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35 動き出す者

 朝夜関係なく光など一切ない、どこまでも暗く冷たく重たい雰囲気が漂う場所。この場所があるのは【ガイアスラ】ではない、違う世界のとある場所。


 全てを飲み込みような漆黒の闇の中、一人椅子に悠然と座る男はある事を不思議がっている。


(ワイダールは死んだはず。なぜ、ワイダールの魂が来ない?)


 不思議に思っているのは冥士の男。今や冥士はこの男ただ一人。そう、この男は旧、冥士王。現、冥士王だったワイダールの上司にして、冥士達を鍛えた師匠でもある。


 冥士は必ず生まれ持った特有のスキルを二つ持つ。その一つが骨操作。自身の骨の形状、強度を自在に操る権能。もう一つが魂魄操作。殺した死者の魂を吸収し、己の力に変える権能。


 冥士達が先兵に選ばれたのは、殺した相手の魂を吸収する事で、短時間に強くなる事が可能だったからと、魂魄操作を応用した技能、”魂の誓約”を使う事が出来るからだ。


 ”魂の誓約”は、相手に特定の条件を誓わせる事により、魂の繋がりを作る技能。これを使う事により、魂と魂は見えないパイプで繋がれた様な状態となる。カーム達が殺した相手の魂を吸収出来たのは、”魂の誓約”でワイダールの一部の魂を自身に得ていたからだ。


 魂とはその存在の根幹。その一部でもあれば、魂の持つ力を多少なりとも使う事が出来る。これを応用したのが”魂の誓約”で、対象に自分の魂の一部を与える事で、魂魄操作の死者の魂を得る力”魂魄吸収”の力を与えていたのである。


 もちろん、ただで力を得る事などできない。”魂の誓約”は、絶対の忠誠と不敗の誓いをしないと得る事ができない。その誓約は絶対遵守される。戦いに負けても、裏切っても死ぬ正に諸刃の剣の様な誓約だった。


 一方、元々冥士のワイダール達にはそんな誓約は必要ない。ただ、ワイダール達冥士はそれぞれ”魂の連鎖”で繋がっていた。


 ”魂の連鎖”とは、冥士達にしか使えないリスクのない魂のパイプを作る技能だ。仮に一人の者が死ねば、その上位の存在へ魂が送られる。部下からワーバルへ、ワーバルからワイダールへ、魂が送られたのはこの技能があったからである。


 言ってしまえば冥士とは、部下が死ねば死ぬ程に、上の者がその分強くなるのである。それは、旧、冥士王も同様で、ワイダールの魂は旧、冥士王に送られるはずだった。


 しかし、魂が来ない。”魂の連鎖”を結んでいる者同士は、魂が繋がっているので互いの安否が分かる。だから、旧、冥士王は不思議がっている。なぜ、死んだはずのワイダールの魂が、自分の元へ来ないのかと。


 しばらく、考えた旧、冥士王はある仮説に行き着いた。


(まさか、”魂の連鎖”を解除したのか? ……いや、それは無理なはず。解除出来るのは、ワイダールの上司たる私か、我が神だけ。……いや、あるにはある……が、それが出来るとすると……。どうやら、我が神へ進言せなばならない様だ。理に触れし者が、あの世界にいると。神以外でそんな事が可能だとすれば、選ばれた特別の存在の竜王だけ。ふふふ、面白い。だが、残念だ。私は当分動けない。……ならば、私の代わりに彼らに動いて貰おう。それと、我が神の魔法『時の不敗』を破りし者に、プレゼントを贈るとしよう。きっと楽しんでくれるはずだ)


 不敵に笑いながら、そう思った男は、魔法陣の光と共に消えた。プロシー達の住むガイアスラに、新たな災いを届ける準備をする為に。

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