第三話 辻殴り事件勃発! 犯人は呪われている。だが、みんな呪われてる
ようやっと事件発生。……だが、話はあまり進んでいないぞ。
「で、なんだ? この事件」
と、俺は目の前の現場を見る。
チョークで書かれた人間の図があった。そばには、警察官がいるが見慣れない服を着た面々もいる。
「ヨシキさん。あの服を着た方々は?」
「警察官だよ。犯罪を取り締まって逮捕したり捜査する仕事をするんだよ」
「衛兵と言う事ですか」
俺の解説にフルーが納得したように言う。
「……と、なるとあいつらは衛兵か?」
俺はそう言って見慣れる服をきた面子を見る。
軍人に近いきりりとした服は、たしかに物語に出てくる衛兵のような服だ。赤と黄色の色彩が非常に派手だ。
腰には剣をつけている。
「とは言え、この状況で暴行事件かよ」
「それが、ただの暴行事件では無い様子なんですよ」
と、俺の言葉にフルーが言う。
「? どう言うことだ?」
「まず、財布や身に着けている金目のものはそのままです。
そのことから察するに、犯人は相手を叩きのめすのが目的になっていた」
と、フルーが冷静に言う。
「……なるほど、私怨か怨恨か? はたまた愉快犯か?
でも、お前がどうして関わる?」
「呪いの力を感じます」
と、フルーが言う。
「おそらく、犯人は呪われていると思います」
「なるほどな。……けれどよ。
この町には呪われていない人間の方が少ないぞ。
と、言うか居ないと思うぞ」
と、俺はため息混じりに言う。
犯人は呪われている。それなら、たしかに手かがりになるだろうが、この町ではまったくと言っていいほど手かがりにならないだろう。
なにしろ、ここの住民はみんな呪われているのだ。
俺だって呪われている。呪われている事で犯人を決められたら叶わない。
「呪いの種類を特定すれば、容疑者は絞れます。
それに……呪いでこんな凶行を行った可能性もあります」
「呪いで凶行?」
フルーの言葉に俺は首をかしげる。
「呪いの中には、人を凶暴化するものがあります。
呪いの影響で人を襲った可能性があります」
と、冷静に言うフルー。
そこに、
「だが、お前なんかの手を借りるつもりはない」
と、言う声がした。
この声には俺も聞き覚えがあった。
「……ローイ」
「お前かよ」
あの時に出会った嫌な奴……ローイがそこにたっていた。
「なんで、ここにいる?」
「その台詞、そのままそっくり返して良いか?」
ローイの言葉に俺は半眼で呻く。
「私はここの呪いによる事件を解決する衛兵の特別捜査衛兵として来ている。
当然、事件が起きたのだから調査をしに来たのだ」
「お前と初めてであったときから思っていたんだけれどよ。お前って、偉そうにしか喋れないのか?」
ローイの言葉に俺は呆れたように言う。
もう少し、言い方というのがあるはずだ。と、思う中で、
「お前ら相手に礼儀を持って対応する理由なんてない」
と、断言するローイ。
どうして、ここまで偉そうなんだ。
「けれど、あたし達が調査を止める権限はないはずよ」
と、言うフルー。
「ふん。偉そうに……。
きさまが生きて居る事事態、間違いだと思うぞ」
「…………。それ以上、言うとこの町に居られなくなると思うわよ」
と、ローイの言葉にフルーは冷静に言う。
「言われなくても知って居る。……とにかく、お前がいるのは認めるが……。
お前になにが出来るとは思えないな」
それだけ言うと、衛兵たちの中に入っていくローイ。
「やっぱり、良い印象を持てないな。あいつ」
「ですが、良いところの出身者なんですよ。
魔法使いの名門の家の出身で、妖精人族の血が混じっている半妖精人なので、魔法使いとしては天賦の才能の持ち主です」
と、言うフルー。
「エルフ……」
と、俺はフルーの言葉にさりげなく入っていたエルフと言う言葉に俺はため息をつく。エルフなりハーフエルフなり、ゲームをしている現代日本人としては、エルフと言えば美少女と言うイメージが強い。
そう純血のエルフだろうが、エルフの混血だろうが関係はない。
とりあえず美少女と言うイメージがある。
だと、言うのに初めてであったエルフ……ハーフでもエルフと出会えて、なんでそれが俺様の高飛車偉そう、暴君嫌味魔法使いなのか?
いや、たしかにイケメンだけれどよ? 美形だけれど、異性じゃなくて同性じゃねえか?
……いや、今の俺から見たらある意味では異性かもしれない。
「エルフの女は居ないのか?」
「あと、ラフェレア様は妖精人ですよ。一応」
「……一応?」
俺の嘆きに慰めるつもりなのか、フルーが言う言葉に俺は尋ねる。
「正確に言えば、両親共に人間なんですが……。先祖に妖精人がいたそうです。その先祖返りで妖精人なんです。まあ、素質や能力だけで外見は人間とほぼ人間と変わりませんが」
俺がみたいのは、美少女あるいは、美女妖精人だ。
いや、まあ……この状況で美少女と出会ったって俺を異性として見てくれるとは思えないだろうが……。
いや、それはどうでも良いだろう。
「……それで、呪いで凶暴化しているとはどういうことだ?」
と、俺は話を戻すことにした。
「呪いの中に……基本的に、道具にかかっている呪いですが……。
呪いの中に性能、たとえば剣ならば切れ味や頑丈さと言ったものを強化します。ですが、その代わりに持ち主の性格が強暴、凶悪化するようになります。
その結果、最終的に人を視れば無作為に人を殺すようになると言われて居ます」
「あー。妖刀というやつか」
フルーの言葉に俺は思わず頷く。
怪談などできく人をむやみやたらと切りたくなると言う呪いの刀。それを持ってしまい、最終的に自らの一族郎党を皆殺しにしてしまう。
よく聞く話だが、楽しい話ではない。
「けれど、被害者は着られた訳じゃ無いんだろ」
事件は暴行事件であり、刀傷事件ではない。
「そうみたいなんですよね」
と、フルーが書類を見ながら頷く。
書類には、俺には読めない未知の文字が書いてあるが写真が載っているのでわかる。……この世界に写真があるのかと密かにおどろくが、ひょっとしたら写真によくにた別のものかもしれない。
そこには、被害者の写真が写っている。
流れた血があって詳しい描写は、精神衛生上さけたいし出来る事ならじっと観察はしていたくない光景だが……。
少なくとも、斬られた怪我には見えない。
俺は口元を抑えながら、家へと向かう。……今日の朝食は、なんだったかは忘れたが……。あまり美味しく食べる事は出来なさそうだ。
腹が減っているはずなのに、胸がむかむかして喉の奥から酸っぱいものが逆流してくる。
「どうしましたか?」
「ちょっと、吐き気が……」
フルーの言葉に俺はそう言えば、
「そんな顔色をしていると、また男に言い寄られますよ」
「もう少し、言う言葉を考えろよ」
フルーの言葉に俺はため息混じりに言う。
たしかに、朝に事件が起きたから行くと言い出して家を出るまでに十回ほど転んだフルーを見かねて、俺もついて来たのだ。
そうでもしなければ、こいつが目的地につけるとは思えなかったのだ。
そして、早朝からナンパをされまくった。
衛兵や警察までも、俺を口説き始めたのだ。
あんな事件で被害者は死んではないが、重症で病院で集中治療を受けており今でも意識不明の面会謝絶状態だ。
魔法があふれかえっている世界だとしたら、一撃で怪我が治るような魔法があると思っていたが……フルー曰く、
「そんな都合のよい魔法があるわけないじゃないですか」
だそうだ。
「失った四肢を取り戻す治癒魔法もないわけじゃありませんが、そんな魔法を使えるのは数百年に一人、現れるか……現れないかですよ」
「ちなみに、フルー。お前、治癒魔法の腕は?」
「大丈夫です。治癒の魔法で風邪を引いていた人を治そうとして肺炎にまで悪化させる事を五回に三回程度に抑えられます。成功した事は、二十回に一度はあるはずです」
「お前、一度で良いから大丈夫の意味を調べてこい!」
フルーの言葉に俺はそう突っ込みをいれる。
つか、風邪を肺炎に悪化させるのでは治癒とは言えない。怪我をしたとしても、フルーに怪我を治して貰うのだけはやめよう。と、俺は決意した。
「なるほど、呪いによる暴行事件か」
朝食を食べている俺に、兄貴の言葉に俺は頷きながらコーンフレークを食べる。
吉成が用意してくれた朝食だが……料理が下手なので、市販品であるコーンフレークにしたらしい。まあ、きっちりとした料理を用意されても困る。
間違いなく食欲がない。
俺は適当に牛乳と混ぜたコーンフレークを口にする。
普段ならたっぷり食べていたはずの朝食も、今日の気分では食べる気にはなれない。
そんな中でもたっぷり食べているフルーに俺はあきれを通り越して、尊敬を憶える。
こいつがどんな環境で育ってきたかはしらないが、こう言う所は心から羨ましい。
俺はため息をつきながら、味気ないコーンフレークを食べる。……念のために言うなら、けして味気ないわけではない。わりと美味しい料理なのだが、あいにくと今の俺はたとえ満漢全席を用意されても、軍隊料理を出されても同じようにしか感じなかっただろう。
つまり、味気ないと言う感じだ。
「ああ。兄貴。そんな顔をしないでくれ。
せっかくな綺麗な顔が血の気を引かせて……その憂いを含んだ顔も美しいが……。
やはりあなたの笑顔がそんな顔になって俺の心は土砂降りの」
「お前さ。詩を読む趣味があったのかよ?」
しかも、ありきたりなどこかの詩集から引用したような詩だ。
と、俺はため息をつきながら言う。
つか、こんな気分の時に実の弟から口説かれたくない。
「まあ、落ち着きなよ」
と、言ったのは日の光を浴びて光合成をしていた義正兄貴だ。
光合成する兄貴は、食事をする必要はないがかわりに光合成が必要なのだ。そして、飲んでいるのは水を口にして居る。
「冷静に考えても、それが呪いによって理性を失ったとは限らない」
「と、言うと?」
兄の言葉に俺は聞き返す。
「たとえば、呪いの結果として腕力や筋力の増幅。副作用でそれを手に入れる。
そして、その力に歓喜して溺れている。そして、ハイテンションになって自らの意志で力を閉めそうとしている。
と、言う可能性だってないわけじゃない。
この町じゃ、呪いによるからと言って……加害者も被害者と言う保証はないからね」
と、言う義正兄貴。
「それと、俺は魔法使いの臨時事務所で働く事になったから」
「「へ?」」
兄貴の言葉に俺と吉成がすっとんきょんな声を上げる。
「ああ。やっぱりですか」
「やっぱり?」
「ええ。自立樹木は、知恵の木と言われておりこの世界のどこかにあるこの世界の無数の知識が溢れている知識の湖とつながっていると言われています。
そのために無限の知識を得る事が出来ると言われて居ます。
そして魔法の種類によっては、妖精人以上の魔法を使えると言われて居ます。数が少なく貴重な種族な上に人間と共に暮らそうする者は滅多に居ませんからね。
期間限定でも優秀な人材が欲しいのでしょう」
と、言うフルー。
「まあ、そう言う理由らしい。まあ、大学にも通えないし……。会社も向かったところで何が出来る訳では無い。給料が出る以上、問題は無いだろう」
と、冷静に言う義正兄貴。
朝からなんだか事件だらけの一日が始まろうとしていた。