第十話 裸の王様よりも迷惑な聖女様
もうすぐ出産ということもあり更新が停滞すると思います。
生まれた子供にはいろんな本を読み聞かせしてあげたいなー。裸の王様とかヘンゼルとグレーテルとか白雪姫やシンデレラ。桃太郎にかぐや姫に一寸法師。そういったお話を知らないという人間にはなってほしくないと思います。
さて、聖女が来てどうにか帰ってもらってまだ一日もたっていなかった。
突如として非常ベルが鳴り響く。
「な、なんだ? 火災訓練か?」
思わずそう叫ぶがいや、ないな。と、すぐに自分にツッコミを入れた。
平和な日本ならばそんな寝とぼけた発言をする人間もいるだろう。けれども、異世界に町ごと転移してさらに町全体が呪われている現状。火災訓練をするとは思えないしするならすると、ひとことぐらいは言っておくのが普通だろう。
今日、来たばかりの客というわけじゃないのだから……。
泥棒? いや、泥棒だってこんな状況で盗みを働くやつはいないだろう。いたとしてももうちょっと場所を考えそうだ。
そう思いながら俺は立ち上がると念のために上着を羽織る。
ちなみに今は寝間着姿だった。
余談であるが俺が身に着けている寝間着はいまだに男の時に身に着けていた可愛さもなにもないシンプルな青いパジャマだ。
いっそ、Tシャツに短パンという方法でもよかったのかもしれない。身長が変わり胸が出てきたのだがどうにか収まっている。
非常ベルのけたたましい音で全員が起きたらしい。
「な、なんだ? この音は?」
「非常ベルだ。緊急事態にこの建物にいる人間、全員に伝えるものだ。
火事になったりした時にすぐに非常事態だと伝わるようにな」
「な、なるほどな」
俺の説明にローイが納得する。
このシステムはたとえ世界が違えどおそらくあるだろうしなくてもその有効性を否定する人間はいないだろう。
火災などの災害などで判断をするにはすぐに知って正しい反応をすることだ。
火事が起きたと気づかずに熟睡していて死んだら間抜けだ。
そこに、
「お客様。ご無事ですか!」
そういって客室乗務員だろう人物が来て俺の姿を見て赤面する。
仮面で顔を隠しているのだがそれでも寝間着姿という姿はどうやら刺激が強かったらしい。まあ。寝るときに俺は下着……この場合はブラジャーのことだがそれをつけない。
だって、薫に言われて購入したブラジャー。金属があって寝ているときに胸を締め付けるはうつぶせになったりすると痛いわで良いことがない。
普段の日常でも胸が息苦しいのになんで寝る時までしなくちゃいけないんだ!
世の女性は常にこんなのをしているのかと驚いたものだ。
そう思っていると、
「ちょっと、由紀! あんたブラジャーをしていないの?」
「だって息苦しいし金属が当たっていたいんだよ!」
「あー。もう。今度、スポブラを紹介してあげる。
そっちなら寝ているときでもつけやすいわよ」
どうやらブラジャーにもいろんな種類があるらしい。……まさか、そんなことを知るとは思わなかったが今、話し合うべきじゃないだろう。
「何があったんですか?」
そう尋ねれば赤面していた客室乗務員が慌てたように言う。
「そ、それが不法侵入者です」
「泥棒?」
客室乗務員の言葉にフィリが考えるようにそうつぶやいた。
泥棒。まあ。この混乱の中で泥棒をする人間がいないとは言わない。詳しいわけじゃないが戦時中、空襲などの時にどさくさに紛れてひと様の家に侵入。泥棒をしていたという人間はごまんといたそうだ。
この混沌の坩堝と化している街でなら大したものをじゃなければきにしないだろう。だけれども、
「いや、だとしたらここに来るのはおかしい」
俺はそう否定する。
曲がりなりにもここはホテルだ。
警備システムというのはきちんとしている。たとえ、警備員がいない状況だとしてもそれなりの警備がしかれているはずだ。
そもそもこのホテル。現在は有名な? 呪われたホテルである。
ホラー映画のタイトルみたいな状況だが現実でそうなのだ。
ある程度の知識がある人間なら盗みは入らないし、この街に来るこの世界の人間ならば盗みはしないだろう。
この世界の泥棒というのには会ったことがない。
けれども俺が泥棒ならば住民全員が呪われているうえに自分たちと違う世界に存在していた街という人外魔境に近いような(いや、人はいるんだけれどさ)街にわざわざ来るような暇人は普通はいないだろう。
つまり、この街に好き好んでくるのはよほどの理由がある人間かよっぽどの変人ぐらいというわけだ。泥棒とはいえこの街に来ることはないだろう。
俺たちの世界の泥棒だって現在進行形で呪われている。
だから盗みを働かない。
まあ。まったく可能性がないとは言わないのは呪いで盗み癖みたいなものができてしまうという可能性ぐらいだ。だが、それだとしてもこのホテルにわざわざ来るのは考えにくい。そう思っていると、
「は、はい。
その押し込んできたのは聖女様方なんです」
「聖女って……。あのなぁ」
俺は思わず頭を抱えて聖女の姉を見る。
「この世界では聖女は建物の所有者の許可を得ずに入ってよい。
そんな法律でもあるのか?」
「そんなわけないでしょ。
そりゃ、よっぽどの非常時ならともかく。
しかもその口調。騎士団まで連れてきているわね」
「あ、はい」
アリスの言葉にうなずかれて俺はため息をつく。
ひと様の家に勝手に入ってはいけない。
基本的な規則だ。
そりゃ、警察とかが捜査。あるいは救急隊とかが医療行為のために時に無茶をしてはいるということがあるがそれは非常事態と相場が決まっている。
持ち主がいて不要とかきちんとして言っている中で強行突破。
後先のこと考えていないとしか思えない。
この行動を大きく世間に広めれば聖女の名声は元より国の評価も下がってしまう。
「強行突破か? 目的は……。あー。どっちかはわからんしどれかもわからん。
とにかくローイ」
俺はローイの方を見る。
「お前は魔法協会にこのことを連絡。いい加減にしろと怒鳴ってくれ」
「了解」
うまくいけば国際問題? でこの街から追い出せる。俺はひそかにそう思った。
「フルー。変装はしているよな。
名前で呼ぶのもやばいとおもうからルーと呼ぶからな」
「すごく単純な名前ね」
俺の言葉に薫が呆れたように言うが余計なお世話だ。
「本名に似ている方がとっさに間違えてもごまかしがきくだろうが」
俺はそう反論する。
そもそも今までさんざんにフルーと呼んでいたのだ。とっさに出たときにフルーと呼んでしまう可能性もあるし、フルーもいきなり本名とはまったく違う名前で呼ばれても反応ができないし名前でとっさに返事してしまう可能性もある。
フルーという名前がこの世界で一般的な名前なのかそれとも奇抜な名前なのかはわからない。日本ならば間違いなくキラキラネームになる名前だろう。
だがルーという名前ならばとっさに反応もしやすくフルーという名前に反応したとしても似ていたから聞き間違えた。と、主張することもできる。
偽名というのはよほど慣れていないと本名じゃない名前で反応なんてできないのだ。このとっさの状況でそのことができると思えないのだ。
「とにかく俺たちも俺たちで動くぞ」
そういいながら外に出る。
なんだか嫌な予感がするのだ。
「たしかに、単なる呪いと思って儀式を行われると厄介なことになるかもしれないわ」
そういったのはアリスだ。
「儀式?」
脳裏に浮かぶのは何やら怪しげな魔法陣を書いて怪しげに唱える集団。
いや、ほかにもいろんな儀式というのはあるだろう。
そう思いながら訪ねると、
「建物全体にある呪いを解くという大規模儀式よ。
けれどそう簡単に行える儀式じゃないわ」
そうアリスは前置きをして説明を始めてくれた。
なんでもその儀式は皇族にのみ伝わる秘伝中の秘伝の魔法だそうだ。
大規模の範囲で複数の呪いを解くことができるという魔法だ。
ただし欠点もある。
まず一つの材料となる触媒と魔力が大量に必要。
二つ目に時間もかなりかかる。
まあ。これらは予想できるといえば予想できる話だ。一つの呪いを解くのすらこっちは苦労しているのだ。このチートアイテムのハリセンがあっても大変なのが事実だ。
実際にアニキが手伝っている魔法協会。そこでも呪いの解呪をしているのだが正直な話、人でも足りないし一人の呪いを解くのにかなり苦労している。
それを大規模の呪いを一気に解除できるならばさっさとしろ! そう怒鳴りたい。
けれどそれができないのは、
「解除できる呪いは一種類だけなのよ」
「つまり、犬になる呪いとか猫になる呪い。性別が変わる呪い。人格が変わる呪い。
そんないろんな多種多様な呪いの人間を一か所に集めて呪いを解くということはできないというわけか」
「ええ。それができていたらとっくに魔法協会が頼んでいたはずよ。
町全体の呪いを解いてもらっていたはずだしね」
俺の言葉にアリスはきっぱりとそういう。
まあ。それを使うのにもかなりの貴重な触媒も必要なこともあり本来ならば許可が必要なのだが、
「たぶん勝手に行動しているわね」
迷惑な。そう俺は思った。
「少しは周囲の迷惑を考えることができないのかよ?」
「できないんでしょ」
俺の叫びにきっぱりとアリスが言う。
「あの子は加護こそ手にしなかったけれど呪いを解く魔法と魔力に関しては天才的。呪いを解き聖なる加護を与える。そう謳う王家だけれど年々、加護を持つ子供は生まれにくくなっているし魔力も強い子供や才能がある子供が生まれにくくなっている。
それどころか病弱だったり精神的に問題がある子供が多いわ」
「…………ねえ。それって」
今まで黙って聞いていた薫が口を開く。
「ひょっとして加護の力を保つ。そのためにっていうことで親戚同士での結婚を繰り返していたりしていない。従弟と結婚とか叔父や叔母とかと結婚。
親戚、それも血縁関係のある相手との結婚」
「ええ。王族となれば珍しくないわよ。
王族が結婚する身分となると高い貴族だし」
「それね」
アリスの言葉に薫が言う。
「こっちの世界だとどうだか知らないけれどね。あたしたちの世界だと一定以上の血縁関係のある相手との結婚は禁忌とされているの。道徳概念の問題もあるんだけれどあまりにも血が濃くなりすぎると体や精神に問題が起きるといわれているわ」
その言葉に俺は考える。そういえば幕末の徳川家は将軍がなかなか長寿でもなくまた精神に病を患っていたとか言うのも聞いた。
幕末は大変だったから苦労したというのもあるが血縁……いや、大丈夫か。大奥なんてものがあったからな。そう俺は思いなおす。
けれども理屈は理解できた。
「魔力が強い子供とかが生まれないとか言っていたけれど……。ただ単に強い魔力を発揮するのができないほど体が弱いんじゃないの。
精神疾患も同じ理由ね。それとその精神に問題があるってあのお姫様もじゃないの」
「それもあるかもしれないが」
薫の仮説に俺は口をはさむ。
「それなら多少のわがままも許されていたんだろ。善意で行動した結果ならばどんな行動も気にせずに許されていた。おそらく不都合というか被害も広まらないようにしていた。
善意の暴走。それを誰一人として罪と咎めない。だから周囲の迷惑というのを鑑みないような人間に育ったんだろ。下手に権力があるから悪い話もつぶせるしな」
アリスの変人っぷりもその影響もある気がする。
そんなことを思ったがさすがに当人を前にして口に出したりはしない。それにアリスは疲れるし迷惑もかけるが言えば理解をしてくれる。
市政で暮らしてその辺の常識というか良識を学んだらしい。
ただし自由を喜んで他人の目を一切、気にしていないところが大変迷惑ですが……。
「けれど俺たちは知ったことじゃない」
きっぱりと断言した。
「俺たちはこの世界の異分子だ。
善意、懇意、政治? 知ったことか!」
そもそも一般市民にしてみたら王様が誰かなんて大きな問題じゃない。生活が一定の保証をしてくれるならば王様が太っていようが痔で悩んでいようが足が臭かろうが水虫になっていようが禿げていようが困りはしない。しかも異世界ならば知ったことかだ!
物語の中の王様が出べそで中年太りでおしゃれ好きで浪費家で裸で歩くストリートキングになり果てたとしても別世界の話ならば笑い話にすぎないのだ。
けれど今は被害を受けようとしている。ならば戦って文句を言う。
俺はそう決意をした。




