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31 気翠玉竜 VS 冥士王

 黄金の両腕から、光速の速度で放たれし、紅蓮の炎と青白い雷を纏う直径百メートル程の巨大な隕石。轟音と共に流星の如く地上に降り注いだ、『破壊の衝撃(メテオストライク)』は、コロシアム会場に衝突すると、雷鳴が響き爆炎と衝撃が辺り一帯を飲み込む。


 あまりの爆発の威力に、五十万以上の骸骨の群れ、敷地面積百キロを超えるカントリーは、皆が避難している中枢管理塔を残して、跡形も無く吹き飛び、巨大なクレーターが出来、プロシーが言った通り、凄まじい地震がガイアスラを襲った。


 あまりの揺れと、目の前で起きた信じがたい現象に、驚き過ぎて腰を抜かすほとんどの者。もし、結界が無かったら、そう考えて恐怖で震える人も少なくない。そんな怯える者達とは正反対に、プロシーの家族の者達は「流石プロシー様!」「プロちゃんすごい!」「本当、プロシーには敵わないわね」「あのレベルに至るにはまだまだ先だね」「あんな凄い魔法があったんですね」などなど、楽しげに皆で語りあっている。


 プロシーオリジナル複合魔法『破壊の衝撃(メテオストライク)』。火、風、地、雷の四属性を合わせた『破壊の衝撃(メテオストライク)』は、プロシーが作った数多の魔法の中でも、最上位の威力を誇る。その威力は絶大で、超破壊魔法と言っても過言ではないレベルである。


 破壊をもたらしたプロシーの前に、上昇して爆発を逃れていたワイダールが現れ。


「貴殿は本当に恐ろしいな。どこまで力を隠しているのか、全く底が知れん。我らが五ヶ月もの間、地道に準備して来た事を、一瞬で無に返すとは。全く報われないものだ。しかし、プロシー。私の同胞は、この世界全土に放たれた。貴殿ならこの意味は分かるな?」

「ワイダール、その心配ならいらないのだ。あっちは”あの者達”が何とかするのだ。じゃ、勝負なのだ」


 プロシーは『隔離戦闘空間』を作動して、ワイダールと自身の周囲を金で覆った。


「これが『隔離戦闘空間』か。やはり、実物を見て感じた方が凄さが分かるな。では、こちらも力を見せるとしよう」


 そう言った瞬間、全身から眩い灰色の輝きを放つワイダール。少しすると、輝きが収まり、全身骨鎧と化したワイダールの姿が現れた。ただ、ワイダールの姿は、ワーバル達とは違った。


 ワイダールは二メートル程の身長で、全身が光沢を帯びた純白の骨鎧。両肩には一本、頭には左右に二本、牛の角の様なモノが生えている。冥士王ワイダールは、正に王の様な威厳ある覇気を纏っている。


 その迫力ある姿を見たプロシーは「これは、侮ると危ないのだ」と、ワイダールを危険と判断し、”剛気金人纏”を解除し、”剛気宝人纏”に切り替えた。


 ”宝人纏”は、漆黒のオリハルコンを纏った人の姿だ。オリハルコンの性質は、装備者の活性。即ち、漆黒の鎧を纏ったプロシーの力は、更に高まるのである。


 そして、プロシーが具現化するオリハルコンは、自然から取れるオリハルコンとは一線を画す力を持つ。性質を最大限に高めたプロシーのオリハルコンは、通常のオリハルコンの二十倍以上の効果がある。プロシーの家族の力が凄まじいのも、このオリハルコンを使った装備を纏っているのが、一つの大きな要因だ。


 互いに戦闘準備を終わらせ、凄まじいプレシャーを放ちながら、向かい合う漆黒の鎧のプロシーと、純白の骨鎧のワイダール。一触即発の空気の中、ワイダールが口火を着る。


「その姿を見るに、どうやら私は、ワーバルよりは認めて貰えている様だな。出来れば最初から竜の姿で来て貰えると、嬉しかったのだがな」

「何言ってるのだ。我輩がこの姿で戦うのはワイダールが初めてだから、感謝して欲しいくらいなのだ。それに、ワイダールも色々と隠してそうなのだ。後先考えず手の内を晒すのは、愚かな事なのだ」

「全く持ってその通りだな。では、行くぞプロシー‼︎」


 ワイダールの叫びが、開戦の狼煙となった。


 ワイダールは、灰色の冥気を纏った右腕で、何もない右側に高速の拳打を放つ。すると、途中でワイダールの右腕が見えなくなり、突如漆黒の鎧姿のプロシーの左頭部付近に、ワイダールの右腕が現れ、拳打が飛来する。


 プロシーは即座に反応し、”空間転移”で瞬間移動して拳打を躱す。だが、躱したプロシーに、狙い澄ました様に、ワイダールの冥気を纏った右蹴りが、プロシーの左腹部の方から突如放たれる。プロシーは、衝撃化したエメラルドの気を両手両足に纏うと、凄まじい速度で飛来する、ワイダールの右脚に左の拳打を放つ。


 衝突した瞬間、轟音と共に、衝撃波とエメラルドと灰色の光が周囲に拡散し、互いの身体が少し吹き飛ぶ。それから、しばらくの間、変則の打撃戦が続いた。


 プロシーが”空間転移”でどこに移動しようとも、居場所を把握しているのか、突如現れる、ワイダールの打撃は正確に飛来する。


(この攻撃は、空間魔法の一種か? いや、ワイダールが得たという、能力の一つか。仕組み的には、空間と空間を繋げて攻撃する様なものだな。あの反応の速さ、”気配感知”か、能力かは分からないが、我輩の位置を正確に捉えてるのだ。……ふむ。何処に居ても攻撃して来るなら、接近戦なのだ)


 ワイダールの突如飛来する打撃攻撃を捌きながら、分析を終え、考えを纏めたプロシーは、”空間転移”でワイダールに瞬時に近づく。その瞬間、プロシーを囲む様に大きな黒く丸い球体が現れた。


 『探求者』の解析鑑定で、黒い物が影と理解したプロシーは、漆黒の右手を前方に向け”爆裂波”を放つ。エメラルドの衝撃波の球体は、影の球体の中を煌々と照らしながら、音速を超える速度で飛来し、影に触れると、何事もなかった様に消えて無くなる。


 その様子を確認したプロシーは、”空間転移”で影の球体の外に出ると、上空に浮かんでいるワイダールに、面倒そうに言う。


「ワイダール、中々厄介な能力を持っているのだな」

「ほぉ〜。と言う事は、プロシーは私の全ての能力を把握したのか?」

「いや、一部だけなのだ。それでも、厄介な能力なのは分かったのだ。我輩はまだ『蓄積師』『影操師』『人形師』『豪腕師』『豪脚師』『鎖操師』『針操師』『結界師』『爆発師』『投石師』『改造師』しか分かってないのだ」

「……プロシー、それだけ分かっていれば、十分だと思うのだが」


 ワイダールは、この短時間にそこまでプロシーが理解した事に驚きつつも、これだけ分かってまだと言うプロシーに、呆れた様に言葉を出した。ワイダールの言葉にプロシーは。


「ワイダール、何を言ってるのだ? まだ全部を理解してないのだから、まだなのだ。それよりも、『蓄積師』はズルいのだ。我輩の放出攻撃が、ワイダールを強化してしまうのだ。それと、ユイ達から聞いていた話とは、範囲も能力もだいぶ違うが、空間を繋げる攻撃は超越スキル『絶対領域』か?」

「……」

「その驚いた表情と、沈黙は肯定の証拠なのだ。となると、『絶対領域』を以前持っていた者が、使いこなせていなかったのか、スキルは使用者によって効果が大きく変わるか、ワイダールが上手く力を組み合わせているかの三択なのだ。ふ〜む、我輩的には二番目の様な気がするが、実際どうなのだ?」


 次々と問題を素早く理解していくプロシー。ワイダールはプロシーの対応の早さに、恐怖を感じている。長くプロシーといると、自身の全てを暴かれそうな気がして。


 そう、プロシーの凄まじいところは、疑問を疑問で終わらせないところなのである。異能『探求者』を持つプロシーは、常に複数の疑問を同時に探求している。それと、プロシーは異常に記憶力が良い。一度見た事、聞いた事は絶対に忘れない。プロシーは理解出来るまで、探求を止めたりしないので、余程の難解な事以外は、時間をかけて全て解き明かしてしまうのだ。故に、プロシーの最大の力は、探求だと言っても過言ではない。

 

 そんな知識欲の塊、プロシーの問いに答えないワイダール。ワイダールは博識であり、どちらかと言えば、プロシーの様に知識を多く収集するタイプだ。だからこそワイダールは、これ以上プロシーに情報を明かすのは危険だと判断して、沈黙している。


 しばらく待っても、ワイダールの返答がない事に「教えてくれないのか? つまらないのだ」と思ったプロシーは、会話を諦めて攻撃を再開する。


 ワイダールの使う力に、大方の検討をつけたプロシーのやる事は、隠された力を使う様に追い込むだけだ。放出攻撃を『蓄積師』で吸収してしまうのなら、使わなければ良いだけの話と、プロシーは考え、約二メートル程の漆黒のオリハルコンの剣を、二本眼前に具現化し、両手で掴み構えると、速度のギアを上げてワイダールに一直線に突っ込む。


 プロシーの行動を確認したワイダールは、超越スキル『絶対領域』を応用した”領域感知”、”空間連結”を使い、離れているプロシーに、正確に打撃攻撃を仕掛けるが、ギアを上げたプロシーは、全て容易く躱してしまう。


 そればかりか、顔面を攻撃する為に出した右腕を、超高速の二刀流の剣技で、瞬時に何十もの斬撃を受け細切れにされる。この結果でワイダールは、自身の認識の間違いに気付いた。


 ワイダールは、ワーバルの記憶がある故に、こう思っていた。人型状態のプロシーの速度は、ワーバル以下であると。ワーバルがラッシュでプロシーを押したあの時の記憶で、そう思っていたワイダール。


 しかし、現実は違う。あの時とてプロシーは、全力を出してはいなかった。ただ、久々に手応えがる相手だった為に、敬意を払って竜状態で止めを刺しただけなのである。プロシーが本来の力を使えば、人状態でもワーバルを倒す事は出来た。


 しかも今回は、オリハルコンを纏っている為、先の戦いより強く速い。間違いに気付いた時は、時すでに遅く、あっという間に接近され、漆黒の二振りの剣で頭部と胴体以外を、細切れにされたワイダール。


 空中でプロシーは、右手の剣の切っ先をワイダールの眼前に置いて問う。


「ワイダールどうするのだ? このまま我輩に負けるか、全力を我輩に見せるかの二つに一つなのだ」

「……プロシー、止めを刺さないのは、情報を得る為か?」

「そうなのだ。情報は貴重なのだ。知っているのと、知らないのでは、対応に大きく差が出るのだ。ワイダールの力を早く理解出来たのも、同じ様な知識を持っていただけの事なのだ。それで、どうするのだ?」

「……最低限の目的を達成した今、参った、と言うのが、我が神の為なのだろうな。……しかし、私には冥士王として、最後まで立派に戦った私の部下に、報いなければならない。私は部下の為に、戦士として貴殿と全力で戦おう!」


 ワイダールは悩んだ結果、部下に恥じない行動を取る事に決めた。魂を得ると言う事は、今まで部下が感じていた事を全て理解すると同義だ。どれだけ自身が、部下から思われていたのか。どれだけ尊敬されていたのか。死ぬ瀬戸際まで、絶対の忠誠を抱いていた部下達。それが分かるからこそ、ワイダールは神から与えられた自身の役目ではなく、一個人として戦う。部下の信頼に王として答える為に。


 ワイダールは「はぁぁぁぁああああああ!」と、雄叫びを上げ、全身から眩い灰色の輝きを出すと、全身が最初の骨鎧状態に戻る。いつの間にかプロシーが距離を取って見守る中、ワイダールが金の地面に片膝を付け、灰色に輝く右手を置き叫ぶ。


「我、冥士王ワイダールが命ず! 来れ! 冥界の牙にして、我が半身! 冥獣王ケルベロス・ザルガ‼︎」


 叫びが終わった瞬間、ワイダールの体から、大量の灰色の輝きが放出される。その光は、徐々に収集すると形が変化する。形がある程度治まると、灰色の光が霧散する。


 ワイダールの左側に現れたのは、十メートル以上の巨体で、三つの首を持つ禍々しい犬、ケルベロス。ケルベルスは全身が黒一色で、眼光鋭い瞳が灰色、全てを切り裂く様な鋭い爪と牙、頭と同じ数の尻尾。全身から死を感じさせる様な、恐ろしい雰囲気を纏っている。


 プロシーを射殺す様な眼差しで見たケルベロスは。


「がぁぁぁぁぁぁあああああーーーー‼︎」


 と、空間を軋ませる様な凄まじい咆哮をあげる。そんな敵意剥き出しのケルベロスだが、ワイダールが優しく触れた瞬間、借りてきた猫の様に、急に大人しくなる。


「プロシー、これが私の半身にして、相棒の冥獣王ケルベロス・ザルガだ。冥士王は必ず、ケルベルスの半身を持つ。知能は冥士王の私が、力は冥獣王のザルガが担当だ。私とザルガは同じ存在と言ってもいい。では、行くぞ、ザルガ!」

「ガウ!」

「神徒神獣同化!」


 ワイダールの言葉が終わると、ワイダールとザルガは灰色の光となり、双方の光が螺旋を描き、交わり一つの形を成して行く。眩い光が収まり現れたのは、三メートル程の身長となった人型の骨騎士。


 全体が純白の堅牢な骨鎧、骨鎧の頭部は犬型のフォルム、両肩には左右に向いた犬顏の装飾。骨鎧の中身は今までの様に骨ではなく、ケルベロスが人型になった状態で、黒い毛皮が全身を覆っているしなやかな肉体、両手両足には黒く鋭い爪、頭と同じ数の尻尾があり、全身から凄まじいプレッシャーを放っている。


 灰色の瞳が開くと。


「冥獣士王ワイダール・ザルガ。プロシー、これが私の真の姿だ。そして、出でよ我が剣、冥王剣ザルガーダル」


 ワイダールの眼前に現れし、三メートル程の純白の骨長剣。鍔の中心には、不吉を感じさせる黒い三つのドクロの装飾。出現した瞬間、禍々しい冥気を空間全土に放つ、冥王剣ザルガーダル。


 冥獣士王ワイダール・ザルガは、冥王剣ザルガーダルを右手に持ち、ポロシーに向け構えると。


「プロシー、その姿のままで良いのか? この姿になった私は、先程までとは違うぞ」

「……確かに、ワイダールの力が跳ね上がったのだ。ふ〜む、良し。ワイダールの力に、我輩も答えるのだ」


 悩んだプロシーは、更なる力を見せる。漆黒の鎧がエメラルドに輝き出すと、鎧が変化する。先程の鎧と変わったのは、頭部が竜のフォルム、両手両足には竜の鋭い爪、背には二対の巨大な翼、長く太い竜の尻尾が生えた人型の鎧姿。


 プロシーのこの姿は”竜人纏”。結界が使えなかった時を考えて、新たに考案した新しい力。”竜人纏”状態のプロシーは、人の姿でも自身の全力が使え、力加減も自在に出来る。”竜人纏”は、臨機応変が可能な戦闘スタイルなのである。


 漆黒の竜鎧を纏しプロシーを見たワイダールは。


「……貴殿は本当に力を隠しているな。凄まじい力を感じるぞ。プロシー、後どれだけ力を隠している?」

「ワイダール、そんなの教える筈がないのだ。この姿を見せたのは、神よりもワーバル達を優先し、ワイダールが戦う事を選んだからなのだ。じゃなかったら、竜の姿で戦ってたのだ」

「……そうか。では行くぞプロシー! 私の力を存分に味わえ!」


 叫んだ瞬間、ワイダールが消える。『絶対領域』を持つ今のワイダールは、プロシー同様、空間の全ての場所に瞬間移動が可能だ。プロシーの背後に移動した冥獣士王ワイダール・ザルガは、両腕で持った、純白の冥王剣に灰色に輝く冥気を纏わせ、神速の速度で真上から斬撃を放つ。


 瞬時に反応した漆黒の竜鎧を纏うプロシーは、翼を羽ばたき即座に反転すると、エメラルドの気を纏わせた、両腕の漆黒の剣を頭の上にクロスさせ、斬撃を真っ向から受ける。


 純白の冥王剣と、漆黒のオリハルコンの剣が衝突した瞬間、莫大な衝撃波が空間全土を襲う。ワイダールの一撃は、外で放とうモノなら、軽々数十キロを跡形もなく吹き飛ばす威力。その斬撃を容易く受け止めたプロシーは、腕を振り切り力で押し返すと、二刀流の剣技で神速の斬撃を放つ。


 ワイダールはプロシーの斬撃を、両手で持つ冥王剣で捌き、負けじと斬り返す。それから始まったのは、空間全土を瞬間移動しながらの、神速の剣撃戦。


 互いに相手の位置を完全に把握し、一瞬で距離を詰める力を持つ両者の戦いは、相手に休む事を許さない。力を抜いた瞬間、神速の斬撃が瞬時に身を切り裂く。冥獣士王ワイダール・ザルガと、漆黒の竜鎧を纏うプロシーの戦いは、苛烈を極める神速の勝負。


 一瞬で何十もの剣撃を互いに交わしながら、ワイダールは楽しげに言う。


「良いな! 良いぞプロシー! 戦いでここまで高揚したのは、生まれて初めての経験だ!」

「奇遇なのだワイダール! 我輩もかなり楽しいと感じてるのだ!」


 剣撃を受け、切り返しながらプロシーも楽しげに答える。


「プロシー、先の質問に答えよう! スキルとは、使用者の力によって、発揮する力が変わる! 『絶対領域』を私が持つ事で、その範囲と威力は格段に増した! それでも、貴殿には一切効いてないがな!」

「それは当然なのだ! 我輩の結界は、我輩の知識を全て凝縮した結界なのだ! 守りの要だから、簡単に破られたら困るのだ!」

「プロシーの知識の全てか……通りで貴殿の動きを止めようとしても、全ての力が弾かれる訳だ。全く恐ろしい奴だ!」

「それはこっちも同じなのだ! 真の姿でワイダールの力が跳ね上がった所為で、『豪腕師』と『豪脚師』の身体強化量も桁違いに上がってるのだ! おまけに、ワイダールには『蓄積師』があるから、我輩の放出攻撃が全て封じられてるのだ! 本当に厄介な奴なのだ!」

「それは良いな! 貴殿にそう言って貰えると嬉しいモノだ! プロシー、遠慮せずに力を放出してくれて構わないぞ! そうすれば、私はまだまだ強くなるからな!」

「そんな事、面倒だから絶対にしないのだ! ワーバルこそ、さっさと放出攻撃するのだ!」

「プロシー、その手には乗らんぞ! 私のスタミナ切れを狙ってるのだろう! こちらには、貴殿の様な回復アイテムがないからな! 全く、こうして一対一で戦うと、貴殿の恐ろしさが更に良く分かるな! 何時でも回復出来るなど、こちらからしたら、脅威でしかないぞ! 私にズルいと言ったが、貴殿のエメラルドトマトの方がズルいぞ! いや、反則だ!」

「何言ってるのだ! 我輩とエメラドトマトは一心同体なのだ! 言うならば、我輩=エメラルドトマトなのだ! ワイダールとケルベロスと一緒なのだ! だからズルくないのだ!」

「いや、ズルい!」

「ズルくないのだ!」

「ズルい!」

「ズルくない!」


 神速の剣撃を交わしながら、互いに言い争う両名。文句を言い合いながらも、戦いを楽しんでいる二人。速さと速さ、力と力、思う存分力を使う事など、あまりなかった二人の強者。互いが互いの力を認めたからこその、真っ向からの真剣勝負。


「行くぞ、プロシー! ここからが本番だ!」


 このままでは部が悪いと思ったワイダールが、叫ぶと同時に攻勢に転じる。ワイダールは多くの魂から得た力を解き放つ。


 ワイダールと真っ向から神速で斬り合うプロシーに、全方位からおびただしい量の鎖、針、爆発する大岩、影の刃、『人形師』と骨を組み合わせ作成した、自在に動く無数の骨騎士のランスが襲い掛かる。


(⁉︎ 全く! ワイダールめ! 面倒な事してくれるのだ!)


 周囲の様子を確認して、そう思ったプロシーは、ワイダールと神速で斬り合いながらも、飛来してくる攻撃方向に、左手の剣を一閃して凄まじい風圧を発生させ全てを吹き飛ばす。


 しかし、吹き飛ばそうとも、瞬く間に攻撃は再開される。ワイダールがカームの魂から得た『絶対領域』。冥獣士王ワイダール・ザルガとなり、更に強力且つ自在に使える様になった数多のスキルを、『絶対領域』の”多重空間連結”と組み合わせる事で、ワイダールの攻撃パターンは無限に等しくなった。


 ただでさえ、周囲一帯から飛来する強力な攻撃。それを軌道上で、”多重空間連結”させる事で可能となる、何処から来るか分からない距離を無視した変幻自在の攻撃。これだけでも十分に脅威だが、更にワイダールは灰色の雷を纏い出し、空間を瞬間移動しながら、速度を上げた剣撃を打ち込んで来る。


 たった一瞬で何百という予測不能な攻撃が全方位から飛来する。更に放出攻撃は、ワイダールに吸収され強化してしまう為、するわけにはいかない。普通ならば、間違いなくワイダールに勝つ事は不可能。


 だが、ワイダールの相手は気翠玉竜プロシー。家族を守りたいという一心で、神にしか出来ない世界創造を可能にした竜。そんなプロシーだからこそ、たかが数百(・・・・・)という攻撃ではやられない。寧ろ、ようやく力を全開に出来るとプロシーは喜んでいた。


 ワイダールの周囲一帯の攻撃が始まってから直ぐ、プロシーは”剛気宝竜人纏”を加減する事無く全開にした。その瞬間、ワイダールはプロシーを捉えられなくなった。いや、正確には速すぎて追いきれなくなったのだ。


 全開になったプロシーは、正に流星の如く縦横無尽に動き回り、速度でワイダールを圧倒しつつ、飛来してくる攻撃に一刀すると、凄まじい衝撃波が空間に発生し全てを薙ぎはらう。背中の漆黒の翼が羽ばたけば、それだけで暴風を生み出し、攻撃を吹き飛ばす。


 竜の力を遺憾無く発揮するプロシーの前に、「ぐっ⁉︎ 何という風圧⁉︎」と、ワイダールは為すべく無く、ただ空間全体に吹き荒れる暴風に吹き飛ばされない様に必死に耐えた。


 そんなワイダールに、一瞬で近づいたプロシーが、死を与えるに十分の威力の一撃を放つ。右手に持つ漆黒の剣を、真上から全力で振り下ろした斬撃が、刻一刻とワイダールの頭部に迫る。神速の一撃が決まるかに見えたその時。


 ギィィーーン!


 ワイダールの体から眩い灰色の気が身体を覆う様に放出し、プロシーの神速の斬撃を防いだ。プロシーは試しに十回程、瞬時に全力の斬撃を放ったが、ワイダールの体を覆う灰色の気は、全てを傷一つなく防いだ。


 それを確認したプロシーは、空間転移でワイダールから離れた位置に移動した。互いに空中で動きを止め向かい合う両者。


「ふぅ〜危なかったぞ。一瞬でも遅ければ、私は死んでいた。……分かっていた事だが、やはりこれを使う事になったか。プロシー、私の全身を包む気が何だか分かるか?」

「……ワイダール、それは金剛闘気、いや、金剛冥闘気か」

「やれやれ、やはり知っていたか。と、言う事はプロシーも使える訳か。御名答だプロシー。これは金剛闘気。闘気を極めた者しか使えない、奥義の様な技だ。金剛闘気は自身の活性量に応じて、効果が飛躍され、敵を破壊する武器であり、自身を守る盾でもある。本来ならば、私の金剛闘気は、冥気の性質も加わった金剛冥闘気となり、触れたモノを腐敗させる訳だが……その二本の剣を見るに、金剛冥闘気でも、プロシーの結界は壊せないか。こうなっては、本当に打つ手がないな。……ならば、最後は全力の一撃を放ち、戦士として散るとしよう。プロシー、私の全力を受けてくれるか?」

「もちろんなのだ。我輩も相応の力で応じるのだ!」


 ワイダールの問いに、快く即答したプロシー。その返答を聞いたワイダールは、ある決心をして、プロシーに告げる。


「感謝するぞ、プロシー。だが、その前に伝える事がある。前にも言ったが、我ら冥士は先兵だ。我らが選ばれたのは、我らの能力の他に理由がある。この世界が結界で守られている様に、我らの世界は、勝利した神々が今も封印結界を貼り続けている。我らの神々は、長い時を使い、徐々にだがその封印結界を歪ませている。我ら冥士が外に出れたのは、封印の揺らぎと、力が弱いからだ。良いかプロシー、私は百年あまり生きている。私の部下は六十年あまりだ。気を使う者は、長い時を生きる程、その力は増大して行く。封印結界の効力がある為、暫くは強力な力を持つ者は来ないと思うが、それでも注意しろ。我らが封印されていた場所には、何千年も生きた者達もいると聞く。私が把握している強者は、冥界の唯一の生き残り旧、冥士王だ。旧、冥士王は、神々との壮絶な大戦で生き残った方。私など比べられない程の力を有している。その他にも、本来魔物が生息している、魔界が存在するらしい。私が知っているのはこの程度だ」

「ワイダール、何故、敵である我輩に教えてくれるのだ?」


 不思議に思ったプロシーは、素直にワイダールに尋ねた。すると、骨鎧のワイダールは表情豊かに笑いながら。


「さぁな。私にも分からん。プロシーは私の部下を殺した仇。本来ならば憎むべき敵だ。……なのだが、どうしても貴殿を嫌いになれない様だ。私の部下達の記憶にも、戦士として最後まで戦った達成感はあれど、恨みはなかったからな。貴殿と関わると、あまりの非常識さに、感覚が狂うのかもしれないな。とりあえずは、あれだ。我らを倒したのだから、簡単に負けてもらっては、我らの面目がないという事だ」

「……そうなのか? 我輩も別にワイダール達、個人の事は嫌いじゃないのだ。ワイダール達の神は嫌いだがな。どのみち、ワイダール達とはまた会いそうな気がするのだ」

「どういう事だプロシー?」

「確証がないから、まだ秘密なのだ。我輩の考えが間違ってなければ、きっと我輩達はまた会う事になるのだ」

「……そうか。ならば、その時を楽しみにしているとしよう。では、そろそろ決着をつけるぞ、プロシー!」

「ワイダール、勝負なのだ!」


 プロシーの返答を聞いたワイダールは、両手で持った冥王剣ザルガーダルを高々と上げると。


「はぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!」 


 と、叫び身体全体から大量の灰色の輝きを放ち出す。


 ワイダールの全ての力が、冥王剣ザルガーダルに集い、集まりし力は、灰色の凄まじい輝きとなり、ワイダールを中心に一本の巨大な柱となり、空間全体に衝撃波が渦巻く。灰色に輝く巨大な柱に、風により更に威力を増した獄炎と、雷が螺旋を描き纏わる。


「行くぞ、プロシー! 我が最大の技を受けよ! 『死を呼ぶ一閃(デス・パニッシュ)』!」


 ワイダールは、凄まじい速さで冥王剣を真上から振り下ろした。次の瞬間、破壊をもたらす獄炎と雷を纏う、灰色の特大の閃光が、轟音を響かせ、神速の速さでプロシーに襲いかかる。


 冥獣士王ワイダール・ザルガが全身全霊で放った『死を呼ぶ一閃(デス・パニッシュ)』は、外で放てば数百キロを一瞬で吹き飛ばすだけの脅威の威力を誇る。


 刻一刻と迫る、空間全体を覆う灰色の閃光。対して漆黒の竜鎧を纏うプロシーは、漆黒の剣を持った腕をクロスさせた状態で、奥の手を使う。


 プロシーは”剛気宝竜人纏”から、”超速活性”を使い”超気宝竜人纏”となる。その瞬間、凄まじいプレッシャーが空間全体を覆い、空間を軋ませる。


 正真正銘の全力となったプロシーは、クロスしていた両腕を振り抜く。神速を超えた神速の速度から放たれたのは、クロス十字の巨大な衝撃波の刃。ただ信じがたい速さで、漆黒の剣を振り抜いただけの力技。


 ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン‼︎


 その衝撃波は、放たれた瞬間、全てを切り裂き風圧で全てを跡形もなく消し飛ばしていた。残ったのは、剣を振り抜いた体勢のプロシーと、プロシーの力で傷が付いた金の壁だけ。


 プロシーは即座に、”超気宝竜人纏”を解除して、エメラルドトマトのジュースを魔法袋から取り出すと、一気に飲みほし体力、魔力、気力を回復する。「戦いの後には、これが一番なのだ!」と、上機嫌のプロシーは、『隔離戦闘空間』を解除した。


 外に出たプロシーが、日が昇り、夜が明けたのを確認した時、突如上空から巨大な豪炎が降り注ぎ、プロシーを豪炎の柱が飲み込むのだった。

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