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町ごと召喚で呪われ 呪われて美少女になった俺は高校生男子です  作者: 茶山 紅
第十の呪い 呪われた街と傾国の美女と悲恋の乙女
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十九話 呪いの魔女王と言う人間

十九話 呪いの魔女王と言う人間


 その後、オレたちは街へと帰った。

 しばらくぶりの自室のベッドに寝っ転がりオレはぼんやりと考える。

 思ったよりも厄介な状況になっているなぁ。

 いや。正確に言うならば思ったよりもフールの家庭事情が複雑だった。

 簡単に言えば邪悪な魔女が王子を操る産んだ子供にして生贄がフール。

 そして生き別れの双子の兄が存在しておりその兄は悪の組織に所属する傀儡のトップ。

 重い。重すぎる過去である。

 なんというか気軽な科小話では内。

 とはいえ、

「まあ。この状況でしょうもない事情というのも腹が立つけれど……」

 何しろこちらは人生が大きく狂わされているのだ。

 文句の一つや二つどころかダース単位で言ってやりたいぐらいだ。

 オレにいたっては性転換だ。

 性転換。

 その結果がこの現状である。

 不満どころか文句しか思いつかない。

 あんな頭のおかしな男に言い寄られていたのだ。

 あの健康的とは言えない食生活。

 正直、二度と味わいたくない環境だった。

 当人は善意だろうが……。

 むしろ悪意だったほうが助かった気すらするほどだ。

 閑話休題。

 とにかくだ。

 オレのように性転換という当人は笑えないが端から見たら笑える。同人誌の面白ネタとかに使われそうな呪いのやつもいればだ。

 うちの両親のように下手をしたら死んでいたかもしれないような呪い。

 現在進行形で日常生活すら困難になっている呪い。

 そういった人達もいるというわけだ。

 それを考えると元凶の魔女王は許せないと思う。

 とはいえ、

「哀れじゃ無いと言えば嘘になるんだろうな」

 助けたい。

 救いたい。

 そう思えるほどのことではない。

 もうそう思ってもらえるところから落ちてしまったのだろう。

 もうそういう場所から転げ落ちている。

 もう救われることすら不可能な存在だ。

 そういうことを考えると、オレは何も出来ない。

「オレは仏でも神様でもないからな」

 ついでに女神でもいない。厳密に言えば女ではないし……。

 閑話休題。

 ただ……それでも、

「フールがせめて自分の人生を幸せに生きていくぐらいはできたらな」

 フールを救うと豪語できるほどオレはすごい存在ではない。

 そんな存在では亡いことぐらいわかっている。

 オレはたんに呪われて渓谷の美少女になった異世界からの転移者だ。

 ……十分、普通ではない気がする。


「薫はどう思うんだ?」

 後日、フールとは別行動で薫の元に訪れたオレはそう尋ねた。

「なんで聞いたの?」

「正直に言えば、坊主憎ければ袈裟まで憎い。

 そういう心境を抱く可能性もある。

 けれど事情を聞いてどう思うかは別だろう」

 そうオレは言う。

 人間というのはすごく単純な生き物だ。

 ただむやみやたらと人を殺した。その情報だけならば殺した相手を咎め続けるだろう。けれども、その事情を聞いて世論が変わることもめずらしく無い。

 虐めをしていた。

 それだけならばいじめをしていたやつが加害者だ。

 けれどもいじめをしていたやつが親から虐待などを受けていたら途端にその子を守ろうとする人間だって現れる。

 まあ。実際の所としてフールの母親に対して思うところはある。

 とはいえ、単純に加害者だ。

 そう断言できるだけの過去というわけではないのは理解した。

 けれどだ。

「正直、同情するところがあるというのは認めるわね。

 預言だかなんだかで将来悪党になる。

 そう生まれても居ないうちから言われて……。

 そして真っ当な教育を受ける機会をのがした。

 そうしてゆがんだまま成長をした。

 正直に言えばそんな人間なんて現代社会でもいるし」

「そうなんだよな」

 ヤングケアラーだったか……。

 若い内からの介護をしているという人間だ。

 祖父母、あるいは親などの介護などを若い内……二十代どころか下手をしたら十代前半でしたりする羽目になったりするということだ。

 そういうのは実のところわりといたりする。

 高齢化社会というのもあるだろうが、核家族。一人親家庭などが増えており家庭内の誰かが病気や介護状態になった場合、子供に負担がかかる。

 そういった環境になるのはめずらしく無い。

 と、言うか現状の我が家もある意味ではヤングケアラー状態だ。

 けれど、

「どっちかというと毒親に近いんじゃないかしら?」

「ああ」

 毒親。

 なるほどそちらが正しいだろう。

 毒親。

 親として問題があるというやつだ。

 まあ。どっちにしても、

「子供として成長できなかったんだろうな」

 間違ったことをしたら叱られる。

 正しいことをしたら褒めてもらえる。

 友達と思いっきり遊んで学んで美味しいご飯を食べて寝る。

 そんな普通の環境を味わうことが……。

 いや。そんな普通というのを知ることすら出来なかった。

 それが不幸というのだったのかもしれない。


「そしてフールはフールでまともな生き方もできていない。

 その兄もね。

 親の因果が子に報いというやつよ」

 それは確か子供に食事を与えずに殺した親の子供が二口女になるとかいうやつだったか? 理不尽なようなものだ。

 とはいえ、そういう話を聞いたことがないとはいえない。

 犯罪者の子供という肩書きなどだついて回っている人もいるだろう。

 ただフールの場合はもっと違う。

 生まれた瞬間から誰にも祝福をされずに……利用され続ける命。

 何をしたというわけではない。

 何もしていないというわけでもない。

 何かをする前に重すぎる宿命と呪いを与えられた。

 大丈夫です。

 まるで口癖のように言っているのは……ひょっとしたら自分に言っているのかもしれない。それはさておき、

「呪いの魔女王か……。

 もしもあったらぶん殴りたいな」

 とりあえずオレはそう言った。

「世界を呪うな。そう言うつもりはないし……。

 まったくの同情の余地がない生き方をしたともいえない」

 生き方の何かが違えば何かが変わっていただろう。

 たとえ一国の王子と結ばれることはなかったとしても……。

 愛する人と出会い平温な日常を送る。

 そんな人生を送れていたかも知らない。

 だが、もしもなんて言うのを考えるのは不毛だ。

 いつだって人間はもしもを考えるときは今よりもよい結果を想像してしまう。

 あのときああしていればもっとよい結果があったかもしれない。

 後から悔いるように後悔をしてしまうのだ。

 とはいえ、

「今になって言っても過去がかわるわけじゃないんだからな」

 猫型ロボットが机から飛び出ることはない。

 何よりもはっきりとわかっている最大の失敗。

 それをしなかったからと言って成功するという保証はない。

 そのことが起きなかっただけで新しい問題ややっかいごと。そういうのがやってきて連鎖反応的にもっとろくでもない騒動が起きる可能性だってありえるというわけだ。

 もしもなんて言うので幸せが確実におきるわけではない。

 ゲームのように正解と不正解がはっきりとあるわけではないのだ。

 どこかの漫画であったが現実はクソゲー。

 どちらを選択してもバッドエンド。

 そんなくそみたいな結末があるというのもありえるのだ。

 だからオレは基本的にもしもなんて言うのは考えない。

 それが過去であればあるほど単なる妄想にしかすぎないのだ。

 起きた悲劇のもしもを考えて幸せになる人はいない。

 むしろ、

「よいことを考えろ。

 たとえばこのことが起きなければ……フールたちに出会えなかった」

 そしてオレは女になったりしなかったし薫も鬼になったりしなかった。

 ……うーん。

 起きた結果の悪いことの方が多すぎた。


 後悔もあるし憤りもある。

 不満もある。

 けれども、

「文句を言って……過去で起きなかったことを考えて……。

 今よりよい現在を夢想しても意味がないだろ」

 起きた出来事の改変。

 それを夢見ても現実は変わらない。

 起きた出来事はどうしようもないのだ。

 受け入れてそして未来をよりよくするべきだ。

 そうオレは思う。

「ま。確かに……。

 過去のことをずっとうじうじ考えても意味がないからね。

 それこそこの状況だからね」

 そう薫が言う。

 同感だ。

 女になってしまった。

 十数年も生きていた男としての経験。

 そして生まれてきた男という価値観と自分の認識。

 どれだけイケメンやらハイスペックな男が現れてもオレは恋愛対象に見られない。

 けれどもオレの肉体はどうやっても女なのだ。

 女からみたらオレを恋愛対象に見るのは難しいだろう。

 ……まあ。世の中には同性を恋愛対象にする人間がいるが……。

 あれは例外として切り捨てようと思う。

 両親が魚、兄は木。さらに弟はトカゲ人間でオレに求愛。

 まさしく地獄絵図である。

 だが、

「これをよりよく……元に戻そうとする。

 それはあるし……。

 戻ったときにこの経験が役にたつ……日もあるかもしれないなぁ」

「あるかなぁ?」

 オレの言葉に薫も首をかしげる。

 とはいえ、

「薫の方はよかったともいえるぞ。

 鬼になったのはさておいて……。

 常に抱えていた不平や不満。

 ずっときづかないままというのもありえなかったからな」

 心の不平や不満。

 それらというのはじかくしていなくてもちり積もっていくものだ。

 それが現実というものだ。

 オレだって気にしていないようにしていても不満や不平。

 そういったものがたまっているとは思う。

 それを感じないなんてよほどの聖人君主でも不可能だと思う。

 けれども、

「気づかないのと受け入れること……。

 それは大切だと思うからな」

「そうだね」

 それを考えるとフール。

 気にしていないようにしているが……。

 その中に不満や不平がたまっているのではないのかと心配してしまうのだった。


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