第二話 呪いの街にやってくる人というのは騒動を背負ってやってくる
とにかく、買い物を終えて家へと帰る。
そして、家へと入ったら、
「邪魔しているぞ」
「あ、おかえりー。由紀」
「おかえりなさい」
留守番をしていたフール。そして、一緒に留守番をしていた薫(フールだけだと、自分のドジで死にそうなので)だけではなく、兄の義正とフィリアさんがいた。
「まさか、協会に行っていたとはな。
すれ違っていたようだ」
「そのようで」
と、俺はうなずきながら椅子に座り、尋ねる。
「それで、どんなトラブルが?」
「トラブルと決めつけるか?」
「違うんですか?」
フィリアさんの言葉に俺は真顔で質問をする。
「いや、あたりだ」
「「「あたりかい!」」」
速攻でうなずかれて、全員がツッコミを入れた。
俺に至っては、ハリセンでツッコミを入れてしまったほどだ。
まあ、ハリセンの正しい使い方のような気がするので気にはしないことにしよう。
何とも間が抜けたギャグテイストな状況になったのだが、それをさておいて話は進む。「ルヴィナガルド皇国の一団がやってくるそうだ」
「噂をすればなんとやらか……」
と、俺はつぶやく。
「あの国は大国でな。
そのうえ、除霊や聖なる結界や破邪や解呪と言った魔法にたけている一団がいる。
正確に言えば、宗教家なのだが……。
それゆえに、ここに来るというのは止められない」
使っているのは、魔法なのだが宗教による側面が強い。
そのために、魔法協会のトップでも動きを止めれないらしい。
「問題は、やつらは呪いの魔女王を危険視している。
もちろん、あの魔女王を危険視するのはわかる。
だが、そのためにフルーを殺そうとする考えが強い」
「けれど、フルーを殺すとか以外の方法がないのか?
たとえば、フルーにかけられている呪いを解呪するとかさ」
と、俺は言う。考えてみれば、フルーを監禁して一室に閉じ込めておく。と、いうような手段だってあったはずなのだ。
だが、その手段を使わないというか思いついていない様子だ。
言ったとたんに、監禁されたら寝覚めが悪いので言わないが……。
「しかも、その一団の中に皇女が来るそうだ」
「「「はぁ!?」」」
皇女という言葉に俺たちは全員が驚いた。
「皇女ってことは、皇帝の娘ということだよな」
「当たり前だ。皇帝の娘でもないのに、皇女を名乗ったら問答無用で死罪だぞ」
身分詐称で死刑かよ! と、思うが名乗る身分が身分なので納得だ。そもそも、日本人の身分がどうした? と、言われたくなるような皆無の価値でも王族を名乗るのは友でないからな。と、俺は現実逃避をしながらそんなことを思った。
やってくるのは、マリアンヌ第五皇女である。
「つまり、最低でもあと四人は子供がいると」
「正確に言えば、十五人よ。正妻が一人。側室が五人。
マリアンヌ第五皇女は第三側室の二番目の子供」
「この世界は、浮気はダメだ。と、いう宗教概念はないのか?」
と、俺は思わず尋ねれば。
「皇族とか家柄が高い人間は別よ。
その尊き血を残すのに子供は必要だからね」
と、アリスは言う。
まあ。そういうものだろうな。と、俺は納得する。
俺は宗教に従順というわけじゃない。と、いうか日本人の大半はそうだ。
だが、宗教の中にあるキリスト教。世界的にも有名なその宗教の一つの中に、人の奥さんや牛やロバを欲しがってはいけない。と、いう文章がある。
念のために言うならば、そう直接的に書いているのではなくそれを、難しく書いてある。
人の奥さんを欲しがってはいけない。と、書いているくせに王様はたくさんの奥さんをもって良いのである。そもそも、宗教家の中には一生を清らかに過ごす。と、いうのもあるのだ。なのに、王様は淫行? を、してもよいのだから世の中、わからない。
「けれど、その皇族というのは宗教家でもあるんだろうに」
と、俺はあきれる。
「そうよ。しかも、神の力を使うことから皇女や皇子は一部だと、聖人や聖女と呼ばれているわ」
と、アリスが言う。
「そうだ。
そして、来るマリアンヌ第五皇女も聖女と呼ばれている」
「ああ。だから、来るわけだ」
と、俺は納得する。
「聖女が呪いを時に行く。
そういわれたら、ほかの国や人たちだって悪く言えないよな。
呪いで困っている人は、この街にはそれこそ山のようにいる。
と、いうか困っていない人間の方が少ない」
自分の呪いに困っているか。それとも、家族や友人の呪いで困っているか? はたまた、隣人の呪いで困っているか? みんな、大なり小なり困っているのだ。
「まあ。本物の聖女はいないらしいが」
「聖女に本物や偽物がいるのか?」
と、ラフェレアの言葉にフィリが尋ねる。
「ああ。あの一族は聖淑女という力を持つものが一定の確率で生まれる。
宗教国家なのに、子供を作るために側室を持つことが許されているのもその理由だ。
その力を持つ者が本当の聖女と呼ばれている。
まあ、その力を持つ者は永遠に淑女じゃないと力を失う。と、いう問題がある。
つまり、男と関係を持てないんだがな」
その言葉に、俺たちは絶句した。
平然としているのは、お茶を飲んでいる『聖淑女の力を持つ』アリスだけだ。
「第四皇女のアイリス様。
第四皇女と言っても、第五皇女とは腹違いでほぼ同時に生まれたそうだ。
ただ、生まれた日が一日、早かっただけで姉らしいがな。
とにかく、その皇女様が謎の病にかかって面会謝絶らしい。
噂じゃ、呪いの魔女王の仕業らしい」
「……アイリス」
と、俺はアリスを見る。アリスは平然と、お茶を飲み続けていた。
アイリス。と、アリス。あまりにも名前が似ている。
「まさか、アリスが第四皇女様?」
と、協会からの帰り道に、戸惑うようにフィリが尋ねる。
「いや、俺に聞かれても困るんだが」
と、俺はフィリの言葉に困惑しつつ応える。
「だが、偽名にしてはあまりひねりがなさすぎるぞ」
「いや、偽名を本名と全く違う名前にするのはあまり利点がないんだ」
ローイの言葉に俺は言う。
「偽名も長く呼ばれていればともかく、使い始めの時に咄嗟に呼ばれたらすぐに返事ができない。けれど、似ている名前だったら反応がしやすい。
それに、もしも本名を呼ばれてしまい返事をしてしまった。
その時も、名前が似ていたから聞き間違えた。と、言い訳ができる」
実際に詐欺師の方もたいがいは、本名がよく似た名前を使っている。と、いう話を聞いたことがある。まあ、一回しか出会わないような詐欺だったら、本名と違うかもしれないが……。
それは、さておいておこう。
俺の言葉に、ローイは頭を抱える。
「つまり、アリスは皇女という」
「家出したみたいだけれどな」
ローイの言葉に俺は肩をすくめて言う。
「家出のお忍びだ。
と、いうか当人の反応から察するに実家に帰るつもりもない。
つまり、家柄とか身分をとっくの昔に遠い地平線の彼方へと捨てているつもりなんだろ」
まあ、そう簡単に家柄を捨てる事は出来るとは思えない。
有名な人間や有力な家系。そういう出身者というのは、どうやっても脱ぎ切れない事実として当人たちについて回るのだ。
ただ、
「オレが察するに、アリスはアリスとして生きたいみたいだぞ」
そう。それが、大切だ。
「ま、俺は何しろ異邦人なんでね。
この世界の理とかしがらみなんてしったことじゃない。
いずれ、元の世界に帰るかもしれない存在だ」
いつ、帰ることができるのか? そもそも、本当に変えることができるのか?
帰ったところで、居場所があるのか?
と、いう複数の疑問が山のようにある。
だが、それを指摘する者はいない。
「アリスが語りたくなったら、語るさ。
あいつを信用しろよ」
そういって、俺はアリスを思い浮かべる。
変な服を着るアリス。
はあはあ。と、荒い息をしながら誰かが入っている風呂へ突貫するアリス。
よくわかっていないフルーに、裸のアリスに蜂蜜をかけて嘗め回そうとするアリス。
俺のパンツを頭からかぶっているアリス。
「し……しん……よう」
「そこで悩むな。
悩む理由はわかるが、そこで言い出した当人が悩まないでくれ」
思わず言いよどむ俺にローイが叫ぶ。
悪人ではないと信用ができる。だが、何だろうか?
彼女を信用している。と、いうと人として大切なものを失いそうな気がする。
「だが、問題はアリスが皇女かどうか? じゃない」
あえて、一つの問題を無視して別の問題を上げる。
「問題は? じゃなくて、問題がほかにもある。と、いうことじゃないのか?」
「それは、いうな」
ローイの言葉に俺はそう反論する。
「話を聞く限り、フルーと相性が悪い国だ。
もっと正確にいうならば、フルーに危害を加える可能性が高い国だ」
ルヴィナガルド皇国。
なんでも、呪いの魔女王を敵視している。
彼らにとって、呪いの魔女王は悪魔であり、人類の敵なのだろう。
「狂気を持った人間は何をしでかすかはわからないからな」
「そういうものか?」
「いや、お前の行動が良い例だろ」
と、俺はツッコミを入れる。
今は、俺への恋愛感情が入ったことから狂気が抜けている。
だが、それだけじゃないのだ。
集団じゃなくなったことからだろう。だが、皇国という一つの国家が狂気を抱いているのだ。それは、どれだけ危険なのかは歴史が証明している。
「俺たちの世界で中世という昔のヨーロッパだったかイギリスだったか……。
とにかく、西洋と呼ばれる分類の国だったな」
あいにくと、俺もそれほどに詳しいわけじゃなかったのでそういう。
「魔女狩りというのがあったんだ」
「お前たちの世界でも、魔女がいたのか」
フィリが驚いたように言う。
「いや、いない。魔女と呼ばれていた人たちがいた。だが、教会はそれを否定していた。まあ、魔女と言っても自然療法。お祖母ちゃんの知恵袋だな。それらを、お細下にしたようなものだ。ハーブを纏めたり調合したりするようなものだな」
「それ、普通にたんなる医療技術じゃないのか?」
と、フィリが尋ねる。
「歴史の流れだよ。教会が自分たちの名誉や威信に信頼を守るための悪役を必要とした。それで、教会を不要としている魔女を敵対にしたんだ」
と、俺が言う。
「まあ、あるいは教会と敵対する女を魔女と呼ぶようになったんだ。まあ、詳しい事情は言わないがな。で、魔女狩りがあって魔女と思われる女性は魔女裁判にかけられた。
裁判とは名ばかりの拷問がな」
重しを入れて水の中に入れられる。沈んだら魔女じゃない。浮かんだら魔女。と、いうものもだ。普通に、沈んだら死ぬにきまっている。
食事もまともに与えられず死ぬほど苦しい思いをされる。
その激痛からか、魔女じゃないにも関わらず自分は魔女だ。と、言った。
だが、魔女だと認めたところで解放されるわけではない。
「魔女だといったら最後、火あぶりだ。生きたまま、縛り上げられ火あぶりにされる」
と、俺は言う。
「正気とは思えないな」
「だが、フルーへの敵意も同じようにしか思えない。
同じくらいの狂気を感じるね」
問題は、それが一つの国という形だということだ。
「最悪、戦争とかになったら……。
迷惑というか困るぞ」
と、俺はそういったが冷静になれば、困るとか迷惑の次元じゃない気もした。




