第五話 大空でドラゴンとの戦いと聖救教。平和の犠牲者なんぞ誰がなるか!
天馬に乗って空を飛びたい。
と、言うのはまあ……夢見る人間は沢山、居るだろう。だが、実際に乗って移動したことがある人間と言うのはそうそう居ないだろう。すくなくとも、現代日本……いや、現代地球では居ないはずだ。
つまり、俺は現代日本で初めて天馬に乗った男子高校生になったわけだ。ちなみに、薫は初めての女子高生だ。
……今の俺が、男子高校生で良いのか? と、言う質問は受け付けて欲しくない。と、言うかそれを言われると俺としても悲しいところがある。
まあ、前振りが長くなったが天馬にのった感想は、一つだ。
「寒い」
寒い。いや、理屈としては当たり前かも知れない。
上空へと行けばいくほど、空気というのは寒く冷たいものだ。
その上、ものすごいスピードで移動するので風が吹き荒れる。
わかりやすく言えば、冷たい風が肌に凍てつく。
用意されたコートのおかげで凍死はしないが、良く見ると前髪の先端が凍り付いている。
「……スーパーマンとか、よく風邪をひかないよな」
と、俺は呟く。
あんな薄地の全身タイツ風の服でよく風邪をひかないものだ。そもそも、いくら肉体が超人じみていても、タイツとかは違うはずだ。
まあ、架空の物語にそんな細かい事を指摘するのも大人げないが……。
などと、思いながら俺は天馬に乗って、空を飛ぶ。
ちっとも楽しくない。
そんな中で、見えてきたのは一匹……いや、一頭だろうか?
とにかく、大きなドラゴンだった。
「おお。ドラゴンだ」
と、俺はしみじみと呟く。
巨大な蜥蜴に蝙蝠の羽根が生えている。それが、もっとも上手なたとえだろうが……。あまりにも凶悪な雰囲気から、蜥蜴と言うよりも巨大な鰐と言う印象のほうが強い。
ただし、鰐にしては手足が不徳で巨大だし爪も鋭すぎる。
あと、それほど可愛くないし格好良く無い。
「うわ。すげえ」
と、呟くがどちらかと言うと嫌悪が違い。歪にぶくぶくと体の皮膚がふくれあがっており、色は漆黒と言うよりもどす黒い。どちらかと言うと、ヘドロのような汚らしい黒色である。そして、その淀んだ真っ赤な瞳は毒々しいの一言に尽きる。
「一つ、聞くけれど……。
あのローイのバカはどこらへんにいるんですか?」
「解りませんわ」
俺の質問にシリウスさんがそう答える。
「……目印になるものとかは無いんですか?」
おそらくだが、核であるローイがいる場所を叩かないと駄目な可能性もある。
そう思っている中で、突如としてドラゴンが真っ黒な炎を覇気ながら襲ってくる。
「全体! 回避」
と、言う指揮と共に天馬が旋回をしてドラゴンの炎から避ける。
「いきなり、攻撃的だな」
と、言う中で、
「現れましたね。呪いの魔女王の忌み子」
と、言う声が響いた。
「呪いの魔女王の忌み子?」
その言葉に、フィリが驚嘆の声を上げる。
フィリなら呪いの魔女王の事も知っていれば、その忌み子……つまり、フルーの呪いについてはしっているのかもしれない。
逆に、
「呪いの魔女王の忌み子? 呪いの魔女王ってたしか、あたし達の街にかけられた呪いの元凶よね。それの忌み子ってどう言うこと?」
と、薫が疑問を口にする。
……誰にも言っていなかった。
「話しは後だ」
と、俺は言う。
ここで、フルーの呪いについて言った所で誰も幸せにならないはずだ。それに、
「呑気に話をしている場合じゃないはずだ。
ドラゴンが相手だぞ」
と、俺は言う。
何しろ、相手はドラゴンなのだ。
余裕や勝てると言う保証はまったく無いはずだ。
「ふん。なにを言っているのですか。
そこの二人の少女」
「……二人の……『少女』……」
と、俺はフルーの呪いについている女の発言に顔をしかめて声の主を見る。
紫色の髪の毛をしたロングヘアーの女性だ。
だが、冷酷非情……そんな言葉がしっくりと来る異様な冷たさを持っている。
その目線の先に居るのは、フルー。
つまり、フルーの顔も呪いもちゃんと知って居ると言う事か……。
「きさまらにかけられた呪いの元凶は、他の誰でもないその女が元凶なんだぞ」
その言葉にフィリと薫がフルーを見る。
「そんなわけ無いだろうが」
俺は気が付いたら怒鳴っていた。
「フルーが悪いわけないだろうが!」
そうだ。全ての元凶は全ては呪いの魔女王であってフルーではないのだ。
そう俺は思う。
「なにを言うか!
その女が存在している。それだけで、世界を崩壊し恐怖と危険を生み出しかねない。
そんな存在自体が間違ったものなのだぞ。
危険と恐怖を与え絶望を与える。
なら、そんな存在など抹消するべきだ」
「頭の悪い理屈だな」
と、俺は言う。
「危険は排除?
そんな単純な理屈でしか行動が出来ないのかよ?」
そもそも、そう簡単にできるわけがないのだ。
「つか、その理屈でどうして俺たちの街をそんなドラゴンで襲ってくるんだ。
しかも、ついでに人一人をまちがいなく犠牲に仕掛けているじゃねえか」
「それこそ、正義のための貴い犠牲だ。
お前達は、正義のための犠牲となれ。
成功した暁には、貴い犠牲としてその名を刻んでやろう。
さあ、喜べ」
誰が喜ぶか。と、俺は心の底から呆れた。
貴い犠牲。口で言うには、素晴らしいだろうがそれをいうやつと言うのは、大抵は安全な場所から高みの見物ときまっているのだ。
あるいは、自分が貴い犠牲というのは狂信者ぐらいだ。
ようするに、頭がおかしい。
こいつの場合は……おそらく、後者だろう。
おそらく、フルーを倒す事が正義だと思い込んでいる。
そして、正義だから自分たちは正しい。
正しいからなにをしてもよい。と、言う子供の理屈で行動をしている。
子供の理屈であるが、そこに道徳概念と言うネジがすっぽ抜けているのだ。
「……どうしますか? 説得をしますか?」
「あんた、それ本気で言っているんですか?」
シリウスさんの言葉に俺は真顔で尋ねる。
「あんたたちの世界じゃどうかはしりませんが、……ああいった人間に会話は通じない。と、言うのは俺たちの世界では歴史が証明しています」
ヒトラーしかり、魔女狩りしかり……。暴走した連中と言うのは、後先のことを考えずに自分たちが正しいと思い込んで走り出すのだ。
走って走って、力尽きてぶっ倒れるまで走り続ける。
で、いい加減に体力が尽きたときに気が付いたら後ろから刺されるのだ。そして、彼らが走った道は血まみれの状態だ。
結果として悪しき歴史として残る。
とは言え、それは過去の出来事としてだ。
「ああいうのは、話し合いで解決する類の事じゃねえ。
実力行使で動けなくしなければ……何も変わらないだ」
まあ、殺すつもりは無いが……。
「その通りですね」
と、言ったのは真正面にいたラフェレアさんだ。その後ろには、ローイがいる。
「あなた方の要求には我々は飲む事は出来ません。
それ故に、あなた方、そしてその竜を実力行使で止めさせていただきます。
場合によってはそちらに、死傷者が出ると思われます。
大人しく降伏していただきたいと思います」
「黙れ! 世界の平和を脅かす者たちめ! ここで成敗してくれる」
ラフェレアさんの言葉にまったく耳を貸さずにそう紫色の髪をしたロングヘアーの女性は、そう宣言する。
狂信者に話しは通じない。
そんな中で、無数の魔法使い……もとい、狂信者たちがドラゴンを使役して襲ってくる。
「で、どうするんですか?」
と、俺はラフェレアさんに怒鳴るように尋ねる。別にこの状況に不満があるわけではない。ただたんに、大声を出さないと聞こえないような気がしたからだ。
「とにかく、ドラゴンを叩く。
やつらが強気なのはドラゴンがいるからだ」
いや、違うと思うが……。
と、俺は思うが……。とにかく、やつらの行動の要となっているのはドラゴンである。ドラゴンが街に来たらアウトなので、たしかにドラゴンをどうにかするだ。
俺たちの勝利条件は、まずは全員が生き延びる事。そして、二つ目はドラゴンを倒す。三つ目はローイを助ける事だ。
対して、敗北条件は、一つ目は全滅。二つ目は、ドラゴンが街にたどり着くこと。そして、三つ目はフルーが殺される事だ。
つまり、ドラゴンをどうにかするのは譲れない事であった。
「とにかく。旋回! その後、幻影魔法を発動!
それで、攪乱しつつドラゴンの解呪をします!」
と、宣言するラフェレアさん。
どうやら、ラフェレアさんも同じ考えらしい。さすがは、合法ロリ老婆である。腹芸やら策略に関しては、俺より一枚どころか数枚ぐらいは上手だろう。
対して、相手は狂信者たちだ。
死をも恐れぬ心があるが、そのかわりにあるのは単純思考だ。敵を倒せばそれで良い。と、言う考えであり、どうやって安全にとかそう言うのを考えていない。
正しい自分が負けるはずがない。と、言う理論で無茶な戦い方をするからだ。
言ってしまえば、馬鹿である。
まあ、馬鹿だからこそ逆に危険なのだろうが……。
「おろかな! 正義は必ず勝つのだ」
それは、間違った理論だ。と、思う。
正義が必ず勝つのなら、世の中はもうちょっとマシになっているはずだ。
正義が必ず勝つんではない。かといって、勝った奴が正義と言うつもりもない。
勝てなければ、正義を名乗れない。が、結論なのだ。
戦争や宗教理論、その最中では敗北して閉まったが……正しかった者達がいるはずだ。
力なき正義は無意味と言う言葉があるのだから、それが結論なのだろう。
と、思いながら俺はドラゴンへと近づく。
竜を解呪するには、俺のハリセンしかないのだ。
「なんで、俺がドラゴンと戦わなくちゃいけないんだ!」
と、竜が吐き出した炎が俺のそばを通る。
幻術である人たちが霧散していく。
「怖え」
と、俺は呟く。
つか、呟けるぐらいには余裕があるのがむしろ凄い。
まあ、女になってからはいろんな経験をしてきたからな。少しばかり神経が図太くなっているのかも知れない。
よく男は度胸、女は愛嬌と言う言葉があるが……。
実際の所、肝っ玉母ちゃんと言う言葉があるとおり、実際に土壇場で根性があるのは女なのかも知れない。事実、母親の方が根性があるときがある。
女になって根性が強化されたのだろうか?
などと、思っている中で、
「させませんよ!」
と、青髪狂信者が竜の上に立っていった。
「……おい。幻術で見えないはずじゃないのか?」
と、俺はシリウスさんに言う。偶然とは思えないほど、はっきりと青髪の狂信者は俺を見据えている。
「無駄です。私は幻も偽りも通じぬ瞳を持っています」
「魔眼持ちですか」
シリウスさんが青髪狂信者の言葉にそう言う。
魔眼……。
「中二病……」
脳裏に、おお。封印されたとか悪魔の力があるとか言う設定の魔眼を思わせる単語だ。とは言え、魔法とか封印された魔女とか十分にそう言う世界だから、あり得るだろう。
「チューニビョーと言うのはよくわかりませんが……。
ごくまれに特異体質として特殊な力を持った瞳を持つものがいると言います。
厄介な相手です」
と、シリウスさんが顔をしかめて言った。
中二病も別の方向で厄介なものです。と、思ったがそう言う問題ではない。




