13 町での日常
え〜予定よりだいぶ遅くなりましたが、投稿します。今後も予定より、遅い事は度々あると思いますので、その場合はご容赦ください。
一月が経過し、春季五月五日、日が昇ったばかりで、肌寒さを感じる早朝、プロシーは町の上空での鍛錬を終了して、ユイ達が眠る場所へ”空間転移”した。”空間転移”はプロシーが転移の魔法陣を改良して作った、転移魔法である。プロシーは『気竜眼』の範囲ならば、自在に瞬間移動出来る様になっている。
移動したプロシーは、それぞれのベットで寝ているユイ、ロンロ、クリスの上に移動して。
「ユイ、ロンロ、クリス、朝なのだ! 早く起きるのだ! これから朝の鍛錬なのだ!」
「ん〜。もう〜そんな時間〜。う〜ん〜〜〜ふぅぅぅ。プロシー、おはよう」
ユイは上半身を起こし、背伸びをすると微笑んで言った。プロシーは「ユイ、おはようなのだ!」と元気に言うと、ユイに求められ腕の中に移動した。朝起きたら、プロシーをモフモフするのが、ユイ達の日課なのである。
プロシーは体の力を抜いて、目を閉じながら、気持ち良さそうにモフモフされている。実はこの一月で、ユイ達はプロシーの喜ぶ撫でるポイントと撫で方を発見したのである。プロシーは顎の下と、背中、尻尾、翼を優しく撫でられるのが、特にお気に入りなのだ。この発見のおかげで、ユイ達三人は何時でもプロシーをモフモフ出来る様になった。もちろん、発見出来たのは、ユイ達三人の地道な努力の結果なのは、言うまでもない事である。
プロシーは三人にモフモフされるのは、気持ち良い為、求めらると嬉しそうに腕の中に移動するのだ。完全に三人の撫でテクに落とされたプロシーであった。
しばし、プロシーをモフモフして上機嫌のユイは、ぐっすり寝ているロンロとクリスを見て「仕方ないわね」と思い、笑顔で。
「ねぇ、プロシー。ロンロ姉さんやクリス姉さんより、やっぱり私が一番よね〜。プロシーの一番は私だもんね〜」
「な〜んだ〜って〜」
「そんな事〜認めませんよ〜」
ユイの言葉を聞いたロンロとクリスは、即座にムクッと上半身を起こして、不満の表情でユイを見て告げた。ベットから出て、着替えを済ませたユイは。
「姉さん達、おはよう。何時もの冗談よ。早く、鍛錬に行くわよ」
「ユイ、待った。まだ私達はプロシーを抱きしめてないよ」
「そうですよ、ユイちゃん。プロシーちゃんを抱きしめないと、私達の朝は始まらないんですよ」
「ふ〜ん。だったら早く起きるのね。私はプロシーと一緒に先に行ってるからね」
両腕を前に出して、プロシーを要求した二人に対して、ユイは微笑みがらそう言うと、プロシーを抱いたまま颯爽と走り去った。それを見た二人は「あ!」と叫ぶと、急いでパジャマから服に着替えてユイの元へ向かい、プロシーをモフモフすると「あ〜〜癒される」と幸せそうにしていた。
それからプロシー達は、朝の鍛錬を外で住民達全員で行った。ユイ達の鍛錬は、”天駆”、”縮地”での走り込み、一対一の模擬戦、一対複数の模擬戦、各班に分かれての陣形練習、各自の技量アップなど、各々様々な事をやっている。
基本として鍛錬は朝の一時間だけで、後は各自の自主性に任せている。住民達は基本として、様々な役割に別れている為、鍛錬ばかりもできないのである。もっとも、プロシーは、自身で皆を守ろうとしている為、鍛錬を強要したりはしないのだ。
鍛錬が終わったプロシー、ユイ、ロンロ、クリスはいつもの様に、家に帰りお風呂に入る。プロシー達の家のお風呂は、大きな岩に丸く穴を開けた物である。ユイ、ロンロ、クリスは一矢纏わぬ姿でお風呂に入り、気持ち良さそうに手足を伸ばし、リラックスして、プロシーの気で活性させたお湯に浸かっている。三人の透き通る様な白い肌が、お湯の心地よい温度により火照り、三人のツヤのある髪、サファイヤの様な瞳と相まってとても綺麗である。
三人は気持ち良さそうにお湯に浸かりながら。
「あ〜何度入ってもこのお湯は最高〜ね。これも全てはプロシーのおかげね〜」
「だね〜。本当にこのお湯は気持ち良いよ〜。全ての疲れが癒される様だよ〜」
「ですね〜このお風呂なら何時までも入ってられそうです〜」
ちなみに、プロシーはというと、自分専用の小さなお風呂に入り、仰向けのグダ〜としたお気に入りの姿でお湯を堪能している。そんなプロシーにユイが尋ねる。
「ね〜プロシー〜そろそろ良い?」
「ん〜。分かったのだ〜」
プロシーは返事をすると自分のお風呂から出て、ユイの腕の中に移動した。ユイは微笑みながら幸せそうに。
「う〜ん。やっぱりプロシーを抱きしめて入るお風呂が一番ね〜。これ以上の気持ち良い事はないわ〜。ど〜プロシー、ここ気持ち良いでしょ〜」
「そうなのだ〜。そこが良いのだ〜。もっとやってほしいのだ〜」
「プロシー気持ち良さそうだね〜じゃあ、私も加勢するよ〜」
「私もです〜プロシーちゃん、気持ち良いですか〜」
「気持ち良いのだ〜」
三人にとってこのお風呂時間は、凄い楽しみなのだ。何故なら、プロシーのフワフワの体毛は、お湯に入るとしっとり感が追加されて、最高の感触になるからだ。普段のプロシーの体毛も最高なのだが、お風呂の時はその上を行くのである。
お風呂で癒されているプロシーは、凄く柔らかいモノに挟まれている。だが、プロシーは特に気にしない。プロシーの興味があるのは、トマトと美味しい料理、未知の物なのだ。
暫く、お風呂で癒されていたプロシー達は、お風呂から出ると食堂に移動した。この三十日の間、プロシー達は食堂で、全員一緒に食事をしている。食堂の中は大きなホールの様な感じで、大きな机が一つあり、その周りに千脚以上の椅子がある。
プロシーの位置は決まっており、一番奥の席の中央である。他に奥の席に座るのはユイ、ロンロ、クリス、ゼダである。奥の席に座れるのは、戦闘の実力順と言う事になっている。
机の上で猫の様に丸くなり、ロンロとクリスにモフモフされているプロシーを見て、近くで座っていたゼダが。
「ロンロ、クリス、お前達、プロシー様に失礼な事はしてないだろうな」
「町長、私達がそんな事をするわけないよ。プロシーは大事な家族なんだから」
「ロンロ姉さんの言う通りです。私達はいつも仲良しですよ」
「そうか。なら良いが、くれぐれも粗相はするなよ」
「分かってるよ。毎日の様にこうして町長に言われるから、耳にタコができそうだよ」
「ですね。町長はもっと、私達を信用してくれて良いと思うんですけど」
ゼダ、ロンロ、クリスが座りながらそんな雑談をしていると、料理を運んできたユイが微笑みながら。
「プロシー、お待たせ。料理できたわよ」
「ユイ、ユイ、今日の料理は何なのだ!」
料理と聞いた瞬間、即座に立ち上がり尋ねたプロシー。
「今日はね〜エメラルドトマトのミートスパゲッティよ」
「お〜美味しそうなのだ〜」
プロシーは目の前に置かれた料理を見て、目をキラキラさせながら言った。エメラルドトマトのミートスパゲッティは、ミートソースがエメラルドに煌々と輝いている綺麗な料理だ。まるでオーロラの様な美しい光景を楽しみつつも、今日も何時もの様に、黙々と食べる住民達。
この町の主食は、プロシーが来てからはエメラルドトマトなのだ。皆最初は色と輝きに驚いていたが、食べた時の美味しさが凄まじく、満場一致で主食となったのである。というか、エメラルドトマトはもはや、トマトの味を超越した食べ物なので、トマトが嫌いだった住民も美味しく食べる事が出来るのだ。
食べ終わったプロシーはユイの前へ、テコテコ歩いて行くと。
「ユイ、いつも美味しい料理ありがとうなのだ! 我輩とっても幸せなのだ!」
「良いのよ、プロシー。私はプロシーに喜んで貰える様に、頑張ってるんだからね」
お礼を言ったプロシーに、微笑んでプロシーに触れながら返答したユイ。料理はユイを筆頭に、町の女性達が皆の分を作っているのである。
「ユイは前から料理上手だったけど、プロシーが来てからは、更に腕前が上がったよね。私はありがたい限りだよ」
「そうですよね。ユイちゃんの料理は、何でも美味しいですからね」
「そう思うなら、お前達もやったらどうだ? 女たる者、料理ぐらい出来ないでどうする」
ロンロとクリスの意見を聞いたゼダは、二人を見ながら告げた。それを聞いたロンロとクリスは。
「町長、私達だって料理は出来るんだよ。けど、ユイの腕には遠く及ばないんだよ。プロシーに食べて貰う以上、一番料理上手なユイに任せるしかないだろ。町長に食べさせるなら、私達が作るけどね」
「ですよね。町長だったら私達が作りますよ」
「……お前達に俺を敬う気はないのか」
「ないよ」
「ないです」
ゼダの問いに、即答したロンロとクリスだった。ゼダは「俺はいつ育て方を間違ったんだろう? あの時か? それとも、あの時か?」と神妙な顔をして、過去を思い出していた。
そう、ゼダは、六年前からロンロ、クリス、ユイの父親代わりをしているのだ。以前は三人と共に暮らしていた時期もあったが、三人が年頃になった為に、別々に暮らしているのである。
食後の休憩で、皆が椅子に座りながら雑談をしていると、テコテコ歩いて来た可愛らしい幼女が。
「ユイおねえちゃん! リムね、プロちゃんにさわりたいの!」
腕を広げながら、プロシーをモフモフしているユイを見上げて言ったリムと名乗る幼女。
リムはリス人で、栗色の長髪、白雪の様な白い肌、大きなクリッとした青い瞳、リスの耳と尻尾が生えている美幼女である。リムは白のワンピース姿だ。
ユイはリムを見て微笑むと。
「リム、優しく触るのよ」
「うん!」
返事を聞いたユイはプロシーを、リムに渡した。リムはニコニコしながらプロシーに触れている。プロシーは町の住民達に触られる事は嫌がらない。その為ユイ達は、プロシーを不快にさせない為に、常に住民達に触り方の注意をしているのである。
「リム、今日は何をして遊ぶのだ? 一緒に上空飛行でもするか?」
「プロちゃん、リムはきょうね、おかあさんとちょっと、おでかけしてくるの。かえってきたら、リムとあそんでね」
「了解なのだ。リム、気をつけて行ってくるのだぞ」
「うん! プロちゃん、じゃあ、いってくるね!」
リムは笑顔でそう告げると、テコテコ走り去る。
プロシーの日常は、日々様々な住民達との触れ合いから始まる。基本としては、町を『気竜眼』で常に安全か確認しながら、自由行動をしている。プロシーが町の外に出る時は、必ずゼダに告げて、一応の注意をしてから行動したりする。
休憩が終わったプロシーとユイ、ロンロ、クリスは四人で町の外に出て、西の方にある樹海の方へ向かった。プロシー達は一定の距離を取り、新たな食材を探しつつ、魔物が沢山住んでいる樹海へ進んで行く。
プロシー達は定期的に樹海に行って、魔物の討伐をしているのである。強くなった今となっては、魔物は驚異ではないが、もしという事がある為、町の安全の為にしているのだ。
プロシー達が居なくなっても、町の警護はゼダ達警備隊がいる為、問題はない。もっとも、町にはプロシーが貼った強固な結界が常に貼ってある為、余程な事が起こらない限り、危険にはならないのだ。
樹海に移動したプロシーは、上空から三人に。
「じゃあ、いつも通り、我輩と三人の二手に分かれるのだ。心配はないと思うが、いざとなったら、切り札を使うのだぞ」
「プロシー、大丈夫よ。そんな事態にはならないと思うしね」
「それに、アレは使わない方が良いだろうからね」
「ですね。アレを使ったら、この周辺が吹き飛んじゃいますからね」
「我輩は彼方に行くが、ユイ、ロンロ、クリス、気をつけるのだぞ。じゃ、開始なのだ!」
「「「了解!」」」
それからプロシーとユイ達は別れて、各自魔物討伐を開始した。ユイ、ロンロ、クリスは魔法袋から、武器を取り出して、構えて”気配感知”を使い、”天駆”で上空を駆けながら、辺りの捜索を開始した。
ユイ達が移動すること、ほんの少しで、体長三メートル程の黒い大蜘蛛の群れを発見した。大蜘蛛の群れの数はおよそ三十匹。
それを確認したロンロは、上空でユイとクリスを見て。
「ざっと三十匹だね。じゃあ、一人ノルマ十匹にしようか。二人ともそれで良いかい?」
「私は良いですよ」
「私も良いわ」
「決まりだね。じゃ、行くよ!」
「「了解!」」
ユイ達は行動を開始した。ユイは銀剣を構え、ロンロは銀の薙刀を構えながら、大蜘蛛達の元へ”天駆”で空中を疾走して行く。
音速の如く疾走した二人は、即座に大蜘蛛達に近づくと、衝撃化した青色に輝く気を銀の刃に纏わせ一閃する。二人が真横に放った斬撃は、堅牢そうな蜘蛛の足を容易に切り裂き、放たれた青く輝く飛ぶ斬撃は、大蜘蛛の体を果物の様に切り裂き絶命させた。
それからも、ユイは高速の剣技で、ロンロは見事な薙刀捌きの一刀で次々と大蜘蛛を一刀両断して行く。
一方、空中に『飛翔』の魔法で浮かんでいるクリスは、”風銃チャージライフル”を構えて。
『装填、炎弾』
『装填』はマガジンに二十発の銀弾の生成、『炎弾』は装填された弾への属性追加である。”風銃チャージライフル”は様々な紋章魔法を収納した刻印魔法が刻まれている為、今では何でもありに近い銃となっている。
クリスは、”風銃チャージライフル”の紋章魔法に気と魔力を消費して暴風を生み出し、引き金を引く。
ビュン!
と銃声らしくない音が鳴り銀の弾丸が超高速で放たれた。銀の閃光は三百メートル以上離れている大蜘蛛の頭部に衝突するとバァン! と炸裂音を鳴り響かせ、爆発し、大蜘蛛を木っ端微塵に吹き飛ばした。
”風銃チャージライフル”は気と魔力を消費する程、強い風を生み出し、高速に打ち出す事が出来る。風は引き金を引くと紋章魔法から噴射する様になっている。
大蜘蛛を吹き飛ばしたクリスは「うふふふ、やっぱりこの銃は最高です! とっても爽快です〜! まだまだ撃ち足りませんよ!」と、とっても良い笑顔で次の標的の狙いをさだめていた。母親から銃マニアの血を受け継いだクリスは、銃を撃っている時はとても嬉しそうにしているのである。
クリスはそれからも、上空から次々と”風銃チャージライフル”で狙撃した。銀の弾丸の閃光は、狙い違う事なく、大蜘蛛に衝突して木っ端微塵に吹き飛ばした。
ユイ達が行動を開始してから、三十秒しない内に、大蜘蛛の討伐を終えた。ユイ達は更に、樹海の奥へ進んでいき、次々と魔物を討伐して行った。
およそ一時間程で討伐を終了して、いつもの様に樹海の入り口に集合したプロシー達。プロシーはユイ、ロンロ、クリスを『気竜眼』で確認して。
「三人とも、怪我がない様で良かったのだ! じゃ、町に帰るのだ!」
と、いつもの様にプロシーが元気に言うと、町に帰って行った。プロシー達が町に帰ると、またいつもの様に、ある団体が待ち構えていた。
「おい、ロンロ! 今日こそ俺と付き合って貰うぜ!」
「クリス! 今日こそ俺の女にしてやる!」
「ユイ! お前は俺の女になれ!」
「いや、三人とも俺のだ!」
「い〜や! 俺のだ!」
などなど、町の若い男達およそ三百人あまりが、それぞれ言いたい事を言っている。彼らはユイ達三人に惚れている男達なのだ。ユイは黒髪猫美少女、ロンロは銀髪狼美女、クリスは黄緑髪ハーフエルフ美少女で、三人ともその変では滅多に会えない絶世の美女と美少女だ。その為、三人は町のアイドル的存在なのである。
そんな事を言われたユイ達は。
「あんた達もしつこいわね。嫌だって何度言えば解るのよ」
「そうそう。君達、諦めが肝心だよ」
「全くです。私達に付き合う気は、一切ありませんよ」
三人は呆れた顔で男達にそう告げた。
「お前達こそ、いい加減諦めて、俺達と付き合え!」
「「「「そうだ、そうだ!」」」」
「ほぅ〜、お前達、まだ懲りてなかったのか」
「「「「げっ、町長⁉︎」」」」
ゼダを見た、町の若い男達は、後ずさりしながら、冷汗を大量に流し出した。ゼダは迫力のある熊の顔で微笑みながら。
「お前達、覚悟は出来てるんだろ?」
「「「「に、逃げろ〜〜〜〜!」」」」
「待たんか、貴様らー! 今日こそは、その腐った性根を叩き直してやるわー!」
”剛気纏”になり、一目散に散らばって逃げた男達を、同じく”剛気纏”になり、追って行ったゼダであった。その後、逃げた男達は一人残らずゼダにタコ殴りにされた。この光景は、一月の間、毎日の様に行われている、もはや恒例行事の様な感じになっている。毎日、殴られても、一向にユイ達を諦めない男達であった。
ゼダは父親として、三人に悪い虫が付く事を良しとしないのだ。ゼダは昔から、さっきの様に、三人に言い寄る男をぶっ飛ばしてきたのである。もっとも、今現在は、ユイ達三人に敵う者はいないので、ゼダが目を光らせてなくとも、大丈夫ではあるのだが、どうしても、心配なゼダなのである。
そんな光景をいつもプロシーは「皆んな仲が良くて、良い事なのだ!」と思って楽しそうに眺めている。超常の存在プロシーは、感性も超常の様だ。プロシー、ユイ、ロンロ、クリスがことの顛末を見届けて、家に帰ろうとしたその時。
「ぷ、プロシー様! 娘が、リムが攫われました!」
門の方から、そんな女性の声が響いてきたのだった。
次回、恐らく、月曜の十八時頃投稿します。遅れたらすいません。