11 画策する者達
プロシーと話した黒仮面男は、とある建物の暗い個室に転移した。そこには、椅子に悠然と座っている者が一人いた。黒仮面は椅子に座っている者に近づき、跪くと告げる。
「我が主人、報告します。例の実験ですが成功致しました。魔物共は私の指示通り問題無く動きました」
「そうか。それは朗報だぞ、ワーバルよ。早速、他の者達にも作業させるとするか」
「我が主人、もう一つ、報告があります」
「もう一つ? それは何だ?」
「実験の為に狙った加護無しの町に、以前には確認出来なかった、気を纏う小さなモフモフがいたのです。そのモフモフは、何かしらの能力があるようで、自身の体に銀を纏って巨大化して戦っており、蛇共は倒されました」
「ふむ。気を纏う者がいたのか。我らもまだ、情報収集が足りない様だな。それで、ワーバル、そのモフモフの練気はどの程度だったのだ。我らの脅威になりそうか?」
「正直、中々のモノでした。私とほぼ互角と言った感じです。なので、あの程度ならば、主人の敵ではないかと。ただ、あのモフモフの纏う気がエメラルドに輝いて見えたのですが、闘気の類ではない様です。私には輝いているだけに見えました」
「……そうか。闘気を使わずともエメラルドに輝く気か。我らの知らぬ気の使い手かもしれん。なんにせよ、そのモフモフは異質な存在の様だが、練気が私の敵では無いのなら、今は放っておけ。気の活性量は数十日で急激に上がる代物ではないからな。まずは準備が先だ。我らの目的には、必ず竜王共が立ちはだかる。今は力を蓄えねばならん。ワーバル、お前も他の者達同様、暫くの間は魔物狩りをせよ。決して目立たぬようにな」
「はっ。主人の仰せのままに」
そう言うとワーバルは立ち上がり、魔法陣の白い光と共に消えて行った。その後、主人と呼ばれた者は、顎に片手を置き考える。
(ワーバルには放っておけと言ったが、そのモフモフも気になる存在ではあるな。エメラルドの気など見た事がない。……まずは情報収集だな。この世界に気を使える者がどれだけいるか調べねばなるまい。……ふむ。実験が成功したのなら、彼にも連絡せねばな)
主人の者は考えを纏めると、椅子から立ち上がり、魔法陣の光と共に消えて行った。
***
一方その頃、雷竜王の国【サンボルトーグ】のとある建物に、金色の綺麗な長髪をなびかせながら、大理石で出来た廊下を優雅に歩く女性がいた。廊下でその金髪女性を見た者達は、男女問わず「綺麗」だと内心で思い、思わず立ち止まり見惚れている。
だが、それも致し方ない事なのだ。金髪女性は透き通る様な白い肌に、優しげな青い瞳、非常に整った顔立ちをしている絶世の美女なのだから。金髪女性の身長は百六十センチ程で、黒を主にしたスーツの様な服を身に纏っている。
金髪美女は大理石の廊下を進み、とある部屋のドアを開けて室内に入る。その部屋は大きな応接間な様な造りで、大きな机とソファーが何組もある。金髪美女はソファーの場所に移動すると
「何なの! あの、イラっとするボンクラ共は! グチグチグチグチと、うるさいのよ! いい加減私の意見を聞きなさいよ! ふざけんじゃないわよ! 彼奴ら目障りだから消しとばしてやろうかしら!」
と、非常に憤慨していた。先ほどまで、廊下を優雅に歩いていた人物と、同一人物とは到底思えない仕草である。余程怒りが溜まっているらしく、ソファーの上にあるクッションを、サンドバッグ代わりに、「オララララ」と叫びながら、プロボクサー顔負けの凄まじいラッシュで殴りつけている。
そんな荒れ狂う金髪美女に、面白がる様な笑みを浮かべた茶髪の男が近づいて言う。
「お〜お〜荒れてるね〜。我らが雷竜王スパール様に選ばれた、ヴィクトール様〜。そんな鬼の形相してたら、せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ〜」
「ジータさん、余計なお世話です! 私はムカついてるんです!」
そう、怒り狂う金髪美女こそ、ユイ達の町に度々訪れていたヴィクトールその人だった。ヴィクトールはジータと言う名の、三十代くらいの肌黒い男を睨んで返答した。ジータは身長百七十センチ程、筋骨隆々で、黒の長袖長ズボンの格好である。
「はいはい。まぁ〜落ち着けって。どうせ今回の会議でも、獣人達を国に受け入れろって話を、嫌だ、無理だ、意味が分からないって言われたんだろ? そんなの何時もの事じゃね〜か」
「だ・か・ら・イラついてるんです! 私が何度も何度も言ってるのに、あのボンクラ共『ダメです。一応、考えます』としか言わないんですよ! 今思い出してもイライラする〜!」
ジータの意見を聞いたヴィクトールは、またクッションをサンドバッグ代わりに殴り始めた。それを見て、ジータは諭す様に言う。
「お前がイラつくのは分かるが、しょうがない事だろ。仮に、獣人達がこの国に住んだとしても、不快な思いをするだけだと思うぜ。この世界は加護が無い者には辛いんだからよ。奴隷にされてないだけまだましだろ?」
「……ジータさん。私はそれが気に要らないんですよ。何故、加護が無いだけで国に住め無いのか、私には理解できません。同じ人なのに」
ジータの話を聞いたヴィクトールは、動きを止めて悔しそうに言った。
「強い者には従い、弱い者は見下す。それが人、いや生物の持つ性質ってものなんだろ。だいたい、俺もお前も加護の力が他の奴よりあるから、優遇されてるだろ。見方を変えれば一緒だ。所詮、最終的には力がものをいうからな。人間全員が獣人達を見下している訳じゃねーが、大半の奴らはそうだろうな。何にせよ、お前のやろうとしている事は難しい事なのは確かだよ」
「……分かってますよ。でも、私は諦めません! きっと加護の無い皆んなを国に、安全な場所に住める様にしてみせます! そして、私はあの子達と一緒に暮らすんです!」
「はいはい。決意表明はその変にして落ち着け。お前がその話をすると長え〜から俺は聞きたくないんだよ。今まで何回聞かされたと思ってんだ」
「⁉︎ ジータさん、そんな事言わず聞いて下さいよ〜。あの子達本当に可愛いんですよ! 特にユイが良いんです! あの柔らかい猫耳に触れると癒されるんですよ〜」
その後、ジータが、ヴィクトールの気の済むまで話を聞かされ、ジータが渋い表情で「勘弁してくれ」と内心思った事は、言うまでもない事である。
ちなみに、ヴィクトールが参加していた会議とは、【サンボルトーグ】の方針を決める評議員会議である。評議員会議には、雷竜王の加護を持つヴィクトール始め、各部門の代表者が集まり会議をしている。この会議によって決まった事は、人間達全員の法律となるのである。故にこの会議で、加護の無い者達を安全に住める様にするのが、ヴィクトールの目標なのだ。
ヴィクトールはジータに長々と話を聞かせ終わった後、スッキリした表情で部屋から出て行った。廊下を歩きながらヴィクトールは思う。
(あ〜早く皆んなに会いに行きたい〜。仕事さえ無ければ毎日行くのに〜。ユイ、ロンロ、クリス、村長、村の皆んな元気かな〜。今度行く時は美味しいお菓子でもお土産に持って行こうかな〜。きっと喜んでくれるだろうな〜)
とても良い笑顔で、そんな事を考えるヴィクトールであった。
次回、水曜日の十八時に投稿予定です。