第七話 視野は広く曇りのない眼で見なさい。世界が違っても大切な事のようです
飛行機からパラシュートつけて自由落下するスポーツがある。たしか、バンジージャンプ……いや、違う。スイカタイピング……いや、近づいたけれど遠のいている。
スカイピッキング……スカイダビング……ああ、そうだ。スカイダイビングだ。
俺は今、スカイダイビングをしている。
ただし、パラシュート無しでだ。
そうパラシュート無しだ。
…………
「死ぬぅぅぅ」
ドラゴンの呪いを解いたら、落ち着いて動きが止まると思っていました。
まさか、足場が無くなるなんて思ってなかったんだよ。
ふと、下を見れば気絶している生であたまから落ちているローイ。
ちなみに、俺は両手を広げて空気抵抗を受けて少しでも落下スピードを落としている。とは言え、あくまでも多少であり言ってしまえば焼け石に水だ。
このままでは、本当に焼け石にかけられた水のようにシュン! と、四肢がばらばらになりそうだ。せいぜい、水と違い蒸発しないだろうな。と、言う結末だろう。
そこに、ぐいっと俺の体は突然、上へと引っ張られた。
いや、正確に言えば落ちるのが止まる。そして、
「ヨシキさん」
と、言ってシリウスさんと、フールとラフェレアさんが近づいて来る。
「あ、ありがとうございます」
たぶん魔法で助けてくれたんだろう。と、思っていると、ふよふよとUFOキャッチャーなどで釣り上げられている人形のような感じで持ち上げられているローイが登ってきた。眼を回して気絶している。
涙以外の口から出る者が全部出て居る。
一番、醜くない涙が出てないのも手伝って見苦しい顔である。
「死ぬかと思った」
と、言えば、
「当たり前です。なんて危険な事を!」
と、シリウスさんに怒鳴られる。とにかく、俺は天馬に乗り、そして逆さづり状態のローイの顔を叩く。
ちなみに、ぺちぺちとした軽い物だ。
それは、彼を心配して……ではない。
気絶している状態で殴ったところでは意味が無い。
ちゃんと覚醒したところで、自分がどれだけ迷惑をかけたのか。それを、口に出してから渾身の一撃を放ちたい。
理想としては、地上に落ちてから足場がしっかりしているところで腰の入った拳を顔面にぶつけたい。
相手が女なら、顔を殴るのには躊躇するが男なので殴っても問題は無いはずだ。得に、美形の同性の顔を殴りたくなるのは人間としての当然の本能だと思う。
とにかく、説教ならラフェレアさんにもしてもらおう。と、思いながら顔を叩く。
すると、
「ん……」
と、目を開けるローイ。いや、目を開けるのではなく白目をむいていたのがちゃんと視線を合わせる事が出来るようになった。と、言うべきだろう。
俺は文句を言おうと口をあけようとして、
「美しい……」
と、ローイの口から出た言葉に俺は絶句した。
頭でもぶつけたのか? と、真剣に思った。
言う事欠いて、俺を美しい?
いや、たしかに俺は美人だ。
自分で言うと、嫌味かナルシストか? と、言われてしまいそうな発言だが、こればかりはそれが迷うことない事実なのだから、困った事だ。
とは言え、それは呪いの影響だ。
呪いによって絶世の美女……正確に言えば、美少女になっている。それも、傾国の美女だ。国を傾けるほどの美女が美しくなければ、傾いた国も浮かばれないというものだ。
とは言え、呪いで美しくなった体でありしかも望んだわけではない。つか、そもそも性別として言えば、美女と言われてもちっとも嬉しくないのだ。
そもそも、俺を美人と言うのは呪いの影響だ。
こいつもそれを知って……いるし、そもそも顔を仮面で隠して……。
「あ、あのヨシキさん。仮面が……」
「仮面?」
その言葉に俺は顔を触れて、
「げっ!」
思いっきり顔をしかめた。
仮面が無いのだ。
ひょっとしたら、あの時の騒動で落ちたのかも知れない。
あり得ない事は無いだろう。
あの乱戦だ。
顔に貼り付けているような仮面なんぞ、外れるにきまっている。
よく、劇とかで仮面の騎士とか、正義の味方が仮面を身に着けてたかって居るが……よく落ちないものだ。と、呆れるレベルだ。
実際に、今回は落ちたのだろう。
地面を見るが、おそらく落ちていて壊れて居るだろう。
それに、気付いた途端に感じるのは俺への熱い視線。
美しい女性に心を奪われて、恋する者の瞳だ。
あの仮面は確かに効果があったらしい。と、今さらながらに実感する。
街でもわりと、高頻度でナンパされたり口説かれたりストーカー被害に遭っていた。だが、ここまで無作為かつ空気を読まない感じではなかった。
今は戦場だというのに、俺に惚れ初めて居るのだ。
いや、完全に心を奪われていると言う感じだ。武器を投げ捨てて、僕に愛を叫び初めて居る声がする。
ストーカー第一人者が居たら、ややこしい事になっていただろうな。と、思いながら俺はフードを目深く被るが……。
焼け石に水という諺が脳裏に浮かんで消えない。
どうやら、なにを言っても無意味な気がする。
「……とにかく、下りましょう」
「そうだな。あと、帰って良いですか?」
これ以上、野郎からの熱い視線なんて浴びたくない。と、言うのが俺の本音だ。
あいにくと、俺は同性から恋愛感情を向けられて喜ぶような倒錯した趣味は無い。どうせなら、女性から熱い視線を向けて欲しい。
とは言え、立った一人でよいのだが……。
ああ、どうしてこんな呪いにかかったんだ。
と、思いながら俺は言う。そして、
「あと、異性から嫌われる呪いの品とかありませんか?」
「ありません」
即答されて、俺はただただうなだれることしかできなかった。
異性から嫌われる呪いの品と言うのは、存在はしているがここには無かった。まあ、当たり前と言えば当たり前だ。
呪いとしてはありふれた品らしいが、それは呪いとしては有効と言う証明でもある。まあ、当たり前と言えば当たり前だ。
一部の特殊な例外を除けば、異性に好意を抱かれて悪い気分になる人間はいない。逆に異性から意味もなく嫌悪を抱かれて良い気分になる人間も居ない。
俺としても、たまに女性からチクチクとした視線を感じてへこみそうになる。理由がはっきりと解っている(メチャクチャモテている同性(肉体は)なんぞ、不愉快でしかないだろう)まあ、それに三大欲求の一つの性欲が満たされないのだ。
……まあ、例外的な手段で異性が居なくても満たす事は出来るだろうが……。あれは、例外中の例外で除外する。
なんとか顔をローブで覆ってどうにかするのだが、
「ああ。美しきかな。
あなたの美しさに今まで、気付かなかった私はなんと滑稽だったんでしょう」
「あんしんしろ。今ほど、滑稽じゃなかったよ」
と、俺は冷淡にローイに言う。
今までは、状況とかを理解していなく偉そうな……血縁関係で上層部にいたエリートだけれど、いろいろ失敗して下っ端の方からやり直し。有能なんだけれど、エリートだった時の感覚が抜けてなくて結果としてお荷物になっている。と、言う感じだった。
あれは、あれで滑稽だったが今はそれに色ぼけと言う要素が加わっている。
「お前、呪いを弾く力があるんじゃなかったのかよ?」
「あの呪いの魔女王が作った呪いですからね。
至近距離からの弱まっていない一撃。しかも、魔力を大量に消費していてそれに対する耐性魔力も減っていましたから、急所への一撃でしたね。
カイシンノイチゲキというやつです」
「…………」
フルーの言葉に俺は頭痛を覚える。会心の一撃とかは、フルーが読んでいるバトル漫画から覚えたのだろう。この世界の文字も覚えたいと言うので漫画で教えているのである。
漫画なのは、もっとも言葉を覚えやすいだろうと言う判断だ。
最近では外国人も日本語を覚えるのに、漫画などを読んで学んでいると聞いた事がある。
正しい、綺麗な日本語を覚えるのにいは不釣り合いだろう。だが、日常会話ならば、むしろそちらの方が砕けていて解りやすかったりする可能性がある。
何よりも続きが気になって自然と読めるようになる。
……まあ、一部には漫画特有のおかしな表現があったり、漫画でしか使わないような言葉を使ったりして困る事もある。と、言う事を聞いた事があったが忘れていた。
なるほど、こう言う悩みか……。と、今さらながらにその意味を理解した。
遅いと言う可能性もあるが……。
「つか、使いどころが違う」
と、俺はツッコミをいれる。
「へえ。ヨシキが持っている漫画にはそんな言葉があるんだ。
カオルの持っている漫画には、ウンメーノコイと言う言葉とかある」
「……それ、少女漫画」
「うるさいわね。べ、別に集めるのが趣味とかじゃないんだからね」
フィリの言葉に俺が突っ込みをいれれば、叫ぶ薫。いや、別に悪いと入っていない。女の子が少女漫画を読んでいておかしくはない。今日日、男が少女漫画を読んでいたり、女が少年漫画を読んでいるようなご時世だ。
恥ずかしがる必要は無いと思うと言うか、そこは重要じゃない。
「……あとで、異性に嫌われる品でも身に着ければ正気に戻るかな」
と、俺はため息混じりに呟いたが……弟の事を思い出して無理だと悟ったのだった。
リーダー格の青髪を倒し、その後に竜が居なくなった事から混乱が始まりその瞬間に、フィリアさんの魔法で一網打尽となった。
「つか、そんな魔法が使えるなら……もっと、早くに使って下さいよ」
と、俺は呟きながらうっとりと俺を見ているローイとは視線を合わさないように気をつける。うっとうしい。
「あの竜の力で、広範囲魔法が使いにくくなっていたのよ」
と、ラフェレアさんがため息混じりに言う。
それに、術式に時間がかかっていたらしい。あの猛攻撃の中では、その術式への集中がわりと難しく、竜の術が解呪されて混乱の極みに達していたことから、それが初めて可能となったと言う訳らしい。そう言われてしまえば、それ以上は反論が出来やしない。
なにしろ、俺は魔法に関しては無知なのだから……。
「とにかく、彼女たちを確保出来たのは幸いでした。
それにしても……ローイ」
と、ラフェレアさんはうっとりと俺を見ているローイに触れると、
「エレキ・ショック」
と、言った。その瞬間に電撃がはじけ飛び、
「ぴょぎょん」
と、言う変な悲鳴を上げた。
「ら、ラフェレア様」
「……気付くのが遅いです。
まったく、あなたは自分が何をしでかしてしまったのかを解っているのですか?
あなたがそう言った問題を引き起こしてしまうからこそ、勉強として彼らに任せたのです。あなたは、なまじに才能が高くまた家柄も高すぎる。それ故に、その騒動で引き起こしてしまうのがあなたの問題なのです。
一度、身分を忘れて知らなかった世界で見る。あなたに必要なのは見聞の広さなのです。
だというのに、あなたは視野を広く見ようとしない。
その結果が、今回の問題なのです。
あなたが主張していた事を強行しようとしていた者達が、何をしようとしていたのか? わかりますか? 一つのまったく無関係の被害者たちを殺そうとしていたのです。
それが正しい事だと思っているのなら……あなたを罰さなければなりません」
と、ラフェレアさんが言う。
危うく呪いの核として利用されて死にかけた人に対して、酷いが……。彼の行いが問題があるのも事実だ。彼が、勝手な行動をしてなければと言うのもある。
とは言え、それに関しては俺たちにも問題があった。
ローイがヒステリーを起こしたのをいつものこととして、放置していたのだ。
「すっ……すみません」
さすがにローイもそれを言われると反省するらしい。
「視野を広く持ちなさい。
そうでなければ……本気であなたの魔法資格を剥奪します。
今回は、事故のようなものでもありあなたも被害者の側面があります。
それを鑑みて、罰しませんが……。
今後は冷静に視野を広く持ちなさい。
あなたは、一歩間違えれば彼女たちと同じだったのですよ」
たしかに同感だ。とは言え、ローイの方は最後の一歩を踏み出さずにいる。
「偏見も思い込みも家柄、出自、身分。
それらを無視して曇り無き眼で相手を見据えない。
それが、本当に素晴らしい魔法使いになるために必要なものなのですよ」
曇り無き眼……。それは、武術にも大切な事だ。
武道と魔道はひょっとしていたら似ているのかも知れない。と、俺は思った。




