第五話 呪いを解く方法
まだ、幼子のフルーを育てたのは祖父である人物である。ちなみに、この祖父が呪いの魔女王を倒した人物らしい。
「ようするに、親子三代にわたる大騒動が異世界にまで迷惑をかけていると」
「そうなりますかね」
俺の言葉に、フルーはあっさりと言う。
フルーには、文句は言わない(フルーはただ生まれただけなのでなにもしていない)が、祖父には文句を言おう。お前は、娘にどう言う教育をしているんだ?
と、言うかフルーを見るからにはフルーの育て方にもやや問題があるように思える。
とにかく、その祖父は娘にかけられた呪いを解こうとした。だが、解く方法は簡単ではなかった。魔女王が残した九十九の呪い。それは、正確には百の呪いだった。
「まあ、キリは良いよな」
九十九より百の方がキリは良い。と、俺はどこかそんな思いを抱く。
正直名は無し、九十九が百になったとしても別にどうという事ではない。十の呪いが百個でした。とかならともかく、たった一つ増えただけだ。
今さらどうのこうの騒いだところで、何かが変わるとは思えない。
桁が一つ増えたが、たった一つ増えただけだ。
騒ごうが嘆こうが、わめこうが現実も変わらないなら受け入れるだけだ。
「いや、増えたのよ。なんか、他に言う事は無いの?」
と、薫が言うが、
「とりあえず、増えようが減らしていく必要があるんだろ。
ついでに、増えたと言ってもたった一つだ。大差は無い」
と、俺が言えば、そう言うものだろうか? と、首をかしげる薫。
「まあ、それに一つは減っているんだ。
なら、残りは九十九個だ」
「まあ、そう言えばそうだけれど……」
と、薫は考え込んでいるが考えた所で現実も事実も変わらないのだから考えてもしょうがない。ただ、やることをやるだけだ。と、俺は思う。
「で? その百個目の呪いはお前への呪いか?」
「はい」
と、フルーは頷く。フルーにかけられた呪いをまとめるとこう言う呪いだ。
一、フルーが二十歳になった時に、フルーの中に眠る魔女王の魂の欠片が目覚めて封印された魔女王がフルーの中に入り、フルーを取り込み復活する。
二、フルーが二十歳になるまで自動的に窮地になると治癒能力の活性化と、他者を殺すと言う状態になるようになる。この状況は、フルーの意識ではコントロールできない。
三、フルーは呪いの魔女王になるために呪いに特化するように魔力が勝手にゆがまれている。
四、フルーの感情の起伏が少ないのもその呪いの影響があると思われる。ただし、四つ目に関してはただの推論である。
と、言う事らしい。
「つまり、お前が高確率で魔法を失敗するのは呪いのせいか」
「はい。呪いを解呪する魔法などは解くに不得手です。防御も苦手ですね。
ですが、攻撃魔法は……他者を殺さないようにすると失敗しますが、他者を殺そうとすれば必ず成功します。
呪いに関しては天才的と言われて居ます」
「……そりゃ、なんとも」
天才的と言われても、嬉しくないんだろうな。
と、表情一つ変えずに言うフルーに俺はそう思った。
とにかく、そのフルーにかけられた呪いを解呪するには、他の九十九の呪いを全て消滅……。つまり、解呪させる事だった。
それを判明させた時にすでにフルーの祖父は恒例であり、それを実行する力は無かった。
それになにより、九十九の呪いを解呪する方法が無いからこそ封印されたのだ。
そのために、呪いを解呪出来る品を作りだした。それが、このハリセンである。
「で、なんでハリセン?」
「……まあ、あのクソ婆の親でもあるんで」
フィリの質問にフルーは淡々と答える。
……孫思いの祖父なのか、無責任な男なのか……性格がさっぱりと解らない。
とにかく、フルーは自身に欠けられた呪い……そして、宿命などを立ち向かうためにも解呪の魔法を専門的に学び始めた。
学び始めたのは良いのだが……。
「まったく。才能はありません」
と、断言するフルー。
得にフルーの親が呪いを統べる魔女王と言う事は、極秘事項だが知って居る人間はいる。呪いを統べる魔女王の事で魔法使いは大変、迷惑していた。
封印した……倒したのも魔法使いだからこそ、魔法使いが迫害される事はなかった。だが、だいぶ白い目で見られるようになり、呪いを統べる魔女王は魔法使いからは、酷く嫌われている。
その魔女の血を引き、いずれは魔女王になるかもしれない娘。
彼女への迫害は酷かった。
「まあ、全員というわけではあありませんでしたよ。
実質、今まで大丈夫でしたしね」
軽い口調で言うが、どんな過去だったかは想像できないが壮絶だったと思われる。
まあ、たしかにラフェレアさんはフルーに対して優しかった。正確に言えば、同情していたが……。
とは言え、それは大多数ではなかっただろう。
それに、あまりにも過剰に守る事は出来なかっただろう。
なにしろ、怨まれている(フルーの責任ではないが…:…)フルーなのだ。そこに、重役であるラフェレアさんが以上に過保護に可愛がっていたら、贔屓と思われるだろう。実際には、贔屓とはいえなくても人の見方なんて見る者の心次第だ。
悪意を持って見れば、どんなものでも悪意を持って見えるのだ。
たとえば、吉成はいつも兄貴は良い思いをしている。と、子供の頃は愚痴っていた。対して、義正兄貴は義正兄貴で兄貴と言うのは損をしている。弟と言うのはよいものだ。と、言っていた。
兄であり、弟でもある俺からみたらそれはどっちもどっちだ。むしろ、兄なのか弟なのか解らない中間管理職だった俺と言うのも大変だった。
吉成からみたら、いつも新品の品物を手に入れる兄貴と言うのはよかったのだろう。だが、俺から見たら三番目となればすでに着古されておりなんだかんだと吉成は新品になっていた。対して、義正兄貴にしてみれば、親戚や親にお兄ちゃんなんだから我慢しなさい。と、言う事でいつも弟の面倒を見ていた。と、文句を言っていた。
とは言え、俺から言わせればいつも貧乏くじを引いていたのは真ん中だ。
兄が特別なときは、弟だからと言う貧乏くじを引く。だが、弟が特別なときは兄だからと貧乏くじを引くのだ。
まあ、諺で言う隣の芝生は青いというやつだろう。……使い方を間違えているような気がするが、それはさておいて……。
「まあ、ラフェレアさんは公平にしなくちゃいけないからな」
と、俺が呟く。
とは言え、ようするにフルーの死を望んでいる者が居ると言う事だ。
「となると、今回の事は何かの策略というわけか」
と、俺はため息混じりに言う。
「策略」
その言葉に薫は眉をひそめる。
「どう言うこと?」
「まず、注目するところは盗賊たちにフルーを殺すように依頼した人間がいる。
そして、そいつは俺たちがここを通る事を知って居た。
盗賊たちが待ち構えていたことから、これは間違いない。
でだ。……俺たちがここを通る事を知って居た人間は限られている」
その言葉に、薫たちは黙っている。フィリとフルーはさておき、薫の顔色は悪い。
だが、無理もないだろう。
殺すと言うのが、急に身近になったのだ。
それも、明確な殺意を持って、計画的に相手を殺す事を企んだ。それも、人を使って堕。それは、平和な日本では少なくとも一般的ではなかった出来事だ。
「けれど、魔法協会の人たちはたくさん知って居ただろ。
魔法協会じゃ、フルーの親のことは暗黙の了解だったみてえだぞ。
なら、それをしって殺しを計画するやつぐらい何人も居るんじゃないのか?」
と、言ったのはフィリだ。
「たしかに、フィリの言う通りフルーの死を望む存在。それを探せば容疑者なんていくらでもいすぎる。それこそ、汚職疑惑とか悪い噂ばかりの政治家だって裸足で逃げ出すほどの容疑者ぞろいだろうぜ」
いや、本当に汚職疑惑だらけの政治家なんて見た事無いが……。ドラマなどでは、大抵は汚職事件を起こしている政治家と言うのはいる。
ようは、偏見というやつだ。
「けれどな」
「そんな事より」
人を殺そうとした人間は誰か?
そんな議論を、そんな事と言い切る言葉。
神経を疑う言葉だが、それを言ったのが命を狙われた張本人であるフルー自身が言うと……。余計に、その神経を疑ってしまう。
と、言うかフルーにとっては命を狙われる。と、言う事は日常茶飯事なのだろう。
経った今、殺されかけたと言うのに顔色はいつもと変わらない。
たとえ、目の前で今まで友達と思っていた人間が殺しにかかってきたとしても、フルーはそれを普通に受け入れるだろう。そう思わせるほど、平坦な声だった。
「いや、そんな事って……」
と、フルーが言い抱いた言葉に薫が声を上げる。
俺か、フィリと言った第三者がそんな事と切って捨てていたら、人の命が関わっているのに、そんな事とはなんだ? と、怒鳴っていただろう。
だが、そんな事と切って捨てたのが命を狙われた当人だと、絶句するしかない。
「まあ、私も多少はなんと言いますか……。犯人には気になりますよ。
私を殺すだけなら、私を狙って欲しいぐらいですし……。
けれど、それよりも約束の時間が近づいています。盗賊に狙われたとは言え、なるべく送れないようにしたほうがよいと思いますよ」
「……ま、それもそうだな」
フルーの言葉に俺は頷く。
それになにより、待ち合わせ相手にはどうしても聞きたい事が出来たのだ。
「それじゃ、行くか。……ところで、フルー」
俺は頷くとフルーの方を見てどうしても譲れない事を尋ねる。
「服を直したらどうだ?」
腹が見えており、露出が派手な印象を与える。
フルーはけして不細工ではない。
むしろ、美人であり普段の服は質素と言うか目立ちが悪いが、よく見れば胸も大きいし腰はくびれていて出る所は出て居て、いらない所に無駄なお肉はない。淡々と感情が極端にない印象を与える表情をしているが、美貌の持ち主だ。
……母親がさぞかし美人だったのだろう。性格は多いに問題があるが……。
今の格好だと、その胸元すらはっきりと見えてはるかに心臓に悪い。
何というか、無いはずの分身が元気になりそうだ。
いや、その分身は無いんだけれどな。
自分の体には欲情しないが(欲情したら変態だ)他人の体ならどぎまぎしてしまう。
「別に怪我は治っていますよ」
「そう言う問題じゃないんだよ」
と、俺はため息をつく。
「大丈夫です。
この服には祖父がかけてくれた魔法でほつれや汚れを自動的に直してくれるんです。
過去に洗濯をしていたら、服がミシンきりになってり赤と青と紫のマーブル模様の服柄になってしまってから……。この服になりましたの。
しばらくすれば、勝手に修復されます」
「「「なるほど」」」
思わず納得する俺たち。考えて見れば、フルーの経歴や過去ならまともな服を購入出来るのかどうかも妖しいほどだ。
とは言え……。
「けれど、しばらくはかくしておけ」
俺はそう言ってコートを脱いでフルーの胸元を隠すように巻き付けて縛る。
「俺だって男なんだよ」
「大丈夫です。今のヨシキさんは、女にしか見えません。
おそらく、何かの間違いが起きそうになっても女なので何も生み出しません」
俺の言葉に笑顔できっぱりと言うフルー。
「…………」
俺は悲しくなるように倒れ込む。
「えっと……その。大丈夫よ。
その……間違いが起きそうになったら、あたしがそうするし……。
それに、女同士ではそれこそなんというか……」
「喧しい」
薫がなにやら赤面しながら元気づけようとしているが、ちっとも嬉しくない。
「まあ、……あんまり良くないけれど、良いよ。
それよりも、探さないといけないだろ」
と、俺はそう言って立ち上がり歩きだす。
「それより、フィリ」
俺はそう言ってフィリを見る。
「お前の家って、魔法使いと関係はあるか」
「まあ、オレの武道は魔法も使うからな。
だから、魔法は必要な技術だぞ」
と、俺の質問にフィリは言う。
なるほど……やっぱりか……。
と、フィリの答えに俺は納得しながら、
「どうやら、敵は盗賊とか魔物とかだけじゃないみたいだな。
……嫌な話だな」
と、俺は呟いたのだった。




