第三話 茨の中に眠るのは? 考えて居るんだから、ストーカーは帰れ
「ふははははは。貴様等は魔法使いとしての未熟さを思い知るが良い」
「魔法使いはフルーだけだけれどな」
高笑いを上げながら、茨の中へと向かうローイに俺はツッコミを入れる。
俺と薫はどちらかと言うと格闘家だろうし、フィリも格闘家よりだ。魔法使いとして未熟と言われても、そもそも魔法使いじゃありません! と、ツッコミを入れる。
言動が一々、浅いというかバカまるだしの発言だな。
「と、言うか進まないの」
「呪いが心理的な要素もあるとフルーが言って居ただろ。
なら、お姉さんが何か悩みか問題を抱えていないのか聞いた方が良い。悩みや問題があったら、二度手間になるかもしれないだろ」
と、俺は言う。
「それに、フルーが言って居たのは一般的な呪いだろ。
呪いを統べる魔女王だっけ? そいつが、普通の呪いをかけるとは思えないんだよな」
「同感です。あの陰険根暗性悪女が呪いをただかけるとは思えません。ひょっとしたら、呪いに変な改造を施している可能性があります」
と、フルーが言う。大丈夫です。と、言わなくてよかった。と、俺は密かに安堵した。
「と、言うわけでお姉さんに何か悩みとかありませんでしたか? 呪いが始まる前からの悩みとか? 些細な異変とかで良いんです」
悩みと言うのは、場合によったら家族にも言えない事がある。だが、一緒に暮らしていれば何かに悩んでいる事には気付く。あるいは、何かしらの異変に気付くはずだ。
まあ、それこそ滅多に家に帰らないとかそんな関係ならともかくだ。
家族に不安をかけさせたくなくて、口をつぐんでいた可能性も零ではない。だが、聞いておいて損することはないだろう。
「けれど、その前にもしもあのローイが呪いを解いたら」
「勝負をする前に呪いを解く事が先決だ。
そして、呪いは完全に解くべきだ。もちろん、完璧な呪い解呪は難しいかも知れない。薫も角が残っているけれどな。けれど、いったんは呪いを解いたように見えて実際に数日、数週間、数ヶ月、数年後にまた呪いが再発する。
それじゃ、意味が無い」
と、俺は言う。
その言葉に井上先輩が感嘆の眼差しを向けている。
「ありがとうございます。あの、それでは話をしますのでこちらの方へ。
あ、お茶を用意しますね」
と、井上先輩とそのお母さんが立ち去る。
「相変わらず、策士だよな。お前は」
と、話しかけてきたのは厳左右衛門だ。
「居たのか」
「居たよ。なんか、癖が強い面子ばかりだったから、遠くから見物していたんだよ」
俺の言葉に自己主張をする厳左右衛門。
そう言えば、シャルフが現れた時点で立ち去っていた。おそらく、危険を感じたのだろう。と、言うかあの状況でついて来ていたらシャルフにストーカー扱いされていただろう。
「癖が強いなら、フルーや薫にフィリも癖があると思うぞ」
「女の子の癖は個性だからオッケー。
男は無駄に厄介なのはごめんだが、女の子なら良い。ただし、可愛い子か美人に限る」
「清々しいまでに女好きだよな。お前は」
こう言う所が女にもてない原因だ。とは言え、嫌われてないのは、そのあまりにもオープンな所が逆に清々しいからだろう。と、俺は思っている。
そんな中で、井上先輩から話を聞く。
井上先輩のお姉さん名を井上雅美と言う。ちなみに、井上先輩の本名は井上優美と言う。雅美さんは、ある男性から告白されているらしい。
「つまり、恋人がいると?」
「だー。すでに男が居るのかよ。
あー。俺は美人か可愛い女なら老若男女問わない主義だが、不倫と二股と浮気はしない主義なんだ」
「厳左右衛門。お前は少し、黙っていろ。
あるいは、老若男女の意味を調べてこい」
老若男女とは老人、若者、『男』や女を一緒くたにする表現である。
女なら老若男女問わない主義と言う表現はおかしい。
こう言う場合は、ゆりかごなら墓場までと表現するべきだろう。
もちろん、ちっとも立派なことではないが……。
「いえ。それが未だ、答えていないんです」
と、言う。
「相手がすごい不細工とか、性格に問題があるとか?」
「いえ。姉とは良い友人関係を気づいて居る人でした」
と、井上先輩が言うには告白した男性、名を赤沢優真と言うらしい。この町にある大学に通っている人物であり、成績は飛び抜けて優秀と言う訳では無いが平均よりやや上。顔立ちは、良い方。性格は良く人付き合いも良くて、異性の友人や知り合いも多く人気もあるが、同性から嫌われるわけではなく同性からも友人が多い。
かといって、女遊びがあるわけではなく善良な人物である。
「すごく素敵な人で、姉の友人たちもうらやましがっていました」
かといって、やっかみや嫌がらせをされるほどのイケメンと言う訳では無い。友人に自慢は出来るが、妬まれたり怨まれたり嫌われたりするほどではない。と、言った程度だろう。確かに、友人として付き合っていたならば生理的に受け付けないわけでもないだろう。
何が不満なのか解らないが、答えを出せずにいたらしい。
「告白の形に不満があったとか?」
と、言ったのは薫だ。
「どう言うことだ?」
「そりゃ、告白よ。女の子なら浪漫の一つも求めるわよ。薔薇の花束をもって告白と言うのは、そりゃ少し重いし恥ずかしいけれどさ。コンビニの駐車場とか牛丼屋の前とか、トイレの前とで告白されたら、たとえ相手の事が好きでも断りたくなるわね」
「なるほど、そういうのはどこの世界でも同じか」
「あ、そっちの世界でもそう?」
「当たり前だ。さすがに白馬に乗って告白や求婚は恥ずかしいが、やはり最低限の場所は選んで欲しいものだな。豚小屋やら精肉場やら死刑台や処刑台の近くで告白されるのは、たとえどんな相手でも断りたいな」
と、話し合う二人。
どうやら、女の子にとって告白の場所とはそれ相応に準備をして欲しいらしい。
それは、世界が違ってたとえ女らしくない女でも変わらないらしい。
「告白と言いますと、罪を言う事ですよね。
なぜ、罪を言うのに薔薇の花や白馬が必要なのでしょうか?
それに、園芸はなんの関係が」
「それは、球根」
考え込むフルーに俺はそうツッコミを入れる。つか、話がずれて言って居る。
「いえ、ありふれた……友達に呼んで貰って告白をしたという形らしいです。私も、それは姉の友人から聞いたので詳しい事は」
と、俺の言葉にそう井上先輩が答えたときだった。
ちゅどおおおん!
井上先輩の家の一部が爆発した。
「「家がぁぁぁぁっ」」
先輩と先輩のお母さんの悲鳴が響き渡る。
そんな中で、屋根から吹っ飛んでいるのはローイである。煙と共に異世界の赤と紫色のオーロラが出て居る空をくるくると開店しながら吹っ飛ぶ。
ちなみに、俺たちは家の近くの道路で話をしている。
この状況では、あまり車が無いのでこう言う事も可能なのである。あまり、車が通らないのも理由なのかも知れないが……。
ついでに、井上先輩の家でお話をしていないのはひとえに家が、茨で包まれているからだ。ちなみに、お茶などは隣の家の台所を借りているのである。ちなみに、その家では母親が呪われており巨大な兎になっているので、料理が出来ないのでそれを手伝っているのもあって、寝泊まりなどにも多目に看て貰っているらしい。
とは言え、だからと言って家の屋根が吹っ飛んで良い。と、言う理屈ではない。
そんな事をぼんやりと現実逃避しながら考えて居ると、俺たちの目の前にローイが落ちてきた。と、思ったら風が吹き荒れて地面に激突する前に減速した。
そして、ふわりと着地する。
「「おおー。まともな魔法だ」」
と、俺と薫は呟く。
まあ、魔法使いなのだから当たり前かも知れないしあのまま、落下していたら木から落ちた石榴のようなものになっていただろう。
出来る事なら、そんなものとはあまり見たくない。
「卑怯者め!!」
「なにが?」
こちらを向いたローイが俺たちを指さして言うので、思わずツッコミを入れる。
「俺に様子を見せて、危険性が無いのかを確認するとは……。
卑怯なやつだ」
「勝手に先に突っ走って、勝手に吹っ飛んで勝手に人の家を壊して……。
それで、誰かの責任に出来るその考え方はすごいな」
責任転嫁と言う言葉だけでは片付かない発想力だ。
「つか、そっちこそ何をしたら家を爆破するんだよ?」
完全に壊れてこそ居ないが、あの破壊はとんでもない事になっている。
間違いなく修繕しないと、雨が降れば雨漏りどころか屋根は家はぬれるだろう。と、俺は確信が持てるほどだ。
「ふん。情報を得て私に勝利するとは、卑怯極まり無いな」
「………ま、好きにしろよ」
と、俺はため息をつく。俺から見たら、たとえどっちが解決しようとかまわない。結果として、同じ事が起きたらまたも部屋が爆破したら井上先輩の家が困るにきまっているのだ。ならば、そんな事がないように情報を共有するべきだ。と、思うのだが……。
この男は勝負のことしか頭にないらしい。
この勝負は、呪いをどっちが先に解いたか? と、言う討論ではないのだが……。
それを、理解していないらしい。これなら、負ける事はなさそうだ。と、密かに俺は呆れる。勝敗を決めるのが、井上先輩たちなのだ。
少なくとも家を破壊するのは、印象が悪いにきまっているのだ。
「一つ、聞くけれどな。
俺たちが向かって井上先輩の家をこれ以上、壊させて良いのかよ?」
「なにを言おうと、勝つのは私だ。貴様らは負けるにきまっている」
それだけ言うと、ローイはまたも家に向かう。調べ物が終わるまでに、井上先輩の家があると良いのだが……。大丈夫だろうか?
とにかく、その友人から直接、詳しい話しをきく事にした。
「話を聞くの?」
「まあ、俺の偏見だが恋の悩みと言うのは複雑だからな。
心花ちゃんが良い例だ」
「ああ。あの」
薫は過去に、何度か心花ちゃんと出会った事がある。いろいろと、騒動が絶えない彼女の事を忘れられる人間というのは少ないだろう。
「ああ。あの人ですね。
この前、吉成くんと同じ屋根にいる雌豚め! と、言われました。
不思議な人ですね。私は、豚ではないんですけれど?
それほど、太っているでしょうか?
たしかに、ここ数日は食生活が豊かになってあばら骨の数が数えにくくなりました。ダイエットをするべきでしょうか」
「しなくて良い!」
と、フルーの言葉に俺は頭痛を覚えながら言う。
心花ちゃんが吉成に近づく女性に罵詈雑言を浴びせるのは珍しく無い。時には殺傷沙汰になりかけてしまい、警察に注意される事もある。
幸いにもまだ、前科もちにはなっていないが……。
とは言え、罵声の意味を正しく理解していないフルーもフルーだ。余談であるが、フルーはかなりやせている。それこそ、不健康なほどであり今もやせているほうだ。
それも、不健康としか言えないほどである。この状態でダイエットなど言語道断だ。
別に俺はデブ専と言う訳では無いが、あばらの骨が数えられるほどやせている女性は好み以前の問題である。
「……話を戻すぞ。とにかくだ。恋愛と言うのは、いろいろと複雑なんだよ」
「恋人も出来ないくせに何を語るのよ」
「恋人は居ないが、恋愛騒動なら周りでいつも起きているからな」
薫の言葉に俺は少し涙目になりながら言う。
「好きだ。と、言う言葉だけで片付くのは幼少期までだ。
つか、幼少期ですらその一言で片付かないから困るんだよ。
AちゃんとBちゃんは友達なのに、同じ男が好きになって言い争ってだ。どっちと遊ぶかで大げんかの引っ張り合い。結果として、その男の子の肩を脱臼させたんだぞ」
「誰の話?」
「弟の話」
フィリの言葉に俺は即答する。
「ドロドロの愛憎入り混じったドラマだって、大抵は恋愛感情が交じっているじゃねえか」
「ドラマとはなんですか?」
「あんた、架空と現実を混合させないでよ」
「ドラマというのは、あー劇みたいなものだ。
そうは言うが、この現実なんぞドラマよりも空想だぞ」
「劇ですか。大抵、劇の武器とかが観客に向かって飛んでくるんですよね」
「むう。反論が出来ないけれど……。まあ、たしかに無関係とは言えないわね。恋で悩む気持ちはわかるし」
「……そうだな」
「どうでも、良いが……。
お前らは、いつもこんな突っ込みどころがありまくりのコントみたいな会話をしているのか?」
と、俺たちの会話をだまってきいていた厳左右衛門が言う。
「そうだが、どう言う意味だ?」
と、俺が尋ねるとなぜかこいつは深々とため息をついた。




