用も上昇するはずなのだ。ただ、気は無限じゃないから気を付ける必要があるのだ。さて、我輩がユイに出来るお礼はこれくらいなのだ。ユイ、ユイの住んでいる町に着いて行ってもいいか? 我輩、町を見て見たいのだ」


 プロシーはユイから町の話を聞いて、見たい、知りたいと思いユイに尋ねた。聞かれたユイは笑顔で返答する。


「もちろん、良いわよ、プロシー! 実は私もプロシーに、私達の町に来てほしかったんだ。それとね、町に行けばエメラルドトマトを料理出来るわよ。料理をすると、きっとエメラルドトマトはもっと美味しくなるわよ」

「ユイ、ありがとうなのだ! 早く町に行こうなのだ!」


 ユイの話を聞いたプロシーは目を輝かせた。もちろん、エメラルドトマトをもっと美味しく食べられると聞いたからである。食に貪欲になったプロシーであった。


「ねぇ、プロシー。町までプロシーを抱っこして行ったらダメ? 無理にとは言わないけど」

「抱っこだけなら良いのだ! 全身を触るのは勘弁してほしいのだ」

「うん! 分かったわ! じゃ、行きましょうか♪」


 ユイは上機嫌で言った。町までの移動途中、プロシーは「ユイ、料理とはどんなに凄い物なのだ? どれだけ美味しくなるのだ? 我輩でも出来るのか?」とユイに料理について質問したが、ユイは「ついてからのお楽しみよ。ただ、きっと美味しい物を食べさせてあげるから、期待してね」と言った。その言葉を聞いたプロシーは、嬉しそうに尻尾を動かして町に着くのを待つのだった。

 次回は木曜日の十八時に投稿予定です。

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