第六話 憤怒の鬼とハリセンを持った美少女とどじっ子魔法少女ってどんな色物?
鬼と戦う少女。と、言うと可愛いけれど、ハリセンを持った美少女とどじっ子魔法少女となると、なんか色物っぽい。……ハリセンが悪い。
「帰りが遅くなったな」
と、俺は呟きながら空を見上げる。
赤色と青色に緑色の月がそれぞれある。赤色の月は三日月、青色の月は半月、緑色の月はレモンのような形をしている。
「……この世界の月は……とりあえず、三つあるんだな」
「なにを当たり前の事を言っているんですか?」
俺の言葉にあきれたように言うフルー。
「俺たちの世界では、月は一つしかないんだよ。
つか、なんであの月は赤に青、緑色とあるんだよ」
「当たり前じゃないですか。
季節や時期によって月が重なって色が変わる事ぐらい常識ですよ」
「悪いが、俺たちの世界じゃ月は一色で一つだ。
色は変わらない」
と、フルーの言葉にああ、ここは異世界なんだな。と、しみじみと実感する。
まあ、昼間に空を見上げれば必ずオーロラが見える時点で異世界だと空から主張していたのだが……。そう思いながら星空を見る。
星は色とりどりではなく普通の星だ。
そう思いながら、俺は電灯を見る。電気も一応は流れているので明かりがつくはずなのだが、この世界では精霊と言った存在が夜をむやみに明るくするのを危険と言う事で、禁止しているらしくかなり数が少なくなっている。
不審者が多くなりそうな状態だと俺は思う。
「フルー。気をつけろよ。
痴漢に襲われるかも知れないぞ。暗い夜道を歩く女を襲うアホはどんな世界にでもいるんだからな」
「大丈夫です」
俺の言葉にフルーは満面の笑みを浮かべて言う。
「女性だから性的暴行を受けると言う状況ならば、魅了をしてしまう呪いを持っているヨシキが先です。間違いなく先にヨシキさんが襲われるでしょう」
「あー……うん。そりゃ、良かった」
満面の笑みを浮かべてきっぱりと宣言され、俺は頬を引きつらせる事しか出来ない。
いや、たしかに今の俺は女だ。ついでに俺は魅了をしているらしい。
この仮面で抑え込んでいるはずなのだが、完全に封じ込める事は出来ないらしい。事実、いきなり口説かれたり告白されたりする事が何度もあった。
「ストーカーも行われて居るみたいですしね」
「それ……初耳なんだけれど」
フルーの言葉に俺はそう聞き返す。
「ですが、この前にヨシキさんの下着を被って喜んでいる男性を五人ほど見ました」
「それ、初耳なんだけれど!?」
ぞわりとした寒気を憶える。男が俺の下着を被っている。ぞっとするような吐き気をする気分だ。そう思う中で、
「大丈夫ですよ。一人はヨシキさんの弟のヨシナリさんです」
「それのどこら辺に大丈夫と言う言葉の要素があったのか、教えてくれ」
むしろ、悲しいやら情けないやら気持ち悪いやらで涙しか出ない。
「知らない人ばかりよりは、マシではないのかと思いました」
「むしろ、知らない人間ばかりの方が嬉しかったよ」
フルーの気持ちは嬉しいが、悲しい。
そう思っている中で、突如として悲鳴が聞こえた。
「行きますよ。ヨシキさん」
「どこへ行く気だ!」
走り出すフルーに俺はハリセンでひっぱたく。
悲鳴があった方とは真横の方向へと走り出すフルー。いや、俺には解らない何かがあるのかもしれないが、
「悲鳴があった所です」
「方向が違うぞ」
「大丈夫です。間違えただけです」
「大丈夫なわけねえだろ!!」
フルーの言葉に俺は言いながら、俺は走る。もちろん、フルーの首根っこを掴んでだ。
なんだかんだと、修行を繰り返して居たのと特訓で早朝にランニングを始めたので変化したばかりの時よりも、体力月居て居てよかった。
と、思いながら俺はどうにか声がした方へと向かう。
そこには、へたり込んでいる女性と一人の鍛え上げている男性。その着ている服から、察するに警察官だ。頭がカエルになっているのが少し不気味だった。
とは言え、それどころじゃないだろう。
そう思いながら、襲い掛かっている人物を見る。
「なんだ? ありゃ」
その外見は、真紅の鬼だ。
頭から生えている二本の角が生えており、身の丈は鍛え上げられている筋骨隆々の印象を与える警察官の二倍以上の背丈を超えている。
服は……着ていない。
「肉体が変化する呪いか?」
俺がそう言う中で黒鬼が声を上げて、手刀が警察官に命中する。
「ぐっは!」
そう言って吹っ飛ばされる警察官、
「ちっ!」
俺は急いで向かうと、その警察官が壁にたたき付けられるのを受け止めて止める。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ。お嬢ちゃん。
それより、逃げるんだ」
「そうも、行かないんだよ」
と、俺は黒鬼の構えを見ながら言う。
構えと言うのは、武道の流派によって基本的に違う。そして、それだけではない。個人によって微妙な違いがある。
とは言え、体格や体着きが違うのであくまで似ている程度だ。
まだ、違うと言う可能性はある。
けれど、
「おい。俺が解るか?」
俺はそう言って黒鬼の前に立ちふさがり声をかける。
だが、黒鬼はなにも言わずに掌底が放たれる。
それを俺は辛うじて避けるが、その風圧によって俺は軽くバランスを崩す。
そこにやってくる回転蹴りを俺は慌てて受け身で受け止めるが、吹っ飛ぶ。
「くそ。この体か弱すぎるぞ」
と、俺は壁に背中がたたき付けられ痛みを覚えながら言う。
手や足が短くなって、腕力が無くなっただけではない。体重まで軽くなっている。女が体重を軽くしようと、ダイエットをしているのは良く聞くが……。
こんなに軽いのにさらに軽くなってどうするんだか?
そう思いながら、俺はさらに手刀が襲い掛かってきて避けるが風圧で吹き飛ばされる。
どげし!
と、壁にたたき付けられるが受け止める。
「手刀で突風を引き起こして吹っ飛ばすのかよ?
非常識な」
と、俺は痛む背中を庇いながら、俺は立ち上がる。
漫画やアニメで拳一発で突風を引き起こすとか、蹴りで壁をぶちこわす。と、言う話は何度も聞いたことがある。
だが、それはあくまで漫画やアニメでしかないのだ。実際に、蹴りや拳などで確かに空気は動くし、勢いが避ければ風が起きる。
けれど、世の中にはあくまでも多少の程度というのがある。
いくら、俺が女になっているとはいえ体重がそんなに軽いわけはないのだ。この前に体重計に載ったときは……正確な体重は憶えていないが、五十キロ台だった。
軽い方だろうが、だからといって風で吹っ飛ぶような重さでもないはずだ。それを吹っ飛ばすような突風を引き起こすなんて、漫画やアニメでしかないと思っていた。
「フルー。援護出来るか?」
「確かに、攻撃魔法は失敗しませんが……手加減は不得手ですよ」
俺の言葉にフルーが言う。
「相手を殺してしまいます」
「じゃあ、せめて俺を守る事は出来るか?
盾を作るとか?」
「大丈夫です。よくドジを踏んで障害物になってしまいますが、盾を作る魔法は使えます」
「よし! 使うな」
フルーの言葉に俺がそう叫ぶのと同時に、振り下ろされる黒鬼のかかと落とし。
俺は瞬時に転がって避けて立ち上がり、片足立ちになっている軸足を蹴り飛ばす。
いくら体重があって、筋肉に覆われている足でも片足立ちでは転けやすくなる。
丸太のような図太い足首を渾身の力で足払いをすれば転ぶ鬼。
「フルー。動きを封じ込めろ」
「解りました」
俺の言葉にフルーが頷く。
それを聞いて、俺は一気に距離を取った瞬間に、
「土沈牢獄」
と、フルーが唱える。
が……、
「何も起きないじゃないか?」
「おかしいですね。地面を使った封印術なんですか」
「アホ。ここは地面が無い」
と、俺は叫ぶ。
「レンガでも大丈夫」
「これは、レンガじゃない。コンクリートだ」
フルーの言葉に俺が叫ぶように言う中で、黒鬼が起き上がる。
巨体の割に動きが速くキレが良い。そう思う中で、警官が応援を頼んだのだろう。沢山の警官……それだけではなくこの世界の衛兵までやってくる。その事に、鬼はきょろりと見た後……さすがに不利を感じたらしい。はたまた、別の事情があったのかも知れない。
だが、突如として足を大きく屈むと一気に飛び上がる。
ぶわっ! と、突風と友に黒鬼は飛び上がる。
「追え」
と、言いながら追いかける警官には悪いが……無理だろう。
身体能力が高すぎるし色が夜の闇に同化しやすい黒だ。……しかし、あの動きは……俺は考えたくない可能性を感じて沈黙したのだった。
「まったく。異世界に転移する前から、夜も昼も関係無い商売だったけれど……。
異世界に転移してからほとんど不眠不休だ。まあ、夜に眠くならないが……昼間は眠いと言うのに」
と、運ばれた病院の医師がそう言う。
と、言ったのはフクロウの医者である。
どうやら、呪いでフクロウになってしまったらしい。ただし、半分だけがフクロウになっているだけであり、完全に肉体がフクロウになって居るわけではない。
人間大のフクロウと言うのが特徴だ。
とにかく、フクロウである医者……名前は烏間と言うらしい。フクロウなのに、カラスなのか……。カラスなのにフクロウなのか……。
まあ、とにかく真っ暗な中で俺の脈や怪我の様子を見ている。
暗いのは、フクロウの眼なので明るいところだとよく見えないらしい。
呪いの影響とは言え、大変そうだ。
とりあえず、怪我は打ち身なのがほとんどなので大した事はなかった。
ついでに、フルーが呪いの解呪屋である事も手伝いどうにか文句は言われなかった。とは言え、
「あんな大鬼を相手に喧嘩を売るとは危ないだろう」
と、言う説教を受けたのだが……。
「それでだ。フルー」
保護者を呼びつけられ……しょうがないので、兄貴を呼んだのだが……。どうも、兄貴は呪いの影響で夜は活動できなくなったらしい。
ついでに、吉成も蜥蜴人間のせいで体温の関係上、夜は外で動けないらしい。
しょうがないので警察官につれて帰ってもらったというわけである。
「兄貴。心配したぞ。
ああ、俺の花嫁」
「いつ、花嫁になった。誤解を生むような発言をするな!」
扉を開けて飛んできたバカを俺は蹴り飛ばして言うと、
「すみません。弟は脳みそも呪われたんです」
と、警察官に誤解がないように言っておく。
下手に誤解されて、兄弟(?)で、近親相姦。と、思われたら俺の胃はおそらくストレスで破裂する。
送ってくれた警察官に丁寧にお礼を言う中で、
「やい。てめえら、俺の可愛い兄貴に色目を使ったらただじゃおかないからな。
兄貴は俺の嫁になるんだからな」
「ならねえよ!」
バカの発言を俺は蹴り飛ばして言う。
「すみません。バカが」
そう言ってお辞儀をする。
そして、玄関を閉めると、
「このアホ。お前の色ぼけ行動はいい加減にしろ」
「恥ずかしがらないでくれ。僕のMySweetHoney」
無駄に流暢な発音で語りかけるバカ。
「けれど、あの警察官……絶対に兄貴を異性として見ていた」
「お前の発言が不愉快だと言いたいんだよ」
バカの発言に俺はそう言うと、
「……疲れている。と、言うか一人になりたいから、黙っていてくれ」
と、俺は言う。
その俺の顔色にさすがのバカも黙る。俺に惚れ込んでいて、言動がおかしくなっているが根っからのバカではない。俺の様子に何かを感じたらしかった。




