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34 話し合いの後

 カントリーの中枢管理塔最上階で、今後についての話し合いが終わった時、炎竜王ヴァイドは【フロンパルド】に帰還していた。


 炎竜王の国【フロンパルド】があるのは砂漠地帯。常に周囲を激しい風が吹いており、砂嵐が日々発生している場所。【フロンパルド】は、そんな砂漠にある、四方五十キロ以上の巨大な岩山を掘り進めた洞窟に出来た国。


 洞窟の中は、所々に置かれた大きな松明に火が灯っており、洞窟の中を明るく照らしている。建物は全て石造りで、国の中には大きな泉があり、大量の魚を飼育している。ヴァイドが住むのは、赤レンガを組み上げた赤城。赤城は【フロンパルド】の中心にあり、基本としてヴァイドのみが居る場所。


 ヴァイドは赤城最上階にある自室で、大きなソファーに寛いだ体勢で座りながら、不機嫌そうに天井を見上げていた。


 現在炎竜王ヴァイドは苛立っている。久々に会った竜王達の態度と新たに現れた竜に苛立っている。いや、一番苛立っているのは。


(なぜ、我は何時もこうなるのだ! 竜王ならもっと他の対応があっただろう!)


 自分自身にだった。ヴァイドは基本、唯我独尊であり素直ではない。他の竜王も唯我独尊なところがあるが、その中でもヴァイドはダントツである。その為、昔から他の竜王達と衝突する事もよくあった。その場では絶対に引かないが、こうして一人になると反省をするのが、素直でないヴァイドのいつも通りの行動だ。


 しばし、ヴァイドが反省していると、突如、室内に魔法陣が浮かび上がる。


「やぁヴァイド」

「……スライか。我に何の様だ?」


 魔法陣から現れたのは、白衣姿の黄色髪の美少年、風竜王スライだった。スライは反対にあるソファーに歩いて移動し座ると。


「ただね、ちょっと話をしたいと思ってさ」

「我は何を言われようとも意見を変えんぞ」

「まぁ〜ヴァイドならそうだろうね。ただ、プロシーからの伝言の事で怒ってるなら、その犯人は僕だって教えておこうって思っただけさ」

「な⁉︎ スライ‼︎ どういう事だ‼︎」


 寛ぐ体勢から姿勢を前のめりにし叫んだヴァイド。楽しげに微笑むスライは語る。


「どういう事も何もないよ。以前プロシーとあった時にさ、他の竜王達がどんなかって聞かれたから、プライドの塊だよって真実を教えてあげたんだよ。竜王を動かしたい時は、挑発すれば一発だとも言ったね」

「……それでか。我にあのふざけた伝言が来たのは。……スライ、なぜそれを我に言いに来た?」

「まぁ〜簡単に言えば、プロシーの名誉の為だね。ヴァイドに誤解されたままだと、僕が嫌だからさ」

「……スライ、なぜ、お前達はプロシーをそこまで気にかける? あの食べ物の為か?」


 真剣な表情のヴァイドの問いに、顎に手を当て考えたスライは笑いながら答える。


「エメラルドトマトもあるけど、プロシーは貴重だからかな」

「貴重? どういう事だ?」

「ヴァイドだって本当は分かってるんだろ? 僕ら竜王に気兼ねなく話してくる存在は、プロシー以外いないからね。何て言うかプロシーは新鮮なんだよね。壁が無いって言うか、すんなり懐に入って来るって言うか、不思議な存在だよ。あの竜には全く見えない見た目もそうだけどね。だから、失いたくないって思うのかもね」


 スライの言葉に、ヴァイドも確かにそうかもしれないと思った。竜王には尊敬と畏怖する感情を持つのが、この世界の人々の常識。誰も深く竜王達と関わろうとはしなかった。それは、竜王達とて同じで、千年もの長き間、友人と呼べるような存在は誰も作らなかった。


 加護を与える者と、与えられる者。竜王と人は、ただそれだけの関係だった。スライとガイードは、国で多少の人との交流はあれど、さほどヴァイド、スパール、ヴィゼと変わらない。竜王も人も、どちらも壁がある関係。


 しかし、プロシーにはそれがない。プロシーには相手を思う気持ちはあれど、尊敬したりする感情はほぼ皆無だ。従って、誰とでも対等に接する。それが、竜王達には新鮮な事であり、無意識に喜ばしいと思わせる。プロシーは言わば、同じ竜であり、竜王に初めて出来た友人の様な感じだ。


 それはヴァイドも同じで、だからプロシーと和解した時「我が仲良くしてやる」と無意識に言ったのである。


 そう理解したヴァイドに、スライは更に続ける。


「それとさ、ヴァイドが帰った後、僕ら竜王とプロシーで色々と話し合ったんだよね。その時、ヴァイドの力を教えようかって僕らが言ったら、プロシーは何て言ったと思う?」

「……我は知らん」

「『ヴァイドとは正々堂々戦うから、情報はいらないのだ』って言ってたよ。それと、僕らに戦いの邪魔はしてほしくないってさ。いや〜プロシーは凄いよね〜。ヴァイドと正面から戦って勝つき満々だったよ」

「ふん! プロシーめ! 我を舐めおって!」

「ヴァイド、それは違うと思うよ」


 不快に思い、言葉を吐き捨てたヴァイドに、真剣な雰囲気になったスライが否定を述べた。訝しんだヴァイドが「どういう意味だ?」と、問うと。


「あの会議室にさ、プロシーが家族って呼ぶ子達がいたろ。プロシーはね、あの子達を命を掛けて守るって言ってたよ。だから、誰にも負ける訳にはいかないってさ。それを聞いてさ、僕ら竜王全員が敵に回ったらどうする? って、冗談で聞いてみたらさ、僕らが思わず一歩引くくらい凄い迫力でこう言われたよ。全身全霊、全てを掛けて戦うってね。あれは、全てを覚悟した重い言葉だったよ。それと、間違いなくプロシーは何か力を隠してるね。僕の感がそう言ってる。もしかしたらさ、プロシーは既に僕ら竜王より強いかもよ」

「⁉︎ そんな筈はない! 我ら竜王が、竜であるプロシーに負けるはずないだろ!」


 ヴァイドは勢い良く立ち上がり、凄い剣幕でスライを睨み叫んだ。それを見たスライも立ち上がり、ニコリと微笑み言う。


「もしかしたらって言ったろ。ただ、そんな気がしただけさ。ま、一つ言える事は、プロシーを舐めると大変な事になるよって事だけさ。じゃ、話が終わったから僕は帰るね」

「待てスライ! なぜ、その話を我にする!」


 ソファーから歩いて移動し、背を向けるスライに問いかけるヴァイド。魔法陣を起動しながら、スライが振り返り、笑顔で語る。


「簡単さ。良い戦いを期待してるからだよ。恐らく僕ら竜王が変わるきっかけのね」


 その言葉が終わると同時に、スライは消えた。ヴァイドはソファーに座り、スライの言葉について考える。風竜王スライは聡明だ。適当な事を言う事はほぼない。彼の発言は何かしらの意味がある。それを知っているからこそ、ヴァイドは真剣に考えた。


 しばし、考えたヴァイドは、スライの考え全ては分からないが、一つだけ分かった事がある。それは、風竜王スライがプロシーを強者だと認めたこと。竜でありながら、竜王を超える可能性があると、思わせるだけの力を感じさせた事だ。


 その事実にヴァイドは頬を釣り上げ笑う。【ガイアスラ】に来て千年あまりだが、一度として竜王達の敵が現れる事はなかった。役割があるとは言え、退屈だった日々。竜とは基本、戦いを好む存在。絶大な力を持つからこそ、自身の力を試したいと思い、そんな強者が現れるのを待っていたヴァイド。


 そして、形はどうあれ、思う存分力をぶつける事が出来る可能性がある存在と戦う事が出来る。ヴァイドは高鳴る衝動を抑えつつ、楽しみに待つ事にした。プロシーと全力で戦う事になる一週間後の激戦を。


***


 ヴァイドの元を去ったスライは、雷竜王スパールの国【サンボルトーグ】のシンボル、白城の最上階に転移した。その場所には既に三名おり、大きな円卓を囲み椅子に座っている。


 スライが来たのを確認した白髪長髪の美少女は。


「スライ、どうだった?」

「ん? まぁ〜あれなら大丈夫そうだよ。それよりもさ、スパール達は何を食べてるの?」

「これか? これはケーキと言う洋菓子と呼ばれる物らしいぞ。【サンボルトーグ】で人気らしく、妾達も食べてみたが、やはりエメラルドトマトには全く及ばん食べ物ぞ」

「ヴィゼ、それは当然だ。エメラルドトマトは至高の食べ物だからな。あれ以上の物など、自分には想像がつかない」

「ふ〜ん。これ、ケーキっていうんだ。じゃ、僕も一口貰うね。……甘くて美味しい気がするけど、確かに物足りないね」


 円卓を囲み、ケーキを食べながら談笑する竜王達。しばし、エメラルドトマトの事を語っていると、「ふふふ」と、可笑しそうに笑顔を浮かべるスパール。ヴィゼ、スライ、ガイードがその様子に不思議がっていると。


「何か不思議。私は自由に行動出来る日が来るとは思ってなかった。それに、ヴィゼ、スライ、ガイードと、こうして話すのも不思議」

「確かに妾もそう思うぞ。以前は使命が最優先だったが、今はどうでも良い様にも思える。妾は今が悪くないと思うぞ」

「自分もそう思っている。竜王同士こうやって話すのも悪くない」

「僕も同じかな。ヴァイドも意地を張っているけど、恐らく僕らと同じだと思うよ。……いや、スパール、ヴィゼ、そんな明らかに嫌そうな顔をしなくても」

「「スライは甘い!」」


 和やかな雰囲気が、ヴァイドの名が出た瞬間、嘘の様に殺気が漂う恐ろしい雰囲気に変わった。スパール、ヴィゼに怒鳴られたスライは、苦笑いしながら。


「まぁまぁ二人とも落ち着きなよ。ヴァイドは昔のまま変わってないだけだろ?」

「そんなのどうでもいい。問題はプロシーが危険なこと。プロシーが止めなければ、私がヴァイドをしばくのに」

「妾もぞ。ヴァイドと戦い、もし、プロシーが傷ついたらどうする。あの綺麗なプロシーが、傷付くのは絶対に嫌ぞ」


 余程プロシーの事が心配らしい二人は、メラメラと盛大にヴァイドへの怒りに燃えている。その様子に呆れた様な表情のスライは。


「二人とも、プロシーの事好きすぎでしょ。まだ会って間もないのに」

「「好き?」」

「……何その、何言ってるのこいつみたいな顔は? まさかとは思うけど、自覚ないの?」

「「ない」」

「はぁ〜。これだから、何もしないただの引き篭もりは。……あ……ちょ、ちょっと待って⁉︎ 今の謝るからさ! ごめん許して! 許して下さい!」

「「次はない」」


 必死で頭を下げる事で、何とか許しを得たスライだった。スライの言葉は、ある意味その通りなのだが、二人には禁句なのである。「ふぅ〜〜」と、雷撃のち凍らされる未来を回避したスライは、安堵すると二人に告げる。


「二人の気持ちはズバリ恋だね。僕はした事ないけど、話なら空人の皆んなから聞いた事があるからね。二人はプロシーに恋してるんだよ」

「「恋?」」

「そう恋さ。思い浮かべてごらん。プロシーの事をさ」


 スライに言われ、プロシーを思い浮かべたスパールとヴィゼは、少しすると頬を赤くし、何を考えたのか、恥ずかしそうにもじもじし始める。


「どうだい? 考えただけで楽しいだろ?」

「うん!」

「うむ!」

「それが恋だよ! まさか、二人がプロシーに恋するとはね〜。二人は恋敵(ライバル)だね〜。それに、プロシーは人気があるらしいから、競争率は激しいだろうね〜。ほら、あの会議室にいた女の子三人も、きっと二人と同じだよ」


 面白そうに笑みを浮かべながら、楽しげに話すスライ。しかし、場の空気は違った。スライが異変に気づいた時には、スパールとヴィゼが立って睨み合い、電撃と冷気を纏い一触即発の雰囲気を醸し出していた。二人が本気で争ったらどうなるかを考え、冷や汗が大量に出たスライは、慌てて立ち上がり二人の間に移動すると。


「待って待って! 二人とも落ち着いてよ! 何でも力づくはダメだから! そんなんじゃ、プロシーに嫌われるよ!」


 スライの「プロシーに嫌われるよ」の言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返されたスパールとヴィゼは、一瞬でぺたりと座り込み、ボロボロ涙を流し始める。「えー⁉︎ 泣く程なの⁉︎」と、慌てたスライは。


「そうだ! スパール! 君が竜王の加護を与えた子に、プロシーや恋について色々聞いたらどうだい? あの子はプロシーと仲が良いんだろ?」

「⁉︎ 分かった! ヴィクトール、すぐ呼ぶ!」

 

 泣き止んだスパールは、急いでログアーツでヴィクトールを呼んだ。畏怖される竜王スパールとヴィゼは、今や完全に恋する乙女状態である。スパールが呼んでから、およそ五分ほどで、これから大変な目に合うと微塵も思ってないヴィクトールがやって来た。


 現在、部屋にいるのはスパールとヴィゼ、ヴィクトールの三人だけ。スライとガイードは面倒そうなので、さっさと自分の国へ帰ったのであった。


 大きな扉を開けた瞬間から、竜王の二人から真剣な眼差しを向けられたヴィクトールは「あれ? これは、まずい気がするわ」と思い、「す、すいません。急用を思い出したので、失礼しま〜す」と苦笑いで言い、踵を返したが、その瞬間ガシッ! と、ヴィクトールの両肩が力強く掴まれた。ギギギと、錆びた機械の様な動きで振り返ったヴィクトールに、笑顔のスパールとヴィゼが。


「ヴィクトール、そんなの後回し。こっちの方が重要」

「そうぞ。妾達はそなたに聞きたい事がある」


 そう告げられ、ささやかな抵抗虚しく、部屋の奥に引きづられ連れて行かれたヴィクトール。この後、ヴィクトールは、プロシーについて、恋について質問攻めにあい、自身でも経験の無い為分からない、恋の極意について聞かれたりと、非常に大変な目にあったのは、言うまでもない事である。


 徐々にヒビが大きくなる五芒星結界の要、龍脈結晶を結界で守る事で、各々自由を満喫している竜王達だが、ワイダールが襲撃してきたあの夜、しっかりこの世界の守護竜として役目を果たしていた。


 その起因はプロシーの伝言から始まった。その伝言内容は。


「我輩、新にこの世界に来た竜なのだ。竜王達はこの世界の結界を守っているらしいが、ついさっき襲撃者の魔法で、それも無意味になったのだ。その魔法はこの世界も破壊するらしいが、我輩が破壊したから安心するのだ。やる事が無くなった竜王達は暇だろうから、国と人を守ると良いのだ。ま、できないと言うなら、しょうがないから竜である我輩が代わりにやるのだ。しかし、結界も守れず、人も守れないとすれば、本当、頼りにならない竜王なのだ」


 と、非常に相手を逆なでする内容を伝えた。スライの話どおり、挑発する内容のこの伝言は、プロシーと知り合っていなかったスパール、ヴィゼ、ヴァイドに送られ、知り合っていたスライとガイードには「この世界のピンチなのだ。我輩、手が放せそうにないから力を貸して欲しいのだ」と、お願いの伝言を送ったのである。


 伝言が届いたスパール、ヴィゼ、ヴァイドは「竜の分際で生意気な‼︎」と怒り、スライとガイードは「プロシーの頼みなら」と、それぞれ骸骨兵討伐に動き出したのである。


 美しい月光が照らしていたあの夜、カントリー以外の各国にいた人々は竜王の力を目の当たりにした。その圧倒的にして、力の底を感じさせない凄まじい力を。今や伝説としてしか知らない、竜王の力を見たのである。


 結果として、竜王達は開始からたった三分程で、ガイアスラ全土に放たれた骸骨兵約一千万もの大群を殲滅した。竜王は容易く屠ったが、骸骨兵は腐敗させる冥気を全身に纏っており、各国の代表、プロシーの家族でないと太刀打ちできない程、強力な存在だった。竜王達の活躍により死傷者は無し、建物の破損も特に無く、全てが上手く行った。


 そんな訳で、プロシーの伝言のおかげで無事に事態を切り抜けたのである。


 スパール、ヴィゼ、ヴァイドはプロシーの思惑通り動いたのだが、骸骨兵を殲滅しても怒りが収まらず、プロシーに制裁を加えるべく、カントリーの『隔離戦闘空間』の場所に移動していた。そして、怒ったヴァイドがプロシーに向けて、炎の柱を放ったあの出来事が起こったのである。


 ***


 ヴィクトールが、スパールとヴィゼに掴まっている頃、町に帰ったプロシー達は、全員で夕食をとった後、そのまま食堂である議題について話し合っいた。


 全員揃っての話し合いも、プロシー達の町では良くある事なのだが、今回は皆の熱意が違った。皆が自分の意見を通すべく、必死に主張した。


 ここまで皆が頑張るのも、ある意味当然な事なのだ。なぜなら、今話し合っているのは、自分達の新たな国の名前だからだ。


 そうなったのは、カントリーでの話し合いの中で、プロシー達の住む、通称加護無しの町を、国に変えてみたらどうかと、各代表に促されたからである。各代表としては、新な関係構築の第一歩として、恐らく今後世界の中心になるだろう、プロシーの住む町を、何時までも侮蔑の名称にしておく訳にはいかないのと、窮地を助けてもらったゼダ達への感謝を込めた提案である。


 プロシーとしては、国だろうが町だろうが、家族さえいれば問題はないので、町長であり責任者のゼダに一任した。話を聞いたゼダは歓喜極まった様な表情で、直ぐに国にする事を了承した。

 ゼダは余程嬉しかったのだろう。迫力ある熊顏で男泣きしていた。それも無理はない事だ。ゼダは四十五年生きている。ゼダの小さい時は今より加護無しへの風当たりが強く、小さな頃から理不尽な目に会う事も少なくなかった。


 だから、ゼダは体を鍛えた。町の皆を助ける為、少しでも加護持ちの不貞の輩から、皆を守りたいと思い、努力し続けて来たのだ。


 だが、それでも、加護を持つ者には敵わなかった。魔法が使えないゼダ達には対抗手段がなかった。ゼダに出来たのは、体の頑丈さを頼みに、皆の盾になり傷付く事だけだった。仲間は多く死に、悲惨な目にもあったりした。


 けれど、そんな酷い事ばかりではなかった。ゼダ達を思い、国からゼダ達の町に移り住み、警護してくれる優しい者達もいたのだ。加護無しの町は、そうやって優しい者達に助けられ長い時の中を生きて来た。


 世界には酷い者がいれば、優しい者もいる。それが分かっているからこそ、力をつけた今でも、ゼダ達は復讐に走ったりはしない。彼らは力は誰よりも弱かったが、心だけは誰よりも強い。そんな強さを持った彼らだからこそ、プロシーが大切に思い、ずっと一緒に居たいと思わせるのである。


 プロシーの願いはただ一つ。何時までも皆と楽しく生きて行く事だけ。それは、ゼダ達も同様で、今の暮らしをずっと続けられれば良いと思っている。ゼダは今の暮らしに何の不満もない。


 しかし、ゼダは昔から自分達の国が欲しかった。国。言葉で言えばただの一言。それでもゼダにとっては嬉しい事なのだ。国とは集団の中で認められた者達が住む場所だから。自分達がどういう理由であれ、世界に認められた証には変わりないからである。


 嬉しかったゼダは、町に帰り夕食をとった後、立ち上がり皆に高々と言った。


「この町はこれから国に変わる! 皆、相応しい名前を考えてくれ!」


 それを聞いた皆は一瞬何を言われたか分からずポカーンとしていたが、その意味が分かると、周りの者達と笑顔で抱き合ったり、叫んだりして喜び合った。


 それから、意気揚々と始まった国の名前決めだったのだが、リムの一声で和やかな雰囲気から、戦場の様な殺伐としたモノに変わった。その一言とは。


「リムね、あたらしいなまえはリリプがいいの。リムと、おかあさんと、プロちゃんのなまえからとったの」


 複数の者からとった名前の国。それは、非常に魅力的だった様で、皆が皆、意中の相手、または大切な者の名前と、自分の名前を混ぜた名前が良いらしく、激しく主張した。中でも多いのが、プロシーと女性の名前を混ぜた名前、ユイ、ロンロ、クリス、リザと男性の名前を混ぜた名前であった。美少女、美女の四人ほどではないが、リムの名前も多い為、美幼女であるリムがどれだけ人気か伺えるだろう。


 新たな国の名前決めのはずが、いつしか意中の人物暴露大会へと変貌していた。故に、意中の人物が誰を思っているのかも分かってしまった為、「ぐぅ⁉︎」と、心に大ダメージを負い、四つん這いになり悲しみを叫ぶ者も少なくない。


 悲しみを受けた者達は、全て独り身の男性陣。狙っていた女性全員が、プロシーを思っている事を知ってしまい「くそぉおおお! 相手が悪すぎる! プロシー様に勝てっこねーじゃねーか!」と内心で叫びつつも、どうせなら名前だけでもと、俄然やる気を出した。


 誰も引かない為、話し合いなどで纏まる訳がなく、話し合いからジャンケン大会へと自然にシフトチェンジされた。


 プロシーはその様子を、フワフワの尻尾を左右に振り、エメラルドトマトを嬉しそうに食べながら眺めていた。プロシーは基本、家族全員の意見を尊重するタイプの為、こういう場合は誰の味方にもならず、エメラルドトマトを美味しく食べながら見守るのだ。


 プロシーが見ている中、全員超本気のジャンケン大会は進んで行き、残るはゼダとリムだけになった。住民全員が固唾を飲んで見守る中、ジャンケンと周りの大声が響き。


「「「「「ポン‼︎」」」」」


 最後の掛け声と共に判定の時間。あいこではなく、勝敗はついた。勝ったのは、引き締まった太い腕を高々と上げて「勝ったぞぉおおおおー!」と、叫んだゼダだ。目の前で今にも泣きそうな、リムの前でのその行動に女性陣は全員がドン引きだ。


 負けて涙目のリムは、トコトコある場所へ一直線に走って行き、そこにいた者へ力強く抱きついた。リムに抱きつかれたのは、母親のリザではなく、机の上でエメラルドトマトを食べていたプロシーであった。


「リム、まけちゃったぁよぉ。プロちゃん、リムかなしいよぉ」

「よしよし、リムは頑張ったのだ。リム、エメラルドトマトを食べて元気出すのだ」


 プロシーは優しくリムの頭を触りながら、エメラルドトマトを渡した。リムはエメラルドトマトを食べると、プロシーにギュ〜っと抱きつきニコニコと嬉しそうに笑う。その光景に「くっ⁉︎ 私も同じ事をやれば良かった!」と、一瞬思ったユイ達女性陣だったが、流石にリムと同じ行為は、羞恥心があるのでハードルが高いと諦める。


 愛らしいプロシーとリムを見て和む女性陣と、未だ興奮が冷めておらず叫んでいるゼダと、ゼダを囲んで拍手を送る男性陣だった。


 少しして、ようやく落ち着いたゼダに、リムを優しく撫でているプロシーが問う。


「それでゼダ、国の名前は何にするのだ?」

「はい、プロシー様。新しい国の名は【オールユニティ】。全員の結束という意味です」

「【オールユニティ】か。ゼダ、我輩は良い名だと思うのだ!」

「そうね。町長にしては良い名なんじゃない」

「確かにね。あ、そうだ! もう、町長じゃないよユイ。町長はこれからは国の代表だよ!」

「そうですね! これからは代表と呼びましょう!」

「「「「「代表! これからもよろしくお願いします!」」」」」


 クリスの言葉の後に、全員でゼダに挨拶をした。照れたように後頭部に手を当てたゼダは。


「こちらこそ、よろしく頼む。皆で良い国にしよう!」

「「「「おう!」」」」


 ゼダの言葉に、全員高々と右手を上げて力強く答えた。その様子に「これからも楽しくなりそうなのだ!」と、満足げなプロシーであった。


 こうして、ゼダは国の代表となり、プロシー達の住む国の名が【オールユニティ】となった。国の名前は、実は昔から考えていた名である。ゼダはもし、自分達の国が出来たら、住民全員で結束し、困難があれば助け合い、楽しく暮らしたいと考えていた。正に、今がその通りの生活を送れている為、ゼダの夢が叶った瞬間である。だから、ゼダはジャンケンに勝った時に、あんなに喜んでいたのだ。


 新しく国になった訳だが、実際は今とは変わらないものの、とりあえず役職決めだったり、思いつくだけの決め事を皆で考えたプロシー達であった。

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