32 邂逅
「魔力の反応が消えたか。我の炎で、あの生意気なモフモフは消し炭か? 『ゴン!』っ⁉︎ 何をするスパール⁉︎ 『ゴン!』っ⁉︎ 何だヴィゼ⁉︎」
はるか上空からプロシーに炎を浴びせた赤髪の男は、スパールと呼ばれる白髪の少女と、ヴィゼと呼ばれる青髪の女性に頭を強打され、二人に恨みがましい眼差しを向ける。殴った二人の女性は、怒りにプルプルと身を震わせ怒鳴る。
「「このバカ‼︎」」
大声で叫ばれた言葉は、巨大な穴と化しているカントリー全土に響く。バカと言われた赤髪の男は、不満全開の表情で叫ぶ。
「我の何処がバカだ! 大体お前達とて、さっきまで、生意気なモフモフを、酷い目に合わせると言っていただろうが! 我の何処に非がある!」
「全部! さっきはさっき! 今は今! あの可愛い子を攻撃してはダメ! ヴァイド最低!」
「スパールの言う通りぞ、ヴァイド! あんな美しい生き物に攻撃など恥を知れ!」
「ふん! 知った事か! どのみち、我の炎を浴びては、あのモフモフは生きておらんわ!」
どうやら突然心変わりしたらしい、二人の女性に責められた赤髪の男ヴァイドは、不満そうに二人に背を向け、もう手遅れだと吐き捨てる。
「我輩は無事なのだ」
「な⁉︎ おのれモフモフ! 我が炎を躱すとは生意気な! 今度こそ我の炎で散りも残さず『ドォン!』ぐぉぉぉぉおおおおおおお『ズドーーーーーーン!』」
「……可哀想な奴なのだ」
突如目の前に現れたプロシーを見て、右手の人差し指でプロシーを指差して、意気揚々と燃え散らすと叫んでいた時、スパールとヴィゼの鉄拳を頭にくらい、叫びながらカントリーの地面に、落雷の如く突き刺さったヴァイドであった。
プロシーは、目の前の二人の女性を警戒して距離を取りつつ問う。
「お主達は竜王だな?」
「そう。私は雷竜王スパール。よろしく」
雷竜王スパールは身長百六十センチ程で、眠そうな半目の目が特徴的な凄まじく整った綺麗な顔。腰元まで伸びる長く美しい純白の髪と白雪の様な肌。スタイルは細身であるが、出るとこは程よく出ておりスタイルがよく、プロシーと同じ銀の瞳をしている。スパールは絶世の美少女であり、服装は白を主にしたドレスだ。
「妾は氷竜王ヴィゼぞ。よろしく頼む」
氷竜王ヴィゼは身長百八十センチ程で、綺麗な海の様な青髪長髪のクール系の絶世の美女であり、スタイルはロンロやクリスに負けないくらい凄まじいモデル体型である。ヴィゼもプロシーと同じ銀の瞳だ。服装は青のドレスの様なモノで、肩が丸見えである。
「我輩は気翠玉竜プロシーなのだ。スパール、ヴィゼ、よろしくなのだ」
笑顔で挨拶をして来た友好的な二人の対応を見て、警戒を解いたプロシーは、小さな右手を上げて名乗った。プロシーは、大量の土埃を上げる地面を右手で指差して。
「さっきの赤髪も竜王なのだろう?」
「そう、炎竜王ヴァイド。ただ、あれは気にしなくていい。バカはほっとく」
「スパールの言う通りぞ。あれはただのバカ。気にするだけ無駄ぞ」
「そうなのか?」
「そんな訳あるかぁぁぁぁあああああ! おい! スパール、ヴィゼ! 良い加減にせんと、温厚な我でも怒るぞ!」
クレーターから、凄まじい勢いで上昇して来たヴァイドは、言葉とは裏腹に、何処からどう見ても、怒っている様にしか見えない状態で、額に青筋を作り、二人を睨みながら叫んだ。
炎竜王ヴァイドは身長二メートル程の長身で、燃える様な赤髪長髪のイケメン。パッと見、スラリとした細身だが、全身が引き締まっている鍛えられた肉体。顔はどちらかと言えば、ワイルド系で、やはり瞳は銀色だ。服装は赤を主にした貴族服の様な豪華な服である。
怒っているヴァイドに言われた、スパールとヴィゼは、凍りつく様な冷たい視線をヴァイドに送ると、「事実を言って何が悪い」と、ハモりながら悪びれる事なく言い放った。
それを聞いたヴァイドは更に額に青筋を作り、体をプルプル震わすと、徐々に体が発火し、紅蓮の豪炎を纏い出す。炎の塊となったヴァイドは二人を指差し。
「寛大な我は、今謝るなら許してやるぞ? どうする?」
「ヴァイド、忘れた? 竜王同士の戦いは禁止されてる。それに、私には勝てない」
青白い雷を全身に纏だしたスパールは、自身が格上であると、自信満々に言い切る。睨み合う炎竜王と雷竜王。一触即発の雰囲気だが、慌てたヴィゼの言葉でそんな雰囲気は粉砕される。
「大変ぞスパール! プロシーがいつの間にか消えておる!」
「⁉︎ ヴァイドに構ってる暇はない。ヴィゼ、急いでプロシーを探す!」
「おい! 我の話はまだ『うるさい!』『ズバァァァアアン!』アバババババババババ! シュ〜〜〜〜〜」
「これで良し」
「ヴァイド、バカな奴ぞ」
スバールの超強力な雷撃が天から降り注ぎヴァイドを襲った。痺れたヴァイドは、全身黒焦げになりながら、地面に落下して行った。邪魔者を排除したスパールと、ヴァイドを愚かな者を見る様な目で見ていたヴィゼは、消えたプロシーの捜索に向かった。
一方、いつの間にか消えていたプロシーはと言うと、中枢管理塔に移動していた。プロシーは、三人の話が長引きそうだったので、”空間転移”で早々に移動を開始していたのだ。
プロシーが結界の中に現れたのを、即座に気配で感知したユイ、ロンロ、クリスは”天駆”でひしめく集団の上を駆けて急いで近づく。一番最初に辿りついたユイが、プロシーをギュ〜と、強く抱きしめて、安堵した表情で言う。
「良かったぁ〜。無事だったのねプロシー。心配してたのよ」
「ユイ、我輩は無事なのだ。どこも怪我してないから、大丈夫なのだ」
若干、涙ぐんでるユイを安心させる様に、大丈夫だと優しい声色で伝えたプロシー。
「本当に無事で良かったよ。あの炎の柱を見た瞬間、私は青ざめたよ」
「私もです。おまけに、プロシーちゃんのログアーツの位置表示まで消えるから、最悪の状況を想像したんですよ」
「ロンロ、クリス、心配かけてごめんなのだ。気配を消すのに、結界を使ったからその影響なのだ。あれくらいじゃ、我輩はやられないから、安心して欲しいのだ」
プロシーを優しく撫でて、心配したと言ったロンロとクリスに、二人を見て問題ないと元気に返答したプロシー。それから、プロシーの家族を始め、各国の代表がプロシーを発見して近づいて来て、生きていた事に安堵した。どうやら皆、ヴァイドが放ったあの炎で、プロシーが死んだと思っていた様だ。
何となく犯人に心当たりがあった炎竜王の加護を持つガオウが、土下座して「申し訳ございませんでした!」と、プロシーに謝罪した。ガオウの中では、炎竜王の罪は自分の罪なのか、地面に穴が開きそうなくらい頭を地面に擦り付けている。
謝罪されたプロシーは「何でガオウが謝るのだ? それに、我輩は別に気にしてないから、ガオウも気にしなくて良いのだ」と告げて、土下座を止めさせた。そんなプロシーの対応に、ガオウは誰かと比べて感激したのか「ありがとうございます、プロシー様!」とお礼を言うと、尊敬した眼差しでプロシーを見ていた。その様子から察するに、きっとガオウはかなり苦労してきたのだろう。
プロシーが皆とそんなやりとりをしていると、スパールとヴィゼが結界の外に移動して来た。中に入って来ないところを見るに、竜王でも入れない強力な結界なのか、単に結界を壊さない様にとの気遣いのどちらかだろう。
二人を確認したヴィクトールとホエールンが、二人に見惚れる者達をかき分けて急いで近づくと、小さな声で「どうなさったのですか?」と問う。問われた二人は、遠くでリム、リザ親子と触れ合っているプロシーを指差して。
「ヴィクトール、プロシーを連れて来て」
「ホエールン、プロシーを急ぎ連れて来るがよい」
「「え?」」
予想外な要求に、驚く声を出した二人。二人は「急げ」と、スパールとヴィゼに催促され、駆け足でプロシーの元に向かう。その様子に訝しむ、竜王だと知らない周りの人々。ただ、彼らが分かるのは、結界の外で浮かんでいる二人が、絶世の美女と美少女だと言う事。何も知らない男達は、怖い者知らずで「姉ちゃん達、名前なんて言うの?」「今付き合っている人いる?」「もし良かったら、俺とつき合わねえ?」と、二人を口説き始める始末。
そんな彼らの救いは、二人の興味が完全にプロシーにしかなかった事だ。平常時で同じ事をすれば、下手したら彼らは、この世から消えていただろうから。
リムと戯れるプロシーに近づいた、ヴィクトールとホエールン。近づいたまでは良い。だが、プロシーの周りには、鋭い眼差しを向けて来るユイ、ロンロ、クリスが居た。ヴィクトール達のやり取りを見ていた三人は、殺気は出していないが「あの女共がプロシーに何か用か⁉︎ あ’’あ’’⁉︎」と、十分に思っている事が伝わる、迫力満点の眼差しである。今の三人を前にしたら、ヤクザでも尻尾を巻いて即座に逃げるだろうレベルだ。三人のあまりの迫力に、先程まで人がごった返ししていたプロシーの周辺が、瞬時にリムとリザ、ユイ達三人、プルプル怯えるヴィクトールとホエールンだけになった。
ヴィクトールとホエールンは、正に蛇に睨まれた蛙状態、諦めて帰ろうと振り返ると、スパールとヴィゼから「さっさとしろ!」と、間違いなく言っている瞳で見られる。どっちに進もうと恐怖が待つ。大量の冷や汗を流しつつ、勇気を振り絞ったヴィクトールが、プロシーを見て全員に聞こえる様な大声で叫ぶ。
「プロシー様‼︎ ちょっとよろしいでしょうか‼︎」
「ヴィクトール、そんな大声出してどうしたのだ?」
「ヴィクトールおねえちゃん、こえおおきいの。リム、ビックリしたの」
プロシーとリムから言われ、恥ずかしくなったヴィクトールは、顔を真っ赤にして「す、すいません」と俯きながら小さな声で謝罪した。ヴィクトールの様子を訝しんだプロシーが、『気竜眼』で辺りを確認すると、元凶と思われる二人が自身を見ている事に気付いた。
リムから離れ、ヴィクトールの眼前に飛んで移動したプロシーは。
「ヴィクトール、スパールとヴィゼが原因なのか?」
「……はい。プロシー様を連れて来て欲しいと、仰られまして」
「そうか。ゼダ! もう大丈夫だろうから、結界を外して欲しいのだ」
「了解しました! おい、お前達!」
「「「「はい!」」」」
ヴィクトールの話を聞いたプロシーがゼダに、ゼダから町の皆に何時もの様に指示が行き渡る。町の者達は手分けして、結界作動の要の四本の黒い柱に内蔵された赤いボタンを押す。すると、直ぐに結界が無くなり、スパールとヴィゼは瞬時にプロシーの前に移動して来た。
「スパール、ヴィゼ、我輩に何かようか?」
二人を見て首を傾げながら尋ねたプロシー。プロシーの愛らしい姿を見た二人は、頬を赤らめ盛大にそわそわし始める。二人が言葉を出そうとした瞬間。
「モフモフーー‼︎ そこにいたかーー‼︎ 我が炎で焼却してくれるわーー‼︎」
と、炎を纏った赤髪の男。炎竜王ヴァイドが遠くから叫びながら、赤い流星となってプロシーに向かって来る。と、同時にプツン! と、何かが切れた音が聞こえたプロシー。刹那、スパールとヴィゼがプロシーの前から消えて、ズバァーン! ぎゃーー! ピキピキピキ! と、効果音と悲鳴が聞こえて来た。
「……あれなのだ。ヴァイドはきっと不幸な奴なのだ」
ヴァイドの状態を見たプロシーは、そう呟いた。当のヴァイドは、スパールから電撃を受け、悲鳴をあげると、ヴィゼにより氷のオブジェにされ、更にスパールが出した転移の魔法陣により、何処かに送られた。
邪魔者を排除した二人は、何もなかったかの様に、プロシーの前に戻っていた。あまりの速さに、ほとんどの者が何があったか把握していない。把握しているのは、気を使えるユイ達、誰がやったか見当がつく竜王の加護を持つ代表達だけだ。
二人の正体を知らないプロシーの家族達は、距離を取り盛大に警戒している。プロシーは家族に「知り合いだから大丈夫なのだ」と、告げて安心させると、スパールとヴィゼが徐々にプロシーに近づいて。
「プロシー、私達は知り合ったばかり。竜同士、親睦を深めた方が良い」
「妾も同じ考えぞ。親睦は触れ合いが一番。そう思わんかプロシー」
「? そうなのか?」
親睦と称してプロシーと触れ合いたいスパールとヴィゼ。特にプロシーが嫌がらない為、作戦成功に見えたが、後少しで触れると言う所で、プロシーを急いで抱きしめて距離をとったユイ。
「親睦を深めるのに、触れ合う必要はないわ。ただ、話せば良いのよ」
「そうそう。その理屈だと、誰とでも触れ合わないといけないからね」
「そうです。親睦に触れ合う必要はありませんよ」
スパールとヴィゼに鋭い眼差しを向け、問題を指摘した三人。普段の三人はこんな邪魔する様な事はしないが、今回は違う。三人の女の勘が言っている。この女達は、プロシーを本気で狙う、自分達の恋の敵だと。相手が誰だろうと、恋敵には絶対に引かないのが三人なのだ。
指摘された二人は「ちっ」と、舌打ちをすると、真顔で竜王の凄まじい威圧感を出しながら言う。
「良いから、プロシーを渡して」
「小娘共、づに乗るなよ」
周囲の温度が、氷点下くらいまで下がった様な錯覚をさせる程の凄まじいプレッシャー。周囲の誰もが冷汗を流し、緊張と恐怖を含んだ表情となる。それは、ユイ、ロンロ、クリスも同じだった。目の前で放たれる圧倒的な威圧感に、息をするのも苦しそうにしている。
だが、次の瞬間、この現象を引き起こした二人だけに、それ以上のプレッシャーが放たれる。思わず、半歩後ずさるスパールとヴィゼ。咄嗟の事で気が緩んだ二人は、無意識に威圧感を放つのを止める。スパールとヴィゼは、プレッシャーの放った本人である、煌々とエメラルドの輝きを全身に纏っているプロシーを直視する。
「スパール、ヴィゼ、何してるのだ? 我輩の家族に手を出す者は、誰であろうと我輩は許さないのだ」
プロシーの怒気を含んだ低い迫力のある声。先ほどよりは楽になったが、今度は違う緊張が周囲を覆う。プロシーが本気で怒っている。怒る竜を止められる人などいない。二人の態度次第では、今すぐに竜対竜王の壮絶な戦いが始まる。
しかし、そうはならなかった。スパールとヴィゼが慌てて。
「ごめん、プロシー」
「すまなかった、プロシー」
と、頭を下げて謝罪したのだ。竜王である二人が初めて謝った瞬間だ。それには、正体を知っているヴィクトールとホエールン、各代表は、信じられないモノを見たという様な驚愕の表情だ。五人の反応は当然だ。竜王とはこの世界に君臨する王。竜王より偉い存在など、この世界にはいないのだ。
謝罪を聞いたプロシーは、プレッシャーを放つの止めると「そうか。何もしないのなら、それで良いのだ」と、さっきまでの迫力が嘘の様に明るく告げた。
プロシーの様子に「ふぅ〜」と、息を吐き安堵するスパールとヴィゼ。竜王である二人が謝ったのは、プロシーに嫌われたくないと思ったからだ。そして、プロシーに触れたい二人は、今度はもじもじしながらも素直に言う。
「ぷ、プロシーに触れたい」
「わ、妾にも、触らせて欲しい」
長き時を生きている竜王の二人が、初めて感じる感情。プロシーを見ていると、何故か体が熱くなり、息をする必要がないが、胸が苦しく感じる初めての感覚。それは、所謂恋心という奴なのだが、そんなモノとは無縁だった二人には分からない。
乙女全開の二人を見たユイ、ロンロ、クリスは互いに顔を見合い「はぁ〜」と溜め息を吐くと、ゆっくりと三人で二人に近づいて行く。二人の目の前に移動すると、微笑んだユイが。
「プロシーには優しく触れて下さいね。それと、全身を撫で回してはダメですからね」
「う、うん!」
「う、うむ!」
ぱぁ〜と明るい笑顔で、嬉しそうに返事をした二人は、ユイに抱かれているプロシーに、幸せそうに触れ始めた。「す、凄い。とっても気持ち良い」「こ、これは、癖になってしまうぞ」と、プロシーの毛並みの触り心地の良さに、ご満悦な二人。
暫しの間、ユイ、ロンロ、クリス、スパール、ヴィゼに、目を瞑り気持ち良さそうにモフモフされていたプロシー。周囲の者達は、一時はどうなるかと焦っていたが、今は安堵してプロシー達を見ている。そんな中、リムがテコテコと歩いて近づいて行き。
「おねえちゃんは、なにおねえちゃん?」
と、可愛らしく首を傾げて尋ねた。ご機嫌な二人は笑顔で答える。
「私は雷竜王スパール」
「妾は氷竜王ヴィゼぞ」
「「「「「え⁉︎」」」」」
リムの問いに二人が答えた瞬間、驚く声を上げたほぼ全員の者達。竜王の加護を持つ者達は「はぁ〜」と、長らく隠してきた秘密事項が明らかになってしまい、思わず天を見上げて溜め息を吐く。
周囲の者達が「あの白髪美少女と青髪美女が竜王様⁉︎」「竜王様って人になれるの⁉︎」「じゃあ、プロシー様も人の姿になれるの⁉︎」と、盛大に騒いでいる中、ユイ、ロンロ、クリスが目の前の二人に、緊張しながら問う。
「「「あの〜竜王と言うのは本当ですか?」」」
「うん。ホント。それに私は、最初に竜同士って言った」
「妾達は正真正銘の竜王ぞ。娘達よ、何を驚いている?」
不思議そうにしている二人に「い、いえ。ははは」と、誤魔化す様に笑う三人。三人が冷静になって思い返すと、確かにスパールは竜と言っていた。それに、あの威圧感も竜王であれば納得の出来事だ。竜王に喧嘩を売った過去の自分達に、「何やってるの過去の私!」と、内心でツッコミを入れる三人であった。
そして、ある事を思い出したロンロは、スパールに直接伝える。
「あの〜スパール様?」
「何?」
「カームさんがですね、長年加護を与え続けて下さり、ありがとうございました、と伝えて欲しいと言ってましたよ」
「そう。カームは元気だった?」
ロンロを真っ直ぐ見て尋ねたスパール。もっと淡白な反応だと思っていたロンロは、少し驚きつつも微笑みながら返答する。
「元気でしたよ。やんちゃする程には」
「そう。良かった」
優しく微笑み言ったスパール。純白の芸術品の様な美しい美貌に、思わず見惚れるユイ、ロンロ、クリス。三人は「これならカームが惚れるのも分かる」と、内心で思っていると、突如プロシー達の上空に、魔法陣が浮かび上がり、豪炎を纏い、プルプル震えている炎竜王ヴァイドが現れた。
明らかに怒っているヴァイドは、プロシー達を指差して。
「我は怒ったぞ! モフモフ、スパール、ヴィゼ! お前達には、我が炎をくれてやる!」
ヴァイドが叫んだ瞬間、巨大な炎の柱がプロシー達に降り注いだ。「あのバカ!」と言って、即座に動こうとしたスパールとヴィザに「我輩に任せるのだ!」と叫び、止めたプロシーは全員を囲む様に球形状の結界を貼った。
プロシーの結界は、ヴァイドが放った紅蓮の炎の塊を容易く防ぐ。それを見たヴァイドは。
「モフモフめ、我が炎を防ぐとは生意気な! こうなったら、我の本気を」
「ヴァイド、それ以上やるなら、私も本気で行く」
「妾もぞ。ヴァイド、妾とスパールを相手に戦う気か?」
いつの間にかヴァイドの前に移動していたスパールとヴィゼが、プレッシャーを放ちながら警告した。警告を聞いたヴァイドは「ぐぬ〜」と、悔しそうな眼で二人を睨む。どうやら、勝ち目がないと判断できるだけの思考力は残っていた様だ。
とりあえず、場が収まった事に安心するカントリーにいる人々。スパールとヴィゼは、地上に降りると、ヴァイドの頭を力づくで下げさせて。
「ごめん、プロシー。このバカには、後でキツく言っておく」
「すまぬなプロシー。妾達に免じて、このバカを許してやってくれ」
「ぐぬぬ、離せお前達! 我は悪くないぞ! 悪いのは、我を挑発してきたモフモフだ!」
頭を上げようと抵抗しながら、叫ぶヴァイド。それを聞いたプロシーは「あ〜、そういう事か」と、納得して、ヴァイドの近くに移動して。
「ヴァイド、ゴメンなのだ。あの時の伝言は、我輩の本音じゃないのだ。傷つけたなら謝るのだ」
と、頭を下げて謝った。素直に謝られたヴァイドは。
「むぅ……。ま、まぁ〜我は寛大だからな! 許してやるぞ、モフモフ!」
「そうか、許してくれるのか。ヴァイド、ありがとうなのだ! それと、我輩はプロシーなのだ!」
「プロシーか! 話して見れば中々見所がある奴だ! プロシー、特別に我が仲良くしてやるぞ! はっはっは!」
先ほど迄の荒れ狂う怒りは何処に言ったのか、ヴァイドは笑いながらご機嫌そうに言った。そのあまりの態度の変わり様に、イラッときたスパールとヴィゼに、後頭部に鉄拳を浴びせられ、地に沈んだヴァイドであった。
ヴァイドの後頭部から、シュウ〜〜と、白い煙が上がっているが、とりあえず問題が完全になくなり安心する皆。だが、カントリーの現状を見て、項垂れるカントリーに住む住民達。
プロシー達には命を助けて貰った。だから文句を言ったりはしない。けれど、今後の生活を考えると、どうやって生きていけば良いのだろうと考え、表情を青ざめさせる住民達。
そんな項垂れる彼らに、プロシーは平然と問う。
「なあ、我輩そろそろ、カントリーを元に戻そうと思うのだが、前と一緒で良いか?」
「「「「へ?」」」」
プロシーの発言に誰もが唖然とする。驚くのも無理はない。何故なら、中枢管理塔以外、百キロ以上あるカントリーの全てが、跡形も無く吹き飛んで、巨大なクレーターとなっているのだから。誰からも返答がないプロシーは「要望がない様だから、早速始めるのだ!」と、元気に言って復元作業を開始する。
その場で全身から眩いエメラルドの輝きを放つプロシー。輝きはどんどん大きくなっていき、カントリー全土を包むと、プロシーは”創造[+理解具現化]”を使う。
すると、エメラルドの輝きが消え、一瞬で以前の大きなビルが建ち並ぶ近代的なカントリーに戻った。誰もがあまりの出来事に、開いた口が塞がらないと言った状態。プロシーと長らく一緒にいる、ユイ達でさえそうだ。
驚いたのは、竜王達も同じ様で、三人はプロシーを見て「何だその力は⁉︎」と、眼で尋ねている。その視線を理解したプロシーは言う。
「これは”創造[+理解具現化]”なのだ。我輩は生物以外なら、構造を理解すれば、何でも作れるのだ。竜王なのだから、スパール達も出来るのだろう?」
「「「……」」」
「……ま、まぁ、皆んな違うから楽しいのだ。ほ、ほら、我輩は人の姿にはなれないのだ。スパール達は凄いのだ」
竜王なら自分と同じ事が出来る筈、そう思っていたプロシーだが、俯いて落ち込んでいる三人を見るに、実際は違うらしい。何とか自分ができない事をあげて、慰める作戦に出たプロシーだったが。
「止めてくれプロシー。我に同情するでない」
「プロシーは優しい。けど、今は気にしないで」
「すまぬな、プロシー。妾には少し、心の整理が必要ぞ」
と、各々返答して来た各竜王。悲しげな三人の表情を見るに、余程ダメージを受けたのだろう。竜に出来て、竜王にはできない。それが、三人には辛い事らしい。
人の姿で落ち込む竜王達を見て、以前は竜の姿しか知らず、尊敬と畏怖するだけの存在だったが、今は何だか近親感を抱く周囲の者達。そんな現状を作り出したプロシーを見て、彼らは思う。竜王にはできない事を出来る竜、プロシーは規格外の存在だと。実はプロシーは、竜ではなく、もっと凄い何かなのではと、本気で思い始める者もかなりいる。
「あ〜、ヴァイド、スパール、ヴィゼ、落ち込んでいるところ悪いのだが、我輩、話したい事があるのだ。できれば、スライとガイードも呼んで欲しいのだ」
「二人とは面識があるの?」
「前にヴィクトールに呼ばれて、各国に行った時に会った事があるのだ」
「⁉︎ ヴィクトール、プロシーの事、私は聞いてない」
プロシーの返答を聞いたスパールは、鋭い眼差しをヴィクトールに向ける。睨まれたヴィクトールは、視線を合わせず「あれ〜そうでしたか? すいませんスパール様」と、笑顔で言いとぼける。その話を聞いたヴィゼとヴァイドも、ガオウとホエールンに聞いてないと追求したが、二人もヴィクトール同様、誤魔化した。
どうやら、竜王と良好な関係を気付いているのは、地竜王の国【アーオムル】と、風竜王の国【フロンバルド】だけの様だ。
「スパール、ヴィゼ、ヴァイド、落ち着くのだ。我輩が話したい事は、この世界全体に関わる事なのだ。だから、出来れば急いで欲しいのだ」
プロシーの話を聞いた竜王達は、真剣な表情になり、それぞれ話会いをするべく、準備を開始するのだった。




