第七話 スーパーと食糧問題に魔の格闘技と嫌な推測
その日は学校が休みの土曜日だった。……まあ、この状況で学校が休みと言うのはなんの意味があるのかは解らないが……。とにかく、教師だって教師をしている以外にもしたいことと言うか、しなくてはいけないことがあるだろう。
家族サービス……ではない。この混乱状態だ。
家の方も混乱している状態だろう。俺も、吉成と友に部屋の家の事をしていた。義正兄貴は仕事なので出かけている。とりあえず、朝も早くから服の洗濯を始める。
電気が辛うじて通っているので、洗濯機が動いて良かった。
地球の現代日本では、洗濯機を使わずに選択するとなれば洗濯板を使うしかないだろう。だが、あいにくと我が家には洗濯板は無い。
まあ、今日日の現代日本で洗濯板を持っている家と言うのは無いだろう。
そう思いながら、洗濯機を回す。洗濯機の動かし肩ぐらいは知って居た良かった。と、心の底から安堵する。
そして、どうにか洗濯物を干し終える。……洗濯物を干す事は母さんの手伝いで何度もしてきていたので、良かった。と、俺は思う。
あの頃はブツブツと文句を言っていたが、何事も経験しておくべきだ。
そう思って、俺は次に台所へと向かう。
料理の方もどうにかした方が良いだろう。と、冷蔵庫を見ながら思う。
とは言え、どう言うふうにするべきか……。と、俺は考える。
「由紀兄貴。考え込む憂い顔も素敵だけれど、笑顔で行動して欲しいな。
ああ、エプロンを着けて家事をする由紀兄貴。
まるで、夫婦のようだと思わないか?」
「……思わない」
吉成の発言に冷たく言いながら、俺は台所を見る。
そもそも、俺はエプロンを身に着けていない。
とは言え、バカの相手ばかりしていられない。
いつまで電気が通るのかは解らない。なにしろ、電気を発電するのには、最近ではガス発電、火力発電といろいろとあるが……。
この世界でいつまでも発電を続けられる保証は無い。
そうなると、冷凍食品や氷はいつまでも氷のままで居られない。それを、考えると、そう言った準備をしておくべきだろう。
と、俺が考えて居る中で吉成は家の大きな物を片付けを始めた。
そんな中で、
「何を考えて居るんですか?」
と、フルーが尋ねる。
「食べ物の事だ」
「……あの黒鬼の正体は考えないんですか?」
俺の答えにフルーはそう静かに尋ねてきたので、俺は沈黙する。
「黒鬼の正体がわかったんですか?」
「まだ、仮説ぐらいだよ。……確証は無い」
「仮説でも教えてくれないんですか?」
俺の言葉にフルーがそう尋ねる。
「……薫の構えとよく似ていた」
と、俺はしばらく沈黙した後に事情を語る。
「薫さんと言うと、あの怒りっぽい人ですか?」
「ああ。……呪いも解って居ないから、ああいう呪いだと言う可能性もある」
と、俺は静かに言う。それは、正気じゃないからしただけで本当はするような奴じゃない。と、自分に言い聞かせているのかも知れないが……。
とりあえずと、言う事で買い出しへと向かう。
スーパーではレトルト食品や缶詰と言った俗に言う保存食を買うが……。やはりと言うかそれらはかなり人気となっていた。
この世界の料理と言うのをまだ食べた事はない。フルーは俺が用意する料理を美味しい。美味しいと喜ぶが比べる料理が、固くなったパンやら蛇の蒲焼きに虫と言ったものなので、あまり嬉しくない。
この世界の食生活がフルーの言う食生活通りなら……。この町にある食料の貯蔵が全てなくなれば、俺も蛇やら虫やらを食べる羽目になると言うことだ。
そうならないように、砂糖や塩と言った調味料に缶詰や乾パンと言った保存のきく料理を買う。本来ならば、災害時向けの食材もあるが……。
この状況ならば、売られている。ただし、
「お一人様。三つまでか」
大半にお一人様、おいくつまでと言う数制限があった。こんな事なら、吉成やら義正兄貴を呼ぶべきだったと後悔する。
普通、お一人様おいくつまでと言う数の限りがあるのは、安売りだが値段は通常のままだった。不条理と叫びたいが、この状況ならばみんなが欲しがるのだからなるべく平等に分け与えようとしているのだろう。
「なんですか? これ……。随分と固いんですが」
と、フルーが缶詰を触りながら言う。
俺は缶詰……肉やら魚やらの食事になる缶詰を買い物籠に入れながら説明する。
「保存食だよ。肉やら魚を火で通してスープ煮込みにして缶に詰め込んで真空状態にして密封しているんだよ。果物や野菜ならシロップ付けや酢漬けにして同じく、真空状態にして密封する」
「ああ。私の世界にもありますよ。瓶に詰めて蝋燭で封をするんです」
そう言えば、何かの本で缶詰の全身は軍事用に作らせたものであり、昔は瓶詰めをしていたと言うのを聞いた。
「私もたまに貰いました。大半が作られてから、数十年たっていて腐って食べれませんでしたけれど……」
「…………」
その作り方では今ほど、保存は利かなかっただろう。と、思いながらもそれは完全に嫌がらせではないのだろうか? と、真剣に考え込む。
まあ、それはさておいておいて続いてレトルト食品。水に入れて茹でたりする食品などを買っておく。ペットボトルの水や水やお湯を入れると食べれるようになるカップラーメンや袋麺を購入する。
「すごいですね。あなた達の世界は、よっぽど食料が手に入らない時期があるんですね」
「いや、そう言う訳じゃ無いんだが……」
フルーの言葉に俺はなんとも言えない表情をする。
まあ、たしかにここまで保存食を作り出すのではそう思われてしまいそうだ。だが、実際の所は違う。レトルトや缶詰は保存もあるが、どちらかと言うと手を抜いて料理が出来ると言うのを重点に置いているのが現代日本の実情だと思う。
親元離れる大学生やら一人暮らしを始めた社会人。仕事が忙しい中で、手の込んだ料理を作るのは難しいので、電子レンジで温めたりお湯を注いですぐに出来る。
そんな簡単料理が欲しくて、ついでに毎日のように定期的に食べるわけではないので保存を利かせたい。そんな容貌から、こうした料理が出来たのだろう。
まあ、こういった災害時に役に立つのだろうが……。
それよりも、
「と、言うかこの世界では食料が手に入らない時期があるのか?」
「冬に食料が手に入るわけないじゃないですか」
俺の言葉にあっさりとフルーが語った。
「……温室とか無いのか」
どうやら、意外な事に農業に対する知識は俺たちの世界の方が秀でているらしい。この町でも畑をしている人間はわずかながらにいるだろう。
どんな世界やどんな環境でも農業をする人間とは生きていけるものらしい。
なのに、日本では農業や農産、漁業をしている人間は後継者不足で困っていると聞いた。就職難で不景気だの言われて居るのに、そう言った職業を選ぶ人間は少ない。まあ、将来的に発展性がなく苦労すると言う事は明か。
子供だってそんな仕事を継ぐのに躊躇するし、親だって他に実入りの良い職業を選ぶのを止める事は出来ないと言うのが、心境なのだろう。
と、俺は現実逃避をする。
断じて、これから先にある冬の食糧難を考えて居るわけではない。とりあえず、冷蔵庫が無くても保存が利く食材を定期的に大量購入するべきだろう。
うっとうしいが、吉成を連れて行くようにもした方が良さそうだ。
お一人様、五つまで! と、書かれた真空パックのレトルト食品を買い物籠に入れながら俺は決意する。
その瞬間に、脳裏に浮かんだ吉成が、
「ああ。二人で買い物なんてまるで新婚夫婦のよう!」
と、寝言を言ったので脳内でドロップキックを与えて吹っ飛ばす。
脳内でなら、女の体で不可能な……と、言うか現実敵にも不可能な技が使えるから便利だ。と、俺は思いながら俺はレトルト食品……レトルトの王様であり、食べ物の王様。大人も子供も大好きなカレーを手に使用としたとき、誰かの手と触れた。
「あ、すみません」
と、俺は謝罪をしてそちらを見ると、
「あ」
その人物には見覚えがあった。
「? ああ、お前達か。女のくせに料理もしないのか?」
「あなたですか」
手が触れた人物……南東道場に道場破りをしたフェイだった。
「あのですね。俺は確かに今は、女の体をしていますが……。
本当の性別は男なんです」
と、俺は何度目かになる説明を言う。
「つか、あんたこそまだこの町に居たのか?」
と、俺は呆れたように言う。
「この町にある武術をする道場と言う道場を全て挑戦している。
異世界の格闘家と戦える機会はそうそうないからな」
「あんたさ。なんで、そんなに強さを求めるんだよ」
と、フェイの言葉に俺は尋ねる。どこか咎めるように言って閉まったのは……。あの、道場での騒動による影響だろう。
はっきり言ってあの時のあいつは、確かに高い実力を持っていた。だが、女を見くだし続けるあの目線は、同性(俺の事だ。俺は精神は同性だ)から見ても、不愉快を感じさせるものであった。
だが、その言動の中にはただ強さを求める感じがあった。
まあ、たしかに一般的に見たら女より男の方が強いだろう。
「女のきさまには」
「そう言えば」
フェイが言い終えるよりも、フルーが口を開いた。
「あなたの武道を見ていて、ずっと考えて居たのですが……。思い出しました。
あなたは魔闘技のローゲイル流の使い手ですね」
フルーの言葉にフェイがびくんと肩を振るわせた。
「魔闘技?」
初めて聞く言葉に俺はオウム返しに尋ねる。
「魔力を纏って戦う格闘技です。私も詳しくありませんが、この世界の格闘技の中では最も最強と評されているものです。
一言に魔闘技と言っても、流派としていくつかに分けられています。
その中でも、ローゲイル流なら見た事があります。
過去にそこの時期流派後継者の方がいる本部に向かった事があります。谷から突き落とされて、上から岩を投げ落とされましたが……。
その時に見ていた動きがよく似ていました」
意外と観察眼が良い。そのくせ、人間の心境を理解していないのは、何故だろうか?
ついでに、記憶力もよいのだろう。
その記憶力の良さから、おそらく型を思い出したのだろう。
見ただけで、それを思い出せるとはたいした者だろう。……すぐでないのは、残念だが……魔法使いであるフルーには格闘技の型などはあまり重要ではないのだろう。
それを、きちんと憶えていたのは大したものだ。
そう思っている中で、
「あの戦いで魔法を使わなかったので、気が付きませんでした」
「女子供に本気で戦うわけないだろう」
フルーの言葉にフェイが言うが、
「師匠にも使って無かったよな」
と、俺はツッコミを入れる。
「…………」
「ローゲイル流派はたしか、女が武道をするものではない。
と、言っていたのを聞きました」
「余計なお世話だ。ただ、私にも多少は正々堂々と戦おうと思っただけだ。
魔法もない者を相手に魔力を使って勝利したところで、なんになる?」
「お前、自分の意見がメチャクチャだぞ」
俺はそう言ってフェイの体を触れたときだった。
「? お前」
俺はある事に気付いて口を開いた瞬間だった。
「お前は!?」
と、言う声がした。
この声は……、
「薫!?」
俺が最も会いたい、だが会うのに躊躇していた人物。
そして、……黒鬼の正体の可能性がある人物だった。
……あの黒鬼の動きや戦い方……やや乱暴で粗暴であったが、呼吸や動きの流れ。それが、どう考えても薫と同じだったのだ。
薫とは年が近いのもあるのだが、よく試合をしていた。
だからこそ、薫だと解るのだ。俺と互角だが、それには大した努力がある。つまり、体に染みついている。たとえ、呪われていても鬼になって理性を失ってもだ。
そう思いながら俺は、薫を見ている中、
「なんだ。お前か。格闘技を諦めて大人しく女らしくなるつもりか?」
「誰が!? 普通に生活をするためだ。
お前こそ、女のくせにとバカにしていたのに食料を買うのか?」
ギリギリとにらみ合う二人。
「お二人とも仲良く慣れそうですね」
「そうか?」
フルーの寝言に俺は呆れたように呟いたのだった。




