16 報告
ヴィクトールは、プロシー達の町から帰った翌日の朝に、報告書を纏めて、情報を各国に流した。
その内容は、簡潔的で。
樹海、その近隣の土地の崩壊を確認。
樹海が実在した場所は、広大な海と化した。
原因は調査したが不明。
何かしらの超常現象の可能性あり。
と、中々激しくツッコミを入れられそうな報告をした。
しかし、現に樹海は無くなっており、エメラルドの閃光にしても、その信じがたい破壊力から、誰も思いつく事が無い為(竜王の事を除けば)、納得はしないものの、ツッコミもなかった。ただ、事実として、そんな事態が起こったという事が、各国の人々に恐怖を刻んだ。
その為、各国では、結界の強化作業、新たな防御結界の開発計画の発案など、それぞれ対策をしようと動き出した。
報告を終えたヴィクトールは、特に追求もなかった為、とりあえず安心した。そんなヴィクトールは、サンボルトーグにある自室の机の椅子に座り、天井を仰ぎながら。
(プロシー様かぁ。凄く可愛かったなぁ。ユイ達、町の皆んなも元気そうだったし、プロシー様が居れば、あの町は安心ね。……やっぱり、プロシー様に触りたい。……そうだわ。今度、服を貰ったお礼に、ログアーツやお菓子を持って行けば良いんだわ。そうすれば、プロシー様と仲良くなれるかも)
そう思ったヴィクトールは、早速、お土産の厳選を始めるのだった。
***
サンボルトーグの貴族領にある、とある豪華な屋敷のホールの様な広い部屋に、数人の男達が豪華な椅子に座っていた。
「原因不明の閃光か。世界はまだまだ不思議な事があるな」
「そんな話はどうでも良い! どうするのだ! 黒の大鷲どもは、恐らく死んだ! これでは、獣人奴隷が手に入らないぞ!」
「落ち着け。あの様な輩は他にもゴロゴロ居る。それよりも気になるのは、獣人を攫ったと報告を受けた直後に、樹海が吹き飛んだ事だ。偶然だとは思うが、これが偶然でないとすると」
「バカな事を言うな! あの様な事、誰に出来る! 例え、竜王の加護を持つ者でも無理だぞ! あんな事が出来るとすれば、竜王様くらいだ!」
「……そうだな。考えすぎか。……しかし、実際に起きた事も事実だ。念の為に、加護無しの町を調査してみないか」
「それは構わんが、誰にやらせる? 我らの事をヴィクトールに知られては、立場が危うくなるのだぞ」
「分かっている。そうだな。今度は、冒険者どもを使うか。奴らは金さえ払えば、大抵の依頼は熟すだろう。ギルドを通せば、顧客情報は漏れる心配もない。仮に、ヴィクトールに冒険者どもが見つかっても、ただの調査だ。問題になる事はないはずだ」
「分かった。それでいくとしよう」
***
地竜王が守護する国【アーオムル】。この国には森人、エルフが住む。【アーオムル】は王制で、一人の王が国の全てを決める。【アーオムル】に住む森人は、自然を愛し、主に巨大な木を加工した家屋に住む。
【アーオムル】で二番目に大きな大樹、王の木。王の木は何処か神秘性を感じさせる木で、中は広大で、五十の階層に分かれている。その最上階の五十層には、現在複数の森人が居る。集まっている森人の髪は黄緑色の事から、恐らく森人逹の髪の色は、クリスと同じ黄緑なのだろう。
裁判所の裁判長の様な、高い位置の席に座っている一人の美しい女性が。
「今回の件、あなた達はどう思いますか?」
と、前方に跪いている者達を見下ろしながら尋ねた。膝まづいている者達も皆美形だ。どうやら、森人には美形しかいない様だ。その内の一人の男が顔を上げて。
「シェール様。恐れ多くも、意見を述べさせていただきます。私はあの閃光を直接見たのですが、到底人の為せるモノではないと思われます。可能性があるのは、各国の竜王様の、どなたかの所業かと思われますが」
「確かにそう考えるのが普通です。しかし、竜王様とは基本国を離れません。故に、竜王様の所業の可能性は極めて低いと言えます。仮に竜王様ではないとすると、わたくし達では到底太刀打ちできない者が存在する事になります。もっとも、ヴィクトール殿の報告にあった、頂上現象の可能性もありますが。つまり、仮にそんな存在がいるとすれば、早急に何らかの対処をしなければならないという事です。そこで、わたくし達は、独自に調査をしようと思います。調査範囲は、森の全土。それで何もなければ、とりあえず調査は中止です。早速、調査班の選抜に入って下さい。念の為、言っておきますが、超常の存在がいた場合は、決して手を出さずに報告すること。わたくし達では、どうやっても勝てる相手ではないでしょうから。あなた達、よろしいですね」
「「「「はっ!」」」」
森の国の女王、シェールの言葉を聞いた者達は、即座に動き出し、調査班の選抜を開始した。
***
とある暗い部屋に二人の男が居る。一人の者が、椅子に深々と腰掛け、もう一人の者が、忠誠を示す様に、膝まづいている。椅子に座る者が、楽しそうな感じで。
「ワーバルよ。お前が合ったという、モフモフは凄まじいな。あの一撃、あんな威力のモノを放てる者は、この世界には竜王ぐらいしかいないはずだ。流石わ、竜というところだな」
「主人、楽しそうに言わないで下さい。それにしても、奴が竜だったとは。あの時に戦わなかったのは、正解でした」
「そうだな。竜に勝つなど、今の我らには不可能な事だ。だが、いずれは倒さねばならん。ワーバルよ、竜に消された者達の変わりに、新たな者達を探せ。我らはまだ、目立つわけにはいかないからな。今しばらくは、魔物狩りをして力を高める。次の段階に進むのはその後だ。他の者にもそう、伝えておけ」
「はっ!」
そう返事をしたワーバルは、ワイダールの前から、転移の魔法陣の白い光と共に消えて行った。その後、ワイダールは椅子に座り、顎に右手を置きながら。
(竜が六体か。全くもって笑えない冗談だ。普通に考えれば、竜になど勝てるはずがない。だが、気を使う竜は、突如現れたあのモフモフ一体だけ。……あのモフモフをどうにか仲間に引き入れられないものか。……我らがあの町を襲った以上、無理な話か。まぁいい。あのモフモフは、加護無しの町を襲わない限り、敵対する事にはならないはずだからな。私も、新たな人材の確保に動くとするか)
そう考えたワイダールは、椅子から立ち上がり、ドアから出て行くのだった。
次回、日曜の7時頃投稿予定です。