6 空間〜最後の戦闘
空間最後の戦闘です。
回復が終わったプロシーは、地面に二本足でちょこんと立ち、最後の相手を倒す為、天の祈願者に話しかける。
「天の祈願者、最後の戦闘をしたいのだが」
『はい。遂に最後の戦闘ですね。では戦闘を開始します』
天の祈願者のどこか寂しさを感じさせる声色が聞こえ終わると、いつものように魔法陣が浮かび上がった。魔法陣の白い輝きが終わると同時に生物が現れる。
現れたのは体長四メートル程の虎だった。黒と白の縞模様で、虎の全身は引き締まった鎧のような肉体。赤色の目が眼光鋭く、大きく鋭利な牙と爪、王者のような雰囲気を纏っていた。
プロシーは地上から三メートル飛んだ場所で、”剛気纏”と圧縮した砂で”具現纏[+竜纏]”を使い、体長二メートルの”剛気砂竜纏”の状態になると、『気竜眼』『探求者』『開拓者』を発動した。現段階の最高の力で虎に備えたプロシーは、地面に大きな砂の二本足で立ち、虎の様子を止まったまま確認する。
虎はプロシーを視認すると、王者のような凄まじい咆哮をあげる。
「グゥガァァァァァァァァアーーーー‼︎」
虎の咆哮は、今までの生物のものとは全く違った。今までの生物はただ殺気を飛ばしてくるのみだったが、虎の咆哮は、殺気と共に空気の衝撃波で物理的攻撃を与えてくるような、凄まじいものだった。
だが、”剛気砂竜纏”となっているプロシーにはダメージはない。今のプロシーにダメージを与えるには、高密度に圧縮された砂の鎧を剥がす事が出来なければ無理なのである。
咆哮が終わった虎はバチバチバチバチと火花の様な音を空間内に響かせると同時に、虎の身体が青白く輝いた。その瞬間、プロシーの『気竜眼』の視界から虎が消えた。そう知覚速度百倍の状態でも視認出来なかったのだ。
プロシーは視界から消えた虎を探す為、『気竜眼』の範囲を二百メートルから周囲一キロまで広げた。集中して警戒していると、ズガン! と後ろから重い音が響き衝撃がプロシーに伝わる。それは虎の爪での攻撃だった。
虎は青白い輝きを纏った右前足を、真上から振り下ろした鋭い爪攻撃で、圧縮された砂を若干だが切り裂いていた。音と姿を確認したプロシーは、砂の長い尻尾で反撃を試みる。”剛気砂竜纏”の攻撃は高速で、普通の生物では躱す事は出来ずに粉砕される威力を誇る。
だが、虎は違った。プロシーが攻撃をした瞬間には、かなりの距離を取った位置まで後退していたのだ。虎に当たらなかったプロシーの長い尻尾での攻撃は、周囲一帯の木々を風圧で木っ端微塵に粉砕した。
プロシーは虎のあまりの速度に驚きながらも、探求と思考を繰り返す。
(速い⁉︎ 速すぎるのだ! ……今のところ、虎に攻撃を当てるのも、攻撃を躱すのも困難極ままりないのだ。……視認出来ない事で、今までの戦闘での優位性はなくなってしまったのだ。幸いなのは、砂の防御で何とか虎の攻撃を凌げる事なのだ。虎を何とかするには打開案を探求するしかないのだ)
プロシーは思考、探求しながらも、今現在見えている虎に砂の翼を羽ばたかせ、飛翔して突進する。プロシーは風で更に速度を上げる。風の力で巨大な砂の弾丸となったプロシーの高速突進攻撃は、周辺の木々をその凄まじい風圧により薙ぎ払う程の威力と速度がある。
しかし、虎は難なく躱す。躱されたプロシーは砂の二本足で地面に着地して、虎の位置を確認すると、両腕の砂の鋭利な爪で”剛気砂爪”を真横に高速で放つ。両腕の爪から真横に放たれた”剛気砂爪”は合わさり、長径十メートル程の砂の刃となり、進行方向の木々を全て難なく切り裂いていく。
だが、この攻撃も虎は簡単に躱した。虎はプロシーが攻撃した瞬間には、青白い光と共に別の場所に移動してしまうのである。
虎に攻撃を難なく躱されながらも、何度も何度も何度も突進、”剛気砂爪”で攻撃を繰り返すプロシー。プロシーが何度も避けられる攻撃を繰り返すのは、情報を一つでも多く確認する為である。虎の速度は圧倒的だが、あの速度はどのくらい続くのか、持久力はどれくらいなのかなど、情報を一つでも取得して、虎に対する対抗策を探求するしか勝利する方法はないのだ。
プロシーが暫く同じ攻撃を繰り返していると、今度は虎の反撃が始まる。プロシーが止まった瞬間、”剛気砂爪”を放った瞬間を狙って、虎が青白く煌めきプロシーの視界から消える。その一瞬
で虎はプロシーの背後に回り、ズガン! ズガン! ズガン! と、青白い輝きを放つ腕を上下左右自在に振り抜き、鋭利な爪で連続攻撃をしてくる。虎の攻撃は少しずつだが確実に、プロシーが纏う高密度の砂の鎧を削ってくる。
プロシーの体長は六十センチ、纏っている砂は二メートル。虎の攻撃でプロシー自身が傷つく事は暫くはないが、プロシーは安全をきする為、削り取られた部分を再度圧縮した砂で纏直す。
砂の状態が直った事を確認した虎は、プロシーからかなり距離を取って止まった。プロシーが止まった虎の状態を確認していると、徐々にバチバチバチバチと虎の魔力が青白く輝き放電する。それを見たプロシーの危険警報が頭に鳴り響き、咄嗟に現在の場所から右に移動した。
その刹那、虎が青白く輝くと同時に、先程までプロシーがいた場所にズババババババーン! と、轟音の雷鳴が響き、直径二トール程の凄まじい雷撃が高速で放たれた。プロシーが視認出来ない超高速の雷撃は”剛気砂竜纏”の左翼を簡単に貫き、一瞬で通り過ぎた。攻撃を受けた砂の左翼は跡形もなく破壊された。プロシーは急ぎ圧縮した砂で左翼を作った。
そして、プロシーは雷撃の連続攻撃がない事に一安心しながら思考する。
(あの攻撃はマズイのだ! 我輩が現在出来る中で、一番強固な守りの圧縮した砂が簡単に貫かれ破壊されたのだ! ……だが、連発して撃ってこないという事は、あれを撃つには魔力の溜めが必要という事か。今後虎が止まったら、魔力を溜めをさせない為に、急いで攻撃を仕掛けるしかないのだ。それにしてもあの虎は強すぎるのだ。最後の戦闘相手としては、相応しいのかもしれないが、これほど圧倒されるとは思ってもいなかったのだ。圧倒的な速度で我輩の攻撃は回避されるのに、虎の攻撃はほぼ回避不可能なのだ。風を使っても速度は上がるが足りないのだ。……防げない、速度……いや、可能性はあるのだ!)
プロシーは思考していて、思いついた事を実行する。砂纏を解除して、風纏、”剛気風竜纏”になった。風を纏ったのは防御出来ないなら、吹き飛ばしてしまえば良いと考えたからだ。砂が圧縮して強度が増すのなら、風を圧縮すれば更に速度と威力を増す事ができ、虎の速度に少しでも近づければ、回避も可能なはずだと考えたのだ。
また、この”剛気風竜纏”にはもう一つの利点がある。それは見えない事だ。プロシーの様に気、魔力を視認出来る目を持っていない限り、今のプロシーはただエメラルドに輝いているだけの状態に見える。実際は砂と同様にプロシーの周囲二メートルには、強力な風が吹き荒れている。
そして、プロシーの考えは的中する。虎が青白い雷を纏った爪で攻撃する為、一瞬でプロシーの背後に回った。その瞬間、ズシュン! と鋭い音が鳴り、虎の頭に大きな傷跡をつけ吹き飛ばす事に成功したのだ。風を纏ったプロシーの二メートル範囲は、鋭い刃とかした暴風となっている為、近づく事も困難なのである。
吹き飛んだ虎に追撃する為、プロシーは風の翼を羽ばたかせ飛ぶ。凄まじい風の羽ばたきにより、地面に巨大なクレーターが出来る。プロシーは暴風の弾丸となり空気を切り裂きながら猛スピードで突進する。プロシーの通った後は木々も地面も全てが吹き飛んでいる。さながら今のプロシーは台風の様である。
圧縮した暴風を纏ったプロシーの速度は虎に迫り、虎より若干遅い程度になっていた。吹き飛ばされ体勢を崩した虎は一瞬回避が遅れ、”剛気風竜纏”の左腕の鋭い風爪の攻撃で、右前足を切り裂かれ大きな傷跡がつき鮮血を出しながら吹き飛んだ。虎は再度、吹き飛ばされながらも、今度は空中で体勢を立て直し、地面に着地するとプロシーからかなりの距離を取って止まった。
虎は頭と右足に大きな傷跡ができ、赤い血が下にピタピタと流れ落ちており、明らかに弱っていた。勝利の可能性を大きく感じたプロシーは、休ませまいと攻撃を開始しようとした時、『開拓者』により”気配感知”、魔力で雷の具現化が可能となった。
プロシーは”気配感知”を使う。”気配感知”は気を感じ敵の位置を把握する事が可能である。その為、虎が知覚速度以上の動きをしようが、常に位置を把握する事が可能になった。
怪我をして動きが悪くなっていく虎に、プロシーは”剛気風爪”を使う。”気配感知”を使っている為、虎が何処に回避しようと即座に攻撃を仕掛け続けた。”剛気風爪”は見えない高速の巨大な刃となり周囲の木々を切り裂き、吹き飛ばしながら虎を襲った。徐々に移動速度が落ち、”剛気風爪”の攻撃により、傷跡がどんどん出来る虎は遂に、知覚速度百倍の状態でも視認可能な程、速度が落ちていた。
プロシーは最後の戦闘をするに相応しい、強い虎に敬意を払うため、己の最強の攻撃で決着をつける事にした。火と風の”息吹”、”剛気火風息吹”を使う。プロシーは”剛気風竜纏”から”剛気纏”になり、勢い良く大気中の空気を吸引してお腹を膨らませる。そして、気で威力を上昇させた火と風の魔力を体内で具現化して、全てを同時に解き放つ。
”剛気火風息吹”は直径四十メートルの範囲で超高速で放たれた。巨大な赤い豪炎の閃光に、虎は避ける事ができず呑み込まれ、摂氏四千度の豪炎により、周囲一帯の木々と共に、一瞬で焼き尽くされ消滅した。
プロシーと虎の激闘により、空間内は木々がほとんどなくなり更地のような状態で、大きなクレーターが幾つも出来ていた。まぁ〜ほとんどはプロシーが破壊したのだが。その凄まじい破壊の後も戦闘が終わった為、プロシーが見る見る内に修復されていった。
遂に最後の戦闘に勝利したプロシーは、全ての能力を解除して地面に降下し二本足で立つと、虎について思考する。
(虎の雷の凄まじい一撃、あの一撃がもし連射可能なら確実に我輩が死んでいたのだ。いや、他にもあるのだ。我輩が風を纏った事に気付き、距離を取って戦われていたなら、虎は傷を負う事なく、動きを捉える事は出来なかったのだ。もし、虎にもっと知恵があれば……いや、結果が全てなのだ)
プロシーは、知能が高いという事はなんと素晴らしく、またなんと厄介なものだと思っていると、天の祈願者の声が聞こえてくるのだった。
次回、天の祈願者との話し合いです。




