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30 世界の理

 コロシアム上空の『隔離戦闘空間』内で、プロシーがワーバルと戦闘を繰り広げている頃、ユイ、ロンロ、クリスは、カントリー南方から、プロシーの居るコロシアムに向けて、空中を”天駆”で駆けていた。


 ゼダとの通信で、残った脅威はプロシーが対峙している者達と分かった三人は、プロシーならば問題無いと信じつつも、心配になり現場に向かっている。


 そんな三人の前に、突如魔法陣が現れ、黒い外套を纏う白仮面を付けた者が現れる。三人は即座に反応し、進むのを止めて武器を構え、臨戦態勢になる。


 鋭い眼差しを向け警戒する三人に、白仮面は問う。


「貴殿らは、ロンロ殿、クリス殿、ユイ殿で間違いないか?」

「だったらなんだい?」

「何、簡単な事だ。人質になって貰うだけだ。そうでもしなければ、危なくて貴殿らの大事な竜の前には行けないからな。大人しくしてくれれば、何も『ビュン! ビュン!……』やれやれ、困ったお嬢さん方だ」


 話の途中で、敵だと分かったクリスは、頭、足、手、腹、肩に狙いを定め、即座に”風銃チャージライフル”の引き金を引く。暴風により放たれた超高速の金の弾丸を、瞬時に右に移動して最も簡単に躱した白仮面の男。


 その動きの早さで、只者ではないと判断した三人は、後退して距離を取る。更に警戒された事にやれやれと首を横に振るう白仮面は。


「しょうがない。少し手荒に行くとしよう」


 そう呟くと、白仮面は三人の目の前から消える。ユイ達は互いに背中を合わせ、”気配感知”を使い周囲を警戒する。そんな三人の上空に、突如現れた白仮面は、白い大きな布の様な物で、三人を包み込もうとした。


 三人は白仮面の動きが予想以上に速く、回避するのが遅れた。もう少しで、白い布が三人にかかるというところで、ユイ達がその場から消える。


 白仮面は上空を見上げ、残念そうに言う。


「もう来てしまったか。後少しだったんだがな。こうなれば仕方ない。直接話すと……話す気はないと言う事か」


 話し相手が消えた事に、つまらそうに呟いた白仮面であった。一方、白い布を回避したユイ達はと言うと、中枢管理塔の近くの地面に居る。三人は嬉しそうな笑顔で、ユイの腕の中にいるプロシーに「ありがとう」と告げると、ユイが心配そうな顔で尋ねる。


「プロシー、大丈夫だった? どこも怪我してない?」

「我輩は大丈夫なのだ。ユイ、ロンロ、クリスも無事そうで良かったのだ。じゃ、三人はゼダ達と合流して欲しいのだ」

「……プロシーは、さっきの白仮面の元に戻るのかい?」

「そうなのだ。あの者をほっとくと危ないのだ。それに、我輩に話がある様だし、ついでに聞いて来るのだ」

「……分かりました。プロシーちゃんの言う通りにします。けど、その前に聞きたい事があります!」


 クリスは顔をプロシーに近づけ興奮した様に言った。突如の事でビックリしたプロシーは、フワフワの尻尾と耳をピンと立たせながら問う。


「そ、それは何なのだ?」

「ユイちゃんが言ってたんですけど、プロシーちゃんの一番好きな人は、その……ユイちゃんで間違いないんですか?」

「間違いないのだ」

「……そう、ですか。でしたら、プロシーちゃん。私とユイちゃんとでは、どのくらい差があるんですか?」

「プロシー、それは私も知りたいよ」


 クリスとロンロが、顔を盛大に近づけながらプロシーに尋ねた。真剣な顔の二人から、異様なプレッシャーを浴びたプロシーは、顔をできるだけ二人から離し、背中に感じる柔らかいモノに埋もれながら言う。 


「三人の差はあんまりないのだ。だから、ほぼ同じ様な感じなのだ」

「そうですか〜。じゃあ、私もプロシーちゃんの一番の様なモノなんですね〜」

「そっか〜。私もプロシーの一番か〜」


 返答を聞いた二人は、ぱぁ〜と明るい表情になり、綺麗な月を見上げ幸せオーラを全開にしながら、妄想を繰り広げる。その様子を見たユイがプロシーに頬ずりしながら笑顔で言う。


「でも、本当の一番は私だけどね〜」


 ユイの発言の瞬間、パリィンと何かが砕ける音が、聞こえた様な錯覚がしたプロシー。笑顔で互いを見つめ合い、火花を散らす三人。次第に空気が重く冷たくなるのを感じ、この場が危険だと思ったプロシーは、慌てて。


「わ、我輩アレなのだ。そろそろ行かないといけないのだ。ゆ、ユイ、そろそろ離して欲しいのだ」

「うん、分かったわ。プロシー、気をつけてね」

「分かってるのだ。ユイ、ロンロ、クリス、何が起こるか分からないから、気をつけるのだぞ。じゃ、行って来るのだ」


 そう言ったプロシーは、三人の前から”空間転移”を使い消えた。笑顔で見送ったユイ達であったが、少しすると不安な表情になる。


「ロンロ姉さん、クリス姉さん。私達結構強くなった気でいたけど、まだまだよね」

「だね。さっきだって、プロシーに助けて貰わなかったら、危なかったしね」

「今の私達では、プロシーちゃんと一緒に戦えませんね」


 三人は各々に言う。この程度の力ではまだまだだと。彼女達の目標は、危険な場所でもプロシーと共にあること。プロシーを守れる様になることだ。


 彼女達の目標を他の者が聞けば、ほとんどの者が、無理だ、不可能だと言うだろう。竜と人、確固たる格の差が存在するこの世界では、それが普通で当たり前だ。


 しかし、彼女達は諦めない。諦めては、出来るものもできなくなる。努力すれば報われるとは言わないが、少なくとも今以上には強くなれる。気とはそういうものだ。それが分かっているからこそ、彼女達は今後も努力し続けるのである。


***


 ユイ達と別れたプロシーは『気竜眼』で周囲を確認しながら、”空間転移”でカントリーを捜索した。白仮面の男は、コロシアム会場の屋根に立ち、美しい月を眺めていた。


 プロシーは、白仮面の前に移動すると問う。


「我輩に話があるようだったが、それは何なのだ?」

「これはこれは、プロシー殿。まさか、貴殿から来るとはな」

「……我輩、名乗った覚えはないが……その情報は、ワーバル達の魂から得たのか?」

「……流石プロシー殿、と言っておこう。ご名答だ。我ら冥界の冥士には、骨以外に魂を操る術がある。魂とは記憶の塊。従って、得た魂からは様々な情報を得れると言う訳だ。それと、私も名乗っておくとしよう。我が名はワイダール。冥界の現、冥士王を務める者だ」

「現、冥士王か。それでワイダール、我輩に話とは何なのだ?」

「無駄だととは思うが、一応勧誘だ。プロシー殿、私の仲間になる気は『ないのだ』」


 ワイダールの言葉を遮る様に、即答したプロシー。ワイダールはやれやれ肩をすくみ頭を左右に振ると。


「一応理由を聞いても?」

「まず、最初に我輩の大事な町を狙ったこと、お前達が力を与えていた、黒の大鷲がリムを攫ったことなど、色々理由はあるのだ。それに我輩は、毎日忙しいから、ワイダールに協力してる暇はないのだ」

「ほぼ予想通りの答えではある。しかし、妙な点が一点あるな。何故、貴殿は我らが黒の大鷲に力を与えた事を知っている?」


 顎に手を置き、考えたワイダールは、プロシーに聞いた。その問いに「我輩の能力に関する情報は、なるべく伏せた方が良いのだ」と、思ったプロシーは。


「秘密なのだ」


 と、即答した。ちなみに、プロシーが知っているのは『気竜眼』があるからだ。気を色で見分けられるプロシーには、ワイダール達から力を授かった者達の気の色が、青と灰が混ざった色に見えていたのである。


 そんな事とは知らないワイダールは「まぁ、そうだろうな。自身の手の内を明かす様な愚か者ではないだろう」と思い、思考を切り替えると、プロシーに言う。


「それは残念だ。それではプロシー殿、貴殿は世界は幾つあると思う?」

「……少なくても四つはあると思うのだ」


 意味ありげなワイダールの問いに、プロシーは少し考え答えた。その答えに、感心した様な声でワイダールは言葉を出す。


「ほぉ〜。貴殿は何故そう思う?」

「……そうだな。簡単に言えば、根本的に違う存在がいるからなのだ。魔物、冥界の冥士、この世界の人、我輩達竜、それぞれ違う存在なのだ」


 プロシーは言う。存在が違うと。では何が違うのか。それは気が見えるプロシーならではの、判別の仕方だ。それはもちろん、気の色での判断で、列挙した四つの存在は、それぞれ気の色が違うのである。


 それにプロシーは、魔物の事をヴィクトール達から詳しく聞いている。魔物とはこの世界に元からいた存在ではない。魔物が確認され出したのは、十年前からとの事だ。それから十年、発見される魔物の種類と頻度が右肩上がりで増えているらしい。


 プロシーはその話を聞いて、『気竜眼』で確認した魔物の気を照らし合わせ、ある仮説を立てていた。それは、魔物とは別の世界から何らかの方法で現れる存在ではないかと言う事だ。普通ではあり得ないという仮説だろうが、現にプロシーもこの世界ではないところから、やって来た存在である。


 だからこそプロシーは、この世界以外にも様々な世界があると考えている。そして、自身をこの世界に送った天の祈願者の様な、異常な存在が複数いるとも思っている。


 そんな考えを誰にも伝えていないが、胸の中に抱いているプロシーの返答を聞いたワイダールは、パチパチパチパチと賞賛する様に両手で盛大な拍手を送る。


「いやいや、実に見事。貴殿は聡明な頭脳をお持ちの様だ。これでは種明かしの楽しみが減ってしまったな。プロシー殿、その考えは正しい」


 実に楽しげな声で言うワイダール。肯定したワイダールは続けて語る。世界の真実を。


「世界とは創造主が作った物。創造主とは万物を自在に操る存在。創造主は神とも呼ばれる絶対の存在。そして、神々は無数に存在する。故に世界も無数に存在する。いや、正確にはしたと言うべきか。……さて、プロシー殿。ここまでの話を聞いて、無数に存在した世界とはどうなったと思う?」


 自身の知る知識を楽しげに語るワイダールの問い。かなりスケールの大きい話だが、プロシーは特に悩む事なく即答する。


「各世界で争い滅びた。それが真実だと思うのだ」

「本当に流石だ。やはり、プロシー殿は世界の真理を理解している様だ。その通り、意見の食い違う神々は、二勢力に別れ互いに争った。絶対の力を持つ神々の戦いは、簡単に世界を崩壊させた。元は無限に近くあった世界は、今は少数しか存在しない。最も、私は創造主からそう聞いただけで、実際には見てはいないがね」


 そう、世界の真理とは弱肉強食である。弱い者は淘汰される。ただそれだけの話だ。人がさも当然の様に、あらゆる生物を淘汰している様に。強い者が生き残る。世界とは至極単純なのである。


 プロシーは意識を持ってからすぐに、その真理を理解した。いや、正確には、天の祈願者によって、理解させられたのだが……。故にプロシーは何処までも力を求めるのである。皆と共に生きていたいが為に。


 ワイダールの話を聞いたプロシーは、ずっと疑問に思っていた事を問う。正確には、予想をしている事に、確信に変える為に。


「つまり、この世界で生きている我輩達は皆、神に作られた存在と言う事だな?」

「その答えは不明と答えておこう」

「どういう事なのだ?」

「我ら冥士、竜であるプロシー殿は、神に作られた存在で間違いない。創造された者の区分で言えば、我らは神徒、竜は神獣に分類される。神が創造したと言う観点では、魔物も一応は神獣の区分だが、神獣と言っても格の差は存在する。竜である貴殿と魔物では、力が天と地程離れている様にな。そして、我ら創造された者と、この世界に生きる者の決定的な違いは、寿命と言う概念がこの世界に存在する事だ。創造された我らには寿命などない。殺し合いで死なない場合は、何時までも生き続ける。対して、この世界で生きる者には寿命が存在する。私も定かではないが、恐らくこの世界の人々は、神に作られた存在ではない。未知の生き物だ」

「そうか」


 ワイダールの話を聞いたプロシーは、フワフワの耳を垂れ下げ悲しげに呟いた。自身が神獣など知らない情報もあったが、ほとんどが自身の探求した考えと変わらない結果に、プロシーは落胆する。


 明らかになって欲しくなかったこと。そうでなければ良いと思い続けていた事が分かってしまった。いや、プロシーは以前から知っていた。知っていたが、考えたくなかったのだ。大切な皆と必ず別れる時が来る事を。


 寿命がある者は必ず死ぬ。それは例外無く、全生物に訪れるある意味、世界で唯一の平等に降りかかる事象。死からは誰も逃れられない。それが、一般的な常識であり、絶対の理だ。


 しかし、プロシーは諦めてはいない。ユイ達と出会ってから今までずっと、考えている事がある。今のプロシーには到底出来る事ではないが、ある方法をずっと『探求者』で探求し続けている。実現できれば皆んなを助ける事が出来る、とある方法を。


 考えを整理し、気を取り直したプロシーは、フワフワの耳をピンと立たせ、もう一つの確信に迫ろうとワイダールに問う。


「それで、ワイダール。ワイダール達は戦いに敗れた方なのだな」

「……そうだ。我らの神々は敗れた。敗れた神々は、勝利した神々により封印された。生き残った神徒、神獣と共にな。……プロシー殿、いや、プロシー。我らの神々は、封印されている長き時を使い、戦力を整えた。その先兵に選ばれたのが、我ら冥士だ。この世界に送られた冥士最後の一人として、目的を遂行させてもらう。だが、プロシーには礼を言う。貴殿のお陰で準備が整ったのだからな」


 プロシーの問いに、雰囲気を重く冷たいモノへ変え、低い声で返答したワイダール。ワイダールは、両手を夜空に向けながら続ける。


「知識豊富の貴殿なら、知っているはずだ。この世界は強力な結界が貼ってあり、外に出る事ができない事を」


 確かにプロシーは知っている。この世界に初めて来た時、煌々と輝く太陽に近づこうと上昇して、見えない壁に当たり出れなかった事があったから。


「この世界の結界は、勝利した神々が貼ったモノ。我らの侵入を妨害する為のモノだ。そして、竜王達は結界を維持する為、三層世界の下層であり、我らの世界と中継地点である、この世界の門番として存在している。我が使命は、その結界の破壊、上層への扉を開く道を作ること。さぁプロシー、この世界のモノ達よ、刮目せよ! 死霊魔法『時の腐敗』‼︎」


 ワイダールが高々と叫ぶと、ガイアスラ全土の遥か上空の夜空に、古代文字の様な大量の文字が外側にあり、中心には時計が描かれた灰色の巨大な魔法陣が現れた。その瞬間、ガイアスラ全土が僅かに揺れ始めた。


 カントリー中に居る者、各国で上空を見上げている者達は皆「何だあの巨大な魔法陣は⁉︎」と、目を大きく広げて驚く。その光景を見て、非常事態と判断した各代表の者達は、非常事態警報を鳴らし、注意を促す。


 警報を聞いたほとんどの者が慌てる中、全く動じない者達がいた。その者達は中枢管理塔の外で、全員で集まりプロシーの帰りを待つ者達だ。そう、プロシーの家族である。


 彼らはこんな理解不能な事態でも一切動じない。誰もがプロシーを信じている。プロシーなら誰にも負けないと思っている。彼らが願う事はただ一つ。あの可愛らしい小さなモフモフ竜が、怪我をせず無事に帰ってくる事だけなのである。


 そんな絶大の信頼をされているプロシーは、銀の瞳で只々上空の魔法陣を見上げている。プロシーの様子に、怪訝に思ったワイダールは問う。


「どうしたプロシー。私に向かって来ないのか? 言っておくが、あの魔法陣の針が一周した時、この世界は滅びるぞ。あの魔法は、我が神が考案した、世界を腐敗させ崩壊させる魔法だ。発動には莫大な力が必要だったが、貴殿の力を吸収させて貰う事で可能となった。崩壊を食い止める為には、術者の私を倒すしか方法はないぞ。そんなにのんびりしていて良いのか?」

「ん? まぁ〜あの程度の魔法なら、焦らなくても大丈夫なのだ」


 プロシーは平然と言って退けた。ワイダールの神が作った魔法が大した事がないと。それを聞いたワイダールは、呆れた様に言う。


「プロシー、貴殿は自惚れが過ぎるだろう。如何に絶大な力を持つ竜と言えど、神はそれを上回る存在だぞ。神が作りし魔法を破れるはずがないだろう」


 ワイダールは絶対に破れないと言った。ワイダールが言う事はある意味正しい。神によって創造された者が、神を超える事はありえない。それが神により創造されたワイダールにとって、当たり前の常識だ。


 しかし、話を聞いたプロシーは、呆れた様な目でワイダールを見てこう返答する。


「ワイダール、まさかと思うが、世界の理を知らないのか?」

「……世界の理? プロシーそれは何だ?」

「はぁ〜。ワイダール、創造主は確かに凄いが、それが全てではないのだ。その創造主とて、ある二つの要因が存在しなければ無力なのだ」


 創造主を見た事がないプロシーだが、確信を持って断言した。プロシーに言われても、全く検討がつかないワイダールは、思わず腕を組み考える。しばらく経っても返答がない為、プロシーは続ける。


「良いか、ワイダール。創造とは魔力と気が無ければ絶対に出来ないのだ。魔力で具現化した物が気を宿す様に、世界には理が存在するのだ。魔法とは、その理に干渉する為の手段であるだけであって、絶対の力ではないのだ。ただ、使用者の術式が高度か否かの話なのだ。同じ魔法をワイダールの神が使ったなら、破れないかもしれないが、我輩の力を使わないと発動できないワイダールの魔法を、我輩が破れない道理はないのだ。と、言っても、信じないだろうから、今から破って見せるのだ。術式分解魔法『構築の崩壊』」


 プロシーが上空の魔法陣を見て、そう言った瞬間、巨大な灰色の魔法陣は光となり霧散した。目の前で起きた事が信じられないという様子のワイダールに、プロシーは問う。


「ワイダール、それでどうするのだ? 我輩と戦うのか? それとも、もう一度魔法を発動させるか?」

「……そんな事は決まっている。戦うだけだ。それと、プロシー。魔法を発動した時点で私の勝ちだ。楔はもう打ち込まれた。結界はいずれ破壊する」

「? どういう事なのだ?」

「世界の理について聞かせて貰った礼に、答えよう。この世界を守る結界は、五つの龍脈を使った五芒星結界だ。龍脈は地下に流れる大地の力。龍脈とは穢れが一切ないからこそ発揮する力だ。一方、我が神の魔法は、世界を腐敗させ崩壊させる力。つまり、少なくとも地脈が穢れたという事だ。後は時間の問題だ」

「ふむふむ。そういう仕組みなのか。ま、我輩にはどうでも良い事なのだ」


 理解したプロシーは、さも当然の様に結界など知った事かと言い放った。それを聞いたワイダールは、ワーバルの記憶から得た情報を思い出して、プロシーに尋ねる。


「プロシー、貴殿の自由行動には、この世界を守る事は含まれないのか?」

「それは我輩の大事な家族の考えによるのだ。我輩としては、この世界の大体の知識は得たから、別に世界が無くなろうとも問題ないのだ。いざとなれば、我輩が皆が住める、新たな世界を作るだけなのだ」

「な⁉︎ プロシーは世界創造が可能なのか⁉︎」

「ん? 何をそんなに驚いているのだ? ま、生物を作るのは無理だが、環境を作るだけなら今でも可能なのだ。我輩はいざという時の為に、日々探求しているのだ。それくらい出来ないと、誰も守れないのだ」


 プロシーは言い切った。世界など作れない様ではダメだと。異能『探求者』を持つプロシーは、日々新たな問題を探求しては、異能『開拓者』で次々と新しい技術を身につけて来た。家族を守る為に、努力をし続けて来たプロシーにとっては、世界創造など容易い事なのである。


 プロシーの話を聞いて、真実だと理解したワイダールは、改めてプロシーに畏敬の念を抱いた。世界創造など、創造主である神にしか出来ない事を、容易く出来ると言う竜を恐れて。


「……プロシー、貴殿は本当に末恐ろしいな。恐らくだが、他の竜王と言えど、世界創造など出来ないだろう。それを竜である貴殿は出来ると言う。間違いなく、この世界で一番恐ろしいのは貴殿だ。だからこそ、貴殿はここで倒さねばならん。創造された者でありながら、我が神を凌駕する可能性を持つ貴殿は生かしてはおけん」


 ワイダールは凄まじいプレッシャーを放ちながら言った。そんな中、プレッシャーを全く気にした様子がないプロシーは、平然と告げる。


「そうか。なら、ワイダール。最初から全力でかかって来て欲しいのだ。ワーバルの記憶があるのだから、腐敗の性質を持つ冥気が、我輩に効かない事は、知っているだろう?」

「……やれやれ。我ら冥士の力まで把握済みとは、本当に恐れ入る。だが、その点は心配ない。この世界に来てから、多くの魂と共に、特殊な力を大量に得たのでね。それをお見せするとしよう。が、その前に、この世界に私からのプレゼントだ。目覚めよ‼︎ 我が魂の一部を持つ同士達よ‼︎ 今ここに、冥界の冥士王ワイダールの名において命ず‼︎ 魂を刈り取れ‼︎」


 ワイダールの叫びが終わった瞬間、ガイアスラの至る地面から、灰色の気、触れた物を腐敗させる冥気を纏った、骸骨の大群が地上に這い出る。骸骨全て堅牢な骨鎧で全身を覆われており、骨騎士、骨狼、骨熊、骨鳥の種類だ。


 それを見たプロシーは、直ぐにログアーツでゼダに連絡する。


「ゼダ、中枢管理塔の周囲に、四柱防御結界を作動させたか?」

『はい』

「全員結界の中なのだな?」

『はい』

「良し、じゃあ、ゼダ達はそのまま、結界の中で待機なのだ。危ないから絶対に外に出てはダメだぞ。それと、ヴィクトール達に伝言を頼むのだ」


 プロシーはとある伝言をゼダに頼むと、最後に「今からかなり揺れると思うから、気をつけるのだ!」と、元気に言って、通話を終わらせた。プロシーの不穏な言葉に、盛大に冷や汗を流す、通話を聞いていたユイ達、家族一同と、各国代表達。


 そんな彼らは急いで、カントリーにいる人々に「全員、伏せろ! 巨大な地震が来るぞ!」

「プロシー様が何かするつもりだ!」「各員結界準備!」「全員、覚悟しろ! 何が起こるかわからねぇーぞ!」などなど叫び、必死に注意を促した。


 ゼダに注意を促したプロシーは、”剛気金人纏”で金の甲冑姿に変わると、カントリー中心のコロシアム会場の真上上空に”空間転移”する。ワイダールが興味深かそうに、プロシーを眺める中、プロシーは両手を真上に上げ。


「じゃ、ワイダールが出現させたこの国にいる骸骨達には消えて貰うのだ。『破壊の衝撃(メテオストライク)』!」


 プロシーが叫んだ瞬間、プロシーオリジナル複合魔法『破壊の衝撃(メテオストライク)』が発動し、約五十万の骸骨の大群だけでなく、百キロ以上の広大なカントリー全土を、一瞬で吹き飛ばす巨大な隕石が放たれたのだった。

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