第四話 時計兎と呪いの王子
兎を追いかけていると、今度は兎の方が飛んできた。
きちんと魚を持っているので、元居た兎なのは間違いが無い。
「……よし。捕まえたぞ。
あんた、人の魚を盗むんじゃない。兎のくせに!」
と、フィリが言う。
「やっぱりこの世界の兎も草食なんだな」
「肉食にしては、歯に牙がないからね」
と、俺の言葉に薫が言う。
「まあ、待て。フィリ」
と、俺は兎の耳を掴んでいるフィリを止める。
と、言うか兎をそう言うふうに掴んではいけないんだぞ。それは、狩りで仕留めた兎の掴み方だ。
「なんか、その兎……様子が」
おかしい。と、全てを言い終えるより先にそれは現れた。
「ほお。まさか、こんな場所で会えるとはな。
我が可愛い妹よ」
と、言う声がしてそちらを見る。
現れたのは、真紅の髪の毛をした一人の青年だった。
年の頃は、おそらくだが二十歳になるかならないか……。緑色の瞳は冷酷と言う言葉が相応しく冷たい。身にまとっている服は豪華な服であり、腰には剣を指している。
美形なのだが、あまり親しくなりたくない。
ま、イケメンなんぞ滅びてしまえ。と、考えるのが二枚目ではない男の義務だ。と、俺は思っている。
だが、それよりも気になるのは、こいつがフルーに似ていると言う事だ。
そして、妹よ。と、言ったのである。
この場で女はフルーと薫とフィリだ。
まず、薫は論外だ。薫は一人っ子だし、この世界に兄がいるわけがない。そして、フィリはフィリで肉親は全員が投獄されたはずだ。
……となると……、
「お前は! まさか!」
と、俺が考えて居る中でローイがそう叫ぶと同時に杖を向ける。
「知って居るのか? ローイ」
まあ、大体は予想できているが……。と、俺は尋ねれば、
「ああ。こいつは、サオン。
……呪いの魔女王の息子にして、呪いの魔女王を復活させようとする一派のリーダーだ」 つまりそれは、
「そして、そこのフルーの兄だ」
と、ローイの言葉にサオン……フルーの兄はそう言った。
「いやはや。探したよ。フルー。
あの忌々しい老いぼれを殺したと言うのに、お前は見つからなかったんだからね。
お兄ちゃんは心配していたんだよ。お前が何らかの形で封印なんてされたら、お母様が復活する事が出来ないからね」
「大丈夫です。こちらは会いたくありませんでした。
それに、私は封印されるつもりはありません。ただし、あの女を復活させるつもりもありませんけれどね」
いや、何を持って大丈夫なんだ?
と、フルーの言葉に俺はそう呆れた。いや、そう言う問題じゃないんだけれどな。
「何を言っている。フルー。
お前は、お母様が現世へと蘇るために選ばれたのだぞ。
なのに、なぜお母様を復活させる事を拒否する」
「当たり前だろうが」
と、俺はサオンと言うらしいフルーの兄に向かって言う。
「魔女王が復活したら、フルーは死ぬんだぞ。
そんなに、魔女王が復活して欲しいならお前が生け贄にでもなれば良いだろうが」
「なっ! お前は、呪いの魔女王が復活しても良いと思っているのか?」
俺の言葉にフィリが言う。
「物の例えだ。例え。
もちろん、自分を生け贄にするならそれはそれで止めるけれどな。
ただし、それはお前の命を守る為じゃない。
迷惑だから止めるんだ。話しに聞いただけだし、実際に出会った訳じゃ無いが……とにかく、どうしようもないほどに迷惑なやつのようだ。と、言う事は間違いのない事実のようなんでね」
少なくとも、俺の平穏かつ男としての生活を狂わしたのは、呪いの魔女王が元凶だ。
おかげで、トイレ行くたびに何とも言えない気分になったり、お風呂に入る度に目隠しをするたびに、赤面してしまったりするのだ。
そのうち慣れるかも知れないが、慣れたときはたぶん俺が男として何か大切なもの……女性の肉体への憧れとかそう言うのを失った時のような気がする。
「お前らがどうして、呪いの魔女王を崇拝するのか?
そんな事は理解出来ないし、するつもりもない」
世の中、いろんな考えの人間がいる。理論と理屈では解るが、だからといってそれを全てが理解出来るとは思っていない。
こちらの世界でも犯罪者とかあった。狂信者としか言えないような宗教と言うなの、テロリストたち。平然と人を殺す奴ら……。
もちろん、犯罪者の中にはそれ相応の理由を持って居た奴が居るだろう。中には、理解出来たり共感出来る部分があるやつもいるだろう。
だが、どうしても共感出来ない人間と言うのはいるのだ。
「少なくとも、実の妹に死ね。と、言えるような人間なんぞ仲良くなりたくないね」
と、俺は言う。
「ふん。貴様等になど、理解は出来ないだろうな。
お母様の偉大さを」
「人様を無作為に呪う偉大さなんて理解出来るほうが頭がおかしいと思うぜ」
と、俺は良いながらハリセンを手にする。
うん。微妙に格好悪いな。ハリセン。
「かっこつけて言う台詞だけれどさ。ハリセン持って言う?」
「好きでハリセンを武器にしているんじゃねえよ。
作った奴のセンスに文句を言え」
もうちょっと、かっこいい。武器は無かったのか? と、本気で尋ねたい。
「ああ。それか……。忌々しいあの、老いぼれが遺した……忌まわしい聖なる武器」
「……聖なる武器」
いや、それが忌まわしいと言っている相手が聖なる武器と言うか? とか、聖なる武器なのか? これが? と、いろいろと言いたい事が脳裏に浮かぶ。
だが、話し合いは……、
「四の五の言っているんじゃねえよ。
たとえ、何を言おうが何を語ろうが……。最初っから無意味なんだよ」
そう、この状況で何を語り合おうと結果は同じなのだ。
こいつらと俺たちは敵対している。それが、間違いのない事実だ。
「ふん。ならば、呪いを受けて苦しみわが母の復活の礎となれ」
「冗談は言動だけにしろ」
俺はそう言うと、同時に手にして居た魚(?)を相手似向けて投げる。
たとえ、それがどんな下らないものだとしても何かを投げられれば、それ相応の反応が返ってくる。その一瞬のスキをついて俺たちは回れ右をして逃げる。
「って、あんなことを言っておいて逃げるのか?」
「仕方が無いだろうが! 数も戦力も違い過ぎる!
逃げるが勝ちだ」
と、ローイの言葉に俺は反論する。
相手の戦力も武器も何も解って居ない。
謎が多すぎるのだ。それを、考えると、逃げた方が良い。
「相手としては、フルーを生け捕りにしたいだけだ。
言ってしまえば、フルー以外はどうなるかはわからない」
呪いでカエルや蛇へと姿を変えられる程度ならば、笑い話で住むかもしれない。
だが、おそらくだが高確率ではろくな結末が待っていない。そんな気がする。
「それは同感です。
さすがにあの連中は、まっとうな相手ではないんですからね」
と、シャルフが言う。
「彼ら……呪いの魔女王を信仰する存在。呪帝国を知って居ます。呪いをまき散らし数多の命を奪い取る。
そして、数多の呪いをさらに生みだしていると言う話を聞きます。
時には呪いを壺毒の呪いを使い新種の呪いを生みだしているとすらききます」
「壺毒?」
と、シャルフの言葉に薫が怪訝な顔をする。
「壺毒なら俺たちの世界にもあるぜ。……まあ、一般的には孤独……ひとりぼっちと言う意味の方が有名だが、そっちじゃない方だろうな。この場合は」
と、俺は前置きをしながら走りつつ言う。
「壺毒。毒蛇や毒蛙や毒虫……そう言った毒を持った生き物を壺の中に閉じ込める。
そこで、殺しあいをさせる。そして、生き延びた一匹の中にはものすごい猛毒を持って居るというやつだ」
と、俺は言う。
その理論を元にしていろんな逸話があるほどだ。アニメや漫画などで強力な兵士を生み出す。そのために、下級の兵士同士を一ヶ所に追い求める。
それによって、生き残った兵士は強力な力を手に入れる。と、言うやつだ。
まあ、あまり良い印象を持つ事ではないが……。
「呪いで壺毒……ね。ゾッとしないな」
と、俺は言う。
「話によると、人に幾つもの呪いを与えた。
その呪いを混ぜ合わせ、新しい呪いを生み出す。
そうやって新しい呪いを生みだしているそうです」
「……悪質」
と、俺は呻く。言ってしまえば、人体実験じゃねえか。
それも、ただの人体実験ではない。
相手が死ぬと決まり切った手段だ。
その手段に嫌悪と吐き気すら覚えてしまう。
「噂では……その呪いで数多の人がまともな言葉や死ぬ事すら出来なく成った。
そうなった者達すらいるそうです」
と、シャルフが言う。
……こいつ、まともな事を話せたんだな。と、俺はちょっと失礼な事を呟いた。
「とにかく、万が一にでも捕まったら……。
今より悪質な呪いを受ける事になるぞ」
俺としても、この呪いだけで手一杯だ。
「だから逃げる……だ。しかし、あいつらなんでこの森にいるんだ?」
と、俺は言う。
「フルーが狙いなんじゃないの?
あいつらもフルーを探していた様子だったし」
「いや、それは無いだろう」
と、薫の言葉にローイが言う。
「あいつらの様子から、フルーを見つけたのは偶然と言う印象だった。
そもそも、フルーを捕まえるとなればもっと準備をしているはずだ。
あいつらほど、フルーに掛けられた呪いに関して詳しいやつは居ない」
「なら、ここが呪いの森だから?」
ローイの言葉にフィリが言う。
「ここは、呪いの森なのだろう。
やつらにとっては聖域に等しいのかもしれない」
「大丈夫です。それは違います」
と、今度はフルーが否定する。
「ここの呪いは程度の低い呪いです。
ここなんてあいつらにとっては対した価値のない場所です」
と、フルーが言う。
「まあ、たしかに……話しに聞く限り悪逆非道かつ悪趣味な呪いが好みみたいだからな。
ここの微妙感の半端ない、一話完結のギャグみたいな呪いは趣味じゃないだろ」
ここの呪いは微妙な感じだ。
かけられたところで、せいぜいが嫌がらせや悪戯レベルだ。
こんな呪いを受けた。と、泣きついたところでせいぜいが厳重注意。呪いをかけた理由を聞けば、場合によったら自業自得と言われそうだ。
そもそも、呪い屋とはそう言う仕事を受けているそうだ。
たとえば、恋人が浮気したならその浮気をした回数によって酷くなる呪いをかける。あるいは、契約などで裏切った者はそれ相応の報いを受ける。
あるいは泥棒に入った人間に呪いを受ける。と、言うような呪いらしい。
あとは、パーティーで負けるとせいぜい、一晩ぐらいで治る呪いをかける事もある。パーティーなどで失敗すると間抜けな格好をする羽目になるあれだろう。
深夜テンションだと笑い出せるが、冷静になるとなにをしているんだろ? と、虚しくなるような呪いらしい。
とは言え、それはさておいておこう。
「で、どうするのよ?」
「逃げてアリスの家に逃げ込む。
……おそらく、あいつらもそこへ向かうはずだ」
「はあ?」
俺の言葉にフィリがあきれた声を上げる。
「わざわざ、敵が向かうと断言できる場所へ向かう?
何を考えて居る?」
「このまま、俺たちがあの家に戻らなければ……アリスがどうなるんだよ?」
「あっ!」
俺の言葉にフィリが声を上げる。
この森の近くにある家はアリスだけだ。おそらく、今まで呪帝国にとって、どうでも良い存在だから放置していただろうが……。
今はフルーと関係があるかも知れないやつの家となったのだ。狙われる可能性が高い。
余談だが、俺はまだ兎を掴んだままだった。




