第一話 考えて見れば、異世界にいるのに異世界にいる実感はあまりない。
新章編です。いい加減に、異世界らしい世界を書いてみようと思います。
「何というかさ。異世界にいる実感ってねえよな」
と、クラスの男子がそう呟いているのが聞こえた。
「なに、呑気な事をいっているんだよ。
クラスメイト大半と言うか、街の人間の大半が魑魅魍魎の異形類になって居るのに」
「あー、でも気持ちはわかるな」
俺が呟けば、同意したのは前の席のそれなりに親しいクラスメイト。陽向太陽である。名前通り、明るい性格の男子生徒であり、呪いの方もあまり気にしていない様子だ。
ちなみに、その呪いと言うのは未だに不明だ。何の変化がわからない数少ない生徒だ。 やや茶色っぽい髪の毛をワイルドに切っているが、性格は明るく人なつっこい。
俺としてはまるで犬っぽいと言う印象を抱いている。
「ほら、ネット小説とかで異世界転生とか異世界転移とかあるだろ」
「ああ。最近、話題になって居るな」
「そこじゃ、異世界に行くと急に魔法が使えるようになったりスキルとか言うすごい技が使えるようになるんだよ。そして、こう魔王と戦ったりして英雄になるんだよ」
「英雄どころか、ただの被害者じゃねえか」
と、言ったのは厳左右衛門だ。
「普通、そう言うのなら美少女と出会えるだろ」
「フルーならいるぞ」
と、俺はフルーを指さす。
「たしかに、美少女だけれどよ。
もっと、こう異世界系の美少女が有象無象でハーレムが出来るんだよ。
こう不思議ちゃん系女の子だけじゃなくて、ツンデレロリ娘とかクールビューティとかさ。いや、それだけじゃなくて獣耳が生えた獣人少女とか、エルフとか妖精とか人魚とかがいても良いじゃねえか」
「獣耳が生えた女の子なら探せばいると思うぞ」
「そうじゃねえんだよ。なんというか、天然が欲しいんだよ。
人工いくらと天然いくらと味が違うんだよ」
俺の言葉に駄々をこねる厳左右衛門。
知らねえよ。と、俺は本気で思う。
「ま、山田の言葉は無視して……。
たしかに、せっかく異世界に来たんだからその文化ぐらい見て見たいわね。
ねえ。どんな文化があるの?」
と、鹿目が言えば、
「あのねぇ~。まゆはぁ~、この世界のぉスポーツにぃ興味があるなぁ。
とっても楽しみぃでぇ、見てみたいしぃやりたいなぁ」
と、甘ったるい口調で言う櫻木。
「あのな。街の外がどうなっているかは解らないんだぞ。
文字どおり、異世界なんだ。それに、勝手に出て良いと言う理屈は無いだろ」
と、俺は肩をすくめて言う。
「けれど、フルーさんから聞いても良いじゃない」
と、櫻木はフルーをみて言う。フルーはしばらく考えた後、
「私にとって普通ですから、特に説明しろと言われても困りますね。まあ、この世界とは違う所と言えば、食生活ですかね。
この街に来てから、料理に毒を盛られる事がなくなりましたね」
『『『…………』』』
フルーの言葉に言いようのない沈黙が俺たちの周辺を支配したのだった。
フルーがうちのクラスにはまだ、受け入れられていない。授業は受けずに、図書室でなにやらこの世界の事かあるいは、呪いについて自力で調べて居る。
と、言うかフルーと言うのはどうも世間知らずな印象がある。
それも、良い意味では無く悪い意味でだ。
普通に世間知らずと考えて居たら、それは箱入り娘や箱入り息子だ。大切に、育てられて自分の家やその大人の手の平の上でしか世界を知らない。
温かく平和で花畑のような楽園の世界。苦しいも、辛いも悲しいもしらない。そんな平和な世界でしか生きて居ないのだ。
そのために、常識を知らないと言う者達はいる。
けれど、フルーは少し違う。
確かに常識は知らない。だが、それは平和で温かい花畑の中にいたと、言う印象は無い。むしろ、水は氷のように冷たく。日差しは灼熱の炎のようだ。
苦しく、辛く、冷たく、熱い地獄のような世界。
フルーはそこでしか世界をしらないような気がした。
だから、そこが冷たく苦しいと言う事を知らない。友情と言うもののすばらしさ、愛情の優しさ。絆の大切さ……。それを、知らないからこそ、友情のない寂しさ、愛情の無い悲しみ。絆がない孤独感。それらを知らないから、フルーはそれを悲しいとも辛いとも覆わない。それは、とても悲しい事だと俺は思う。
「まあ、毒には気をつけるか」
と、俺はそう言って肩をすくめる。
「大丈夫です。せいぜい、吐血して胃を初めとして内臓が解け始めるぐらいです」
「うん。普通、それは死ぬと言わないかな?」
フルーの言葉に俺は引きつった顔で言う。
「……あのさ。フルーちゃん」
と、厳左右衛門が口を開く。
「フルーちゃんのご両親ってどんな仕事をしているの?」
厳左右衛門の質問の気持ちはわからないわけではない。これだけ、何度も死にかけた過去を語られれば、考えられる可能性はいくつかある。
一つは、この世界の常識がこれだと言う事だ。
あまりそれはゾッとしない可能性だが……。そして、もう一つの可能性は親が特別な地位にいるという事だ。親をどうにかすると言う事で、子供の命も狙うと言う事はまったく無いわけではないのだ。
だから、聞いたのだろう。だが、その瞬間だった。
『『『っ――――』』』
ぞっくりとする空気に俺たちは息をのむ。
フルーの表情が変わる。
そして、今までの感情が無かったのが嘘のようだった。怒りや憎しみと言うよりもものすごい執着じみ強い感情。その感情から、強く感じさせるのは……敵意。
はっきりとしてた敵意が、その瞳があった。
今までに無い強い感情がその敵意が放たれていたのだ。
フルーのどこか何も考えてないように感じさせる無感情に近い感情が、どこへ消えたのか? そう疑問を抱いてしまうような強い感情があった。
だが、それはほんの一瞬だった。
「すみません。あいにくと、物心つくまえにこの世界にいなくなったので……。
まあ、この道を選んだのは『親』の影響ですね」
と、フルーが笑みを浮かべて言う。
だが、その笑みはまるで仮面のようだ。と、俺は思った。
「まあ、あまり語れるような話はありませんけれど……」
と、フルーは言ったのだった。
授業を聞き流しながら、俺はぼんやりと考えて居た。
フルーの過去は、詳しく聞かなかった。まあ、ツッコミどころがある過去をぽろぽろと語っていたが、あえてそれを黙っていた。
それは、何となくなだがフルーがそれを語らないからだ。
だが、あの反応だとなにか語りたくない過去があると言う事が確信が持てた。……まあ、隠して居るつもりだったならもう少し、過去を秘密にしてほしいものだが……。
そして、それは親が関係しているらしい。
そう思っていると、
「おい。由紀……。あのさ、フルーちゃんって何者なんだよ?」
と、厳左右衛門が後ろから小声で話しかけてきた。
「異世界……と、言うかこの世界の魔法使いで、どじっ子で呪いの解呪屋。ただし、ドジで魔法をよく失敗する。すごいドジ」
俺は、黒板に顔を向けたままに小声で返事を返す。
「ドジなのは、知って居るよ。
未だに、教室に入る入り口の所で転けるし椅子に座ろうとして目測を誤って転けるし、階段から転げ落ちたし……。
何というか、今までよく生きていれたな。と、思うレベルのドジだよ」
「お前、けっこう言うよな」
まあ、否定はしないが……。
何も無い所で転けるのは、日常茶飯事。前に、包丁を持っていて危うく頭に包丁が刺さりそうになって居た。気が付いた吉成がそれを止めたから、助かった者の……。危うく、俺の家で殺人事件か? と、言うような事件が起きていたかも知れない。
……いや、考えて見れば今まで生きて居たのが、不思議なほどのドジだが……。あれだけの騒動があって、生きて居るのも逆に不思議だ。
フルーの過去にも謎が多いが、フルーのドジっぷりも不思議だし、それで生きていく事ができた事も不思議だ。
そもそも、ぽつりぽつりと語られた過去は命を狙われた。あるいは、死んでもおかしくない経験をしている事を日常のように語っている。
「お前さ。相棒を名乗っているんだろ。
なんで、知らないんだよ?」
と、俺の言葉に呆れたように厳左右衛門が言う。
「……あのさ。相棒と名乗っているが、全てを話すほどの付き合いじゃ無いんだよ。
それに、たとえ親友だとしても……兄弟でも、親でも全てを話せる人間は居ないだろ」
俺だって、厳左右衛門を相手には言えない事がある。逆に厳左右衛門を相手に言えるが、吉成や義正兄貴には話せない内容。
あるいは、親には言えないが吉成や義正兄貴には話せる事がある。
逆に、誰にも言えない事と言う事もあるのだ。
「俺とフルーの関係は、多分だけれどまだ相棒と言ってもそれは肩書きだけのようなものだ。どちらかと言うと、職場の同僚だな。
お前だって職場の同僚にいきなり過去の事を全て、話す事は無いだろ」
と、言う。
「けれど、気にならないのか?」
「……まあ、否定はしねえよ。けれど、あの様子からわかるだろ」
と、厳左右衛門の言葉に俺は言う。
「フルーは聞かれたがっていないんだよ。
……そりゃ、どうしても知らないといけない時が来たら尋ねるさ。
けれど、それ以外の時が来たのなら聞くさ。
フルーもそうなれば話してくれるさ」
と、俺は静かに言ったのだった。
その日の放課後だった。
何名かの呪いなどの聞き込みを地道に終えて、薫の道場での特訓。
「柔を持って剛を制すると言う言葉がある通り、力に技で対応するのも一つの戦法だ」
師範が格闘技の上での基本を教えていた。
俺はと言うと、薫と組み手をしていた。
「なあ。薫。お前、昔よりも少しばかり力任せになっていないか?
まあ、力も上がっているけれど」
「うむ。呪いの後遺症かもしれないわね。
呪いの核は全てが無くならない限り、微弱な影響を残していると聞いたわ」
と、薫が言う。
呪いの影響か身体能力が上がっているらしい。その影響で、身体能力が上がったようだが、鬼だったときのようにやや力押しのようになるらしい。
本来ならば、薫は技術タイプなのだからこれは、厄介なくせだろう。
そう思っていると、
「ここにいたか。フルー」
と、言ってラフェレアさんがやって来た。
「ラフェレアさん」
と、様子を見ていたフルーがそちらを向く。
「元気か?」
「はい。大丈夫です」
フルーはにっこりと言って近づこうとして、
ずべし! ごろごろ……ごっちん! どっご! がっつん!
ピカピカに磨かれた床で足を滑らせ、転けるとそのままドングリよろしく転がって、壁に激突する。そして、壁に掛けられていた額縁が落ちてきて、頭にぶつかった。
「漫画みたいなやつね」
と、薫があきれたようにつぶやく。
「まあ、相変わらずのようだな」
相変わらずなのか……。と、ラフェレアの言葉に俺は呆れる。
「……実は、お前達に頼みがある」
「頼み?」
「と、言うかお前達と言う事は俺もですか?」
フルーが首をかしげる中で、俺も話しに入る。呪いの解呪屋の相棒同士と言う関係である以上、俺もセットで考えられる事はあるだろう。
「ああ。だが、お前達、カオルと言ったか。
カオルとフィリにも用件がある」
「私も?」
「オレもか?」
ラフェレアの言葉に薫とフィリも反応する。
「うむ。この街がある場所から南へ半日ほど歩いた場所にケルカンの街がある。
それは、フルーとフィリも知って居るだろう」
「はい。大丈夫です。そこでなら、いきなり袋に詰められて重しを着けられて湖に落とされたことがあるから、覚えています」
「………商業で盛んなお店だったな」
と、フルーの言葉にフィリが顔を引きつらせながら言う。
「そこに、向かって欲しい」
「つまりこの街の外に行くと言う事か?」
ラフェレアの言葉に俺はそう尋ね返せば、
「そう言う事になるかもしれないね」
と、ラフェレアは頷いたのだった。




