第五話 呪いよりも厄介な問題というのはあるものだ。
傲慢な猫事件とのちに名付けたくなるような騒動は、無事に解決した。とはいえ、呪いがなくなったわけではない。
やれ、誰それの呪いでこう困っている。と、いう相談は山のようにやってくる。
とはいえ、
「うちの息子の成績が悪いんです。
きっと呪いのせいです」
「それ、この世界に来てからじゃないんですよね」
「ええ。けれど、うちの息子が成績が悪いなんておかしいと思っていたんですの。
きっと、誰かがひそかに呪いをかけて頭を悪くしていたんですわ」
と、力いっぱい宣言する厚化粧ババア……もとい、依頼人。
うちの町に住む金持ちの家であり、息子さんはそこの高校で成績が悪い。ただし、そこの高校は金さえつめば誰でも入れるようなバカ学校。そこでも、成績が底辺なんだから、よっぽど頭が悪いと思われる。
こういう客もいるのだ。
自分に都合が悪いことを、呪いのせいだ! と、主張をするのだ。
つまり、頭が悪いのは呪いのせいだ。女性にもてないのは、呪いのせいだ。太るのは、呪いのせいだ。そういった自分の都合が悪いことを呪いのせいだと、言い出すのだ。
「失礼ですが、それは呪いとは無関係なのでは?」
「まあ! 私の息子がバカだといいたいのですか!?」
「いえ。おそらく大器晩成なのだと思いますよ」
かみつきそうな勢いで詰め寄る依頼人の言葉に、俺はそうごまかす。
「ご存知ですか? かの天才であるエジソン。
彼も学生時代は、劣等生と言われていたのですよ。
ですが、交際では彼は歴史に名を遺す偉人とすら評される天才と呼ばれています。
きっと、ご子息はまだ完成していないのです」
と、俺は適当なことを言う。
ただし、本気絵言っているわけではないのでご注意をだ。
そもそも、エジソンは確かに子供のころは劣等生と言われていた。だが、彼はけして頭が悪かったわけではないはずだ。
おそらく、人が当たり前。と、思うことに対して疑問を抱き知りたいと思って調べた。興味が持ったことに関しては、とことん探究へ挑んだ。
だが、目の前の依頼人の息子さんがそうとは思えない。
そもそも、息子が天才だと根拠もなく思い込んでいる母親の息子。思う限りでは、どうも優等生と思うことは難しい。
「まあ、そうもそうね。
おほほほほ。オジャマしたわね」
「ええ。どうも」
俺はそういっておばさんが居なくなったのを確認して、
「塩だ。塩をまけ!」
「いや、塩代がもったいないだろう」
と、俺の絶叫にそうツッコミを入れるローイ。
「と、いうかなぜ塩をまくのですか?」
「二度と来るな! と、いう意味だ。
まったく。あの手の依頼人は迷惑だな」
フルーの質問に俺はそう言いながらやれやれと、お茶を飲む。
「まあ、同感だな」
と、俺の言葉にローイもうなずいた。
「なまじ、この街の住民は必ず呪われている。と、いう確証があるからだろうな。
呪いはたしかにかかっているんだ」
と、ため息交じりに言うローイ。
なんでも、この世界でもそういう自称、呪われている。と、いう人間はいるらしい。なんというか、あれだな。俺が金持ちにならないとか、モテないのは自分じゃない誰かが悪い。と、自分を見直さず努力をせずに他人に責任を擦り付けているやつだ。
そういう人間だけは、恐ろしいほど弁が立つから厄介なんだ。
「だが、それを差し引いても多すぎる」
と、ローイが口をさらに開く。
「多いのか?」
「ああ。この街の住民が呪いに関して無知。と、いうのもあるのだろうがそういう客はたまに来るか、たいていは一年に一人から二人だ。
しかも、そういう人間だけは経歴を求めるから普通は、魔法使い協会へと向かうはずだ。こんな場末……協会の中ではない魔法使いのところに来るのはおかしい」
「場末って聞こえが悪いぞ。
まあ、一個人がやっている一般商店みたいなもんだからな」
と、ローイの言葉に不満を口にしながら納得する。
わかりやすく言えば、協会は最大手の大企業。たいして、俺たちは小さな商店街みたいなところで個人で営んでいるお店みたいなものだ。
呪いのせいだ。と、思うのも冷静になればおかしいのだ。
だが、それでもこうしてたくさんの人が来る。
「ちょっと、調べてみますか?」
「あー。そうするか。
と、いうか協会に向かってみるか?」
俺たちのところにこれだけの客が来るのだ。
場合によったら、もっとたくさんのそういう客がきているかもしれない。と、俺は可能性を考えて言えば、
「賛成だな。
そろそろ、材料や触媒がすんでいる」
「そうねー。協会に言って買い物もしましょう」
と、ローイとアリスが言う。
「大丈夫ですか?
協会はものすごく高いし傷物や痛んだものが多いのに」
「「…………」」
フルーの言葉に二人が黙る。
その沈黙だけで俺はすべてを察してしまった。
おそらくフルーへの嫌がらせだ。魔法使い協会は多少の仲介料はかかるが、本来なら手に入りにくい代物がいろいろと上等な状態で手に入るのだろう。
魔法使いなら知っているべき、保存や保管の方法がわかっている。場合によったら見習いなどが、それを学ぶ駄目に練習をしたのが売られているかもしれない。
だから、傷物や痛んだものも売られているわけじゃない。さらに、仲介料がかかっているとはいえ、相場の値段で売られているはずだ。
だが、フルーへの嫌がらせ。
そのために、金額を跳ね上げてわざと痛んだ品しか売っていないのだろう。
そういうことをしていた連中と同類だったであろうローイを咎める用で見てやる。すると、気づいたのかそっぽをむくローイ。
まあ、それでバカにした理はしなくなったのは良いだろう。
「あー。フルー。お前は留守番な」
と、俺はため息交じりにそう言ったのだった。
「この世界の人間っていうのは、偏見でしか物事を見ていないのか?」
と、協会に向かう途中で俺は言う。
「たとえば、殺人者の身内。と、いうことでもあそこまで騒ぎ立てないぞ」
と、俺は言う。
とはいえ、何かしらの配慮などをする。
残った親族に被害が及ばないように保護などをしたりしている。
だが、この世界ではあまりにも大々的に攻め続けている。
「まあ、フルーにかけられている呪いが問題だな。
呪いを統べる魔女の復活。
それは、恐ろしいことだ」
と、ローイは言うが、俺にはいまいちに実感はわかない。
「まあ、言葉だけしか知らないお前たちには無理はないかもしれない。
だが、その悲劇をその眼で見たモノ。あるいは、親から言い聞かされたもの。
そいつらにとっては、恐怖の代名詞なんだ。
たとえ、どんな犠牲を払ってでも呪いを統べる魔女を蘇らせてはいけない。
誰もがそう考えている」
「下らねえ」
と、俺は言う。
「俺から見たら、その考えがある種の呪いだと思うね。
呪いのことは詳しくないが、怒りや憎しみ、恐怖や嫌悪。
そう言った感情が呪いを強めるんじゃないのか?」
「ええ。そうねー。
確かに呪いは感情で強化されるわ。
強い執着心とかね。だから、呪いの解除にも感情は大切ね。
他にも、呪いから身を守るのにも同じよー」
と、アリスが言う。
「なら、ひょっとしたらフルーへの恐怖や嫌悪。殺意。
それが、フルーにかけられている呪いを強化しているんじゃないのか?」
俺の言葉に驚いたようにローイが固まる。
「当人にはどうしようもないことで、咎められ悪意をなげかけられる。
そして、罵声を浴びせられ存在を否定される。
当然ながら、感情にはいろんなものが固まる。
負の感情だって集まるはずだ。
それを蓄えて、いずれ呪いの魔女は復活するつもりなんじゃないのか?」
俺の言葉に驚いたように固まる一同。
「……今まで、思いつかなかった。って、顔だな」
「なんで、魔法の素人のお前がそこまで詳しい推測を」
「いや、ある意味じゃ王道というべき展開だぞ」
と、俺は指摘する。
己に呪いをかけられてしまい、それによって忌み嫌われた存在。それの負の感情が集まった時に、ついにその中に封じられていた悪意が復活してしまう。
マンネリというか、オーソドックスというべきか。
そんなありきたりな展開はありえすぎる。
「つーか、なんで今まで誰も思いつかなかったんだよ?」
と、俺は聞き返す。
「まあ、口で言ったところで感情なんてそう簡単にどうにかなるとは思えないけれどな」
と、俺はため息をつく。
頭で理解したとしても、感情はそう簡単に動かないのが世の中だ。
俺がそう思っている中で、協会にたどり着いたのだった。
「差別禁止という言葉はこの世界にあるのか?」
と、俺は思わずつぶやいた。
フールが居ない状態で来たら魔法協会はとても丁寧な対応だった。
まあ、仮面をつけてハリセンを持った絶世の美少女というのはかなり奇異なものを見る目だった。とはいえ、それは無理がないのでスルーしておく。
それに、その仮面でも魅了された野郎がうっとうしい。
「差別禁止?」
「まあ、なるべく平等にということだ。
優劣をつけてひいきはいけない。と、いうのだな」
「それって、競争やテストがみんな同じ点数にするべき。と、いう考え方?」
「いや、それはちょっと違うような……」
アリスの言葉に沈黙する。
確かに、近年ではそういう考え方をしている親がいる。
競争などで敗北して子供が傷ついたらどうするんだ? と、いう主張から、マラソンなのでもみんなでおててをつないで一二の三で一斉にゴール!
と、いう考え方だ。
とはいえ、俺としてはそれは反対だ。
そもそも、現実問題として現代日本のみならず基本的な社会は競争社会だ。そりゃ、なるべく共栄共存。ともに栄えて共に存在するが理想だ。
とはいえ、人間というのはどうやっても優劣がつく。負けて悔しい。と、思って努力すること。敗北の悔しさや悲しさというのも人間は学ばなければならない。
「そういうんじゃなくてだな。
たとえば、お店には人気商品が一つある。けれど、それを欲しがっているお客さんは二人いる。二人とも払えるだけのお金はある。
一人は、お金持ちで地位が高い人間。もう一人は、普通の一般人で地位も普通だ。
お金持ちが後から来たんだが、商人は金持ちに商品を渡す。
それが、不平等だ。
要するに努力とか何かの対価ではなく、外付けの理由で人を判断する。そして、あからさまに差別するだな。
俺が言いたいのは魔法使いの名門、名家出身のローイ。
対して、大犯罪者の娘でありその大犯罪者が復活の要になってしまっているフルー。
二人への対応の差があからさますぎる。と、言っているんだよ。
実際のところ、フルーこそがそいつの最大の被害者だろうが」
と、俺は言う。
そう。ローイと来てフルーときた。それだけで殺意も敵意もなくむしろナンパが多くてすごくうっとうしい。
出された品々も普通の対応だ。
「まあ、同感ね」
と、アリスが言う。とはいえ、それがすぐにどうなるとは思えない。
そう思いながら俺はアリスを見て、
「つーか、さっきのそういう平等だっけ?
そういうのを実際にしている奴とかいるのか?」
「いると、いうかそういう国があるのよ。
聖都ルヴィナガルド皇国。
あらゆる競争争いが禁止されていて、全てが神の名のもとに平等。
そのうち、ここに関与すると思う」
「うわぁ」
宗教国家というやつか。と、俺は判断する。
死ぬほど面倒なことになりそうな気しかしないな。と、俺はため息をついた。




