第二話 呪われたクラスメイト……ま、俺も呪われているが……
新キャラ登場です。
フルーの事を言って許可を貰った。かなりいい加減なようだが、この状況だ。多少のことはいい加減になるだろう。人語を操り、人間の知性と理性を保った状態のハムスターと化した校長先生から許可をもらい俺たちはクラスへと向かう。
「中々、美味しそうな姿になっている先生でしたね」
「……美味しそう?」
可愛いとかならともかく、美味しそうとは斬新は発言である。
「この世界では鼠を食べるのか?」
「ああ。実は、子供の頃に食事に困窮していた時期があったんです。その頃は、食べれそうならそれこそ選んでられませんでしたよ。蛇だけじゃなくて蜘蛛とか芋虫とか食べていましたね。今でも、たまに食事に困って蛇やら犬やら猫とか食べますよ。
鼠はあまり美味しくなかったんですけれど、あの校長先生は丸々と太っていました死毛並みも綺麗でしたし……。
けれど、個人的な意見ではやはり美味しいのは蛇ですね。毒蛇は毒抜きが大変ですけれど、毒がなければ中々に香ばしいですし」
「…………そうか」
いや、たしかに国によったら蛇や犬、猫を食べる国もある。一般的ではないが、鼠と言うかハムスターを食べる国もある。国によっては蜘蛛だって食べる国があるのだ。
だが、現代日本で暮らした少年としては(少女だったとしても同じだろうが)ハムスターを見て、美味しそうと評するのは間違っている。
「とりあえず、みんなが引くと思うからその発言は胸にしまっておけ」
「あ。わかりました」
こいつの幼少期と言うか、こいつには何か事情がありそうだ。と、俺は思う。この世界で生活に困れば蜘蛛やら鼠やらを食べなくてはいけない環境だとは思いたくない。
そんな中で教室のドアを開ければ、
「おはヨウ」
「……おはよう」
挨拶していたロボットに俺はそう答えた。
「まあ、変わったゴーレムですね」
「ゴーレム……かな?」
フルーの言葉に俺はそう呟く。
教室の後ろの方……教卓がない方向にある入り口から入った。学校の教室とは大抵、二つ教卓がある方と教卓がない方に出入り口がある。その後ろの方の一番、近くの席には面倒見の良い女子生徒が座っていたはずだ。地味目だが、いつも朝、後ろの方から入って来る生徒には必ず挨拶をする律儀な女の子だったはずだ。
そして、今日はそこに座って律儀に挨拶するのはロボットだった。
さて、この状況からどう言う状況か? 答え、そのロボットがその女子生徒である。
だが、俺が驚いたのはロボットだと言う事ではない。そのロボットがアニメで人気のロボット、ロボ太郎だったことである。
ガンバレ! ロボ太と言う象年齢が幼稚園児までのだが、人気が非常に高く高校生でも名前とキャラクター名だけは知って居る有名なアニメの主人公だ。
未来の自分の孫が産みだしたロボットで、何か重大な使命を帯びているはずなのだが現代にきた時に、呼称した結果、指名を忘れてドジなロボットとなってしまった。と、言うドタバタコメディらしい。
「えっと……三原さん? だよね」
「うん。えっと……あなたは?」
「逆井由紀。こっちは……この世界の住民でまあ、ちょっと調査とかで来たフルー」
と、俺はロボ太……もとい、三原さんに話しかけた。
「どうも、あたしは棗……ああ、末の弟ね。
その子が夢で見たものになってしまうと言う呪いなのよ」
と、元三つ編み少女、現在はロボットアニメの主人公、ロボ太となってしまった三原柚希さんがそう言った。
「末の弟?」
「そう。うち、五人兄弟であたしが一番上、で長男の凜護に次女の杏子、三女の桃香に次男で末っ子の棗の五人兄弟なの。で、その棗はまだ四歳なんだけれどね。どうも、あたしは弟が夢で見た存在担ってしまう呪いなのよ。
昨日は、戦隊ヒーローのレッドになっていたし」
それは、……毎朝のように何になるか解らない呪いだ。
「……どんな呪いだ?」
と、俺はフルーに尋ねる。
「思念影響の呪い……ですね。かなり複雑な呪いなので、分類はその他ですけれど……。この呪いは、分けられた分類の中に当てはまらないので数は少ないんですが……。
その分だけ、何が起きるか解らない呪いなんですよね。
一見すると、種族変化の呪いに感じられますが……。毎日のように姿が変わるのはその分類に入りませんし……」
俺の質問にフルーは考え込むように言っていると、
「うおおお。すっげー美人。え? うちのクラスにこんな絶世の美少女、いたっけ?
俺の美少女センサーが反応しなかったなんて、俺のセンサーがぶっ壊れていた?
ねえねえ。彼女。ひょっとして、教室でも間違えた?」
と、話しかけてきた声に俺は聞き覚えがあった。
そちらを見て、
「……お前はまともだな。厳左右衛門」
「その名を呼ぶな! 俺の事はタッキーと呼んでくれ」
「お前の名前のどこにタッキーが入るんだよ?」
と、俺は腐れ縁の友人を呆れた眼差しで見る。
「……誰ですか?」
「俺の腐れ縁の知り合い。良くて悪友。
山田厳左右衛門」
と、俺は目の前の山田厳左右衛門を見る。
山田厳左右衛門。わりと美形な顔立ちをしているのだが、名前が厳左右衛門と時代劇に出て来そうな名前。それもどちらかと言えば、悪役サイドの名前と言う事が笑いを誘う。さらに、外見は良いが中身がいろいろと馬鹿で残念な女好きと言う事もあり、恋人は居ない。ちなみに、厳左右衛門と言う名前だけでなく山田と言う名字も嫌っており、その名前で呼ばれる事を嫌い、自称、タッキーと言う名前を名乗っている。
どこら辺にタッキーがあったのかは謎だ。
とにかく、その俺の言葉にはっと木槌亜用に厳左右衛門は俺を見る。
俺も改めて厳左右衛門を見る。黙って真面目な顔さえしていれば、美形だろう顔立ちに背も高く細身だが華奢ではない体着き。
真面目に運動でもすれば、モテたかもしれないが……。あいにくと、こいつは真面目にやると言う事が出来ない残念な男だ。その男の頭には……犬の耳と尻尾が生えていた。
元が美形だからけっこう、似合っている。
「犬耳が似合っているぞ。馬鹿犬と言う感じでな」
「その……口の悪さ。まさか……お前……由紀か?」
「名札があるうだろうが!」
「てめえ……この詐欺師! 俺をぬか喜びさせたのはこれで二度目だぞ」
「どっちも勝手にお前が喜んだんだろうが!」
厳左右衛門の言葉に俺はそう怒鳴り返した。
俺の名前は、「よしき」と読むのだが、「ゆき」とも読める名前だ。
女好きである厳左右衛門は、俺の名前で女子と思い込んで楽しみにして居たらしい。だが、実は男子であり取っ組み合いの大げんかになったのだ。
ちなみに、出会いは中学生の頃だったりする。
それ以降、悪友として付き合いを続けているというわけである。
「って、うお! こっちの女の子は?」
「初めまして。フルーと申します」
「この世界の魔女だよ」
「よろしく。可愛い魔女っ娘のフルーちゃん。
俺の事はタッキーと呼んでね」
そう言って作りだけは良い顔で笑みを浮かべる。
相変わらず外見しかない男だ。
「あいにくと、あまり仲良くなるつもりはありませんの」
やんわりと断るフルー。
「あ、でも魔女なんでしょ。俺の呪いをどうにかしてほしいな」
「あなたの呪いは体の一部だけ異種族になる異種族化の呪いの中でも最もメジャーでありきたりの呪いです。呪いそのものも程度の軽いものです。
少なくとも放置していても死にもしないし、人生に対した影響はないでしょう」
「「たしかに」」
フルーの言葉に俺と三原さんが頷く。
性別が代わり、最終的には国ごと自分の身を滅ぼす。と、言われて居る俺の呪い。さらに、三原さんにいたっては呪いによって毎日のように姿が変わるのだ。
これではまともな人生を送れないだろう。
元々、居た現代日本ならともかくこの世界でならこの程度の呪いは大丈夫だろう。
「それよりも、呪いについて分析がしたいんです。
それと、呪いを解呪するために来ています。とはいえ、根本的な核を見つけなければ、あなたの呪いも解けません。
おそらく、核の影響を受けた異変があります。とにかく、それがあったら教えてください。そして、解ったらヨシキさんの家に来て教えてください」
「なんで、由紀の家に?」
「俺の家に居候しているんだよ」
「なに? てめえ、まさか不純異性行為をしているんじゃ」
「この肉体でどうやって異性行為が出来るんだよ?」
不純だろうが純情だろうが、清純だろうが……。この肉体で、女となにができるのだ? だからといって、男とするつもりもまったくもってない。
「……いや、女同士でも可能は可能。……それは、それで萌える」
「何を想像してやがる」
真顔で言う厳左右衛門の脳天にかかと落としをいれる。
うん。ズボンは便利だ。
そこに、
「本当に馬鹿ばかりしているわね。逆井も山田も」
と、言う声が聞こえた。
「タッキーと呼んでくれよ。茜ちゃん」
「鹿目よ」
厳左右衛門の言葉に訂正する女子。長い髪の毛をポニーテールにしたややきつめの目をした美少女。名前を鹿目茜と言う。このクラスのクラス委員長であり、ついでに厳左右衛門の幼なじみだ。その鹿目は……
「変わって無いな」
まったくといって良いほど、変化が無かった。
背丈、外見、ついでにしゃべり方。まったく持って変化が無い。
朝一に性別転換を引き起こした自分の肉体と、続けざまに人外のゲームキャラのようなモンスターになった兄弟。そして、脳みそまで魚になった両親を見てきた身の上としては、変化がないのを見ると羨ましいを通り越してつまらないと思ってしまう。
「まあ、誉め言葉と受け止めておくわ。
うらやましがられたり妬まれたりするけれど……」
俺の言葉に鹿目はそう言う。
俺はフルーの方に向き直り、
「呪われてない奴がいるぞ」
「呪われてない分けじゃありませんよ」
と、俺の言葉にフルーはあっさりと言う。
「おそらく呪いが遅効性、あるいは時限式だと思われます。
遅効性とは、呪いがすぐに発生するわけではなく時間をかけて呪いが発動します。たとえば、呪われてすぐには効果が出ませんが徐々に衰弱していき、気が付いたときにはもはや解呪不可能まで呪いが信仰している。
あるいは、特定の条件を満たして発動します。たとえば、当人が幸せの絶頂にいた場合に、その者の大切な人を殺してしまうと言う呪いなどもあります」
「……………」
フルーの説明に鹿目さんが沈黙する。そりゃ、呪われてないではなく呪いが解らないだけ。しかも、例えで出て来た呪いがそれでは不吉以外なんでもない。
それでも平然としているとしたら、神経は太いを通り越して合成金属で出来ている事になってしまうほどだ。
「まあ、大丈夫ですよ。変化があれば、教えてください。
呪いの信仰や時限式、遅効性ならば呪いを弱めるのは簡単です。
私でも、十回やれば三回は成功しますから」
『『『安心出来ないって』』』
フルーの言葉に俺たち全員が、ツッコミを入れる。
最後の一言がなければ、安心出来たのだろうが……。
最後の一言で心配してしまう。
フルーは良い子で隠し事をしないが、余計な言わなくてよいことまで正直に言ってしまう子のようだ。
「……まあ、変化があったら伝えるわ」
そう言ってため息をつく鹿目さん。
そんな中でチャイムがなって嵐山先生がやってくる。
ちなみに、嵐山先生も呪われている。一見して呪われていない様子だが……。
教室に入った瞬間に、段差に足を取られて転けた。
別に珍しく無い。この先生はよく転ける。
一見すると仕事が出来るクールビューティーな大人な先生に見える。だが、実際は喜怒哀楽が明かな子供っぽいどじっ子な先生である。
こういうのをギャップ萌えというらしい。
厳左右衛門は、そう言って興奮していた。
まあ、その転けた先生は……ばしゃりと体が飛び散った。
「うわぁ」
俺は窓際の後ろの席の方で思わず呻く。
嵐山先生は呪いでスライム(仮説)になっている。普段は人間なのだが、何かの衝撃などを受けると液体のように体が飛び散る。
とは言え、勝手に復元されるので良く言えば怪我をしない不死身。
悪く言えば、不気味な化け物になっているのである。
一見すると普通な分だけ、インパクトは強かった。
呪われた女子生徒一人。
多分、呪われている女子生徒一人。
呪われている馬鹿が一人。
呪われている先生が一人。
覚えきれるかな?