7 空間〜旅立ち
天の祈願者との話し合いです。
虎との戦闘が終わると、天の祈願者が嬉しさと寂しさが混ざったような声で話しかけてきた。
『最後の戦闘の勝利おめでとうございます。これで外の世界へ行く準備が整いましたね』
「そうだな。これで条件もクリアなのだ。危険な思いもしたが、あっという間だったのだ」
プロシーはそう答えながら、今までの生活を思い出す。自身の存在を確認したと思えば、知らない声が聞こえてきて、いきなりティラノに襲われたこと。生きる為、敵を倒すと決めたこと。天の祈願者に外の世界の事を聞き、力を付ける為、思考、探求を繰り返しながら、戦闘を重ねたこと。何度も己の危機を感じながらも、戦闘に勝利する事が出来た要因は、自身の知能が高い事であり、能力であり、探求をやめなかったからだろうとプロシーは思うのだった。
そんな事を思いながらプロシーは天の祈願者に質問をする。
「天の祈願者は、外の世界には知能高い者がいると言っていたが、外の世界での注意事項などはあるか?」
『注意事項ですか? そうですね、知能が高いという事は相手が何かを考えているという事です。それが良い事か、悪い事かはプロシー自身が判断せねばなりませんので、そこには注意が必要ですね』
「相手の考えの良し悪しか……その辺は実際に会ってみない事にはどうしようもないが、注意するのだ」
『そういえば、一つ絶対に注意しなければならない事があります』
プロシーは、天の祈願者のような凄い存在が、絶対に注意しなければならない事が、外の世界にあると分かり、それはどのような恐ろしいものなのだろうかと思い緊張しながら、天の祈願者に尋ねる。
「絶対に注意……それは何なのだ?」
『それは……』
「……それは?」
『女です‼︎』
「女⁉︎ ……とは何なのだ?」
天の祈願者の力強い答えに、プロシーは一瞬驚いた。だが、自身の知らない言葉の為、それは何なのか尋ねた。プロシーの質問に、天の祈願者は未だかつてない程、力強く答えてくる。
『プロシー、あなたの性別は男なのです! 世界には男と女の二つしか存在しません! 故にあなたは、何処の馬の骨とも分からない女に狙われる可能性があるのです!』
天の祈願者の答えにプロシーは「世界には男と女がいて、我輩は男なのか」と思いながら、不思議そうに天の祈願者に問う。
「そういうものなのか。狙われる……それは命を狙われるという考えで良いのか?」
『いえ、そういう事ではありません。プロシーの見た目がその……』
「我輩の見た目が何なのだ?」
プロシーは言い淀む天の祈願者に「結局、何が原因なのだ?」と疑問を持ちながら尋ねた。すると、天の祈願者が、プロシーの予想外の答えを返してくる。
『つい、触りたくなってしまうのです‼︎』
「ん? ……何を言っているのだ天の祈願者? 我輩は他の知性高い者を見た事がないのだが、そんなに我輩と見た目が違うのか?」
プロシーは初め、天の祈願者の答えの意味が分からなかった。プロシーにとって知性高い存在は自身しか知らない為、外の世界も自分と同じような生物がたくさんいると思っていたのだ。プロシーは「もしかして外の世界には、我輩と同じような生物はいないのか?」と一抹の不安を覚えながら天の祈願者に質問した。プロシーの問いに天の祈願者は力強く答える。
『当然です! プロシーの見た目は破壊力が高すぎるのです!』
「破壊力が高い……つまり、我輩の見た目は女に有効で、大ダメージを与える事ができ、戦闘を優位に運べるという事だな!」
天の祈願者の返答に、プロシーは同じ生物がいないと分かり若干ショックを受けたが、今まで戦い方ばかりを探求してきたプロシーは、当然のように思い発言した。「何もしなくてもダメージを与える事が出来るなんて、何と素晴らしい事なのだ!」と。それを聞いた天の祈願者は怒ったような口調で言う。
『違います! プロシー、何を聞いているのですか!』
「いや、真面目に聞いていたのだが……何なのだ?」
『破壊力が高いとは、肉体的ダメージではなく、どちらかと言えば精神面の事です! そして相手は弱体化する所か、全力で貴方に襲いかかる事でしょう!』
「それは怖いかもしれないが、命の危険がないなら、そこまで警戒する事もないと思うのだ」
プロシーは「何故、天の祈願者はこんなに怒っているのだ?」と考えながら話を聞いていた。プロシーには天の祈願者の言っている意味が分からなかったが、命の危険がないなら何の問題ないだろうと思い発言した。それを聞いた天の祈願者は、先程より更に怒りながら言い放つ。
『プロシー、何を言っているのですか‼︎ 触わられるのですよ‼︎ 体と体が触れ合うのですよ‼︎ そんな事は私が許しません‼︎』
「まっ、待つのだ天の祈願者、落ち着くのだ」
『いいえ、待ちません‼︎ 落ち着きません‼︎ いいですかプロシー、良く聞くのですよ! 女という生き物はケダモノです‼︎ 絶対に貴方の体に触れさせてはならないのです‼︎』
「わっ、分かったから、落ち着ちつくのだ。女には近づかないように注意するのだ」
プロシーは、未だかつてない程の天の祈願者の怒りの籠った声に、フワフワの耳と尻尾をピン! と立たせながら驚いた。プロシーは思った。このままでは自身が何かされそうな気がすると。それ故に何とか宥めようと「分かったから、お願いだから落ち着いてほしいのだ!」と思いを込めて了承した。そんなプロシーに天の祈願者は確認する。
『本当ですね。もし……嘘だったら』
「う、嘘だったら?」
『必ず外の世界に干渉して、貴方を捕らえます。そして、私の力で貴方が思い付きもしない事を永遠に行使し続けます!』
プロシーは悟る。怒り狂った天の祈願者に捕まったら自身の終わりだと。きっと凄まじい拷問でもされるに違いないと。だが、絶対に外の世界でしなくてはならない事がある為、プロシーは、交渉を試みる。
「……だが、数回は勘弁してくれないだろうか。我輩は女という生き物を見た事がないのだ。外の世界の情報を得るにも会話が可能なら、女でも話さなければならないのだ」
『むっ、しょうがないですね。確かに情報は大事なので数回であれば許可しましょう! 数回ですよ‼︎』
「注意するのだ。だが何故そんなに怒るのだ? 天の祈願者には関係ない事だと思うのだ。それに、天の祈願者は我輩の自由に行動して良いと言っていたのだ。あれは嘘なのか?」
『そっ、それはですね、プロシーは私のモノと決まっているから怒っているのです‼︎ 確かに貴方は自由に行動して良いのですが、気持ちの問題なのです!』
天の祈願者の返答を聞いたプロシーは「良し成功したのだ!」と一瞬だが思った。プロシーは若干だが、天の祈願者の能力も絶対ではない事を理解した。天の祈願者が怒っている時、慌てている時は、自身の考えは読まれないはずだと『探求者』で予想を立てていたのだ。
それは予想通りで、天の祈願者が怒って発言している間に、『探求者』でこの悪い流れを断ち切る方法を模索していたのだ。そして、この方向で話を進めれば切り抜けられると、確信したプロシーは天の祈願者に伝える。
「いや、待ってほしいのだ。天の祈願者、我輩は我輩のモノなのだ。世話にもなったし、感謝もしているが、天の祈願者のモノにはなれないのだ。我輩は天の祈願者に会った事がないのだ。話をした事しかないのだ。我輩は天の祈願者が何者なのか知らないのだ。それでも、我輩が天の祈願者のモノだと言い、行動の制限をしたいのなら、全てを話すか、何か証をみせてほしいのだ」
『うっ……そうですね。すいませんでしたプロシー、熱くなりすぎました。確かにプロシーはプロシーのモノです。今までの話も気にしないで良いです。私に貴方の行動を制限する権利は何もありませんからね。ですが、一つだけ覚えておいてください! 私は誰よりもプロシーの事を大事に思っています! そして、いつの日か直接会える事を心待ちにしています!』
「天の祈願者が、我輩を大事に思ってくれているのは分かったのだ。全ての忠告を聞く事は出来ないが、注意はするのだ。我輩も天の祈願者と早く会える事を祈っているのだ」
プロシーは天の祈願者の意外な一面を垣間見て驚きながらも、やっと話が纏まったと一安心していた。だが、天の祈願者は反省をしていなかった。天の祈願者はボソッとプロシーに聞こえない程の小さな声で、恐ろしい事を呟く。
『ええ、プロシーと会うのが楽しみです。私は貴方を可能な限りず〜〜〜と見てますから女と触れ合ったこと、何をしたのかを記録してその倍の時間同じ事をして、抱きしめて、モフモフしまくります。絶対に逃がしません。あなたは私のモノです。ふふふふふふふ』
プロシーは何か凄まじい悪寒がして、一瞬全身のフワフワな体毛が逆立ったが、気のせいだと思いこれからについて天の祈願者に尋ねる。
「それで、外の世界にはどうやって行くのだ?」
『転移の魔法陣を使います。今後この場へは帰ってこれませんので、プロシーの準備が整い次第移動してください』
天の祈願者がそう言うと、プロシーの眼前の地面に魔法陣が輝き現れた。
「了解したのだ」
プロシーは虎との戦闘で消費した気、魔力を回復する為、いつものように穴を作りお湯にグダ〜と入り、疲れをとるのだった。そして二度と戻れないと言われた、この場の風景を眺めながらゆっくりとお湯の中で休んだ。
回復が終わったプロシーは白く輝く魔法陣の手前まで移動して、天の祈願者に最後の挨拶をする。
「天の祈願者、色々と世話になったのだ。ありがとうなのだ。いずれ会う日を楽しみにしているのだ」
『いいえ、私に出来る事はこのくらいですから。私も貴方に会える事を楽しみにしています。お気をつけて』
別れの挨拶をしたプロシーは、魔法陣にトコトコと歩いて入り外の世界に出発した。こうしてプロシーは【ガイアスラ】に来たのである。
次回、メインヒロイン? 登場です。




