第九話 強さの意味と鬼と平和になれない呪われた日常
遅くなりました。悪いのは、年末年始です。
「あれは、九十九の呪いの一つの負鬼と言う呪いの一つでしょう」
「一つ?」
この街に新しく建設中の魔法協会の支部の部屋で、フルーが言った言葉に俺は聞き返す。
あの後、スーパーにやって来た警察、衛兵。そして、魔法使いの方々……。俺とフルーがそれを解呪したと言うのは、店員や客の表現で信じてくれたのだが……。
俺はともかく、フルーへの扱いはおかしかった。警察や衛兵はともかく、魔法使いたちの態度は何かピリピリとしたものがある。
本来なら、別室でと言われたのだが一緒に居ると俺が言った理由もここにある。……まあ、フルーが自滅しそうな気がするというのも一つの理由だが……。
あの呪いに関して、詳しい話も聞きたかったのだ。
「九十九もまったく違う呪いを考えるほど、あのクソボケ魔女ババアも暇じゃなかったみたいなんです」
まあ、たしかにな。
俺は、あの呪いを弾き飛ばしたハリセンのチェックをしながら言う。とは言え、ハリセンのチェックなんぞどこか破けてないかを確認する程度だが……。一応、大切な商売道具(ハリセンが商売道具なんてまるでお笑い芸人になった気分だ)
「つか、魔鬼じゃなかったのか?」
「魔鬼の一つが負鬼なんです」
俺のツッコミにフルーは言う。
魔鬼とは、その名の通り魔法で生み出された人工的な鬼らしい。要するに、ホムンクルス(錬金術で生み出された人造人間でクローン人間みたいなやつ)とかの鬼バージョンらしい。どちらかと言えば、ゴーレムに近いだろう。
死体から生み出す死鬼、炎や岩など無機物から作り出す災鬼等があるが、最も凶悪なのが負鬼らしい。
人間の感情を元にしており、負の感情を増幅させて鬼に変身させてしまうのだ。
「負の感情……ね。わかりやすいと言えば、わかりやすいな」
負の感情。悲しみ、怨み、憎しみ、妬み、悔しさと言った感情の事だ。対して、生の感情と言われるのが、愛や友情、喜び、感謝と言った感情と言われて居る。と、言うか俺としてもその程度の知識しかない。宗教家や研究者ならもっと、詳しく説明できるのだろうが、あいにくと一介の男子高校生にそんな高等な説明なんぞ求めないで欲しい。
アニメやゲームに小説などでも、負の感情を糧にすると言う人類の敵とかは存在する。悪魔とか魔族とか魔王とか……。まあ、悪魔もある意味では鬼と似たようなものなのだから、驚かない。驚かないが、知り合いが鬼になりかけました。と、なると気分が良くない。とは言え、
「軽蔑しないんですか? 薫さんを」
「悟りを開いた坊様だって、腹が減るし屁はする。つか、俺たちの世界じゃ坊主や神官、神主だって結婚して子供を産むんだ。欲望は人並みにあるし、人間の感情に喜びや感謝に愛があれば、必ず悲しみや怒りや怨みがあるさ。
負の感情が無い人間なんて俺は不気味に感じるよ」
フルーの言葉に俺は肩をすくめる。
「それに、負けて悔しいと思うのは成長する上で必要な事だろ」
「……わかりません」
俺の言葉にフルーが言う。……負の感情が無いと言うのでは、ひょっとしたらフルーがそうなのかもしれない。だが、その分だけこいつは生の感情が欠落しているように俺は感じる。たとえ、こいつなら死ね。と、包丁を突き刺した相手を前にしても、前と変わらぬ対応を続けそうだ。……フルーを相棒に決めたのは俺だが、そんな彼女を怖いと俺は思ってしまう。だが、その分だけまともな感情を育てたいと俺は思うのだった。
「まあ、その感情の一つは悔しいという感情を元にしていますわ。
他に、怒り、憎しみ、妬み、恨み、悲しみと言う残り五つがあります」
「つまり合計六つね……」
六つと言うのは随分と中途半端だ。
それに、負の感情と言えば代表的な感情が無い。
絶望だ。絶望と言う感情が何故無いのだろうか?
まあ、呪いなどに関して無知である俺がそれを考えたところで何かを考えた所で解る事は無いだろう。と、俺は冷静に考えている。
「とにかく、これで残りはたった九十八ですね」
「たったと言う言葉の使い方を間違えていないか?」
と、俺は呆れて尋ねる。
元々が九十九なら減らせたのは『たった』一つだ。
とは言え、それを考えた所で何かが解決するわけではない。
「そう言えば、あの時の呪いの核を壊した魔法をよく成功させたな」
「一応とはいえ、呪いの解呪を専門としていますしね」
俺の言葉にフルーが言う。
「私はあの呪いを統べる魔女王の呪いを全て滅ぼす為に呪いの解呪屋を決めたんです」
随分と執念深く決めた様子だ。
だが、その時に言うフルーの瞳には珍しく強い感情が見えた。
何か訳がありそうだが、言いたくないなら聞かないでおこう。聞かなくてはいけないときがあれば、その時になればフルーも話すだろう。あるいは、話さないならその時に無理にでも聞けば良いのだ。
そこで、俺は別の気になっていた事を尋ねる。
「ところで、なんで薫の頭に角が生えていたんだ?
あいつの呪いは消えたんだろ」
「ああ。大丈夫です。後遺症です」
「……後遺症と言われて、大丈夫と言えるのか?」
フルーの言葉に俺は頭痛を覚えながら尋ねる。
後遺症。その言葉には、俺も聞き覚えがある。
俺たちの世界でもある。病気や交通事故などでの事故で治療をして、無事に生きて居られたとしても後遺症があり苦しめられると言うのは聞いたことがある。
たとえば、事故にあって下半身や体が麻痺して動かなくなる。目が見えなくなる。そう言ったのがある。普通の交通事故や病気でも後遺症は恐ろしいものがある。
それで、呪いの後遺症となるとどんなものか怖い。
「大丈夫です。ただ鬼になっていた後遺症で角が生えている程度ですよ。
全ての呪いが無くなれば、角も無くなります」
「それなら、良いけれどよ」
フルーの言葉に俺ため息をつきながら言う。
そこに、
「待たせたわね。
フルーにヨシキちゃん」
「おお。ヨシキにフルー」
と、部屋のドアを開けてやって来たのは、ラフェレアさんと義正兄貴だった。
「なんで義正兄貴まで」
「ここで働いているんだよ。
魔法も覚え初めて居たんだぞ」
「……異世界人が魔法を覚えて良いのか?」
この世界の技術を覚えて危なくないのか?
と、俺は疑問を抱いてしまうのだった。
「大丈夫よ。それに、この世界の技術……カガクと言うものを学ばせて貰っているわよ。そのカガクを学ぶ以上、こちらの世界の技術を教えても問題が無いわ。
それに、そちらの世界に戻れる保証は……ないからね」
俺の疑問に答えるようにラフェレアさんが言う。
だが、後半の言葉に俺は何とも言えない気分になる。
「冷たいような事をいうけれど、事実なのよ」
と、俺の表情に感じたラフェレアさんは言う。
「今回は奇跡的にも被害が少なかった。
九十九の呪いはばらまかれたときに、世界の一つの地域を運ぶほどの力とその住民を呪うほどのエネルギーを放った。だから、エネルギーが弱かった。
今回、目覚めたのもエネルギーが不足だったのも手伝って弱かったわ。
それ故に、本来の能力を十分に発揮する事も出来てなかったわ。
本来ならば、一晩もあれば呪いで完全に黒鬼になるべきだったんです」
その言葉にゾッとする。
「薫さんは精神が強かったのも理由でしょうね。
強い精神力でそれを抑え込まれていた。
けれど、それゆえに悔しいと言う感情が爆発した」
「なんでまた」
と、俺はため息をつく。
その様子になぜか兄貴はため息をつく。
「まあ、それが青春というものだろうだからな。
馬に蹴られて死ぬつもりは無いからな」
「大丈夫です。馬で蹴られた程度では死にませんよ。
私も馬に崖へと蹴り落とされて滝に落とされても死にませんでした」
「……そう言う意味じゃないと思うな。俺は」
と、俺は呆れる。
人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んでしまえ。と、言うのがある。……とは言え、なんでこの状況で……。
「まさか、薫のやつフェイに惚れていたのか?」
がくっ! と、俺の言葉になぜか脱力する兄貴とラフェレアさん。
「なんで、転けるんだ?」
「大丈夫です。私にも解りません」
俺の言葉にフルーがきっぱりと断言する。
「……もう良いよ。
だが、それを薫に言ってあげるなよ」
「解って居るよ。フィリは女だったんだしな」
俺の言葉にさらにため息をつく兄貴。
失礼な反応だ。
「それより、フィリへの暴行で罪に問われたりしませんよね?」
「ああ。それなら大丈夫よ。呪いによる精神疾患が認められている。
まあ、しばらくは厳重な管理が行われて呪いの影響が残されてないかを確認される。
とにかく、こんな危険度が高いような事をしないでくれよ」
俺の質問に答えたのは、兄貴だ。
樹になってから随分と無感情になっていたが……。
久方ぶりに感情が露わとなっており、俺を心配していると言う感情が露わとなって居る。
「ごめん」
今回は素直に謝罪する。
「まあ、お前達が責任もって薫ちゃんの面倒を見ろよ」
と、兄貴は言ったのだった。
「よお。薫。正気に戻ったか」
案内された病院。この街にある警察病院につれて行かれて、精密検査となっていた。とは言え、その精密検査も終わった所らしい。
フルーはなにやらラフェレアさんと話があるらしい。
ラフェレアさんは、フルーに好意的と言うか敵意はないようなので大丈夫だろう。フルーも俺が居て欲しくなかった様子だし……。
「……迷惑をかけたそうだな」
「ま、お前がわるいわけじゃないからな。
だが、なにを苛立っていたかはしらないが……もう少し、冷静になってみろよ」
と、薫の言葉に俺は肩をすくめて言う。
「うるさい。女なんぞと同棲してふしだらな」
「別に吉成も、義正兄貴もいるんだぞ。
それに、……この肉体でなにをするんだよ?」
と、俺は肩をすくめて言う。
「…………お前は、フルーと恋人なのではないのか?」
「はあ?」
唐突に薫の言いだした言葉に、俺は思わず聞き返す。
「あのな。出会って数日もなってないんだぞ。
第一、俺はあいつの性格がいまいち解らねえんだよ。
と、言うかあいつ自身も人にあまり深入りされたがらない様子があるしな」
謎が多い過去を時たまに、漏らすが肝心な所を語ろうとしない。
恋人になるには、まだまだ謎が多すぎる。
「今のところ、俺とあいつはただの相棒だな。
それも、どちらかと言うとお互いに利用し合っているだけだな」
と、肩をすくめて言う俺。
まったく信頼関係が無いと言えば嘘になるだろう。
とは言え、背中を預けられるか? と、聞かれたら嘘になる。あの天然どじっ子は、ドジで仲間を傷つけかねないドジがある。
「正直に言えば、あいつに背中に預けられないな。
背中をあずけるとしたら、フルーじゃなくてお前だな」
俺の言葉に薫は安堵したような顔をする。
「まあ、最近のお前は様子がおかしかったから預けられなかったけれどな」
「……すまない」
俺の言葉に薫が謝罪したのだった。
さて、その後なのだが……。
薫が呪いの副作用がないのかと言う確認のために、俺は定期的に薫の様子を見る事になった。また、薫も呪いの解呪屋をすると言い出したのである。
まあ、それは良いだろう。薫なら、背中を預ける事が出来るし実力も信用出来る。
だが、
「なんで、お前の家にフィリがいるんだ」
フィリ。本名、フィリアはなぜか薫の家に門下生として居候をしていた。なんでも、精神修行をするためと言う事も手伝ってここで住む事になったらしい。
少なくとも、勝負で負けた師範には素直であるが、
「ふん。なんだ? そのちゃらちゃらした髪の毛に紅なんぞしよって……。
そんなので武道が高められるのか?」
「これは、リップクリームだ。しかも、無色無香料だ。
この程度の事も知らないのか?」
と、言い争う二人を見て、俺は面倒な事になっているな。と、思いながら組み手の練習を続けるのだった。
第三部、終了です。次回は、キャラクター設定などを書いておこうと思います。




