第一話 変な格好、みんなそうなら恥ずかしくない?
学校編です。
朝起きてもやっぱり、俺は女だった。
「夢じゃなかったか」
いや、それは理解していたつもりだが……。それでも、夢なら夢でいてほしかったと思う。俺は家にあった包帯でさらしを巻く。
そのうち、女性用下着を買わないといけないのだろうか? けれど、なんだろうか? 女性用下着を身に着けたら正真正銘の変態か女になってしまう気がする。
けれど、身に着けないのもよく無いだろう。
「なんで、こんな悩みを抱くんだ?」
俺はそう思いながらどうにか制服を着る。
なぜ制服に着るのかは、学校に行くためだ。
この世界の国がこの世界について理解して貰うためにも、学生は学校に通えるように応援してくれたのだ。まあ、何もせずにゴロゴロしているわけにもいかないのも本音だろう。
会社がこの町にある人間は会社に(行ける人は行く)学校も、この町にあるなら行ける。ちなみに、この町に無い場合は……どうしようかは知らない。
ちなみに、俺と吉成はこの町にある学校に通っているので、学校に行くのだが兄貴は通えなかった。そのため、兄貴は仕方が無いのでこの町にある会社へと向かう。
父と母は……相変わらず、泳いでいる。
「それで、お前は?」
「とりあえず、ヨシキさんと一緒に行こうと思います。
ヨシキさんと一緒に居て、とりあえず呪いの手かがりを探そうと思います」
と、フルーは朝食を食べるが……白米が食べ慣れないらしく、箸の使い方は下手だし白米をぼろぼろとこぼしている。我が家は朝はご飯派だったので、ご飯なのだが……。
「これを仕え」
とりあえず、スプーンを差し出す。
まあ、箸と言うのは慣れていないと使いづらいだろう。日本人が、ナイフとフォークだけで食べるのが不得手なのと同じだ。
「ああ。兄貴。
変な男に口説かれないように気をつけてくれ。
兄貴には俺のような恋人がいるんだから」
「誰がいつ、誰と恋人になったんだよ。お前の恋人は別にいるだろ」
吉成の言葉に俺はそう突っ込みをいれる。
そう、吉成には恋人がいる。吉成の中学校では五本の指にはいる美人だ。綺麗と言うよりも可愛らしい系当のお嬢さんだ。一度、家にも遊びに来ていたので覚えている。
やや色素の薄めの黒髪を今日日では珍しいツインテールにしていた。ツインテールと言うのは、アニメや漫画の美少女キャラはよくしているが……。実際の人間がするには、一定の年齢を超えると似合うに会わないが大きく別れる。
よっぽど可愛らしい外見をしてなければ、ツインテールは笑えるほど似合わない。
その恋人は今日日ではまれなツインテールをしていたのを覚えている。
「今日にでも別れる」
「止めろ。俺を泥沼の恋愛事情にいれるな」
外見はツインテールが似合う可愛らしい女の子だったが、あれは思い込みの激しい女の子だった。そうじゃなければ、中学生にもなってアニメキャラのような髪型は出来ないと俺は思う。つまり、思い込みが激しい。そして、吉成に惚れ込んでいる。
そこに、実の兄貴が女になって惚れたから別れます。……うん。惚れ込んでいる云々はさておいて、恋人にそんな理由で別れられたら女としてのプライドはズタボロだろう。
その怒りが吉成に向かうか、はたまた俺に向かうか……。脳裏に浮かぶ昼メロドラマのような愛憎入り混じった状態になるのは、ごめんなのだ。
「まあ、泥沼の恋愛事情に巻きこまれるのは、逃れられないと思いますよ」
と、言ったのはフルーだ。
「なっ!」
「なにしろ、傾国の美女と言う呪いですからね。
男を望むと望まざると魅了して引き寄せる。
その結果、世の男たちは力と権力に財力を使いあなたを手に入れようとする。
たとえ、妻が居ようが婚約者がいようが、恋人が居てもね。
望む望まずと愛憎劇の主役ですよ」
「まじかよ……」
フルーの言葉に頭痛を覚える。
俺個人としては、不倫や愛人は反対だ。
そりゃ、愛の形は一つではないかも知れないが、基本的に愛人や不倫と言うのは、裏切りだと思う。まあ、昔では権力者が子供を……跡継ぎを確実に産むために、本妻の他に大量の妾をそばに置いていたと言うのは有名な話だが……。
時代と立場による違いだと思う。
昔は、産まれた子供がみんながみんな必ず育つわけではなかった。それに、あの頃は血がつながっていないと駄目と言う考えがあった。
今では、医療技術も育てる環境も良くなっている。
生まれた子供は高確率でちゃんとした成長する。
だからこそ、そんな妾という存在は必要無いのだ。
好きだと、一生愛すると誓ったならばその愛はきちんとしてなければならない。まあ、愛の種類がいろいろあって、子供への愛情。家族への愛情となるのは別だが……。
少なくとも現代日本人の俺としては、不倫や愛人と言う考えは受け入れられない。
百歩譲って愛人や不倫がオッケーと言う考えがあったとしても、俺は肉体はさておき精神は男だ。女に取り合いされるのは、ある意味では夢であり理想だろう。
だが、男に女として取り合いされる事を望んだ事はない。
「学校に行くのも嫌だな」
「まあ、その仮面で呪いを微弱ですが弱めていますし……。
それにあなたの年齢から考えるに呪いの効果も薄まっているはずです」
「年齢?」
フルーの言葉に俺は怪訝な顔をする。
「その呪いの力が完全に発揮されるのは、二十歳を過ぎてからです。
傾国の美女と言うのは、大人の魅力がありますから……。今のヨシキさんは若々しさと初々しさがあって、傾国の美女としての魅力を発揮しきれません」
「要するにガキ臭いか」
「……兄貴……」
義正兄貴の言葉に俺は呻く。
いや、効果を発揮して欲しいわけではないのだが……。
「まあ、呪いに負けて傾国の美女としての人生を送るのはおすすめできませんね。
傾国の美女は最初は栄華を極めますが最後には、悲惨な末路が待っている呪いですから」
「碌でもない呪いだな」
フルーの言葉に俺はため息をつきながら、塩鮭を食べる。
「まあ、呪いを弱めていますし……。せいぜい、怨まれて包丁で刺されそうになるぐらいですよ」
「フルー。お前さ。前から思っていたんだけれどよ。
……お前、フォローが下手だと言われないか?」
「むう。失礼な。フォローはあまりしない方が良いと言われただけです」
それを、世間一般ではフォローが下手と言われて居ると言うんだ。
と、フルーの言葉に俺たちはそう思ったのだった。
とにかく、俺は朝食を食べ終えて制服姿の自分を見る。
シャツは胸元がはち切れそうで第二ボタンまで開いている状態。学ランもまったく合わなくてボタンを留めていない。ズボンはなんとか詰め襟をしてサイズを合わせたのだが、ウエストはゆるゆるだったりする。
とにかく、今の俺はというと男子の制服を着た女子生徒と言う感じだ。
しかも、胸が大きいので(サラシで巻いているのに!)エロさと色気が割増しされている気がするのは、気のせいだろうか?そして、顔には顔の右目部分だけを隠した仮面を身に着けて、背中にはハリセンを背負う。
「うわ。怪しい」
「ミステリアスな魅力があるよ」
思わず口から出た感想を聞いて、そう褒め称える吉成。
うん。そう思っているのは、お前だけだからな。
つか、これをミステリアスと言える人間はそうそういないと思う。男子の学生服を着ているのは、現代日本では変の部類に入る。さらしを巻いているのも、なおかつ変だ。運動会の応援団とか秋葉原やコミケのコスプレ大会ではあるまいし……。
さらに、右目部分だけを隠す仮面。これも、怪しい。怪我をして眼帯をつけることもあるだろうが、それは業務用の眼帯が基本だ。こんないかにも中世の仮面舞踏会で身に着けるような豪華絢爛な仮面はない。しかも、顔全体でもなければ顔半分でもなく片目だけと言う状況だ。
何というか、くっ! 封印された右目が! とか、忌々しい邪眼が! と、言い出しそうな感じだ。高校生にもなってそんな格好は、恥ずかしいを通り越して……イタイ。
そして、背中のハリセンは何というか……今日日、こてこてのお笑い芸人も使わないハリセンを持って居る時点で、もはや恥だ。
お笑いと男装の色気と片目を隠した仮面。
不釣り合いのミスマッチが絶妙にコラボレーションしている美少女。
「こんな格好で学校に行きたくないな」
幼なじみが、髪型が決まらない。寝癖が治らない。と、言う理由で学校に遅刻しかけたときは、なんでそんなもんで学校に行くのに途惑う? と、思ったものだ。
他にも学校の制服が嫌だから通わない。と、駄々をこねるやつもいた。
俺としては、何を恥じる必要があるんだ? と、思っていたが、今になって俺は外見が理由で学校に行きたくないと思う人間の気持ちがわかった。
……とは言え、今の俺の現状を髪型や制服がダサいと言う理由と一緒にはされたくないけれどな!
「大丈夫だろ。みんなお前が思っているほど、お前に注目しない」
「そうかな?」
兄貴の言葉に俺は言う。
自画自賛とかナルシストと言われそうだが、今の俺は美少女だ。
少しでも目に入れば、思わず目で追いかける美少女だ。自分じゃなかったら、思わず生唾を飲んでいただろうと断言できるほどだ。
「それに、みんな奇異な外見をしている」
「……まあ、たしかに……」
窓の外を見れば、ピシッとしたスーツ姿の時計兎のような外見のサラリーマンらしき白ウサギ。段ボール箱に入った状態で移動している人物。首が三つ、腕が六本と言うどこかの神様のような人がそれぞれの顔にパンを加えて、いやーん。遅刻。遅刻。と、言って飛んで行っているのを見て俺は考えるのを止めた。
たしかに、この程度の外見はそれほど気にする必要が無い。
変な格好と言われたら、たいていの場合はお前だって似たようなもんじゃねえか! と、反論が出来る自信がある。
俺は腹をくくって家を出たのだった。
なるほど、フルーの言う通り奇抜な状況だった。
学校の通学路でもあまり注目されなかった。いや、何度か視線は感じたが思ったよりも多くはなかった。そして、学校へと向かう。
学校そのものには変化は無かった。
校門のそばには桜の木が生えている。……小学校でも幼稚園でも中学校でも学校の近くと言うのには、必ずといって良いほど桜の木が植えてある。
桜の木も呪われていないようだ。
血のような赤や、赤ん坊の頭のような実が生えていたり、風で揺れて不気味な笑い声が聞こえるような状態もない。学校も、現代日本によくある学校の建物だ。
呪われた学校と言う言葉は似合わない状態だ。
ただし、入っていく者達は悪鬼と言うか魑魅魍魎と言うか百鬼夜行だ。俺のような人間の姿をしている生徒も居る事にはいるが、中にはお前はどんな呪いを受けたんだ? と、思わず疑問を抱いてしまいたくなるような人たちもいる。
俺はとにかく、校舎に入っていく。その後を着いてくるフルー。
「とりあえず、職員室にいくか」
「なぜですか?」
「無断で学校の生徒でも教師でもない人間が入るのは、問題になるからだよ」
フルーがついて来た以上、その事を説明するべきだろう。不審者とか、そう言うのは最近ではうるさい。学校にもお金はあるし、学生の制服や体操服を盗むと言う変態は現れる。そして、それに対する責任を騒ぐのは時代と共に喧しくなっている。
まあ、今の状況で警備や泥棒を警戒する必要があるのかはよくわからない。と、俺は巨大な蜘蛛が歩いて行くのを見ながら、思う。
今では自分はここの生徒です。と、主張すれば否定しきれないだろう状態の人もいる。実際に、今の俺を見て俺が逆井由紀だと解る人間はいるだろうか?
事実、肉親である兄貴も弟も最初は解らなかったほどだ。
とは言え、俺も兄貴や弟の正体はわからなかった。
両親に至っては、俺を認識出来ていない状況のようなのでスルーする。
とにかく、校舎の作りは変わって無かったらしい。ノックをして、
「失礼します」
と、ドアを開ける。すると、教師……だろう人たちがいる。
とは言え、俺が見覚えのある教師は……居た。
「嵐山先生」
担任の嵐山先生がそこにいた。
嵐山桜。俺のクラスの担任で担当科目は、現代文だ。
縁なし眼鏡にスタイリッシュな姿とすらりとした姿から、一見すると理知的なクールで仕事の出来る秘書と言う印象を与えるが……。
実際は、感情移入をしやすくかなりの本好きだ。学校の教科書ですら、感情移入をしてボロボロと泣き出してしまった事もあるほどだ。
外見は感情を滅多に見せない頼れるタイプの人間に思わせるが、実際の所は以外と可愛らしい感情豊かな性格をしている。
嵐山先生は外見に変化はない。変な耳も体に変化もない。
「先生は呪われなかったんですか?」
「えっと……あなたは……」
そう言って先生は俺の胸元にある名札を見て、
「逆井……由紀さん」
「由紀です。由紀。
嵐山先生のクラスの出席番号九番の逆井由紀です」
「ええ!」
俺の言葉に先生はメチャクチャ驚いた。