第一話 奇人変人と断言された相手に会わなくてはいけないのは憂鬱だ。
「アリスの所に行こうと思います」
「アリスって……それが、お前の言う友人か?」
フルーの言葉に俺は思わず聞き返す。
アリス……少なくとも現代では、多少の年齢になっていれば男女問わずに少なくとも、名前だけなら知って居るだろう名前だ。
アリス……脳裏に浮かぶのは不思議の国のアリスだ。
時計兎を追いかけてそのまま、不思議の国に迷い込んだアリス。
世界的に有名な童話であるが、原文やら原書やらを読んでみると意味不明と言うのが脳裏に浮かぶだろう。……実際に、この作品は夢落ちと言う現代になって書いてみれば、まちがいなく一次選考で落選するだろうと言うオチなのだが……。
とにかく、そのアリスと言う名前だけなら可愛らしい女の子を思わせるが……。
「言ってしまえば、奇人変人だ」
と、ローイが言う。
「まあ、たしかに変わり者で奇怪な人ですが」
と、フルーまで同意する。
「……まさか……あの呪いの森の呪い屋娘アリスか」
「なんだ? その微妙な異名は」
と、フィリの言葉に俺は突っ込みをいれる。
「不思議の国のアリスみたいな名前」
と、薫も言う。
「不思議の国と言うのがどんな国かは知らないが……。
有名なやつだ。そもそも、呪いの魔女王と言う存在からどうどうと呪いをかけることを専門にしている魔法使いというのは少ない。
もちろん、呪いというのも正しい使い方をすれば、良いのだろうが」
「たしかにな」
と、俺は身に着けている鼻眼鏡を触る。俺のように、かけられている呪いとは逆の性質を持つ呪いを身に着ける事で、呪いの効力を弱める。
他にも言ってしまえば盗難防止とか、不審者が入って来ないようにする。言ってしまえば、毒も薬も使い方次第と言う事だろう。
麻薬の材料になるアヘンだって本来は、違う目的のために使われていたのだ。それを、間違った使い方をしているのだ。火薬だって固い岩盤を崩す事が目的であり、兵器として開発されたわけではなかった。と、俺は納得する。
「そんな中で、どうどうと公言している魔法使いだ。
まあ、腕はたしからしいが……住んでいる場所も普通の人間なら住まない場所だ」
「たしかに、呪いの森と言うのは……あまり、聞こえがよくないな」
とはいえ、俺たちが今、住んでいるこの街だって言ってしまえば呪いの街だ。
いや、呪われた街と言うのが正しいのかも知れないが……。
「だが、真っ当な呪い屋ですよ」
「……真っ当な呪い屋ね……」
なんというか、真っ当なヤクザです。と、言われたような気分だ。いや、ヤクザなんて詳しい事は知らないけれどな。とにかく、フルーとは友人関係らしく親しいらしい。
「わりと、近くに住んでいるんで……行きましょう」
「あいつと会うのか……。あいつは、あまり会いたくないな」
と、フルーの言葉にローイが嫌そうに言う。
「家柄とかそう言うのを除いても……あいつは、何というか……。
奇人変人だと言うのは間違いのない事実だぞ」
と、断言するローイ。その言葉に俺は不安を覚えたのは無理が無いと思って欲しい。
とにかく、状況もあって俺たちは町を出る。さながら、フィリの身内(と、呼ぶのも問題だろうが……)の所へと向かったときの事を思い出す。
あの時と違うのは、仮面の代わりに鼻眼鏡を身に着けている事。
そして、ローイも一緒について来ていること。
ついでに……ストーカーにシャルフがついて来ていることだろう。
とにかく、言いたい事は一つだ。
「おい。なんで、あんたまでついて来ているんだよ?」
と、後ろを歩いているシャルフに怒鳴る。
「ああ、愛おしい人。
そんなに恥ずかしがる事はない」
「恥ずかしがって居ねえよ。むしろ、迷惑をしているわ!」
うっすら寒いやつの発言に俺はそう怒鳴る。
迷惑極まり無いのだ。
あまり、頼りにならないし……。
「なにを言いますか。
美しい淑女が四人で旅をしている。
悪漢に襲われたらどうするのですか?」
「私を無視するな!」
と、シャルフの言葉にローイが自己主張する。
まあ、ローイの発言は正しい。
とは言え、
「いや、悪漢に襲われても……対応は多少は大丈夫だ」
と、俺は言う。
確かに、盗賊と言うのに襲われた事はある。
だから、どうにかするべきだろう。だが、俺達だって戦える。
まあ、フルーの方がいろんな意味で心配が多いが、だからと言ってシャルフがいたら大丈夫。と、言う保証はまったく無いのだ。
むしろ、フルーがなんらかの形で死にかけてしまえば、また呪いが発動する。
事情を知っているメンバーならどうにか出来るわけだ。
だが、シャルフは知らない。
さらに、問題であるが俺はシャルフの人となりと言うのがわからないのだ。
フルーの母親、そしてフルーにかけられている呪い。
それを、知った場合どんな反応をするのかは解らない。
……まあ、なんとなく間が抜けた対応をするような気しかしないが……。
「それに、呪いの森は危険です」
「そうなのか?」
「まあ、かつていろんな呪いがかけられて作られた森。と、言う事で有名だからな」
と、俺の疑問にローイが言う。
「大丈夫です。
かかっている呪いも頭に動物の耳が生えるとか、三頭身になるとか、下半身がスライムになるとか……。上半身が蛇になるとか……。
その程度の軽い呪いです」
「軽いのか? それ」
フルーの大丈夫です。に、一抹の不安を覚える。
「ああ、本当に呪いとしてはそれほど強力な呪いじゃない。
それこそ、初心者の呪い解呪屋でも呪いを解けるほどだ」
と、ローイが言う。
おお、魔法に詳しい説明役だ。
と、俺はローイの存在に初めて心から感謝が出来た。
呪いの森と言うのは、別に呪いを統べる魔女王が産みだしたものではない。なんでも、太古の昔から軽度の呪いの品などを捨てていたりしたら、いろいろな魔力的な要素が混ざり合った結果、周囲の魔力を元に軽度の呪いを自動的に生み出す森となったらしい。
「不法廃棄は駄目というやつだな」
と、俺は頷きながら馬車に揺られる。
呪いの森とやらは、それなりに遠いらしく歩いて行くよりも馬車がよいらしい。
しかし、馬車……。
車が主流の現代社会では、それこそ本当に乗る機会なんてそうそうにない。ちなみに、御者を務めるのはフィリとローイとどう言っても憑いてくる。と、言うシャルフだ。
まあ、現代日本人の俺と薫に馬車の御者をしろ。と、言うのは無理だ。
馬なんぞ俺は、せいぜいが一日乗馬体験教室などでプロが補佐してくれる中で、馬にまたがった程度でしかない。御者を務めろ。と、言ってもせいぜいが手綱を掴む事ぐらいしかできないので、論外だ。
フルーの方は、魔法使いだから馬に乗ったことがない。……ではなく、
「え? 馬にのるといつも馬が巻きこまれて死ぬんです」
だそうだ。
深く突っ込まないでおこう。
実際に、同じ魔法使いであるローイは馬を操る事が出来た。
「この程度、貴族のたしなみですよ」
と、言ったが……、まあ、貴族なんて言うのは現代日本では、どこかの異国の存在。と、言う印象しか無いので気にしてはいられない。
フィリの方は元々、この世界では旅をするなら馬を操るのはわりと基本的とまではいかなくても、基礎にあたるらしい。
同じ理由でシャルフも馬を操る事が出来た。
「で、呪いの森と言うのができあがったんです。
もちろん、最初の頃にはなんどか呪いを解しようとしたのですが……。
そのためには、時間も人材も費用もかかる。
そのわりには被害が少ない。と、言う事なども手伝い……あまり近づかなければ良いではないか。と、言う理由で放置になったそうです」
「なるほどね」
ようするに、臭い物には蓋をする。とか、先送りと言うやつだろう。
……そう言うのは、どこの世界の偉い人も変わらないんだな。と、俺はわりと失礼な感想を抱く。
まあ、言ってしまえば地位や名誉が欲しいがそれに伴う責任や厄介ごとはいらない。と、言うのが人情というやつだろう。
大きな問題名って、初めてこう言うのは慌てるんだろうな。と、俺は思った。
まあ、近づくと危険。と、言う事は確かなので基本的に近づく人間も居ない。その例外が、アリスと言う人物らしい。
「名前からして……女だよな?」
と、俺は確認する。いや、男だと俺に惚れるからだ。
断じて、他に意味があるわけではない。
「はい。そうですよ」
「安心してください。ヨシキさん。
私は全ての美しき女性の味方です。ですが、僕の心の一番、大切な宝箱の中に居るのはずっとあなた一人です」
「いや、そんな心配はしていないから。
だから、前を見ろ」
と、御者をしているシャルフがくるりとこちらを向いて、薔薇をまき散らしながら(どこから出した?)言うので、そうツッコミを入れた。
そんな中で、どうにか平穏に目的地へとたどり着く。
途中に盗賊や山賊に出会わない旅はそれなりに平和だった。
だが、その光景少しずつ変化もしていく。
草木が普通のものから奇妙な形になっていく。
植物だけではない。森の様子もおかしくなっている。
「奇妙としか言えないな」
と、俺は周囲に見渡しながら言う。
呪いと言えども、毒々しいとか禍々しいと言う印象は無い。
派手な桃色の草木や、犬の鳴き声で鳴く鳥。
「森の影響ですよ。まあ、たいした危険性はありませんよ。
ヨシキさん達に賭けられている呪いと違って、日常生活にも師匠はありませんし……。近くに住んでいての影響なので、離れれば一ヶ月もすれば勝手に解けます」
やがて、見えてきたのは……。
「何というか奇々怪々と言う言葉だな」
いろんな色のクレヨンで色を塗ったようなパステルカラーの色彩の森。
不気味と言う言葉よりも、奇怪。そんな言葉が似合う不可思議な動物達。
そんな森の出入り口の近くに妙な家があった。
いや……と、言うよりも……。
「家……なのか? あれ?」
あえて言うならば、逆さまの家である。
本来ならば家という形のが反転している。ただし、窓やドアなどは正しく一致している。ひょっとしたら、呪いの影響なのかも知れない。
「大丈夫です。間違いなくあれは家です。
そして、あの家のデザインはアリスの趣味です」
「「どんな趣味?」」
フルーの言葉に俺と薫がツッコミを入れる。
「まあ、こんな所に住んでいるからな。
変人なのは間違いが無いな。あと、少女趣味だ」
と、言うローイ。
まあ、少女趣味というのは分からないでもない。
と、俺は思う。
家のデザインは、上下が逆さまと言う点を除けばたしかに少女趣味だ。真っ赤な瓦の屋根にクリームを思わせるような真っ白な壁。
煙突は茶色と言う小さな女の子が憧れるドールハウスのような感じだ。
まあ、しつこいようだが上下が逆さまと言う点を除けばだ。
「とにかく、入りましょう」
と、フルーは言う。
「……なあ。もしも身に着けている服も上下が逆さだったら……どうしよう?」
「それ……どうやって服を着るのよ?」
俺の疑問に薫が言う。
フィリがため息混じりに口を開く。
そんな中、
「アリス。
お久しぶりです。私です。
フルーです」
と、言った瞬間だった。
「フルーちゃぁぁぁぁん」
と、歓喜に溢れた声でそう言うと同時にドアをあけて一人の少女がドアを開けて飛び出してきたのであった。




