第十話 お伽話じゃないけれどハッピーエンドは良い。けれど、話は終わらない。
雅美さんが目を覚まして、そして正吾さんと雅美さんはおつきあいを始める事になった。
茨は消え去り、雅美さんにかかっていた呪いも消え去りました。と、ここまできたらめでたしめでたし。の、物語展開のはずだ。
まるで茨姫のような展開である。……王子様の外見がちと問題があるが、そこはさておいておこう。
とは言え、それはお伽話ぐらいだ。
実際の所は、致命的な問題がいくつもある。
まずは、家である。
「母さん。ごめんね。家が」
「良いのよ。あなたが無事で……。それに、あなたが壊した訳じゃ無いわ」
崩壊した家は、もはや住むのは不可能である。
と、言うか修理するよりも建て直した方が早い。
しばらく家出練る事は出来なさそうだ。
茨は消え去ったので、茨の除去は問題が無いだろうが……。
「ふん。やはり呪いの解呪屋として問題があるな。
呪いを解呪しても家がなければ困るだろうに、その程度も考えられ―――」
いい加減に腹が立ったので、俺はローイを蹴り飛ばした。
「何をする! この野蛮人」
「俺が野蛮人ならお前は恥知らずだ」
ローイの言葉に俺が怒鳴り返せば、
「金つばを吐く行為だな」
「金つばとはなんですか?」
と、厳左右衛門が言えばきょとんと尋ねるフルー。
「いや、あの……とりあえず、今は黙っておいて二人とも」
と、薫が疲れたように言う。
厳左右衛門。それを、言うなら天に唾を吐く行為だ。
金つばとは有名な和菓子の一種である。
とは言え、俺としては反論ぐらいしないと腹が立つ。
「家を破壊したのはお前だろうが!
なにが本物だ。結果的に、お前が何をしたんだ?
状況を悪くしただけじゃないが」
「素人が勝手な事を言うな。お前達がいなければ」
「何が出来たんだよ!」
本気で何が出来たのか謎なほどだ。
「黙れ! 良いか。この勝負は」
「お前の負けだ」
と、きっぱりと言ったのは俺ではなかった。
「なっ」
唐突に言われた言葉にローイが驚く中で、
「どうも、井上様。このたびは、我らが同胞の魔法使いであるローイが大変、ご迷惑をおかけいたしました」
と、現れたのはラフェレアさんである。
「な、なんで……なんで、僕がこんな存在自体が間違い女に負けるんですか」
「むしろ、俺はなんで負けてないと思ったのかがわからない」
「同感だ」
ローイが噛みつくように言えば、厳左右衛門がそう言うので俺も頷いた。あれだけやっていて、負けていない。と、思える神経だけはたしかに負けた。と、思える。
「なんだと?」
「いい加減にしなさい! ローイ!」
きんと空気を叩くような印象すら与えるほど、凜とした大きな声を上げるラフェレアさん。外見は、幼女であるが実年齢は女性に年齢を尋ねるのは失礼だよね。と、言える年齢を大きく超えて、もう気にすることはないよ。と、言えるだけあって、威厳と威圧感がある声に直接、怒鳴られたわけではない俺たちですら思わず背筋を伸ばす。
「あなたが、フルーをよく思っていないことは解って居ます。
ですが、そのフルーを否定しようとしてあなたは冷静な判断力もなければ、周囲を見渡す事も出来ていません。あなたが、なにをしたと言うのですか?
あなたは、ただ状況をかき乱していただけです。
依頼人の家を壊して……そして、なにもできずにただ駄々をこねているだけです。
これ以上、文句を言うようならばあなたの呪術屋の称号は元より、魔法使いとしての称号すら剥奪する必要があります」
「なっ! ちょっと待ってください! ラフェレア様!
そんな事、父上が許可すると」
「言っておきますが、今回の事はきちんと魔法議員によって会議をさせて頂きます。勝敗に関しては独断ですが、議員会議によってはあなたに罰が出ると思ってください。
そもそも、依頼人の家を破壊して……家を建て直すのにどれほどのお金がかかると思っているのですか?」
そりゃ、そうだ。と、僕は納得する。
「あなたの解呪方法はそれだけではなく、下手をしたら呪いを媒体となって居た女性の命すら危ない上に、力尽くです。
あの手の呪いの場合は、媒体となって居た人の事情などを調べる必要があります。
フルーの方は、きちんとその基礎を押さえていました。
結果として、被害も少なく時間こそかかりましたが良い結果を残せたはずです」
と、きっぱりと言うラフェレアさん。
「あなたには、しばらくの間、魔法使いとしての活動と魔法の発動を禁止します」
それだけ言った瞬間だった。ラフェレアさんから魔法陣が現れて、ローイの体に刻まれる。
「げっ! こ、これは」
「あれは?」
と、慌てふためくローイに小気味の良い気分になりながら、フルーに尋ねると、
「魔法使用封印の術式です。犯罪などを犯した魔法使いが魔法を使えなくするための術式です。当人の持ち前の魔力以上の魔力を持った人じゃないと出来ないんですけれど」
と、フルーが言う。
……ひょっとしたら、フルーの魔力って実は高いんじゃないんだろうか? と、俺はふとそんな思いが浮かんだ。フルーの魔力を封じてしまえ。と、言う意見が今まで無かったとは思えない。だが、フルーは魔法使いになった。母親として失格だが、生物学的には母親である存在は、おそらく膨大な魔力を持っているはずだ。それを、推測するに娘であるフルーも魔力が高いと思う。誰にもフルーの魔法を封印できない。……とは言え、それを調べる事は別に重要じゃない。
それよりも、ローイの現状だ。
「しばらく、魔法を使わずに行動して頭を冷やしなさい。
そもそもあなたは魔法使いとして、精神面に問題があったのです。
今後の行動次第で魔法使用封印を解除しますが……。
状況によっては魔力没収もありえますので、常に頭に止めておきなさい」
「……魔力没収と言う事は、未来永劫魔法が使えなくなる。と、言う事か」
「すごいですね。よくわかりましたね」
ラフェレアさんの言葉に俺が推測を口にすれば、フルーがそう言って肯定した。
一歩間違えれば、俺をバカにしているような発言だがこいつは悪意無く行っているんだろうな。と、俺は思う。そう思いながら、俺はローイの処罰を聞く。
別に聞いている必要は無いのだろうが、帰るタイミングも失った。
ついでに、井上先輩から報酬は貰ってない。と、言うか今の状況で要求するのは心苦しい。家が破壊されてしまったのだ。
別に僕たちが悪い訳じゃ無い(と、本気で思う)が、原因は僕たちにもある……かもしれない。つまり、ただ働きというわけだ。
仕事にしているはずなのに、収入は何も無いのかー。と、思うとため息がつきたくなる。
かといって、今の空気でそれを口にする事が出来る程、俺は図太く無ければ金の亡者ではない。
「そして、しばらくの間、修行としてフルーの仕事の手伝いをしなさい」
「「はぁ?」」
その言葉に驚いたのは言い渡されたローイだけではなく俺もだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。
こんなやつ、いりません」
「こんなやつとはなんだ? こんなやつとは!」
俺の発言に怒鳴るローイ。だが、本気でいらないのだ。
「腕はよくて知識もあっても性格に問題がありすぎる」
「悪いが、そう思ってくれ。なにしろ、この人たちに依頼料を請求するのも心苦しい。だが、お前達が働いた分の報酬を無しにするわけにもいかない。
だから、こいつが働いて立て替えると言う事にする」
「無報酬で良いのでこいつはいりません」
躊躇無く俺は受け取り拒否する。
遺産だって借金だって、遺品だって受け取り拒否する権利がある。
なら、依頼料だって受け取り拒否する権利があるはずだ。
受け取り拒否する権利がないのは、零点のテストぐらいだ。
大概の物はいらないと拒否する権利があるはずだ。
「そうはいかない。仕事と言うのはどんな形でも報酬を与える。
魔法使いの仕事ならば、それが絶対の形なのだ」
こんなものを貰うぐらいなら、報酬がない方が報酬になる。と、俺は真剣に思う。
「それに、ローイの成長にも役に立つ。
なにより、魔法使いとして知識が豊富なものが居た方が良いでしょう」
「知識なら、フルーにもあります」
「……フルーはいささか常識が足りていませんので……」
否定は出来ないなぁ。と、僕は思うが、すっと今度はフィリを指さして、
「フィリがいます」
「フィリは魔法使いの常識がありません」
「……メリットは?」
俺は顔をしかめて言う。
「もちろん、こちらからも手伝いますが……。
とにかく、受け取ってください。こちらの世界では贈り物はつまらないものを渡すそうですね」
「誰がつまらないものですか!」
「それは、方便で本当につまらないものを送るわけではありません。
箱などにものがしっかりと詰まっていると言う意味ですし、自分を謙らせる言葉ですよ」
本当につまらない品を渡す人間は居ない。
高価なものとか、素晴らしいものです。と、言って品を渡す人間はまず居ない。
とにかくいらない。と、主張しても聞き届けて貰えそうにない。
俺は深々とため息をついたのだった。
かくして、一つの事件が終わった。
九十九個ある呪いは残り九十七個になった。まだ、九十七個だがとりあえずは順調に減っていると思う事にする。
「なあ。念のために聞くけれど……」
と、夕食を作りながら俺は尋ねる。
夕食を作るのは、ひとえに俺以外にまともに料理が作れる人間がいないからだ。母さんは料理が上手であったが、今は料理どころか陸上活動も不可能な魚類である。
夕食……作り置きしているシチューを温めるだけだが……。それをしながら、フルーに尋ねる。
「なんですか?」
と、料理がまったく出来ない(と、言うか料理を作らせるのも怖い)フルーがきょとんと尋ねる。最近ではようやっと机を拭いたりする事が出来るようになってきた。
「いやな。念のために聞くけれど、俺の呪いが九十九の呪い……じゃないよな」
「ああ。違いますよ」
あっさりと答えられて俺は逆に驚く。
「そう言うのはわかるのか?」
「わかりませんが……あなたのは違います。
呪いの中には、あの女が復活するのに必要な媒体があるんです」
「媒体?」
「はい。私はあの女が復活するための器であり血肉です。そして魔力です。
ですが、それだけではあの女は満足しません。
蘇るならば、完全な状態……いいえ、それ以上の……倒された時よりも遙かに強く完璧な状態になりたい。それがあの女の望みです」
「なるほど」
シチューは後はじっくりと火にかけているだけなので、俺は椅子に座って話を聞く。
確かに何らかの要員で封印された。その封印から完全に解き放たれて封印される時と同じくらいの強さになった。
だが、封印される方法は解って居るのだ。
同じように封印しようとする者が現れる可能性が高い。
ゲームの何百年ごとに復活する魔王なんぞ、封印されては同じように復活して封印を繰り返して居るあたり、学習能力のないバカだ。
「そのために、さらになる力を望むために呪いでデメリットを他人に与え、メリットだけを自分のものにする。あの女は美貌で男を操る力をあなたから得るつもりです」
「で、俺の場合は女になってしかも美貌は無い。
なおかつ、悲惨な最期がまっていると……」
フルーの言葉に俺はため息をつく。
まあ、今の俺は絶世の美女だ。歩けば、死にかけの爺様だって見ほれてしまいかねないようなやつで、振り返らないのは枯れ木ぐらいのものだ。
「そう言う事です」
「……まあ、悲惨な末路は男で女になって美貌はない。
と、言う時点でアウトのような気がするけれどな」
と、俺は呟く。
「嘆かないんですか?」
「嘆いたところで現実は変わらない。どうにかするために、今はやっているんだ」
そう、たとえ残りが九十七個とものすごい数でも、俺の呪いでストーカーが大量にいようとも、やらなくちゃ生けない事実は変わらないのだ。
そうたとえ、どれだけ性格が悪い奴の面倒を見る羽目になったとしても……。
「ああ、憂鬱だ」
と、俺はため息をついた。これからも苦労しそうだ




