2 気翠玉竜
五体の竜王が守る世界【ガイアスラ】。
【ガイアスラ】は、一つの巨大な陸地に複数の国、多くの町、陸地の周りを広大な海が覆う世界。
【ガイアスラ】には、春夏秋冬、年月日、時間の概念がある。時間は二十四時間、一年は三百六十日、季節は春期、夏期、秋期、冬期の四期に分かれ、それぞれ九十日の区切りとなっている。一月は三十日である。
【ガイアスラ】は現在、西暦千百年、春期四月五日。冬期の寒さが抜け、気温は暖かかく、眠気を誘う穏やかな陽気。
時刻は十時、誰もが目覚め何かしらの作業をしている時間帯。【ガイアスラ】のとある暗い場所に、白い魔法陣の輝きが浮かび上がる。
暫くして、そこに現れたのは、新たな竜、プロシー。
プロシーの種族はエメラルドドラゴン『気翠玉竜』。体長は六十センチと小柄で全身をエドラルドグリーンと所々が白色の、フワフワの体毛で覆われている。耳と尻尾もフワフワで非常に柔軟だ。
プロシーの見た目のほとんどは子狐の様な感じで、違う点としては、髭がなく、銀色の目で眼光鋭く、背中の左右に四十センチ程の翼があり、牙・爪などは鋭利な形状、手と足の指は三本であることだ。
プロシーの銀の瞳だけを見れば、鋭いのでカッコイイと感じるのだが、全体を見ると、モフモフしている為、どうしても可愛い方が勝ってしまう見た目だ。可愛いモノ大好きな者がプロシーを見れば、間違いなく捕まえてモフモフを堪能したくなるレベルである。
そんな愛らしい見た目のプロシーは。
(おお〜ここが”天の祈願者”が言っていた、外の世界か! 我輩、何があるか楽しみなのだ!)
閉じていた目を開いて、銀の瞳をキラキラさせ、そんな感想を抱いていた。
プロシーが現れたのは、前方以外周りを岩で囲っている暗い洞窟の最深部の様な場所。前方から時折冷たい風が吹いてくる為、どうやら外に通じている様だ。洞窟の中は魔法陣の白い輝きが消え、完全に真っ暗である。
だが、プロシーには問題ない。プロシーには、最初から持っている特殊な三つの力がある。プロシーは、その中の一つ『気竜眼』を使う。
『気竜眼』とは、簡単に言えば、空間把握能力と気と魔力を色で見分ける能力だ。
『気竜眼』:空間把握、気・魔力を視認。
空間把握:広角視点。普段は直径二百メートルの範囲を全方位把握だが、集中すれば、最大直径一キロを把握可能。一方向では、最大十キロの範囲を視認することが可能。
気、魔力は視界に色として視認することが出来る。
『気竜眼』を使ったプロシーの目には、辺り一帯が光輝いて見え、オーロラの様な綺麗な景色が写っている。そう見えるのは、全てのモノに気が存在するからであり、それぞれ色が違うからである。
『気竜眼』で周囲の地形を理解したプロシーは、フワフワの尻尾を左右に振りながら、テコテコ小さな二本足で歩いて、近くの岩壁に近づくと、身体全体のフワフワの体毛から眩いエメラルドの輝きを放つ。
煌々と暗い洞窟の中を、エメラルドの輝きで照らすプロシーは、三本の指を握り締め、小さな拳を作ると、岩壁に右ストレートを放つ。
ズドォォォーーーーーーーン‼︎
風を切り裂き鋭く放たれたプロシーの拳打は、岩壁を粉々に粉砕し、百メートル以上の巨大な穴を開ける。六十センチと小柄なプロシーからは、想像できない凄まじい力なのだが、実はこれは気の力なのだ。
気とは、無機物、有機物問わず全てのモノに存在するモノであり、更に、気を身体に纏う事で、自身の身体能力、反応速度、自然治癒力を上昇させる力がある。気を纏う事を”気纏”と言う。
プロシーは、エメラルドの気を纏う事で自身を強くしているのだ。気を纏わないプロシー本来の力は、見た目通り非力である。そんなプロシーが、気を纏う事で凄まじい力を得る。気の力とはそれだけ凄まじいのである。
岩壁を破壊し巨大な穴を作ったプロシーは、翼を羽ばたかせ飛びながら中に進む。約三十メートル程進んだプロシーは、地面に降り立ち、ある鉱石を小さな両手で持ち、岩から砕いて取ると『探求者』を使い、銀の瞳でじ〜〜〜〜〜と観察する。
(…………おお、これは銀と言う鉱石なのか! 解析が終わったら次は具現化なのだ!)
と思い、次は『開拓者』を使用するプロシー。
『探求者』と『開拓者』。この二つの能力が、プロシーの残りの特殊な力だ。
『探求者』:思考加速、解析鑑定、真理探求、並列処理、言語理解。
思考加速:知覚速度を通常の百倍に出来る。これにより、周囲はスローモーションに見える。
解析鑑定:対象物を解析、鑑定する。これにより限度はあるが大抵の物を知ることが出来る。
真理探求:疑問を即時探求ができ、複数探求も可能である。答えが出るかは探求したモノの種類か、所持者の経験、限界地により決まる。
並列処理:解析鑑定や真理探求した情報を即座に処理、整理が出来る。これにより、普通では無理な複数同時思考が出来、能力の同時発動を可能としている。
言語理解:対象が知能高き者ならば、共通言語を理解できる。
『開拓者』:様々な事柄を次の段階へ引き上げる方法を模索し、過程を最適化していく。成功するかどうかは対象物か、情報量による。
プロシーの持つ三つの特殊な力『気竜眼』『探求者』『開拓者』。この力があったからこそ、プロシーは今この場にいると言っても過言ではない。
プロシーは、【ガイアスラ】に来る前は、とある空間で様々な生物と戦闘を重ね、力をつけてきた。ある意味、試練の様なモノを越えてきたプロシーは、様々な力を体得している。
それを可能にしたのは、間違いなく三つの能力の組み合わせが良かったからだ。『気竜眼』は空間の把握と、気と魔力の識別が可能で、『探求者』は、解析鑑定、疑問の探求、思考加速、並列処理などの補佐的な能力に優れ、『開拓者』は、視覚と探求で得た数多の情報で、新たな技能を次々とプロシーに与えた。
そして、現在も調べていた銀の鉱石を、『開拓者』により、魔力で具現化する事が可能となったプロシー。
魔力とは、現象を発生させる源である。基本生物は皆魔力を有している。この世界の魔法も、魔力を消費して使用している。
新たに銀の具現化が可能となったプロシーは、「やったのだ!」と思い満足そうに尻尾を左右に振ると、周囲を暫く確認して、また、新たな場所に飛んで行く。
プロシーは『気竜眼』で、見た事がない気の色の場所に移動しているのだ。プロシーが前にいた空間では、砂、木、川、岩など、自然しかなかった場所だ。それらは、既に魔力で具現化可能となっている。
プロシーは、空間で過ごした日々の影響で、大体の物は魔力で具現化出来るはずと、思っている。実際、今のところはほとんどの物が具現化可能だった。その為、知識欲の塊のプロシーは、自然保護精神など皆無なので、新たな物を発見すれば、辺りを破壊して、その場所に向かうのである。
そんなプロシーが洞窟の岩を次々に小さな拳打で破壊し、様々な鉱石を解析鑑定していると。
「ウォォォォォォォォォン!」
と、何かの生物の雄叫びが聞こえて来るのだった。