十一の呪い 家柄がよいからってそいつがよいやつとは限らない
「まあ。実際のところ、その心配はない」
そうローイが言う。
「あの家は名門名家だ。
もちろんあの国の王もとびぬけて優秀とか極めて卓越したというわけじゃない。
けれどもけしてバカでもない。
特に極めて優秀というわけじゃないが愚王というわいけじゃない。
そこそこに平和なこの時代を収めるのに問題のない。
少なくとも目に見えて問題を起こすタイプじゃない」
そう冷静に言う。
「そもそもあの貴族のボンボンに関しては悪い噂を聞いていたんだよ。
頭がおかしい思い込みが激しい。
その行動の暴走気味から療養のために田舎へと移動している。
そんな話もある。
あまり表舞台にも出ていないしな」
「なるほど」
その言葉にあのバカ貴族を思い出して納得する。
確かにその行動は頭が行かれているとしか思えない。
あんなのが社交界に出ていたら色々と悪い評判になりそうだ。
あいにくと社交界というのはテレビや漫画でしか知らないんだけれどな。
だが、疑問がある。
「その割には使用人の質がめちゃくちゃ悪かったぞ。
確かに態度は良かったけれどよ。
その暴走状態がひどいからという理由で距離を取らせる。
それなら普通はその脳みそお花畑を治すためにと見張る使用人ぐらい居てもよいだろ」
あいにくと貴族というのをしらないがオレならそうする。
そう思ってオレは言う。
「問題行動を引き起こす。
その問題行動を起こさせない。あるいは起こしてしまった場合、どうにか処理できるようにする。そういった優秀じゃ人材をそばに控えさせておくもんじゃないのか?」
よくあるテレビや漫画で出てくる金や権力でわがままをふるうお坊ちゃま。そのお坊ちゃまの側近みたいなのがいる。
この場合、その側近は二通りに分かれる。
まずお坊ちゃんをどうにか機嫌を損ねないように諌めながらも問題行為をどうにかちょっとしたトラブル程度などに抑えようとする人。あるいは問題を起こさせないように厳しく教育をする人だ。
だが、彼らは違った。
はいはい。そううなずいてわがままや傍若無人、勘違いを増幅させるような取り巻き連中タイプだった。そうじゃなかったらオレが脱出できるようにしてくれたはずだ。
「確かにそれはおかしいな」
その言葉にローイも同意する。
「少なくともいくら異世界人とはいえ女を誘拐。
それは問題だ」
「しかもヨシキさんの呪いは傾国の美女。
噂を聴いたら魅入られてしまったならむしろ距離を取ろうとしますね。
そうじゃないと家が滅びます」
「まったくだ」
フルーの言葉に俺はそう同意した。
「傾国の美女という呪いはわりと有名な呪いなんだよ。
魔女王が特に好んで使っていた呪いだそうだ」
「好んで使っていたのか」
どういう性格だったんだろうか? 善人といえないということはわかっていたがなんとなくそれだけじゃなくなって気がする。
「魔力が高い人間というのは老化が遅いんだ。
だから呪いの魔女王の血族は長命長寿だったらしい」
「まあ。確かにそうですね」
ローイの言葉に呪いの魔女王の血族であるフルーが同意する。
「確か死んだ祖父も確か千年以上は生きていたはずです」
「化け物かよ」
呆れたように言う。
「ちなみにエルフ族が長命種が多い。
それはその身に種族的に大量の魔力を持つのが普通。
それだけじゃなくてその魔力を長寿、老化防止にさせやすい体質なんだ」
なるほどなー。
そんな異世界なるほど知識を得たがそこは重要じゃない。
とにかく魔力を不老、長寿に回す効率が悪いのが人間。だが、それでも規格外の魔力持ちなどあるいは邪法であるがそういった魔法を使うと話が別らしい。
「祖父の方はちょっと違いますけれどね。
ただあの女は違います」
あおう忌々し気な顔で言うフルー。
「あの女はその力を使い何百年もその若さを使っていました。
そして自分よりも美しい女性にその呪いをかけていました。
美しさで苦労して困難で絶句する。
そして数多の人が死ぬのを見るのが趣味だったそうです。
ほとんど呪いをかければ後は勝手に不幸になる。
だから遠目から見ているだけで済むから尻尾をつかむのが大変だったそうです」
何とも嫌な話だ。
とはいえ、そういったこともあって経国の美女という呪いは有名らしい。
「だから貴族や王族などは結婚あるいは妾。恋人などにするときに一度はその身に呪いを宿していないのか? そういった調査をするようになったわね。
まあ。傾国の美女がなかったとしても子供を産めない呪い。あるいは短命の呪い。そういった呪いをかけられていると結婚で大変だしね。
特に血脈式の呪いは悪質だし」
「血脈式?」
アリスの言葉に俺が聞き返すと、
「血脈。つまり一族、その呪われた人物の血族。つまり子孫ね。
その子孫に呪いが遺伝するという形質よ。
しかもその呪いの厄介なことは呪いが最初にかけられた人物。
その人物が死んでしまった場合、呪いを解くのが格段に難しくなる。
またその身に魔力や権力、財力を持つようになれば呪いは強化していく。
だから貧しい平民、あるいは魔力や権力などに恵まれていない。その時は呪いに気づかないでいたけれども何らかの形で玉の輿。そういったことをした場合呪いが誘発。
それでなくても王族、貴族というのは結婚は家柄同士がものをいう。
良い家柄は良い家柄と婚姻を結ぶのが普通」
「まあ。それはわかる」
民主主義で身分平等を歌う日本でも家柄というのがあったりする。
だからその理屈はわかるのだった。
とはいえ、それを重視しすぎて近親婚を繰り返していたという話を思い出した。近親婚とは親戚同士で婚姻を繰り返したことである。
さすがに同じ親から生まれた兄姉などとの結婚はないだろうが、この調子だと従兄弟や甥、姪などと結婚などをしていたとしてもおかしくない。
けれどもこれにはデメリットがある。
血が濃くなる可能性があるのだ。
近親婚を繰り返すと遺伝子に異常が出て体が弱い。あるいは頭や精神に異常性を持つような子供が生まれやすくなるという。
事実、江戸時代を支配した徳川家。江戸時代終盤になると精神に問題があるなど将軍としてどうにかできる器がなくて開国というか時代が変化したという。
その原因は、ひょっとしたら近親婚を繰り返していた結果ではないのかとオレは密かに思っている。あいにくと高校生レベルの歴史の授業でそこまで闇を深く掘り下げたりしていないけれどな。
ほかにも有名な血まみれ女王だったか。詳しくは覚えていないが美人になるために乙女の生き血を浴びて美貌を保とうとしたという貴族。
その貴族も近親婚の果てに生まれていたという話を聞いたことがある。
嘘か本当かも知らないし又聞きなので審議は確かじゃない。
とはいえ、近親婚を繰り返すことが危険というのは間違いがないだろう。
事実、競走馬は血統のよい馬同士を掛け合わせることで足のはやい馬が生まれるようにしている。けれどもそれを繰り返していると病弱な馬が生まれるためにまれにだけれど、雑種ながらも足が速くて健康丈夫な馬と掛け合わせることがあるという。
まあ。そこは専門家の法が詳しいと思うけれどな。
閑話休題。
けれどもやはり貴族というのはそういう健康面はない。
それは身分が基本的に平等とされている現代日本人の感覚だ。
「まあ。まったく不可能じゃなくて裏技があるんだけれどね」
「裏技?」
オレがそう考えているとアリスがそういった。
薫が聞き返せば、
「養子縁組をするのよ。
実の親兄弟と縁を切ったりして婚姻をしてもおかしくない程度の家柄の子供という形にするのよ。養子だけれどこれで家柄はごまかせるわ。
さすがに王族、公爵クラスとなると難しいけれどね。
けれど全く不可能じゃないわ。
男爵家だけれど優秀な人材を確保するために親戚筋に当たる家柄を遡って公爵家の養子にするという形よ」
そうアリスが言う。
「それって実の家族はもとより養子縁組した家もよく認めるな」
オレはあきれ混じりに言う。実の家族は急に他人になるわけだし養子縁組したのも言ってしまえば嫁入り、婿にするための踏み台にされるということだ。
「そうでもないわよ。少なくとも平民のほうだって養子縁組にすると言うことでいくらかのお金は用意される。さらに場合によったら生家という扱いでいろいろと融通が利くわ。表向きは他人だけれどもね。
踏み台にされた家のほうもね。その実家ということで口出しをする権利を得るしもちろんお金ももらえる。相手の家柄がよければよいほど正しいし。頼んでくる相手に恩を売ることができるから将来的にプラスになる。さらに結婚となれば策略がある。
子供の数だけ婚姻を考えていろんな家と協力関係になれる。
そういう意味だと手札が一枚、しかも有効なのが手に入るというわけよ」
アリスの言葉に通りで歴史は血みどろのものがおおいんだ。と、納得したのだった。
「ただ貴方の場合はありえないな」
そうローイがいう。
「養子縁組をして身分を整えるにしても結婚するならば身の上の調査。さらに身辺調査だ。万が一、結婚するにしても旦那以外の子供を産んで家を継がれてはこまるからね」
「あー。なるほど」
その言葉にオレも納得する。
「日本の大奥が男子禁制だったみたいな?」
そう薫が疑問を言う。
確かにかつての将軍ではその後継者を生むために複数の女性を集めていた女の園があったという。そこは殿様ですら自由に入ることが出来ないような管理された女性だけの場所。
理由は簡単であり他の男性とそういう関係になって次期将軍が将軍後を引いていないというのが問題だからである。
何しろ基本的にお城は基本的に男性社会だからな。
だが、どっちかというと、
「まあ。徹底的というかそういうのはあるだろうな。
大奥でもそこにいる女が別の男と子供を作ったら最後、二人併せて死刑だからな」
そう淡々と言う。
文字通り二人併せて身が四つになりかねないという。
「中国なんかだと女だけの場所があったらしい。
そこに立ち入る男は生殖行為が出来ないようにしていたらしいからな」
オレはそうため息交じりに言う。
暇つぶしで調べた世界史。
そこではそういった場所では男子禁制。
立ち入れる男性は皇帝やその子供だけである。そしてそれ以外の男性は生殖行為が出来ないように陰嚢……つまりちんこを切り落としていたそうである。
聞いただけで痛くなったのでそれ以上、調べることが出来なかった。ただインパクトが強すぎて忘れることが出来なかったのだ。
「聞くだけで痛そうな話を……」
「まあ。それを考えるとオレはやめておいた方がよいだろうな。
浮気をするつもりはないが……。そもそもそういうことをするつもりもない。
第一にオレの呪いは異性を引きつけすぎる」
そうため息交じりに言う。
そもそも、
「傾国の美女に地位を与えるなよ。
そんなのしたらろくでもないことになるというのはすぐわかるだろうに」
そうつぶやく。
悪女として有名な妲己も時の皇帝に見初められることがなければ国は崩壊しなかっただろうと思っている。
封神演義では彼女が正真正銘の悪女のように描かれている。
けれども歴史をちゃんと史実に基づけばたんに妲己に魅了された皇帝が彼女の親族や親戚などをとにかく優遇。
元々は小さな片田舎の高位貴族の娘という立場でしかなかった妲己。皇帝にささやかな日常会話としてちょっと欲しいもの。憧れているものを語った。
それを本気にした皇帝が目的も手段も選ばずに手に入れようとしたという話がある。
「まあ。確かにね。
よくある転生悪役令嬢ものとかだとゲーム主人公がわがままを言うんだけれどさ。
それで周囲を迷惑をかけて国を揺るがしかねない存在になってしまう。
そういうのもあるし」
薫がそう言うがオレにはどういう意味かわからなかった。




