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24 コロシアム本戦2

 試合は進んで行き、ヴィクトールの出番、第十試合になった。ヴィクトールは、会場中から大歓声を受けながら、リングに向かう。種族を問わない大歓声を見るに、どうやらヴィクトールの人気は、サンボルトーグのみに留まらないようだ。


 ヴィクトールは全身黒い鎧を纏い、左側の腰には刀を帯刀している。ヴィクトールがリングに上がると、既に移動していた、サメ顏の海上隊隊長シャールズが。


「シャシャ、対戦相手がヴィクトール殿とは俺も運が無い。それで、ヴィクトール殿、以前の俺からのプロポーズを受けて下さる気になりましたかな?」


 シャールズの言葉を聞いた会場から「時と場を選べ、このサメ野郎!」「抜け駆けすんなサメ野郎!」「調子に乗んなサメ野郎!」などなど、盛大な罵倒が聞こえてくる。


「シャールズ隊長、以前も言いましたが、私に恋愛をしている暇はないんです。申し訳ないですけど、私の事は諦めて下さい」


 罵倒の嵐の中、ヴィクトールはいつも通りの決まり文句で断ったが、周囲からの罵倒を全く気にした様子がないシャールズは。


「シャシャ、相変わらずのその素っ気ない態度。麗しいですな。ですが、俺はヴィクトール殿を諦める気はないので、また、声を掛けさせてもらいます」


 一向に諦める気がないシャールズを見て、「本当、勘弁してよ。貴方、タイプじゃないんだけど」と、鎧の下で引き攣った表情のヴィクトールは、そう思うのと同時に「仮に付き合うなら、可愛くてモフモフしてる⁉︎ 何を考えてるの私⁉︎ 試合に集中よ!」と、内心で盛大に葛藤し、顔を真っ赤にしていた。


 ヴィクトールの胸中に気になる相手がいると、世界のファン達が知れば、さぞ荒れ狂う事だろう。まぁ、その相手がプロシーなので、誰も不用意な行動はできないと思うが。


 ヴィクトールが内心で葛藤していると。


「では、第十試合、ヴィクトール様VSシャールズさんの試合を開始します! 三、二、一、fight!」

「『氷弾』! 『氷槍』!」


 開始の合図と共に、シャールズは両手をヴィクトールに向け、氷初級魔法の『氷弾』と、氷中級魔法の『氷槍』を無数に放った。


 本来、海人は水辺での戦闘を得意とし、水があれば移動速度を上昇させられる特殊な種族だ。しかし、今回は水の天敵である雷使いのトップ、ヴィクトールが相手の為、シャールズは地面に水を出す訳にはいかないのである。


 そんな攻撃の手段が限られたシャールズの、無数の氷魔法を、ヴィクトールは左手で鞘を、右手で黒刀の柄を持ち、抜刀体勢から、超高速の斬撃を放ち、全ての氷を容易く切り裂いた。


 ヴィクトールは、異能『抜刀師』を持つ。『抜刀師』の権能で、彼女の抜刀攻撃は、非常に鋭く威力が高くなるのだ。


(流石、俺の心を射止めたヴィクトール殿だ。凄まじい剣速、全く見えん。こうなれば、賭けだ!)


 ヴィクトールの高速の動きを見て、玉砕覚悟を持った軽装の鎧を纏ったシャールズは、高らかに叫ぶ。


「『大水流撃』!」


 シャールズは両手を足元に向け、水上級魔法の『大水流撃』を使い、リングの上に大量の水を放出した。水は即座に広がっていき、リングの上は直ぐに水溜まりと化した。


(私相手にこの戦法は自殺行為にしか見えないけど、何か思惑があるのかしら? お手なみ拝見ね)


 そう考えたヴィクトールは、片膝を地面につけ、両腕を水に浸けると。


「『地雷電流』!」


 雷上級魔法の『地雷電流』を使い、リング上全体に、雷鳴と共に、青白い強力な雷を流した。電流は即座に、シャールズの足元に走って行ったが。


「『冷波砲』!」


 電流が襲う直前に、シャールズは地面に氷上級魔法『冷波砲』を放った。『冷波砲』は大量の冷気を閃光の様に放つ魔法だ。大量の冷気は、瞬時にリング上の水を凍結させ、雷の進行を止め、片膝をついているヴィクトールの手足を凍らせた。


「シャシャ! どうですかなヴィクトール殿! 如何にヴィクトール殿と言えど、凍ってしまえば、何もできないでしょう! さ、降参して下さい」

「いえいえ、その心配は無用です。『大雷装纏』! 『パリィン!』シャールズ殿、この通り、問題ありませよ」


 黒鎧の全身に大量の青白い雷を纏ったヴィクトールは、容易く氷を砕いて、立ち上がりながら言うと、続けて。


「シャールズ殿こそどうします? 強化した私と戦いますか?」

「シャシャ。ヴィクトール殿、止めておきます。『雷の抜刀姫』の異名を持つ貴殿相手に、真っ向勝負では勝てませんから。エリザ殿、俺は棄権する」


 シャールズはやれやれと首を動かしながら、エルザに棄権を宣言した。


「分かりました! シャールズさんの棄権により、第十試合はヴィクトール様の勝利です! 流石はヴィクトール様です! 刀身を全く見せない高速の抜刀術は、正に『雷の抜刀姫』! 可憐で、優雅で美しいヴィクトール様に相応しい異名です! プロシー様、ヴィクトール様に何か一言ありますか?」

「別に無いが、これからはヴィクトールの事を『雷の抜刀姫』と呼ぶ事にするのだ!」

「⁉︎ ちょ、プロシー様⁉︎」

「リムもそうよぶ〜!」

「⁉︎ リムちゃん〜」

「プロシー様とリムが呼ぶなら私も」

「⁉︎ リザさんまで〜」

「「「雷の抜刀姫、どうしたの?」」」

「⁉︎ ロンロ、クリス、ユイ……お願いだから、名前で呼んでよー!」


 ヴィクトールに異名がある事を理解したプロシーが、フムフムと頷きながら元気に、プロシーが呼ぶならとリムとリザが明るく、面白いと思ったロンロ、クリス、ユイが笑顔で言った。更に、さっきまで寝込んでいた茶髪の男が。


「お〜こりゃあ〜おもしれぇーぞ! さぁ、会場の皆さんご一緒に! せーの!」

「「「「「雷の抜刀姫〜!」」」」」


 いつの間にか復活していたジータの先導により、会場中から『雷の抜刀姫』の名が盛大に響いた。リング上の上で、最初は鎧姿のまま狼狽していたヴィクトールは、会場中の声を聞くと、プルプル震え、大量の青白い雷を身に纏い出した。


 その光景に「やべぇやりすぎた」と思い、一足先に逃げ出したジータの前に、瞬時にヴィクトールが現れ。


「ジータさん〜分かってますよね〜」

「お、おい、待て、ヴィクトール! そもそもの始まりは俺じゃ」

「問答無用‼︎」


 ズドーン! ビュ〜〜〜〜〜〜バーン! バタン!


 ヴィクトールは力強い叫びと共に、雷で強化した体で、鎧姿からラフそうな私服に変わったいたジータの鳩尾に、強力なボディブローを右拳で放った。ジータは一瞬で黒焦げになりながら、リングの結界がある壁まで凄まじい速度で吹き飛んで行き、轟音と共に衝突すると、力なく地面に倒れた。


 会場の皆が作った、ヴィクトールのストレスを一身に受けるハメになったジータ。非常に可哀想だが、会場は「おお、サンボルトーグ名物の黒焦げジータだ!」「俺、見たかったんだよ!」「今日はラッキーだな!」などなど、誰も心配した様な様子はない。そんな中、二人の同僚、待機場にいるアークが「はぁ〜ジータさんもヴィクトールさんも、相変わらずだな。こんな時まで、喧嘩する事ないのに」と、呆れた様な表情で二人を見ていた。


 ジータでとりあえずストレス解消したヴィクトールは、実況席の前に移動すると、頭部の鎧をとり、艶のある綺麗な金髪をなびかせると、プロシーを両手でガッシリ持ち、顔をかなり近づけて懇願する。


「プロシー様! お願いですから名前で呼んで下さい! 異名は恥ずかしいから、嫌なんです!」「わ、分かったから落ち着くのだ。もう『雷の抜刀姫』とは呼ばないのだ」

「早速、呼んでるじゃないですか!」

「さ、さっきのは態とじゃないのだ。ヴィクトール、落ち着くのだ」

「はい……⁉︎ あ、ぷ、プロシー様すいませんでした!」


 ヴィクトールは落ち着くと、自分の現状に気づき頬を赤めると、プロシーを急いで机の上に置いて、待機場に逃げる様に走って行った。完全に乙女状態のヴィクトールを初めて見た皆は「照れてるヴィクトール様も素敵だ」「何と愛らしい」「素敵だわ」と、見惚れた様な表情で言い、更にヴィクトールの人気は上がった様だ。


 ヴィクトールの試合が終わり、時刻がお昼になった為、一旦コロシアムの試合は休憩になった。プロシー、ユイ、ロンロ、クリス、リム、リザ、ヴィクトールは、昼食を食べる為、町の皆が出している店に移動した。


 プロシー達が店に到着すると、店の外には、先がどこまであるか分からない程、長蛇の列が並んでいた。


「これはどうしようもないのだ」

「大丈夫よ、プロシー。ちゃんと考えてあるから。皆んなもこっちよ」


 行列を見て耳を垂れ下げ残念そうに言ったプロシーに、微笑みながら言ったユイ。プロシー達はユイに先導され、プロシー達が寝床の為、臨時に作った建物に移動した。


 プロシー達が建物に入ると、机の上には湯気を上げる大量のエメラルドトマトの料理が出来ていた。プロシーが飛びながら、銀の瞳をキラキラさせていると。


「エメラルドトマト料理の味を知れば、店が混む事は目に見えてたからね。予め、昼の少し前に、この家に私達用の昼食を準備してもらってたのよ」

「流石、ユイなのだ! ありがとうなのだ!」

「良いのよ。じゃ、皆んなで食べましょっか」


 プロシー達は席に着き、料理を食べ始めた。少しすると、かなりあった料理は全てなくなり、プロシー達は席でのんびりと過ごすのだった。


***


 一方その頃、カントリーのとある建物の、ホールの様な部屋では。


「冗談じゃない! あの竜の力を見たろ! 見つかったら即、殺させるぞ! 俺は降りる!」

「俺もだ! それに、コロシアムに出てた女達も異常だったぞ! あんな奴らに勝てるわけねー!」

「「「俺も降りる!」」」


 部屋に集まった鎧を付けた男達の大勢が、プロシーを恐怖し、辞めると叫んだ。そんな中、壇上にいる豪華な服を着た、黒髪男が見下す様な表情で。


「はぁ〜全くお前達には失望した。改革にはリスクがあるのは当然だろうに。所詮クズはどこまで行ってもクズという事か」

「な⁉︎ てめぇー貴族だからって威張ってんなよ‼︎ 殺すぞ‼︎」

「そうだ‼︎ ざけんじゃねーぞ‼︎」

「だったらクズども、向かって来れば良いだろ? それとも、威勢がいいのは口だけか?」

「言ったな、てめぇー‼︎ おい、あのクソ野郎を殺せぇぇええ‼︎」

「「「「おお‼︎」」」」


 部屋にいた大勢の男が、鬼の形相で額に青筋を作り、剣を構えて壇上にいる男に突撃した。壇上にいる男は、危機迫る現状にも、特に焦った様子がなく、ただ立っている。


 怒り狂った男達の銀剣の切っ先が、貴族の男にもう少しで刺さり、体を貫くというところで、ピタリと全ての男達の動きが止まった。ただ、止まったのは、男達の意思ではない様で。


「な、なんで体が動かねぇーんだよ! このぉ!」

「ど、どうなってやがる! くそぉ!」


 と、焦り騒いでいる。そんな男達に、壇上の黒カーテンの後ろから出てきた黒い外套を纏った男が。


「無駄だ。お前達はもう、指一本動かせん」

「な⁉︎ そ、その声は⁉︎ あ、あんた三年前に行方不明になった」

「死ね」


 黒い外套の男がそう言うと「ぎゃぁぁぁああ!」と、部屋中に男達の苦しみに悶える声が響き渡る。約千人程いる男達の体は中に浮きながら、次第に収縮して、バキバキミシミシと、骨と肉が軋み砕かれる音が響き、身体と口から大量の鮮血が溢れ出す。そして、二十秒程すると、男達の姿と悲鳴は消え、部屋は血の海と化した。


 その光景を興味深く見ていた貴族の男は。


「流石、人類最強の力を持つ貴方ですね。相変わらず凄まじいお力です」

「ふん。媚びを売るのは止めろ。それで、どうする? 使えん奴らはいなくなったぞ?」

「そうですね〜。クズどもが怯んだ所為で、計画は狂いましたが、予定通り進めましょう。あのクズどもも、貴方の力の一部に慣れて喜んでいるでしょう」

「なら、構わんが、お前はそれで良いのか?」

「と、言いますと?」

「あの腐った公爵共に使われるだけで、良いのかと言う話だ」

「あ〜その話ですか。大丈夫ですよ。私にもちゃんと目的はありますので。それに、彼奴らはほっといても、いずれ粛清されますから。では、あの方々が到着し、時が来たら決行と言う事でお願いします」

「ああ」


 話し合った二人は、共に部屋から出て行くのだった。

 しばらく、不定期に投稿します

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