プロローグ
もしも、違う自分になれたら?
そう思った事は、まあ無いとは言わない。
けれど、それは誰しもが思っているに違いないと俺は思う。
俺の名前は、逆井由紀と言う。
ヨシキであって断じて、ユキではないので注意して欲しい。
中肉中背であいにくと、女性と付き合ったことはない。
だが、高校生なんだから恋人が居ない人間も珍しく無いはずだ。……弟は中学生三年のくせにすでに恋人がいて、大学一年の兄に至っても高校生の時には二股をかけていたりした。クラスメイトでもすでに恋人が居たりする人間がいるが……。
いや、そこは考えないでおく。
高校二年生であり、成績は……まあ、飛び抜けて悪い訳じゃ無いと言おう。
さて、話を戻そう。
もしも、違う自分になれたら?
どんな自分になりたいか? そう言われたら、俺はこう答える。
頭が良くて、女の子にモテモテでそれで居て同性に憎まれない。ついでにスポーツ万能で格好いいイケメン。あと、家は金持ちになりたい。
とは言え、そう世の中はうまくいかないと言う事ぐらい解っている。
違う自分になれたら?
そう思う事はある。
子供の頃は、アニメの正義のヒーローになりたいと本気で思っていた。さらに幼い頃は、なぜか巨大ロボットになりたいと願っていたらしい。こちらの方は物心がついていないので、母親の話を聞いたぐらいでしかない。
何かになりたいと思う事はある。
けれどだ。それは、今より良い存在になりたいと言うのが大半だ。
言ってしまえば、今より悪い状態になりたいと思う人間は居ない。
憧れや望みの姿になりたいだけだ。
たとえば、悪い魔法使いに呪いをかけられたお姫様や王子様は醜いカエルや鳥にされてしまう。そして、苦労するのである。
とは言え、その話では必ず最後は呪いが解けるのだ。
さて、長々と話したが……。
俺はだれしも、大なり小なり変身願望がある。
性転換をする人間だって言ってしまえば、変身願望だ。
……当人たちは本当の自分になったと言うが、元の自分と違うんだから変身だ。
整形だって違う自分になると言えるだろう。
とは言え、違う自分になるのには必ず心変わりが必要だ。
そして、話は変わるが、変身と言う物語があるらしい。
朝、目が覚めたら巨大な虫になっていたと言う話だそうだ。
あいにくと、出だししか知らないのだがおそらく主人公はメチャクチャに驚いただろう。これが、成長していたとかなら良かっただろうが……。
何しろ、巨大な虫である。
その主人公が最終的にどうなったのかまでは知らないが、起きた時に悲鳴をあげたかもしれない。……巨大な虫に悲鳴を上げる器官があるのかは知らないが……。
それを考えれば、俺はまだ幸運だっただろう。
ある朝、俺は目が覚めると絶世の美少女になっていたのだった。
人間である。年齢は変わっていない。ただし、容姿と性別が変わっていた。
とは言え、それだけで異変が終わらないのだが……。
とりあえず、俺が朝目を覚まして解った異変とはこれである。