第七話 解呪な下手な呪いの解呪屋と呪われた呪いの解呪屋の助手
第一章の終了です。
「おい。あいつらは?」
「大丈夫です。殺してはいませんよ。
地面に生き埋めにしているだけです」
俺の質問にフルーはあっさりと言うが、
「それ、結果的に死ぬんじゃ……」
と、俺は突っ込みをいれる。普通、生き埋めになって無事に生きて居られる保証はないと、言うか十中八九、死ぬはずだ。
「大丈夫です。正確に言えば、あれは封印術です。
地面の中に封印しているだけで、死ぬ事はありません。
仮死状態となるだけです。しかるべき場所に引き渡します」
と、フルーは言う。
「それより、さっきハリセンで斧をひっぱたいたら、なんかが斧から出たんだけれどよ」
「あれは呪いです」
そう言うとフルーは歩き出すので、慌ててその後を追いかける。
「呪い?」
「呪いには必ず核があります。
呪いの解呪には方法がいくつかありますが、最も確実な方法は呪いの核を向きだしにして破壊する事です。
おそらく彼等の呪いは同時期に一気に呪いをかけた武器だったんでしょう。
で、叩かれたことで呪いの核が吹っ飛んだんです。
あの呪いは持ち主の筋力を上げるかわりに生命力を吸収していく斧でしょう」
「……ゲームで言う所の、攻撃力を上げる代わりにヒットポイントを吸収する感じか?」
「そのたとえは、よく解りませんが……」
俺の例えにフルーはそう肩をすくめると、
「正確に言えば、筋力です。呪いが無くなり、生命力を吸収されなくなりましたがそれと同時にあれだけの大きな斧を持ち上げる筋力も無くなった。だから、助かったんです」
「残念な見た目だが……使い方次第で使えそうだな」
「念のために言いますが、あの呪いはたいしたことない呪いだったから大丈夫でしたが……。あなたの呪いとなりましたら、別ですよ。
あなたの呪いの場合、核はどこか別の場所にあります。
それに、あなたの場合は呪いの核を弾き飛ばしても呪いは解けません。
呪いの核を飛ばして、破壊あるいは封印するしかありません」
「そうかよ……」
ペチペチと自分の頭を叩いてみるが、確かに変化は無い。
ちなみに念のためにと、異性から嫌われる仮面は外しておいたが、正解だった。
そんな中で町中に行けば、朝は人気が無かった町がそれなりに賑わっている。いや、賑わっていると言うか……百鬼夜行状態となっていると言うべきだろう。
服を着た動物や体の半分や一部が動物になって居るのは、まだ良い方だ。中には、形容しがたい異形の化け物になっている連中もいる。……まあ、俺だって似たような非常事態に陥っているが……。目玉が三つあって口が二つ。触手が四本生えている今の俺の膝ほどのある大きさをしたスライムのような姿で歩いて居る何かは一体、何なんだろうか?
「町中の人間がこうなったのかよ」
「大丈夫です。
鳥や犬猫と言った動物や魚に植物は基本的に呪われていません」
俺が思わず呟けばフルーがそう言うが、
「いや、そう言う心配はしてないからな」
と、俺は突っ込みをいれる。
まあ、ここで動植物まで呪われていたら俺は頭を抱えていただろうが……。
そう思いながら俺は家へとたどり着けば、
「ああ。無事だったんだね。
俺の運命の恋人!!」
「誰がだ!」
ドアを開けてやって来た弟、吉成に俺は蹴りを入れる。
「いつ、お前と俺が恋人になった。
俺は近親相姦にも、BLにも興味はねえよ!」
いや、今の俺との間で|BL(男同士の恋愛)が当てはまるのかは謎だが……。
「何遍言えば、解るんだ? 俺はお前の兄貴だ。
それ以上になるつもりもなければ、それ以下になるつもりもない」
いや、恋人が兄貴以上なのか以下なのかはわからないが……。
すくなくとも兄ではないことは間違いないだろう。
「無事だったんだな。由紀」
と、言って現れたのは日光浴をしていたらしい義正兄貴だ。
その首にはなにやらネックレスがついている。
ふと、吉成を見て見れば吉成の耳元にも妙なピアスがある。
「これはお前の分だ。
居なかったから一番、シンプルな品にさせてもらった」
と、義正兄貴が差し出したのはチョーカーだ。
「これは?」
「この世界の言語を理解して話せるようにする装置だ」
と、俺の質問に答える正義兄貴。
「私が持って居る品と同じですね」
「ああ。なるほど……」
その言葉に俺も納得する。
この町にどれだけの人間がいるかは知らないが、けして少なくないだろう。だが、世界中の人間も多い。
おそらく、この世界との人間と会話が出来るようにするための装置なのだろう。
俺も素直にチョーカーを身に着ける。
ちなみに、チョーカーとはまあネックレスの親戚のようなものだ。ただし、金属ではなく布で出来ており、ネックレスと言うよりも首輪に近いデザインだ。
首の周囲に身に着ける形であり、女性用のイメージが強い。
「……なんで女ものなんだよ?」
「別にチョーカーは女性用じゃないぞ。
それに、今のお前が男物を身に着けていても悪目立ちするぞ。
……まあ、今のお前も十分に悪目立ちするが……。
なんだ? そのハリセンは?」
「好きで身に着けているわけじゃない」
義正兄貴の言葉に俺はそう反論する。
その後、何があったのかを部屋に座って説明する。
「そっちも、そっちで大変だったようだな」
「ああ。兄貴。
あなたの美しい体に傷がついていたら……世界の損失。
嫁のもらい手が無くなったら俺が貰って」
「嫁を貰う予定はないが、嫁に行く気は無い!
つか、実の兄弟で結婚は出来ないだろうが!」
ばしん! と、手にして居たハリセンで吉成をひっぱたく。
呪いは抜けでないが、それでも良い気分だ。
うん。やっぱり、それなりに便利だと俺は実感したのだった。
「で、俺が出かけている間になにがあったんだ?」
「まずは、この世界のこの国の偉い人がきた」
と、俺の質問にまとも……まあ、まともかどうかは議論があるだろうが……。とりあえず、俺の色香に惑わされて会話にならない吉成より会話が出来る正義兄貴が答える。
やって来たのは、この世界の魔法使いの互助組織の一番偉い人だった。大魔法使いらしい。で、呪いを統べる魔女王が残した九十九の呪いを封印していたのが、暴発した。そして、俺たちが町ごと異世界に転送された事情を話されたらしい。
そして、俺たちは呪われたと言う事を話された。
「まあ、不幸な被害者としてある程度はこちらで面倒を見てくれるらしいよ。
ただし、あくまでもある程度だ。
元の世界に戻る手段は無いに等しい。この世界で生きていけるようにする手伝いをしてくれるらしい。とは言え、呪いを解く方法はまだわからないらしいが……」
「大丈夫です」
と、俺の言葉にそう言ったのはフルーだ。
「私が全ての呪いを解呪します。
呪いを全て……解呪すれば、呪いによる歪みは全て戻るはずです。
そうすれば、あなた方が元の世界に戻れる可能性もあるはずです」
「だが、その魔法使いの互助組織の偉い人はそれを言わなかった。
それは、どう言うことだ?」
「……呪いを解呪させる方法は未だ完全に見つかっていません。
だから、下手な希望を与えないと考えたんでしょう。あの人は……」
と、ため息混じりに言うフルー。
「それで、頼みがあるんです。
ヨシキさん。こんなお願いはいささか、見当違いだと思いますが……。
どうか、私と共に呪いの解呪屋をしてください」
「……はぁ?」
フルーの言葉に兄貴はすっとんきょんな声を上げる。
「ヨシキがなんの役にたつんですか?
この世界の魔法も常識も無いんですよ」
「……兄貴。木になってから人の感情が解らなくなったんだな」
正論だが、もう少し言い方があると思う。
「正確に言えば、ヨシキさんが手に入れたハリセンが必要なんです。
それさえあれば、呪いの核を弾き飛ばす事が出来ます。
そしたら、全ての呪いを解呪する事も不可能じゃありません」
「たしかに、不可能じゃないかもしれないけれどよ。
……お前の腕前で大丈夫なのか?」
「……確かに、呪いの解呪はよく失敗しますが……。
それ以外の魔法なら得意です。まあ、重力系の魔法は不得手ですけれど……」
「不得手って……」
あっさりと頷かれて俺は呆れる。
と、言うか……。
「呪いを解呪するのが不得手って……それで、どうして呪いの解呪屋を目指したんだよ?」
と、あきれたように言う吉成の意見に今回は、同感だ。
「……そこまで、語る必要はないはずです。
あなた方にも利点があるはずです。少なくとも、あなた方としてもこのままと言うのは望んでいない。元の世界に戻るにしても、戻らないにしても……。
少なくとも、呪いを解いて欲しいと願っているのではないんですか?」
「ま、それもそうだな」
フルーの言葉に俺は頷く。
「マイ・ステディ・兄貴?」
「少なくとも今、最もこの状況をどうにか出来る可能性を持って居るのは、フルーだ。ただし、フルーだけでどうにか出来るとは思えない」
驚く吉成の言葉に俺は理由を言った後、
「誰が、私の恋人だ?」
と、頭をひっぱたく。
「……失礼ですね。ヨシキは」
と、顔をしかめるフルー。
「事実、お前は解呪の魔法が苦手だと言っていただろ。
とにかく、俺は傾国の美女で居続けるつもりはない。平穏無事な人生……と、まではいかないが男としての人生を送りたいんだ。
それに、……両親がこの状況はさすがに困る」
元の世界に帰りたいか? と、言われれば困る。
幸運にも俺は学校もクラスメイトの大半も、家族もこの世界に一緒に移動された。会いたい恋人も居ないし、そもそも町ごと居なくなったのだ。
突如として丸ごと戻って来た場合は、どんなつじつま会わせが必要なのか……。考えるだけでも嫌になる。
とは言え、女のままで居たいわけではない。
「それに、このハリセンの呪いもどうにかしたいんだよ」
と、俺はハリセンを手にする。
「勝手に無理矢理、着いていってこれを手にしたのは俺だ。
本当なら、フルーが手にいれれたはずだったのにだ」
そう、俺が手に入れた後とは言えフルーは自力であの部屋にたどり着いた。
何度も失敗したが、諦めずに死ぬ事もせずに呪いを解呪すると言う選択を選び続けたのだ。呪いを解呪する魔法以外が得意のくせにだ。
守ってやろう。と、俺は思ったのだ。
「ま、もちろん他の道も探すけれどな」
と、俺は肩をすくめる。
「収入もあるだろ。
いつまでもお金をくれる保証が無いなら、収入が手に入る手段を選んでおけば苦労はしないだろ」
何事も経験だ。
「まあ、同感だな。
それに、フルーさんには窓ガラスの修繕費を払ってもらう必要がある」
「あう」
兄貴の言葉にフルーさんのこめかみに一筋の汗が流れる。
「そ、その……私……実は、家もなくて……。
普段は森の中で野宿しているんです」
「おい……」
フルーの言葉にさすがに俺もツッコミを入れる。
「しょうがない。どうせ、両親が使っていた部屋があいているんだ。
うちに泊まれ。まあ、男所帯の家に住むのは危ないかも知れないが……。一人は肉体が女、もう一人は木。もう一人は女になった俺にとち狂った馬鹿だと、野宿より安心出来るだろうしな」
「ええ!? で、でも……」
俺のアイデアに途惑うが、
「まあ、気にしないよ。どうせ、うちの由紀が世話になるんだしね」
「俺の未来のお嫁さんが決めた事なら……」
と、正義兄貴と吉成も認めたので(義正の発言内容はさておき)フルーはこの家に住み、俺はフルーの助手となったのだった。