十七話 呪いの子 呪いの魔女姫と呪いの魔王子
「子供を生まれたことで弱った魔女は戦う相手に勝てないことを悟った。
そして我が子に転生の呪いをかけた。
それがフールだ。
何度も死ぬことでやがて幼子の魂が摩耗してそして自分が復活する。
だが、それだけではない。不死の呪いを自らにかけた……もう一人の子供を使って」
「もう一人?」
出てきた言葉にオレは思わず聞き返した。
「ああ。フールは双子だ。
フールには兄がいるのだ」
「とはいえ、会ったことはありませんけれどね」
あっさりとフールは言う。
「私にかけられた呪いは転生のための呪い。
そして兄には不死の呪いをかけました」
「不死の呪い?」
「ええ。正確に言えば不死のための生贄という形だけれどね。
対象に魂の半分を付与する魔法。
それによって肉体が滅んだとしても死ぬことがない。
永遠の命を手に入れます。
それを双子の兄にかけました。
まあ。その影響で私も双子の兄が生きている限り死なないんですけれどね」
あっさりとフールは言う。
「呪いをかけられた方も基本的には死なない。
ただし年老いていく。
魂を付与した方は永遠の若さを手に入れることも出来る。
けれども術をかけられた方は年老いていく。
数千年となってしまって肉体がどれだけ限界を迎えても死ねない。
そういった存在になる呪い。
それを我が子にかけた」
ぞくり。
フィリアさんの言葉にオレはおぞましい寒気を覚えた。
死にたくても死ねない。
あいにくとそんな経験をしたことは無いが……。そういった人は実際に探せばいるのだろう。祖父ががんとなり治療を受けたことがあったそうだ。
オレは覚えていないが覚えている父曰く、苦しい。苦しいと苦しんでいたそうだ。
延命治療でそれだけ苦しんだという。
治療のために苦しい思いをすることもあり時に死んだ方がマシだ。そう言いたくなるようなこともあるだろう。それを否応なく経験する。それも年老いていくという形だ。
まだピチピチの若者。肉体がどんどんと全盛期へと近づいていく年齢。
だからこそ死なないということは魅力的に思えるだろう。
けれどもそれは全盛期が終わったら話は肉体は劣化していくのだ。今までできていたことが出来なくなってしまう。そんな老化が進んでいくのはつらくて苦しいものだ。
それを受け入れることはいずれくる死と言う終わりがあるからだ。
けれどもその死がない。
そうなればどんな風に老化をしていくのかはわからない。
目が見えなくなる。体の節々が痛むようになる。四肢が不自由になる。
そういった出来事は苦痛にしかならないだろう。
それが永遠に続く……いや。悪化していく。それはぞっとするような恐ろしさだ。
フールにかけられている呪いは想像よりもえげつないものらしい。
生きていく中で苦しむ呪いだ。
「呪いの魔女はフールが全盛期の肉体を手に入れたときに蘇る。
片方の方は肉体も全盛期で老化を止めることも出来る。
そのつもりだろう」
えげつない。
「そしてその双子の兄は呪いの魔女王を復活させようとしている」
「いや。なんで?」
思わず叫んだ。
いや。だって……。
「そんな呪いをかけてくるような相手。
どう考えても親という情なんてないだろ。
自分を産んだ母親だ。
それは感謝するべきだろうけれどさ。
だからって自分の人生を全て捨ててまで尽くすものじゃないだろ」
日本には昨今、毒親という言葉がある。
親が子供にとって毒でしか無いと言う意味だ。
いろいろなタイプがあるが中には産んでやったのだ。と、言う理由だけでその子の生涯を搾取し続け自分達が悠々自適に暮らそうとしている。
そういった親が居るそうである。
虐待、育児放棄、愛玩……。
どれもドが過ぎて締まっている結果としてそんな親なら以内方が良い。そういった状況になっている親というのもいるそうだ。
嘘か本当かわからないが……。
それでも親だからといって全てを捨てて尽くすものではないだろう。
そう思って言えば、
「まともに育てられなかった結果だな。
これは我々、大人の落ち度でもある」
そうソフィアさんは顔をしかめて言う。
「呪いの魔女王には崇拝者がいた。
元々、魔女としての高い実力を発揮しているといえる。
そういった実力などもあることから畏れもあり崇拝するものが現れるのは当然だ。
腐ってもカリスマ性があるというのもあったのだろうな」
際だった力を持つものに惹かれるというやつだろう。
理解できないわけでは無い。
スポーツ選手や武術。あるいはそういった道で際立って強い存在というのは何かしらに当人が望む望まずともファンやら心酔をする人間というのは現れる。
一応とは言え、武道の道を進んでいるのだがわかる。
その道場で強いと言うことでこびへつらうというと聞こえが悪いが……。妙にその人の機嫌を取ったりするようなやつが現れる。
中にはその人のためにと暴走をして当人の意思やら周囲の感情がわからなくなっている。そういった狂信者がいるのだ。
そしてその狂信者達が後継者となる赤子を連れて逃げようとしたのだ。
いや。正確に言えば後継者ではなく生贄というべきだろう。
そして、
「結果として娘であるフールしか助けることができなかった。
双子の兄はそのままその組織によって育てられている。
おそらく洗脳のような育てられ方をな」
その言葉になんとも言えない気分がオレを襲ったのだった。
洗脳。
赤子のうちからそういう目的もあって育てればそうなるだろう。
現代日本という児童福祉施設などがあり子供を健全、健康に育てようと言う考えがある先進国である日本でもそういった親と子はいるのだ。
これが洗脳だと自覚が無い状態で育てている親もいれば……。
自分の都合によく育てるというので洗脳に近いのもある。
何しろ相手は赤子なのだ。
赤子にとって保護者は絶対的な存在だ。
一人で栄養を取ることも出来ない赤子はとりあえず食事をくれる相手になつく。
生存に必要なことを全て与えてくれているのだ。
そこだけで絶対的な信頼というのがあるだろう。
何しろ赤ん坊は基本的に何もしない。ただただ可愛いだけだろうが悪人にとって可愛いは大して価値がないに近い存在だ。
そこからいろいろと育てないといけないのだ。
育児ノイローゼがあるように子育てはけして簡単では無いのだ。
それをしている中で、赤子というのは学習能力が極めて高い。
そもそも子供が言葉を覚えるのは親が話しているというか周囲が話している言葉を理解してだ。だから英語圏の国では英語を覚え日本では日本語を覚えるのだ。
なので語学を学ばせるなら若い内なら若い内のほうがよいと言われている。閑話休題。
とにかくそう言って育っていたのならば、実母を推奨しろ。そのために命を投げ捨てろ。そう教えられて疑問をもつことはない。
幼い頃からの当たり前を疑問にもつことなんてないのだ。
それも小学校や幼稚園といった同年代の子供や家庭と関与するようなこともないだろう環境下だとその異常性がわからない。
家庭の普通というのは他の家庭の異常であっても気づかない。
良い例がカレーだ。
家庭によってカレーが違う。水っぽいスープカレーが普通だったりとろみが強いカレーだったり……。使う肉(あるいは魚介類)の種類や部位。使う野菜や切り方。それによってやはり味付けというのは変わるのだ。
過去にカレーを皆で作ろうと言うときに肉はどうするのか? 魚を使うべきだ。ジャガイモの大きさや入れる野菜の種類などで争いになった。
結論として美味しければ良いという結論になったけれどさ。
カレーならば失敗しても笑って済ませられるが……。
子育てで洗脳目的ならば意味が無い。
しかも新手の宗教団体みたいなものだ。
宗教というのは成人して常識やら世間を知っていても洗脳されることがある。
そういった団体に赤子のことから育てられたのだ。
命を捨ててもかまいません。
そんな狂信者が生まれたとしてもさほど驚かない。
そもそも、カルト宗教(ようするにインチキ宗教団体)がお金を奪ったりあるいは犯罪行為をさせたりするのだからなー。
魔法がある世界ならもっと簡単かもしれない。
そう思って言えば、
「異世界でもにたようなのがあるのか……。
魔法でさらに悪化すると思われるのはどうかと思うが……。
魔法があるぶんだけそっちに比べると劣る技術があるんだからな」
そう言われた。
つまり魔法があるから物騒という考えはやめてほしいらしい。
確かに魔法使いに対してそれは失礼でした。僕は頭を下げた。
「まあ。そっちはさておいて……。
とにかくそういった存在もいるということですか?」
「ああ。おそらくだが今回の騒動。
その呪いの王子と呼ばれているフールの兄が所属する集団。
そういったのが動いている可能性が高いと私は思っている」
そうフィリアさんが言う。
なるほど……。
「動機は?」
「まず一つは資金調達」
なるほどわかりやすい動機だ。
「二つ目はおそらくだがフールを手にすることだ」
その言葉に全員が首をかしげた。
「あの、浚われたのはオレ……。
フールが不細工とは言いませんが……。
失礼ながら絶世の美少女とは言いませんが」
「そこがやつらの計算違いだ」
そうソフィアさんは言う。
「おそらくだが厄介な相手に惚れる。
そういう運命筋を作っていたのだろう。
上手くいけば相手は呪いの魔女が生まれ変わるために必要な存在。
そういったのを浚うと言う考えだったのだろう。
だが……」
「フールのそばにオレがいた」
「ああ。お前も厄介なネタであるからな。
そういった存在同士でより厄介な方……ではなくその呪われた方がより魅力的。そう判断できる相手に誘われる。
そういう性質があったことから失敗したんだろう」
「あー」
自画自賛になるかもしれないがオレは少なくとも見た目だけは美少女だ。
フールも愛嬌があるが今のオレに比べれば劣る。
言うとフールに失礼なので黙っておく。
「相手としても上手くいけばよいな。
そんな駄目で元々な考え方なんだろう。
もしもフールが浚われていた場合……。
奴らがフールを捕獲するために動いていただろう」
「うーん」
だとしたら、
「今。この場にフールがいるのってやばいんじゃないの?」
と、言うか自由に行動しているが大丈夫なのだろうか?
そう思って言えば、
「フールの口癖は?」
なぜかそんなことを聞かれた。
オレらは顔を見合わせて、
「「「『大丈夫です』」」」
と、即答した。
そうフールの口癖は大丈夫です。
ただし、それを言っている場合は大抵は大丈夫とは思えない状況だ。
そして確かに最悪の状況を口にするが……。
ちっとも大丈夫ではない大丈夫であった。




