25 予定外の対戦
昼の休憩を終えたプロシー達は、再びコロシアム会場に移動していた。竜祭典一日目は、上位四人に絞るまでやる予定であり、午後からも複数の試合があったのだが、只今問題が発生している。
その問題とは、ユイ、ロンロ、クリス、ヴィクトールの力が抜き出ている為、対戦相手が次々に棄権して行き、あっという間に上位四人が決まってしまったのである。
予定としては問題ないが、メインイベントとしては、非常にマズイ事態で、この事態を予想していなかった主催者のヴィクトールと、実況担当のエリザはリングの上で困りはてている。
そんな慌てふためく二人を見たプロシーは、実況席のマイクを手に持って。
「ヴィクトールが困ってる様だから、我輩から提案があるのだ! まず、各国の代表、シェール、ガオウ、ホエールン、ウィンダは今直ぐにリングに集合して欲しいのだ!」
「「「「え?」」」」
呼ばれるとは露にも思っていなかった、VIP席で寛いでいたシェール、ガオウ、ホエールン、ウィンダは思わず呟いた。そんな四人にプロシーは。
「四人ともどうしたのだ? 我輩、とっても良い話をしようと思ってるのだ! 聞きたくないなら、来なくて良いが、我輩も四人の話を聞かないのだ」
「「「「⁉︎ 直ぐに行きます!」」」」
プロシーとの交渉権が掛かっていると知った四人は、即座に動き、リング上に集結した。プロシーは集まった四人に満足して、尻尾を左右にゆっくり振りつつ。
「じゃあ、これから、我輩、リム、リザのチームと、シェール、ガオウ、ホエールン、ウィンダ、ヴィクトールのチームで対戦ゲームするのだ!」
「「「「「え⁉︎」」」」」
突如呼ばれたメンバーを始め、会場がまさかの展開に着いて行けず驚く声を上げた。そんな中、主催者のヴィクトールが困惑顔で。
「あの〜プロシー様? 何をするつもりですか?」
「ん? だからゲームなのだ! それに、我輩の話はまだ終わってないのだ! このゲームでヴィクトール達、各国の代表チームが勝ったら、我輩が一つだけそれぞれの願いを叶えるのだ! もっとも、我輩が出来る範囲の事で、我輩の家族に関与しない願いに限るのだ! 五人は、本音で言えば、我輩に色々と頼みたいのだろ? このゲームにヴィクトール達が勝てば、我輩の家族が使う力を国民達に授けたり、我輩特製の結界を国に貼ったり、我輩達の店で出したエメラルドトマトを毎日食べる事が出来るのだ! 我輩達が勝ったら、それぞれの国のルールに、我輩の家族を危険に晒さない事を、義務化して取り締まって欲しいのだ! どうだ? これは、とっても良い提案だと思うのだ!」
プロシーに言われた事を、しばし考えた五人は悪くない提案だと内心で思い、代表してエルフの女王シェールが。
「プロシー様、わたくし達としては、とてもありがたい提案です。負けたとしても、わたくし達に不利益はありませんね。それで、そのゲームとは何をなさるのですか?」
「ん〜そうだな〜リム、何かしたいゲームはあるか?」
プロシーは実況席の机の上から、リザの膝の上に座っているリムを見て尋ねた。
「プロちゃん! リムね、雪合戦がしたい!」
「リム、了解なのだ! じゃあ、雪合戦で勝負なのだ!」
「「「「「え⁉︎」」」」」
リムの意見をそのまま採用したプロシーに対し、ヴィクトール達五人は「雪無いんですけど⁉︎」と思い、また驚く声を出した。そんな五人をほっとき、プロシーはリムの要望を叶える為、魔法を使い、瞬時に周辺を大量の雪山に変えた。
その光景にヴィクトール達代表五人と、会場の人々が唖然とする中、プロシーの家族は何時も通りという感じで、特に反応がない。リム達が驚かないのは当然なのだ。何故なら、プロシーが町で皆と遊ぶ時は、季節を無視し、環境を良く変えて本格的な遊びをしているのだから。そんな訳で、プロシーと長く過ごしている町の家族にとっては、環境が変わるのは当たり前で、特に不思議な事ではないのである。
その後プロシーは、大量の雪を風で自在に操り、リング上に均等に配置すると。
「準備出来たのだ! 後はルール説明をするのだ!」
と、楽しげに言い、皆にルールを告げた。
一、雪合戦の勝利条件は、先に合計ポイントが十ポイントになったチームが勝ち。
二、各自、結界魔法具を持ち、雪玉が相手プレーヤーの結界に当たったら、自チームに一ポイント加算する。
三、魔法でプレーヤーを攻撃するのは禁止。攻撃した場合は、自チームのポイントが十ポイント減算。
四、プレーヤーへの魔法攻撃以外は、規制なし。
一通りの説明を聞いたヴィクトールが。
「斬新で面白そうですね。ですけど、正直言って、プロシー様が参加する時点で、勝てる気がしないんですけど」
「ヴィクトール、安心するのだ。我輩はリムとリザのサポート役で、攻撃はしないのだ。それなら、問題ないと思うのだ」
「……それなら大丈夫そうですね」
「じゃ、決まりなのだ! 早速、それぞれのチームで作戦会議と準備なのだ!」
それからリング上で、それぞれのチームに別れ、作戦会議と雪玉の準備をしたが、二チームは対象的な雰囲気であった。敬遠の仲の国代表チームが「お前達、さっさと準備をしろ!」「ユーこそ、準備をするんだルン!」など言い争い、殺伐とした雰囲気で、プロシー、リム、リザチームは「プロちゃん! リム、おっきなユキダマつくったよ!」「お〜見事な雪玉なのだ! リム、上手なのだ!」「ふふふ、リムとプロシー様と私、将来の幸せな家族構成ですね♪」と、ほのぼのした雰囲気だった。
そんなプロシー達を、実況席に移動して見ていたユイ、ロンロ、クリスが。
「プロシー、何で私をメンバーに選ばないのよ〜。プロシーの一番は私なのに〜。あ⁉︎ リザさんが、さりげなく幸せ夫婦オーラを出してる!」
「ユイ、それは聞き捨てならないけど、理由はさっき聞いたじゃないか。これは、プロシーの考えだから、しょうがないよ。しかし、リザさんが羨ましいのは事実だね。場所を変わって欲しいよ」
「全くです。最近のリザさんは強敵ですから、注意しないとプロシーちゃんを取られかねません。リザさんの、あの絶妙な距離感。やっぱり、経験者は一味違うんですね。でも、絶対に負けません」
机に両肘を付け、顔を両手に乗せてる三人が「羨ま恐るべしリザさん」と思っていると、隣で話を聞いていた実況担当エリザが、興味深々の顔で囁く様な小さな声で。
「あの〜皆さんはプロシー様が好きなんですか?」
「「「もちろん」」」
即答した三人を見たエリザは、キラキラ輝く乙女全開の笑顔で。
「やっぱりそうなんですか〜。確かにプロシー様は、フワフワで可愛らしくてラブリィですから、分かります〜。でも、皆さんの町には、カッコイイ人多いですよね。その人達よりも、プロシー様が良いんですか?」
「当然! プロシーに敵う存在なんていないわ!」
「ユイの言う通り! 私達にとってプロシーは絶対の存在だからね!」
「プロシーちゃん以外なんて、断固お断りです!」
エリザの問いに、熱が入った三人は大きな声で叫んだ。その声を聞いてプロシーが「名前を呼ばれたが、何の話なのだ?」と、不思議そうにユイ達を見て、話の内容を理解した会場にいる町の男達が「くぅうう〜! それでも、俺は諦めねぇ〜ぞ!」と、精神的大ダメージを受け大量の涙を流しても、不屈の闘志で諦めないと誓うのだった。
町の男達の唯一の希望になってるのが、プロシーに恋愛感情が一切ない事である。故に、三人がプロシーと交際するまでは、絶対に諦めないのだ。
ユイ達がそんな話をしていると、指定した時間が経過し、準備が終了した二チームはリングで向かい合う。
「さぁ会場の皆さん! プロシー様発案の、サプライズイベントが始まりますよ! 果たして、プロシー様率いる家族チームと、各国代表チームはどちらが勝つのでしょうか! では、雪合戦を始めます! 三、二、一、fight!」
「えい!」
開始合図と同時に、リムが可愛らしい声を出しながら、小さい体で、雪玉を身長四メートル以上のリザードマン、ガオウに投げた。ヴィクトール達、国の代表と、会場のほとんどの者が、リムの愛らしい姿に、微笑みながら見ていたが、雪玉が投げられた瞬間驚愕の顔に変わった。
何故なら、リムの投げた雪玉は、あっという間にガオウの胴体に飛んで行き、結界もろとも巨体のガオウを吹き飛ばして、仰向けに転倒させたからだ。気を習得し、攫われてからリザと一緒に、鍛錬を頑張ったリムは、今やスーパー幼児なのである。
周囲が信じられないと驚いていると、今度は母親のリザが、身長五メートル以上のホエールンに、野球のピッチャーのオーバースローの様に振りかぶり、凄まじい速度で雪玉を投げ、ガオウと同じ様に、ホエールンを吹き飛ばし転倒させた。
それを見て、プロシーの家族の異常性を改めて理解した、ヴィクトール、シェール、ワシ顏のウィンダは、リザに向けて雪玉を投げた。結界があるとはいえ、幼児であるリムに雪玉を投げるのは、三人の理念に反する様だ。
流石は竜王の加護を持つ三人で、雪玉は瞬時にリザに飛来したが、結界に当たる前に、リザの姿が消えた。
ヴィクトール達が、リザの躱す姿が全く見えなかった事に驚きつつ、リザを探していると。
「えい! えい! えい!」
と、またリムの可愛らしい声と共に、超豪速球がヴィクトール、シェール、ウィンダに飛来した。それを確認したヴィクトールが両手を前に構え。
「『雷壁』!」
雷中級防御魔法『雷壁』を自身とシェール、ウィンダの前に展開した。リムの投げた雪玉は雷壁に近づくと、電熱でジュ〜! という肉を焼く様な音を出し、瞬時に溶けた。
それを見たリムが、可愛らしい頬をぷく〜と膨らませ。
「あ〜ヴィクトールおねぇちゃん、ズルイ!」
「え⁉︎ り、リムちゃん、魔法の使用はありだから、ズルではないのよ」
リムのまさかの発言に、ヴィクトールは困り顏で焦りながら返答した。
「むぅ〜〜、だったらリムは、プロちゃんとタックでせめるもん! プロちゃん!」
「了解なのだ!」
プロシーの言葉が聞こえると、リムもヴィクトール達の前から姿を消した。ヴィクトール、シェール、ウィンダがリザ、リムを探していると、ホエールン、ガオウが起き上がって来て。
「ユー達、あの驚異のリス親子は何処だルン?」
「あの幼女、侮りがたいな。結界がなかったら、殺られてかもしれねぇ。で、プロシー様達は何処だ?」
「それが分かれば苦労はしない」
「恐らくですが、プロシー様が不可視化の魔法を使ってるのかと」
「確かに、プロシー様なら、どんな魔法でも使えそうですね」
ホエールン、ガオウの問いに、分からないとウィンダが言い、シェールが憶測を、ヴィクトールがシェールに賛同した。
「おかあさん、どうじにね!」
「リム、了解よ」
「上か!」
ウィンダがリム達の声を聞き、そう叫ぶと、上空から大量の雪玉が、ヴィクトール達に豪雨の様に降り注いだ。
「お前達、俺に任せろ! 『炎幕』!」
ガオウが両手を上空に向けて、火上級防御魔法『炎幕』を使うと、ガオウ達の頭上に大きな豪炎の幕が現れ、飛来してくる雪玉を瞬時に溶かした。
五人がとりあえず安心してると、今度は真横方向から「えい!えい! えい! えい! ……」とリムの声が聞こえて来て、周囲一帯から、無数の雪玉の豪速球が飛来する。
「『雷壁』!」
「『氷壁』!」
「『岩壁』!」
「『風壁』!」
周囲から来る攻撃に対し、ヴィクトール、ホエールン、シェール、ウィンダは、四方向に防御魔法を展開した。
防御魔法を展開しながら、ヴィクトールが。
「あの! このままでは、防戦一方なので協力しませんか!」
「そうですね。わたくしも、ヴィクトール殿に賛成です」
「この状況では仕方ないか」
「そうだルン! 協力するんだルン!」
「しゃぁねーか! 全員でやるぞ!」
ヴィクトールの提案に、シェール、ウィンダ、ホエールン、ガオウは了承すると、シェールが。
「では、攻撃役は速度に秀でるヴィクトール殿をメインに、ウィンダ殿、ガオウ殿がサポート、防御役はわたくしとホエールン殿で行きましょう。尚、攻撃が禁じられているのは、魔法だけですので、各自異能で攻撃し、プロシー様達の居場所を把握しましょう。皆さん、どうですか?」
「「「「意義なし」」」」
シェールの意見に四人は同意し、代表達は行動を開始する。
まず、ヴィクトールが自身の掌以外に雷を纏わせ強化すると、『飛翔』の魔法を使い、上空に飛び立つ。それを確認したウィンダが、背中の大きな翼を広げて羽ばたく。すると、ウィンダの羽から大量の茶色い羽が意思を持つかの様に、全方位に飛んで行く。
ウィンダの羽は周囲から放たれ続ける雪玉に近づくと、蛇の様に巻きつき、雪玉を失速させる。大量の羽が自在に動き続けると、上空から青い輝きを纏う巨大な雪玉が無数に降り注いだ。まるで隕石の様に降ってくる雪玉に対し、高くジャンプしたガオウが炎の球体を振りかぶった右手の上に出し、そのまま雪玉に殴りつける様に衝突させる。
豪炎で溶けるかに見えた青く輝く雪玉だが、溶ける事なくガオウを弾け飛ばした。もうスピードで降ってくるガオウを、シャールが両手をリングに付けて出現させた巨大な木の枝が、ガオウに巻きつく様に動き、受け止めると、木の本体が雪玉に一直線に伸びて行った。
雪玉に衝突した大樹は、バキバキと猛スピードで砕け始めたが、ホエールンが大樹に触れて凍らせると、雪玉は大樹ごと凍結して止まった。
上空に飛んでいたヴィクトールは、巨大な雪玉が降ってきた所にプロシー達がいると判断し、瞬時に上空に移動すると、金の鎧姿になっているプロシーと、黄金の腕に抱きかかえられているリムとリザの姿を発見した。
ヴィクトールは、両手の掌に大量に持っていた雪玉を全て上空に投げると、超高速の動きで一つずつ空中で掴み、黄金鎧のプロシー目掛けて投げた。
およそ三十個の雪玉は、あっという間にプロシーに飛来して行ったが、結界に触れる前に、プロシーの姿が消える。
(く⁉︎ 流石プロシー様だわ! 動きが全く見えない! これじゃあ、姿を確認して投げても無駄ね。……なら、全方位攻撃!)
上空でそう考えたヴィクトールは、巨大な雪玉を溶かし終えたガオウ達を見て。
「皆さん! 大量の雪玉を上空に投げて下さい!」
ヴィクトールの指示を聞いた、ウィンダとガオウは上空に用意していた無数の雪玉を投げる。その間も、ヴィクトール、ガオウ達に周辺一帯から無数の雪玉が飛来するが、ヴィクトールは超高速飛行で躱し、下ではシェールの大樹と、ホエールンの氷の壁が自在に動き雪玉を防ぐ。
ヴィクトールは、リムとリザの雪玉を回避しつつ、下から上昇してくる雪玉をキャッチしては、全方位に投げた。ヴィクトールの超豪速球は、全方位に逃げ場を無くす様に飛んで行く。
(これなら、当たるはず!)
そう思ったヴィクトールだったが。
「ヴィクトール、中々良い攻撃なのだ! しかし、甘いのだ!」
そんなプロシーの声が響くと、ヴィクトールの真上、リング中心の結界ギリギリの高さにいるプロシーがただ、黄金の右足を振り抜く。その瞬間、とてつもない衝撃波が発生し、全方位の雪玉を跡形もなく消しとばした。ヴィクトールは、吹き飛ばされそうになりながらも、何とかその風圧に耐え、ゆっくり降下して行き、代表達の近くのリングに降りた。
会場のほとんどの者が、そのありえなさに口を大きく開けて驚愕していると。
「ヴィクトール、シェール、ガオウ、ホエールン、ウィンダ、中々良いコンビネーションだったのだ! これからは、いつも仲良しで居て欲しいのだ! じゃ、そろそろゲームを終わらせるのだ! リム、リザやるのだ!」
「うん!」
「はい!」
二人に合図したプロシーは、大量の雪球をリムとリザの前に具現化し、二人を自身のエメラルドの気で活性化した。
プロシーの気での活性。それ即ち、プロシーの力を得ると同義。そんな力を得たリムとリザの雪玉を防ぐ事が出来るか。考えるまでもなく、そんな事は不可能で、二人が投げた雪玉は、反応も防御も許さず、マシンガンの如く大量に放たれ、ヴィクトール、シェール、ガオウ、ホエールン、ウィンダの結界に全弾命中した。
あまりの威力に、白い雪が霧の様に、大量に舞い上がる中、プロシーがある魔法を使うと、一瞬で全ての雪が溶け、下には各代表達が気絶して倒れている光景が見えた。
その光景を見た会場の者達は「あれって生きてるのか?」「各国代表が、リス人の可憐な親子に負けたぞ」「プロシー様の家族の前では、竜王の加護でも対抗できないって事か」「新しい力か、ヤバすぎるだろ」と、様々な事を言い合っていた。
気の事を知らない会場の者達は、リザとリムの力で勝利したと思っている。つまり、プロシーの家族は、小さい子供でも、竜王の加護より強い力を持つと見ていた者達は認識している。これが、プロシーがこのゲームをした目的の一つだ。
ヴィクトール達には悪いとプロシーも思ったのだが、結界の魔法具を渡し、安全を確保する事で、協力してもらう事にしたのだ。驚異的な力を見せ、ゲームに勝利した事で、各国でのプロシーの家族の安全は義務化され、手を出そうと考える愚か者は、恐らくいなくなるだろう。余程の強者か、バカでもない限りは。
もう一つのプロシーの目的は、ゲーム中に言っていた通り、五人の仲を良くする事だ。プロシー的には、いずれ各国関係なく、皆が仲良く出来れば良いと思っているので、その第一段階として、代表達の仲を改善しようとしたのである。
その目的は、後は本人達に任せるしかないが、ゲームの中の協力を見る限り、恐らくは良くなるだろうとプロシーは考える。
結果として、五人を利用する形になった為、プロシーは後で、お礼と詫びを兼ねて、各国の結界の強化など、問題ない程度の協力はするつもりでいる。気を教えるかどうかは、プロシーの人物判断次第だ。
ゲームに勝利したプロシーは、腕の中にいる二人に明るく。
「リム、リザ、お疲れなのだ!」
「プロちゃん、おかあさん、やったね! リムたちのかちだよ!」
「リム、良く頑張りました。それから、プロシー様もお疲れ様です」
リムもリザも嬉しそうな顔で言った。
その後、プロシーは”剛気金人纏”を解除し、リムとリザと共に実況席に移動した。笑顔のユイ達に「お疲れ様」と言われ迎えられたプロシーは、実況席の机の上で、猫の様に丸まり、五人に気持ち良さそうにモフモフされていた。
それからしばらくして、リングの上で気絶していた五人が目覚め立ち上がると。
「私達、負けちゃいましたね」
「はい。ですが、これで良かったのかもしれません。少なくともわたくしは、自分が過信していた事実に気づけました」
「それは、私もだな。可憐な幼児に負けたとあっては、もっと精進せなばならない」
「そうだルン。ミー達はまだまだだルン」
「だな。今後は加護にだけ頼らず、頑張らねーとな」
リムとリザに負けた。その事実が、皆の意識を変えた様で、もはや険悪な雰囲気はない。むしろ、協力して戦った事で、連帯感が芽生え始めた様だ。
彼ら、竜王の加護を持つ者は、竜王に選ばれた特別の存在であり、多大な重責を担う孤高の立場だ。それ故に、力は他者より圧倒的に上で、多少なりとも過信するのは無理もない事でもある。むしろ、そんな事を全く気にしなかったヴィクトールが、ある意味では異常だったのだ。
しかし、プロシーの出現により、彼らの常識は崩壊した。絶対の価値であった加護が、通用しない事が証明された。自分達より強い者が大勢いる。その事が、彼らの凝り固まった自尊心を緩和した。今後の各国は、恐らく大きく変化する事だろう。それが、良い方向か、悪い方向になるかは分からないが。
各々様々な事を考える五人の前に、”空間転移”で瞬間移動してきたプロシーが。
「皆、大丈夫か? 疲れただろうから、これを上げるのだ!」
プロシーは首から紐で下げていた魔法袋の中から、エメラルドトマトのジュースを取り出し、五人に配った。昼間にその美味しを体験して知っている代表達は、「ありがとうござます!」と喜んで受け取ると、五人揃ってリングの上で美味しそうに飲んだ。
体力と魔力を回復した代表達に、プロシーは楽しげに告げる。
「ゲームは我輩達の勝利なのだ! だから、五人には約束を守ってもらうのだ! それと、五人も頑張ったから、それぞれの頼みも可能な限り聞くのだ! 明日、コロシアムの全試合が終わったら話を聞くから、考えておいてほしいのだ! じゃ、今日は解散なのだ! お疲れなのだ!」
小さな右手を上げてそう言ったプロシーは、五人の前から消えた。プロシーの話を聞いた代表達は「プロシー様、ありがとうございます!」と、誰もいないリングの上で、深々と頭を下げながら叫んだ。
その話を聞いていた会場の者達は「強くて可愛くて寛大なんて、プロシー様、素敵!」「私もプロシー様の家族になりたい!」「やばいなプロシー様、すげえカッケーぞ!」など、感激した様に言い、会場中は盛大に盛り上がった。
その後、プロシー、ユイ、ロンロ、クリス、リム、リザは、コロシアム会場の外にある各国の店を回り、様々な物を食べたり、商品の買い物をして大いに楽しんだ。
竜祭典の一日目は、少々問題もあったが無事進み、あっという間に夜になった。プロシー達、町の家族は、自分達で出している料理の店に集まり、食事をしながら今日の報告をした。
ゼダや皆の話だと、プロシー達の店は二つとも、大好評であったらしいが、特に料理の店の人気が凄まじかったそうだ。エメラルドトマトは恐らく、ガイアスラで一番美味しい食べ物の為、その人気は当然と言えば当然なのだ。
町の皆も、それぞれ楽しめた様で、皆笑顔で感想を言っていた。誰も怪我をしなかった事、皆が楽しめた事に満足したプロシーは、フワフワの尻尾を左右にゆっくり振りながら、ユイ達に気持ち良さそうにモフモフされるのだった。




