18 プロシー達のステータス
プロシー達が手首にログアーツを持っていくと、ログアーツは自動的にそれぞれの大きさに収縮した。どうやら、ログアーツは伸縮自在の様だ。
それを確認したヴィクトールから機能を説明された。
ログアーツの機能
・所有者の情報の表示、名前、年齢、性別、種族、加護、称号、ステータス、魔法適正、魔法、能力が表示される。
・ログアーツにはこの世界【ガイアスラ】の地図が搭載されている。
・ログアーツはそれぞれ番号があり、番号を登録した者同士で、離れていても通話する事が出来る。また、登録した者の現在位置を確認する事も可能である。この番号を使用して、結界の出入りの承認に使う。又、現在位置を確認させない様にする事も可能。
・ログアーツには情報受信の機能があり、国や町からの知らせなど、様々な情報が自動的に受信される。
・冒険者になると、討伐履歴が残り、今までに倒した魔物が分かる。
・竜闘士になると、ランキングの表示がされ、今までの戦歴を確認出来る。
・それぞれの機能はボタンを押すことで、機能の切り替えをして使うことが出来る。
一通りの機能説明を聞いたプロシーは、ヴィクトールに問う。
「ヴィクトール、これは誰が作ってるのだ?」
「プロシー様、これは竜王様から頂いた物です。私達、加護を持つ者は、皆が持っている物で、今では必需品になっています」
「……そうなのか。ヴィクトール、これを町の皆に配る事はできないのか?」
「私も配りたいところ何ですけど、正直に言って厳しいです。ログアーツの方は沢山あるんですが、管理が厳重で独断で持って来るのが難しいんです。今回は、知り合いに無理を言って、十個ほど持ってきたんです」
プロシーの問いに、申し訳さなそうに言ったヴィクトール。プロシーはしばし考えると。
「そうか。ヴィクトール、サンボルトーグに行けば、ログアーツは手に入るのか?」
「えっ⁉︎ ……あ、あの、プロシー様。何かするつもりですか?」
ヴィクトールは嫌な予感がして、頬を引き攣らせながら尋ねた。
「ん? ただ、交渉に行こうかと思っただけなのだ。ちょっとだけ、手荒な事をするかもしれないが、仕方ない事なのだ。我輩、町の皆の為なら、手段は選ばないのだ」
プロシーの中では、既にサンボルトーグに交渉(襲撃)をする事は決まり、その方法を『探求者』で探求している最中である。相手の都合を全く気にしないプロシーであるが、仕方ないのだ。プロシーにとって大切なのは、町に住む家族であって、他の者達は、ハッキリ言えばどうでもいいのだから。
もっとも、プロシーは、配慮する事を多少は覚えたので、被害を出したとしても、最小限にとどめる様にはなっている。しかし、プロシーの最小限が、他の者の最小限と同じかと言えば、そう言う訳ではないのだが。
プロシーの考えを理解したヴィクトールは、冷や汗を大量に流しながら。
「え、え〜とですね。ちょっと待っていただけると嬉しいんですけど。あ、あれです。サンボルトーグは遠いですし、プロシー様も皆の前に出るのは、危険があるのでは」
「ん? ヴィクトール、我輩に距離は関係ないのだ。言ってなかったが、我輩はもう、ガイアスラ中を飛び回ったから、何処にでも直ぐに転移出来るのだ。それと、我輩の事は心配ないのだ。誰が来ようと負ける気はないのだ」
「……そうですか」
思惑が外れたヴィクトールは、俯きながら呟く様にそう言った。ヴィクトールの様子を見たユイ達は。
「ヴィクトールさん、諦めが肝心よ。プロシーがこうなったら、絶対に止まらないから」
「だね。ヴィクトール、諦めて被害が出ない方法を考えた方が懸命だよ」
「そうですよ、ヴィクトールさん。こうなったプロシーちゃんに、交渉は不可能ですよ」
同情した様な顔でそう告げた三人。ヴィクトールは顎に手を置き少し考えると。
「分かりました。ログアーツは私が何とか準備しますから、ちょっとだけ、待っていてもらえますか?」
「了解なのだ」
「ありがとうござます。……プロシー様、その、出来ればステータスを見せて頂いても良いですか?」
ヴィクトールは、気になっていた事を思い切って尋ねた。自身と竜であるプロシーの力の差を確認する為に。竜王には絶対に聞けないが故に尋ねた事でもある。
聞かれたプロシーは平然と告げる。
「別に構わないのだ。そうなのだ。どうせなら、ユイ、ロンロ、クリスもステータスを確認しようなのだ」
「「「了解」」」
「では、私も」
プロシー達はログアーツのステータスボタンを押した。すると、ログアーツの上空に、透明な四角の画面が浮かびあがり、情報が表示された。
名前:プロシー
年齢:0歳
性別:男
種族:エメラルドドラゴン『気翠玉竜』
加護:なし
称号:なし
筋力:300 [気纏+562000]・[剛気纏+4370000]・[超気纏+測定不能]
体力:2000 [気纏+562000]・[剛気纏+4370000]・[超気纏+測定不能]
敏捷:400 [気纏+562000]・[剛気纏+4370000]・[超気纏+測定不能]
魔力:測定不能
気力:測定不能
攻撃:S
防御:S
回復:S
解析:S
空間:S
具現:S
生成:S
複合:S
刻印:S
特殊:S
異能:『気竜眼』・『探求者』・『開拓者』
体得:気法・闘気・魔技・具現・合技
気法:”気纏[+剛気纏][+超気纏]” ”圧縮” ”放出” ”性質変化” ”形状変化[+変幻自在]” ”気配感知[+確定感知]” ”気配遮断[+明鏡止水]” ”活性[+超速活性]” ”縮地[+剛縮地][+超縮地]”
闘気:”衝撃化” ”圧力[+威圧][+重圧]”
魔技:”圧縮” ”放出” ”形状変化[+変幻自在]” ”衝撃化” ”イメージ生成” ”複合生成[+性質融合][+性質除去]”
魔法:”攻撃魔法” “防御魔法” ”具現魔法” ”生成魔法” ”紋章魔法” ”複合魔法” ”空間魔法” ”刻印魔法” ”特殊魔法”
属性:”火” ”水” ”氷” ”地(砂、土、石、岩、木)” ”風” ”雷”
具現:”紋章” ”鉄” ”銅” ”銀” ”糸[+布]” ”皮[+革]” ”トマト[+種][+実]” ”綿” ”ガラス” ”魔鋼” ”花(白、青、赤、緑、黄、黒)” ”刻印” ”レンガ” ”石英” ”プラスチック” ”紙” ”塗料” ”インク”
合技:”具現纏[+竜纏][+人纏]” ”爆裂波[+剛気爆裂波][+超気爆裂波]”
合技:気と魔力の合せ技。
名前:ユイ
年齢:15歳
性別:女
種族:猫人
加護:なし
称号:なし
筋力:200 [気纏+23000]・[剛気纏+93000]
体力:500 [気纏+23000]・[剛気纏+93000]
敏捷:400 [気纏+23000]・[剛気纏+93000]
魔力:310000
気力:320000
攻撃:E
防御:E
回復:E
解析:E
空間:E
具現:E
生成:E
特有:夜目
体得:気法・闘気・魔技・合技
気法:”気纏[+剛気纏]” ”圧縮” ”放出” ”形状変化” ”縮地[+剛縮地]” ”気配感知” ”気配遮断” ”活性”
闘気:”衝撃化” ”圧力[+威圧]”
魔技:”圧縮” ”放出” ”形状変化 ”衝撃化”
合技:”爆裂波[+剛気爆裂波]” ”天駆[+剛天駆]”
夜目:夜でも普通に見える
名前:ロンロ
年齢:19歳
性別:女
種族:狼人
加護:なし
称号:なし
筋力:500 [気纏+20000]・[剛気纏+91000]
体力:700 [気纏+20000]・[剛気纏+91000]
敏捷:500 [気纏+20000]・[剛気纏+91000]
魔力:310000
気力:310000
攻撃:E
防御:E
回復:E
解析:E
空間:E
具現:E
生成:E
特有:夜目・超嗅覚
体得:気法・闘気・魔技・合技
気法:”気纏[+剛気纏]” ”圧縮” ”放出” ”形状変化” ”縮地[+剛縮地]” ”気配感知” ”気配遮断” ”活性”
闘気:”衝撃化” ”圧力[+威圧]”
魔技:”圧縮” ”放出” ”形状変化 ”衝撃化”
合技:”爆裂波[+剛気爆裂波]” ”天駆[+剛天駆]”
超嗅覚…通常の二十倍まで、嗅覚を良くする事が出来る。
名前:クリスティーナ
年齢:17歳
性別:女
種族:ハーフエルフ
加護:なし
称号:なし
筋力:100 [気纏+17000]・[剛気纏+86000]
体力:300 [気纏+17000]・[剛気纏+86000]
敏捷:200 [気纏+17000]・[剛気纏+86000]
魔力:340000
気力:340000
攻撃:A
防御:A
回復:A
解析:D
空間:D
具現:D
生成:D
異能:『狙撃者』
体得:気法・闘気・魔技・合技
気法:”気纏[+剛気纏]” ”圧縮” ”放出” ”形状変化” ”縮地[+剛縮地]” ”気配感知” ”気配遮断” ”活性”
闘気:”衝撃化” ”圧力[+威圧]”
魔技:”圧縮” ”放出” ”形状変化 ”衝撃化”
魔法:”攻撃魔法” ”防御魔法”
属性:”地(砂、土、石、)” ”雷” ”風”
合技:”爆裂波[+剛気爆裂波]” ”天駆[+剛天駆]”
『狙撃者』:遠視、精密狙撃、暗視
遠視:一方向最大五キロまで視認可能。
精密狙撃:狙い外す事なく狙撃出来る。
暗視:暗闇でも問題なく視認可能。
名前:ヴィクトール
年齢:19歳
性別:女
種族:人間
加護:雷竜王の加護
称号:【サンボルトーグ】代表者 魔術等級[一級] 竜闘士[250位]
筋力:200 [雷竜王の加護+100000]
体力:400 [雷竜王の加護+100000]
敏捷:300 [雷竜王の加護+100000]
魔力:400 [雷竜王の加護+100000]
攻撃:A
防御:A
回復:A
解析:A
空間:A
具現:A
生成:A
異能:『抜刀師』
加護:雷魔法特大強化・雷魔法遠隔操作・雷特大耐性・身体強化・魔力強化
体得:魔技
魔技:”圧縮” ”放出” ”形状変化 ”魔力感知”
魔法:”攻撃魔法” ”防御魔法” ”回復魔法” ”解析魔法” ”空間魔法” ”具現魔法” ”生成魔法”
属性:”火” ”水” ”氷” ”風” ”雷”
『抜刀師』:剣速上昇、威力上昇、見切り
剣速上昇:抜刀した際、攻撃速度が大幅に上がる。
威力上昇:抜刀した際、攻撃威力が大幅に上がる。
見切り:相手の動きをある程度把握出来る。
ユイ、ロンロ、クリスがそれぞれのステータスを見比べて「やっぱりユイの活性量が一番多いね」「クリス姉さんは異能持ちだったんだ。どうりで射撃が外れない訳ね」「雷竜王の加護って凄いんですね」など、様々な感想を言っていた。
そして、プロシーのステータスを見たユイ達は、圧倒的な力に驚愕しながらも「0歳なんだ。竜って何でもありね」と思っていた。そんなユイ達を「皆どうしたのだ? 何かあったのか?」と思い、不思議そうに見ていたプロシーであった。
力の差を理解したヴィクトールは「確かにこれなら、樹海は吹き飛ぶわね。町長が言っていた通り、プロシー様の力も竜王様と同じ超常の域だわ」と思い、プロシーを絶対に怒らせてはならないと、深く胸に刻んだ。
ちなみに、プロシー達の気力、魔力が異常に高いのはエメラルドトマトの恩恵なのだが、プロシー達はまだ気づいていない。エメラルドトマトを二ヶ月食べ続けた今となっては、町の全住民がヴィクトールの魔力量を超えていたりする。
ステータス表示の異能とは能力区分の一つで、【ガイアスラ】では四つの能力に識別されている。その区分は超越スキル(圧倒的な能力)、異能スキル(特異な能力)、特有スキル(生物特有の能力)、体得スキル(覚えた能力)である。超越スキルと異能スキルを持つ者は、超越者、異能者と呼ばれる事がある。
竜王の加護以外の一般の加護にはランクがあり、そのランクは個人の資質によって決まる。ランクはS〜Eまである。Sの最高値が10000で、Eの最低値が700である。加護のランクによって、入れる職業が決まったりする。
竜闘士とは、中央国【カントリー】のコロシアムで日々行なわれている、竜闘会に出場して、お金を稼ぐ者達の事である。竜闘士にはランキングがあり、上位になるほどに得られる金額はあがる。
そんな話をヴィクトールから聞いたプロシーは、机の上で二本足で立ちながら、小さい手でパンと叩いて楽しそうに言う。
「そうなのだ! 我輩達もコロシアムに出るのだ!」
「「「「え⁉︎ 何故⁉︎」」」」
「簡単なのだ! 我輩達の力を世界に見せるのだ! そうすれば、我輩の家族は自由に色んな場所に行けるのだ! それに、我輩の力を見せる良い機会なのだ! そして、我輩はこの世界に忠告するのだ! 我輩の家族に手を出せばどうなるかを! とっても、良い考えだと思うのだ!」
小さな手で握り拳を作り、目をキラキラさせて、強く叫んだプロシー。どうやらプロシーの中では、コロシアムの参加は決定事項の様だ。
それを見たユイ達は、少し考えると。
「そうね! プロシーの言う通りかもね! 私もどれだけ強くなったのか試してみたい!」
「私もだよ! 武道をたしなむ者として、一度くらいはコロシアムに出てみたいね!」
「私も出たいです! 私とプロシーちゃんの”風銃チャージライフル”が、最強の武器だと言う事を世界に見せてやります!」
三人も乗り気な様で、コロシアムに参戦する気満々である。そんなプロシー達とは対照的に、頭を抱えていたヴィクトールは、顔を上げると。
「あの〜盛り上がってるところ悪いんですけど、多分、コロシアムに出れませんよ」
「⁉︎ ヴィクトール、何故なのだ?」
「え〜とですね、コロシアムに出るには、まず連盟闘士機関、通称マーシャルに登録しないとダメなんです。ですから、恐らく弱いと思われてる加護のないユイ、ロンロ、クリスでは登録してもらえないと思います。残念ながら、今の世界はそういう風潮があるんです」
ヴィクトールは無念そうに言った。
「ヴィクトール、その心配ならいらないのだ。我輩、交渉は得意なのだ! それに、もし断られても、強ければ良いのだろう? その時は、またどこかを吹き飛ばして、我輩の力を見せてやるのだ!」
非常に物騒な事を、強く叫んだプロシー。それを聞いたヴィクトールは、断られた後の、プロシーが巻き起こすだろう事態を考え、顔を青ざめさせると、疲れた様に告げる。
「プロシー様。コロシアム参加もちょっと待ってて下さい。そっちも私が何とかしますから」
「そうか? じゃあ、ヴィクトールに任せるのだ! ヴィクトール、色々ありがとうなのだ! それまで、我輩達は、コロシアムに向けて鍛錬してるのだ! 我輩、そろそろリム達と遊ぶ時間だから行くのだ! ヴィクトール、さらばなのだ!」
そう言ったプロシーは、”空間転移”でヴィクトール達の前から消えて行った。ヴィクトールは疲れた様に机に覆いかぶさると。
「はぁ〜、プロシー様って、行動派なのね。ほっとくと、何するか分からないわ」
「まぁ、プロシーには、そういうところは確かにあるけど、全部、私達の為だからね。私は嬉しい限りだよ。ヴィクトール、苦労をかけるね」
「良いのよ。今の私に出来る事はこのくらいだから。それに、プロシー様のやろうとしてる事は、私が長年夢見た事だから、自分の為でもあるのよね。……プロシー様は凄いわね。あっという間に、色んな事を変えちゃう。……ちょっとだけ、嫉妬しちゃうかも」
「……ヴィクトールさん。私はヴィクトールさんに感謝してるわ。ヴィクトールさんが居なかったら、多分私達はこの世に居なかったわ。ヴィクトールさんが、私達を守ってくれていたから、プロシーに出会えたのよ。私はそう思ってる」
「そうですね。ユイちゃんの言う通りですね。プロシーちゃんと出会えたのは、ヴィクトールさんが尽力してくれたからですね。もしかしたらプロシーちゃんは、ヴィクトールさんの願いを叶える為に、神様が送ってくれた竜なのかもしれませんね」
机に顔を伏しながら悲しげに告げたヴィクトールに、ユイとクリスが優しく微笑みながら想いを伝えた。それを聞いたヴィクトールは顔を上げて三人を見ると。
「プロシー様が神様の贈り物ね。……そうだったら嬉しい限りね。じゃあ、プロシー様は私のモノと言う事になるのかしら?」
「「「それはない‼︎」」」
「ちょ、ちょっと、三人とも落ち着いて⁉︎ じょ、冗談だから! だ、だから武器を私に向けないで!」
殺気と武器を向けてくる三人に、ヴィクトールは後ずさりしながら、必死に冗談だと叫んだ。弁明を聞いた三人は武器を魔法袋にしまい、殺気を出すのを止めると、代表してロンロが笑顔で言う。
「いや〜悪かったね、ヴィクトール。どうもプロシーの事となると、自分を抑えられなくなるんだよ。今後は私達の前で、不用意な発言をしないでくれよ」
「わ、分かったわ。……ね、ねぇ。もしかして貴方達って、プロシー様が好きなの?」
恐る恐る尋ねたヴィクトール。普通の常識で考えれば、人ではないプロシーを、そういう対象として、見るはずがないと思いながら。
だが、問われた三人は平然と。「好きだよ」「好きです」「好きよ」と躊躇なく返答した。
「ちょ、ちょっと待って! プロシー様は確かに可愛いわ! だけど、人じゃなくて竜なのよ! 貴方達はそれで良いの!」
「「「? 何か問題でも?」」」
「え? それは、ほら、先の事を考えると……こ、子供とか色々な事を考えるじゃない」
ヴィクトールは綺麗な顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに言った。それを聞いた三人はやれやれといった様な感じで。
「ヴィクトール、そんな事は些細な問題だよ。子供なんてできなくても、私達はプロシーと一緒に入れれば満足なんだから」
「そうですよ。私達の愛は本物です。愛に人か竜かは関係ありませんから」
「そうそう。本当の愛は、常識に囚われないものなのよ」
誠に非常識ながらも、ある意味、真理に近い事を言う三人であった。そう告げられたヴィクトールは、少しの間、目をつむり何かを考えた。そして、目を開け三人を見ると。
「確かにそうかもね。ユイ、ロンロ、クリス、特別に良い事を教えるけど、他言してはダメよ。実はね、竜王様は人の姿になれるの」
「「「⁉︎ ほ、本当⁉︎」」」
「ほ、本当よ。だから、落ち着いて。プロシー様は竜王じゃないから、人に慣れるかは分からないけど、可能性はあるわよ。この話は一部の人しか知らないから、絶対に他言してはダメだからね。私は貴方達だから教えたんだから。じゃ、私はそろそろ帰るわね。三人とも、色々と頑張ってね」
ヴィクトールは優しく微笑みながら、そう告げると、家から出て行った。話を聞いたユイ達は、放心状態で少しの間、立ち尽くしていた。無理もない。三人にとっては、とても嬉しい話だったのだから。
ユイ達はプロシーが竜という事で、子供は諦めていたが、本音を言えば欲しかったのである。それが、ヴィクトールの話で、子供が出来るかもしれない希望が出来たのだ。三人にとっては青天の霹靂の様な情報だった。
故に三人の目的は、プロシーと生涯一緒にいる事から、プロシーと添い遂げ、幸せな家庭を作るにグレードアップした。三人の中では既に、幸せな家庭を思い描いており、プロシーの人の姿を想像して、とても楽しみにしていた。
幸せそうな表情で、一通りの妄想を終えた三人は、同時にある事に思い至り、同時に叫ぶ。
「「「初めては私!」」」
「な⁉︎ 姉さん達、何言ってるの! プロシーの初めては私よ! そもそもプロシーは、私がこの町に連れて来たんだから、当然初めては私が貰うわ!」
「そんなの関係ないよ! ここは一番年上の私が、プロシーをリードすべきだよ! 二人は私の後だよ!」
「二人とも何言ってるんですか! それに、年上でもロンロ姉さんは経験がないじゃないですか! ここは、真ん中の私がプロシーちゃんの初めてを貰います! それで、万事解決です!」
互いに全く引かない三人。それからも、三人は自分こそが最初に相応しいと、熱弁を繰り広げた。だが、誰も納得するはずもなく、只々時間が経過した。約三十分言い合いを続けた三人は、はぁはぁはぁと息を荒げた。
このままではらちが明かないと思ったユイが。
「姉さん達、じゃあ、こうしましょう。コロシアムの優勝者が、プロシーの初めての相手よ。どう、これなら文句はないでしょ」
「私はそれで構わないよ。いい機会だから、姉の威厳を見せるとするよ」
「私も良いですよ。私と風銃チャージライフルの力を、二人に見せてあげます」
「じゃあ、決まりね。恨みっこなしだからね!」
「「もちろん!」」
三人はコロシアムで勝敗を決める事になった。しかし、暑くなった三人は忘れている。そのコロシアムには、プロシーが出場しようとしている事を。三人がそれに気づくのは、少し後の事で、どうにかプロシーを出場させない様にと、奮闘する事になるのだが、それはまた別の話である。
こうして、プロシーの意思を全く考慮しない三人の、熾烈な争いが切って落とされ、三人はコロシアムに向けて、鍛錬を開始するのだった。