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町ごと召喚で呪われ 呪われて美少女になった俺は高校生男子です  作者: 茶山 紅
第三の呪い 呪いで考える鬼と拳と強さ
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第一話 空手道場と異界の道場破り

第三章です。


 放課後が終われば、部活動が再開していた。……いや、再開しているといえるのだろうか? と、俺は帰りながら周囲を見る。

 サッカー部のエースは、蜘蛛となっておりはたしてサッカーは出来るのだろうか? 他にもいろんな多種多様な異形となっている者達や、まともな人間生活を送れない者達も多く、部活動は混乱している様子だ。

 まあ、この調子では大会にも参加出来ないだろう。と、俺はため息をつく。

 それでも、するのはよっぽどの好きな人間ぐらいだ。

「空手は学校でしないんですか?」

「うちの学校、空手部は無いんだよ」

 剣道部、野球部、柔道部、サッカー部と言ったメジャーな部活と違い、空手部はマイナーだ。うちの学校には、そのために空手部はない。

 まあ、そのかわりに近所に空手道場がある。

 俺はため息をつきながら、空手道場へと向かう。

 学校から少し離れた場所にあるのが、空手道場だ。

 南東空手道場と書いてある道場がそこにあった。

「なんて、書いてあるんですか?」

「読めないのか?」

「……異世界の言葉が読めたら、驚きかと思いますが……」

 俺の言葉にフルーがそうあきれたように言う。……それもそうだ。

「ま、空手道場と言う意味だよ」

 俺はそう言って引き戸を開ける。

「失礼します」

 そう言って俺は戸を開けると、

「誰だ?」

 と、毎度のような質問をされた。質問をしたのは、師範だ。年の頃は、三十代前半ほどの筋肉質な男性だ。まだ若々しい印象で、空手の師範代だ。

 その外見も言動の両方とも変わっていないが、手に包帯を巻いている。

「あー。逆井です。逆井由紀」

「初めまして、フルーと申します」

 と、俺とフルーはそれぞれ名乗る。

「……由紀か……。随分と変わったな」

「よく言われます」

 すでにこの外見になってから、飽きるほど言われた言葉に俺はため息混じりに言う。

「ちょっと、俺は荒事をする事になりそうなので、またこうして来ました。

 それに道場の方も心配だったんです」

 と、俺は名乗る。

「で、その女は?」

「この世界の出身者です。

 事情があって、こいつと一緒に呪いを解呪する事になったんです」

「初めまして。フルーと言います」

 と、俺の言葉にフルーが名乗る。

「ああ。魔法使いね。まったく、人の生活を突然、狂わせて……」

 と、忌々しげに顔をしかめる師範。

「師範。別にフルーが原因じゃないんですよ。

 空手家が人を殺したからといって、全ての空手家が殺人者となるわけじゃないんですよ」

 と、俺があきれたようにツッコミを入れる。

 だが、その言葉にフルーは余計に顔をしかめたのだった。


 空手と言えば、瓦割りと考えて居る人間がいるが……。実際の所、空手とは瓦を割るためのものではない。(瓦を割りたいなら、普通に道具を使った方が安全で確実だ)

 ちゃんとしたルールのある武術であり、そしてスポーツである。

 空手の型を組み直していると、

「体の動きは憶えているようだが、……やっぱり筋肉が落ちているな」

「まあ、女の肉体と男の肉体の違い……ですかね」

 俺がそう言うと、

「なにが、女の肉体と男の肉体の違いよ。

 弱くなった体を言い訳に修行不足を無視しているだけでしょ」

 と、言う声が響いた。

「薫」

 と、俺は声の主の名を呼んだ。

「誰ですか?」

「南東薫。師範の一人娘で師範代理だ」

 薫。名前を南東薫と言う師範の一人娘であり俺とは違う女子校に通っている。女子校の女子高校生となると、いかにも花の匂いがする美少女と言う印象だが……。

 実際には凛々しく、格好良く女子校の劇では必ず男役……王子様役をしていたりする。言ってしまえば、宝塚などでは男役などをするようなタイプだ。

 女子空手部でも、有数の実力者として有名でもある。

 髪の毛は腰まで伸ばした髪の毛を一本の三つ編みにしてまとめている。長身だがスタイルは良く、凛々しいと言う言葉が似合う美少女だ。

 だが、冷たい性格をしている。

 事実、これだ。まったくもって困った話である。

「随分と、ちゃらちゃらした格好だな」

「好きで、こんな外見をしている訳じゃねえよ」

 と、俺は顔をしかめる。

「お前も変化がないな」

「ええ。日頃の鍛練の結果よ」

 俺の言葉に自信満々に言う薫の言葉に、俺は呪いの専門家に尋ねる。技術はさておき、知識の方は確かなのは間違いないのだ。

「呪いって日頃の鍛練でどうにかなるのか?」

「ならないわけじゃありませんね」

 俺の質問になんとも中途半端な答えをするフルー。

「呪いによっては精神力で影響を抑え込む事が出来ないわけではありません。

 もちろん、精神力云々でどうにかなるものばかりではありませんが……。

 そして、鍛練の中には精神の鍛練もあると聞きます。私も、幼少の頃に精神の鍛練と言われて簀巻きにされて真冬の海に放り込まれた事があります。

 生き延びるのには、肉体だけではなく精神力も必要でしたよ」

「「「…………」」」

 だから、どうしてお前はあっさりと軽い口調でヘビーな話をする。

「お前、念のために聞くけれど普通の海水浴というのをしたことがあるか?」

「カイスイヨクってなんですか?」

 なんだろう。涙が出て来た。

 いや、この世界には海で遊ぶと言う考えが無いのだ。うん。きっとそうだ。

 なにしろ、剣と魔法のファンタジーの世界なのだ。海に竜とか危険な魔物がウジャウジャいるのかもしれない。だから、危ないから海で泳がないのかもしれない。

 いや、そうなると猟師が困るだろ。と、脳裏に浮かんだツッコミはあえて無視する。

 さすがの師範も薫も何とも言えない表情を浮かべていた。


 まあ、それは問題では無いだろう。

「まあ。とにかく。そんな体になったのも、鍛練が足りないのよ」

「……まあ、そう言う事で良いよ」

 と、薫の言葉に俺はため息混じりで終わらせる。

 ここで、ちゃんと鍛練しているとか呪いと鍛練は関係無い。と、主張する事も出来ないわけではないが……。したところで何かが変わるわけでは無いので無視する。

「と、言う理由で練習相手になってあげるわ。感謝しなさい」

「なにが、と、言う分けなんだよ?」

 薫の言葉に俺はため息混じりに言う。

 話の流れと言うか文脈が解らない。

 そりゃ、現代文が得意とか言う分けじゃない。読む本だって小説よりも漫画の方が多い。だが、この話の流れはおかしいと言う事ぐらいは解る。

 フルーは気づいて居ないが……。こいつは、どうも人間づきあいに関しては何かの問題があった様子なので参考になるだろう。

 ため息をつきながらも、俺は空手の組み手の準備をする。

 空手の試合は、悔しいながらも薫に負ける。そもそも、男だったときだって負けていたのだ。薫は俺よりもスピードとそして技術が上回っている。

 俺が勝利しているのは、力と体力だ。だが、女となった事で力も体力も大きく下回った結果、勝てるわけ無いのだ。

「見たか。鍛練の足らない証拠だ」

「ま、負けた事に関したはたしかに修行不足だろうな」

 薫の言葉に俺はそう言いながら立ち上がる。

 修行不足。その言葉に否定する事が出来ない。体力、力が劣ってしまったのは呪いの生でもあるが、技術とスピードが薫を下回ったのは俺の責任だ。

「ふん。反省してもっと道場に来る事だ」

「あー。時間があればな」

 薫の言葉に俺は肩をすくめる。

「ええい。女になっても不真面目な」

「不真面目って……そもそも、授業費だってちゃんと払えないかも知れないんだぞ。

 師範。ちょっと情けない話なんですが、我が家の両親が呪いで頭の中まで魚になってしまったんです。この状況なので生活費は保証されていますが……それ以上の収入に関しては、やや難しいかと……」

 と、俺は語る。

 情けない話、俺はまだ学生だ。呪いの解呪屋の手伝いを名乗っているが、報酬が必ず入る保証は無い。(なにしろ、解呪する人間がひどいドジっ子だ)

「ま、この状況だからな」

 と、師範はため息をつく。

「他の門下生は?」

 と、俺は同情を見渡す。大抵、一人から二人は必ずいるような形の空手道場。いまいち、マイナーと言われるかも知れないがだからといって無名と言う訳では無い。

 近くの警察署の警察官や、自衛のためと学ぶ人間が多い。剣道や薙刀と違い、武器がなくても大丈夫なのでそれなりに便利だ。他にも俺のように体を鍛えるためにと習う子供もいるのだ。武道と言うのは、礼儀作法も習うので教育に良いらしい。

 まあ、わかりやすく言えば門下生がそれなりにいたはずなのだが……。

「ま、この現状だからな……。中には空手どころじゃない生徒もいるだろう」

「あー。たしかに」

 師範の言葉に俺は納得する。

 俺と違って精神にまで影響が出ている可能性もあるし、呪いで肉体が人間では無くなっているものもいるだろう。そうなったら、空手が出来ない可能性もある。

 道場も大変そうだ。と、俺は心配するのだった。


 まあ、そんななかで今月分の代金は払っているのでしっかりと鍛練をする。

 特訓を繰り返す中で、

「たのもう」

 と、言う声と共に現れたのは一人の男性……だろう。整った顔立ちは中性的であり、服装と声からなんとなく男と思われる。武道家と言う印象の服を着ており、凛々しい印象を感じさせるオレンジ色に近いボサボサの赤毛の青年。

 スタイルが良いが肌から出ているのは、筋肉質な体つきをしている。

「異界の道場とお見受けした」

「たしかに、この世界とは違う世界の道場です」

  男性の言葉に師範が頷けば、尋ねてきた男性は無言で道場を見て回す。

「……ここの武術は女専門なのか?」

「いや、俺は呪いで女になっただけで男」

 バカにしたような言葉に俺はとりあえずそうツッコミを入れ、

「私はただの付き合いです」

 と、フルーも言う。

「つか、名前ぐらい名乗ったらどうだ?

 人の家にいきなりやって来て、名乗りもせずにいると言うのは失礼だぞ」

 と、俺は言う。

「………女ごときに命令される筋合いはない」

「だから、俺は呪いで肉体が女になっただけで本当は男。

 それに、命令したんじゃなくて名前を聞いただけだよ」

 と、俺は言う。

「この世界じゃ、どうだかしらないが……。

 武道と言うのは礼儀も必要と考えられているんだよ」

「武道と言うのは、相手を幾度となく殺しかける事ではないのですか?

 少なくとも、私は練習で何度も殺されかけましたが?」

「……すまん。フルー。否定するつもりはないが……、黙っていてくれ」

 フルーの言葉に青年がヘンな顔をしているあたり、どうやら一般的ではないようだ。どう言う環境に居たのかを思っていると、

「ふん。女如きが武道に関して口を出すなど失礼だな」

「だから、俺は本当は男だって……」

 俺はため息をつく中で、相手がようやっと名乗る。

「俺の名前は、フェイだ。

 旅の武道家として各地を放浪しながら修行している。

 異界の武術に興味を持ち道場破りをしに来たのだが……。

 どうやら、期待外れのようだ」

「ちょっと待ちなさいよ」

 フェイと名乗った男性の言葉に、噛みついたのは薫だ。

「ずいぶんな事を言ってくれるじゃないの。

 たしかに今は門下生が居ないけれど、それはこの町が混乱している。

 道場に来る余裕が無い人間がほとんどなだけだ」

「ふん。女ばかりの道場なんぞ底が知れている。

 道場に女がいる時点で大した事が無さそうだ」

 と、フェイがバカにしたように言う。

「いや、武道に男や女はあんまり関係無いだろ」

 そりゃ、体格や筋力の違いがあるが……そう言う問題ではないと思う。

「きさま、女だとバカにしているのか?

 なら、私と勝負するか?」

 と、薫がそう言ったのだった。


新キャラ登場で今回から本格的に話を進める予定です。

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